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第84回会議(安倍元首相の国葬、世界平和統一家庭連合(旧統一教会))

国葬、旧統一教会議論 「報道と読者」委員会

「報道と読者」委員会第84回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=5日、東京・東新橋の共同通信社

「報道と読者」委員会第84回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=5日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は 5日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第84回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「安倍晋三元首相の国葬」と「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の報道について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまた・やすし)氏は国葬について、法的根拠の有無や国会議論の欠如などの問題が指摘されたとし、国葬を巡る混乱も含めて安倍政治の功罪の「検証を続けてほしい」と述べた。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は、岸田文雄首相や自民党議員の「安倍氏の遺志を継ぐ」との発言に関し「政治は元首相の遺志ではなく国民の考えに基づいて行うものであり、こうした発言を無批判に報じるのは疑問だ」と注文を付けた。

 京都大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は「自由で開かれたインド太平洋」構想など安倍外交は一国にとどまらない国際秩序を構築したと指摘。「功罪を冷静に分析し、積極評価できる点はそうすることも必要だ」とした。

 旧統一教会と自民党議員の接点を巡る報道について、曽我部氏は「接点を持つこと全てが悪としないことが大事」とする一方、政策への影響の有無を掘り下げるよう求めた。

 廣田氏は、来年春の統一地方選に向け、教団と地方議員の接点も洗い出す必要があるとした。

 鎌田氏は、報道機関の姿勢に関し「(高額寄付などの)被害者救済が一番大きな柱になるべきだ」と強調した。

国葬、旧統一教会議論  「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会が5日開かれ、安倍晋三元首相の国葬や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関する報道について議論した。ジャーナリストの鎌田靖(かまた・やすし)氏は、国葬を巡る混乱を含め安倍政治の功罪について「検証を続けてほしい」と要請。弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は来年春の統一地方選に向け、旧統一教会と地方議員の接点も洗い出すべきだと指摘した。京都大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は安倍外交などについて「積極評価できる点はそうすることも必要だ」とした。

【メインテーマ】安倍元首相の国葬

安倍政治の検証を―鎌田氏 冷静に功罪評価―曽我部氏  焦点ずれてないか―廣田氏

安倍元首相の国葬で追悼の辞を述べる岸田首相=9月、東京都千代田区の日本武道館

安倍元首相の国葬で追悼の辞を述べる岸田首相=9月、東京都千代田区の日本武道館

▽メディアの力量

発言する鎌田靖委員

 鎌田靖委員 安倍晋三元首相の銃撃、死去後すぐに国葬実施が決まり、安倍政治、国葬への異論が出にくくなるのではと懸念したが、国葬当日の解説記事で、岸田文雄首相の拙速な決断が「無用な亀裂や分断を招いた」との見方が示されるなど、反対意見も含め自由に発言できたことはよかった。国葬に関しては法的根拠の有無や、国会議論の欠如など問題点が指摘されており、世論調査の結果も踏まえると批判的なトーンの記事が多くてもよいのではないか。国葬を巡る混乱を含めて安倍政治とは何だったのか検証を続けてほしい。

発言する廣田智子委員 廣田智子委員 安倍政治を問う記事をもっと出してほしい。安倍氏を銃撃した容疑者の動機は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みだった。事件当初から安倍氏と教団との関係をもっと報じるべきだった。政府が国葬実施を決める一方、岸田首相と自民党は、安倍氏と教団との接点の調査を拒否した。取材で報道できることはもっとあったのではないか。国葬にふさわしいか、教団との関係を含め安倍氏の功罪や人物像を検証してほしかった。国葬報道は法的根拠と弔意強制の問題に焦点が当たりすぎ、何か核心からずれているという違和感が残った。

発言する曽我部真裕委員

 曽我部真裕委員 元首相の銃撃、国葬と類例のない事態で、多角的で冷静な報道が難しかったと思う。メディアの力量が問われたのではないか。国葬とはそもそも何であるのか、民主主義国家で特定人物を国葬という形で追悼することにいかなる意味があるのかといった原理的な考察が不十分だったように思う。多くの記事は国葬に反対という前提で書かれていたように感じた。若年層は国葬に賛成が多かったようだが、そうした記事はあまりなかった。先進7カ国(G7)首脳は全員欠席したが、インドは首相、オーストラリアは現首相と元首相3人が参列した。安倍外交の成果だと思うが、大きくは取り上げられなかった。

