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第86回会議(広島サミット、国際女性デーと関連報道)

サミット、ジェンダー議論 「報道と読者」委員会

「報道と読者」委員会第86回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=7月8日、東京・東新橋の共同通信社

「報道と読者」委員会第86回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=7月8日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は7月8日、外部識者による第三者委員会「報道と読者」委員会の第86回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「G7広島サミット」と「国際女性デーと関連報道」の報道内容について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の報道について「多様なテーマを取り上げた」と一定の評価をすると同時に、被爆地・広島にウクライナのゼレンスキー大統領が来て軍事支援を訴えたことに「何か割り切れない思いを抱いた。そこを埋める論評がなかった」と指摘した。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏もゼレンスキー氏の参加に疑問を示し「戦争をやめさせることを考える報道をしてほしかった」と注文を付けた。

 京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は、核廃絶をアピールしながら核抑止も強調する岸田文雄首相の姿勢を「矛盾」と表現した報道を巡り「理想を強調すればするほど、一歩ずつ前進しようという試みは過小評価されてしまう」と苦言を呈した。

 男女平等度を数値化するため国際女性デー(3月8日)に合わせて研究者がまとめた「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」を詳しく紹介した記事に関し、廣田氏が統一地方選の女性当選者拡大に「大きな役割を果たした」と評価。鎌田氏も自治体間に「負けないように意識が働く」と意義を強調した。

曽我部氏は、LGBT理解増進法成立に抵抗したと報じられた「自民党保守派」の主張や実像が分からなかったと指摘。「紙面で主張を言わせ、世間に問うべきではないか」と注文した。

サミット、ジェンダー議論 「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会が8日開かれ、「先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)」、「国際女性デーと関連報道」について議論した。ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は核兵器のない世界に向けた理想と、核抑止に依存する現実との矛盾を考えていく記事が必要だと強調した。弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は、広島開催の「意義と責任」を検証し続けるよう要望。京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏はLGBT理解増進法に抵抗した「自民党保守派」の定義や、対立の構図が見える報道を求めた。

【メインテーマ】広島サミット

核の矛盾に答えを―鎌田氏 武器提供批判的に―廣田氏 眼前の危機焦点―曽我部氏

花束を手に原爆慰霊碑への献花に向かう岸田首相(左)とウクライナのゼレンスキー大統領=5月、広島市の平和記念公園

花束を手に原爆慰霊碑への献花に向かう岸田首相(左)とウクライナのゼレンスキー大統領=5月、広島市の平和記念公園

▽割り切れぬ思い

発言する鎌田靖委員

 鎌田靖(かまだ・やすし)委員 ウクライナに侵攻したロシアが「核の脅し」を繰り返す中、広島でサミットが開かれた意義は大きい。さまざまな観点から多様なテーマを取り上げており妥当な内容だ。ただ核廃絶や恒久平和を発信してきた広島に、戦争当事国の一方であるウクライナのゼレンスキー大統領が来て軍事支援を要請した。ふに落ちない、何か割れ切れないような思いを個人的に抱いた。そこを埋めるような論評がなかった。岸田文雄首相は核兵器のない世界に向けた理想を主張し、先進7カ国(G7)首脳が認識を共有した。一方で核抑止に依存する現実がある。矛盾について考え、将来に向け答えを導いてくれるような記事を期待したい。

「発言する廣田智子委員 廣田智子(ひろた・ともこ)委員 サミット開催前は、日本にはウクライナの経済・人権面での支援や平和国家の立場堅持を求める論調だったが、実際はどうだったのか。一番合点がいかなかったのはゼレンスキー氏の参加だ。広島を戦争への武器提供の場にしていいのかを日本国民は考える必要があり、批判的視点が足りなかったのではないか。原爆被害を受け平和を希求する広島での開催を踏まえ、戦争をやめさせることを考える報道をしてほしかった。民主主義と人権を守るためには戦争を続けるしかないのか。答えは出ないかもしれないが、考えるのをやめてしまえば最悪の方向に行くしかない。問いを発し続けるのが報道の役目だと思う。

▽インパクト

発言する曽我部真裕委員

 曽我部真裕(そがべ・まさひろ)委員 ロシアによる核使用の脅威といった眼前の危機にどう対処するかについてもっと焦点を当てるべきだった。今回発表されたG7首脳による核軍縮文書「広島ビジョン」の内容を紹介した記事は少なかった。核廃絶が理想であるのは言うまでもないが、理想を強調すればするほど、現実と折り合いを付けながら一歩ずつ前進しようという試みは過小評価されてしまう。一層、多角的な報道が求められるのではないか。平和活動に取り組む若者たちが「私たちは被爆者の証言を直接聞ける最後の世代」と訴えることを取り上げた。インパクトのある表現だった。

 杉田雄心(すぎた・ゆうしん)政治部長 サミット開幕前日に開催された日米首脳会談で、米国から提供を受けている「核の傘」による拡大抑止は不可欠だとの認識で一致し、もやもやしたものを感じた。核抑止と核廃絶の矛盾をファクトに基づき記事にすることで正面からではないかもしれないが問い続けた。ゼレンスキー氏来日の懸念は記事化したが、来日の是非を問いかけるまでには至らなかった。

 有田司(ありた・つかさ)編集局次長 最終的に核兵器のない世界を目指す合意はあるが、サミットは米国が拡大抑止を強化しないと今の平和が保てないという矛盾を明らかにした。ゼレンスキー氏の広島訪問一色にならないバランスを取った書き方をもう少し考えるべきだった。今後の報道に生かしていきたい。事実を追うと同時に、ウクライナ侵攻をどう終わらせるかという視点に基づいた記事を模索していきたい。

▽意義と責任

原爆慰霊碑への献花を終え、記念写真に納まる岸田首相(中央)と各国首脳ら=5月、広島市の平和記念公園

 鎌田委員 首相は被爆の実相をG7首脳に見せることにこだわり原爆資料館訪問を実現した。その舞台裏を検証した記事は、米国の思惑が透けて見える非常にファクトに富んでいた。被爆者についてはG7の各首脳に被爆体験を伝えた小倉桂子(おぐら・けいこ)さんの記事が被爆者の思いを最も反映していたのではないか。被爆者の思いを表す記事は必要だ。

 廣田委員 広島でサミットを開催した意義と責任を振り返り、ゼレンスキー氏の広島入りを含め検証する記事を出してほしい。若い世代には核武装容認論もあるように思うので、その背景や考え方などを報じて、議論が続いていくようにしてほしい。広島開催の意義が、世界でどう報じられたのかも知りたい。

 曽我部委員 ウクライナ侵攻で核兵器使用のリスクが高まる中、広島という特別な場所で開催されたサミットであり大変重要な機会だった。全世界に関わるグローバルな問題から地域の問題にまで及んだが、報道は核問題に力点が置かれ過ぎたのではないか。こういう中で、深刻さを増している飢餓の問題を取り上げたのはよかった。

 山脇絵里子(やまわき・えりこ)社会部長 広島開催の機会を通じ世界に被爆者の思いを発信したい思いで取材に取り組んだ。被爆者には開催をおおむね評価している方と、核抑止を容認する文言を入れた「広島ビジョン」に落胆したという声もあり、伝え方が難しかった。

 高橋直人(たかはし・なおと)編集局長 広島開催の意義と責任に焦点を当てた記事を今後も出していきたい。検証の継続が言論の力、報道の役割だと思う。

G7広島サミット
 広島市で5月19~21日に開かれた先進7カ国(G7)首脳会議。日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダに欧州連合(EU)が加わり、ウクライナ情勢や世界経済など幅広いテーマで議論した。G7以外も参加する拡大会合を開き、ウクライナのゼレンスキー大統領も急きょ出席した。議長は岸田文雄首相が務め、G7首脳による核軍縮文書「広島ビジョン」を発表。核なき世界という理想に向け、現実的な取り組みを進めるとした。

【サブテーマ】国際女性デーと関連報道

共感する記事を―曽我部氏 報道で気づく偏見―鎌田氏 女性議員ゼロ驚き―廣田氏

都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 4分野の上位

都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 4分野の上位

▽ギャップ指数

 曽我部委員 今回は統一地方選があったり、法改正が進んでいたりしたことで、政治や法制度の話題が取り上げられる一方、個人や企業の経営者が共感できるような記事が多くなかったのではないか。パーソナルヒストリーは読み手にとってイメージしやすい。ジェンダーの問題は日常や社会に根ざしたものなので、自分に置き換えて考え、意識を変えていけるような記事が意味を持つ。

 鎌田委員 地域ごとの男女平等度をデータで可視化した都道府県版ジェンダー・ギャップ指数は、特に近い都道府県や市町村は気になるので、そこに負けないようにという意識が働く効果が出る記事だと思う。世界ランキングで、とりわけ政治分野での女性の進出が日本は極めて遅れていることがいつも問題になる。統一地方選の道府県議選で、女性当選者が全体の14%で過去最高だったということだが、まだ低い水準なので、引き続き力を入れてほしい。

 廣田委員 女性議員ゼロの地方議会が257もあり驚いた。意思決定機関に女性がいないのは問題で、改善が必要だ。指数で他と比較できるし、統一地方選で女性が過去最多の当選をしたというのは、記事が非常に大きな役割を果たしたのではないか。今回の指標となっていない司法、学術、芸術、メディアなど社会的影響が強い分野でどうなっているのかも調べてほしい。

▽ファクト

 鎌田委員 アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)は絶対にあり、私は加害する側にいるという認識で、この問題に向き合っている。差別される側の意識は分からないこと、気づかないことがあり、それを想像力で補うが、想像力の根拠を与えてくれるのはファクトで、だからこそ報道の意味がある。さらなるファクト提示を期待したい。

 廣田委員 ジェンダー表現に関するトークイベントで「女性でも安心」とか「内助の功」といった表現が時に「暴力」になると警鐘が鳴らされた一方、言葉狩りになってはいけないとの声もあったという記事を読んだ。まさにその通りで非常に難しい。文化のようになっている表現もあれば、変えてしまうと作者が伝えようとしたことが変わってしまう表現もある。まとまった企画などで、表現とジェンダーの問題を発信してもらいたい。

 曽我部委員 社会のリーダー層に女性を増やすには有力大学の女性比率を高めることが不可欠だが、いわゆる女子枠は弊害も大きいので、無批判に報じることには問題を感じる。LGBT理解増進法の成立について、自民党保守派から非常に抵抗があったとの報道がある。保守派とは誰のことなのか、どれぐらいの人数がいるのか、どれぐらい政治的影響力があるのか、どういう理由で反対しているのか、記事を読んでいて一向に見えない。きちんと紙面で主張を言わせて、それを世論がどう見るのかを堂々と問うべきではないか。

 山脇社会部長 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数は上智大の三浦(みうら)まり教授らの研究会が毎年、国際女性デーに合わせ公表しており、共同通信が事務局を務めている。昨年は教育、今年は統一地方選に向けた政治をキャンペーン報道のテーマにした。課題解決に向けた素材、データを提供するというつもりで報道している。今後、働き方や企業、経済にも焦点を当てていきたい。

 高橋編集局長 パーソナルヒストリーは読んだ時に非常に訴求力があるので、さらに拡大していく。表現とジェンダー問題のまとまった記事も、日々の報道の中で取り組んでいきたい。

国際女性デー
 3月8日。国連が1975年、女性の権利向上を目指して定めた。20世紀初頭に米国で女性が労働環境の向上や婦人参政権などを求めて大規模なデモをしたことが起源とされ、例年、世界各地で集会やデモが行われる。「女性の日」として祝うイタリアの習慣から、黄色のミモザの花がシンボルの一つとされている。国際婦人年である75年には、第1回世界女性会議もメキシコ市で開催された。女性に関する初の国連会議で、133カ国の代表らが「平等、発展、平和」について議論した。

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