▽元首相の遺志

 杉田雄心政治部長 取材側も手探りで報道を続けた。安倍政治の光と影は報じているつもりだが、国葬の本質的な問題点も含め引き続き取り組みたい。

 山脇絵里子社会部長 教育改革をはじめとする安倍政治の検証を続けてきた。「国葬を問う」というシリーズで賛否の声も伝えた。

 廣田委員 銃撃翌日の紙面に、安倍氏が現場に倒れている写真が掲載された。顔まで分かる写真を配信することについて社内議論はあったのか。菅義偉前首相は国葬の弔辞で、安全保障法制や特定秘密保護法は安倍氏だからこそ成立させることができたとしたが、国民を分断した法律だったことも具体的に報じてほしかった。岸田首相ら自民党議員から「安倍氏の遺志を継ぐ」との発言を多く聞く。政治は元首相の遺志ではなく国民の考えに基づいて行うものであり、こうした発言を無批判に報じるのは疑問だ。

▽情報隠し批判

安倍元首相の国葬を巡る経過

 曽我部委員 安倍政権が強かった理由に、周辺の人々が安倍氏を好きで信頼していたとの見方がある。われわれが見る安倍氏と、周辺が見るのとは全く違う印象なのだろう。もう少し光の部分も取り上げていいのではないか。「自由で開かれたインド太平洋」構想や日米豪印の協力枠組み「クアッド」など安倍外交は一国にとどまらない国際秩序を構築した。日本の首相ではあまり例がなく、客観的に高い評価に値すると思うが、共同通信の記事はナショナリズム外交を強調していた。そういう部分もあるが、功罪を冷静に分析して積極評価できる点はそうすることも必要だ。

 鎌田委員 銃撃された安倍氏の写真を紙面で見ると加工されたものもあった。血痕を隠すためかもしれないが、フェイクニュースを防ぐ意味からも加工は避けるべきだ。事件を巡って旧統一教会を実名報道した時期についても触れておきたい。7月8日に事件が起き、土日を挟んで11日に各社一斉に教団の名称を出した。ネットメディアは既に教団名を出しており、ネットでは既存メディアの情報隠しと批判された。こうしたことも意識する必要がある。共同通信は9日出稿の記事で教団広報担当者のコメントを載せており、この時点で実名報道できなかったか。

 高橋直人ニュースセンター長 元首相が遊説中に銃撃されるというショッキングな事件で写真は不可欠と判断した。写真は加工せずに配信した。

 中村毅編集局総務 教団の広報担当者を取材したが献金額や経済的事情は不明で、発生直後は容疑者の供述も荒唐無稽な印象があった。慎重を期し記者会見で教団の主張を確認した。

 小渕敏郎編集局長 安倍政治の功罪については多角的で冷静な視点を提示したい。政府は国葬の検証やルール作りを目指しており、節目節目で掘り下げていきたい。



安倍晋三元首相の国葬
 参院選で街頭演説中の安倍元首相が7月8日に銃撃され死去したのを受け政府が主催した葬儀。全額国費で賄った。戦前の国葬は勅令の「国葬令」が法的根拠だったが、現行憲法施行に伴い失効した。戦後、首相経験者の国葬は1967年の吉田茂元首相以来で2例目。今回、政府は「国の儀式」を内閣府の所掌とする内閣府設置法と閣議決定が根拠と説明。野党は根拠が不明確な上、首相経験者の死を特別扱いするのは憲法14条の「法の下の平等」に反するなどと批判している。

【サブテーマ】世界平和統一家庭連合(旧統一教会)

政策への影響は―曽我部氏 「票と金」追及を―廣田氏  被害者救済が原点―鎌田氏

本部が入るビルに付けられた「世界平和統一家庭連合」の文字=9月、東京都渋谷区

本部が入るビルに付けられた「世界平和統一家庭連合」の文字=9月、東京都渋谷区

▽団体の意向

 曽我部委員 旧統一教会とそれぞれの議員にどういう接点があったか細かく報じていた。必要な情報だとは思うが、大きな視点で何が問題だったのか分かりにくく、断片的な報道との印象を受けた。接点を持つことは全て悪としないことが大事ではないか。政策面でどれぐらい影響を受けているかが関心事であり、例えば夫婦別姓や同性婚に自民党の保守派の一部が反対していることに、旧統一教会の影響があるのかどうかなど、さらに掘り下げてほしい。

 鎌田委員 自民党の政治家と教団との関係がこれだけ広範に及んでいるということにあぜんとした。思想的に同じような方向を向く団体の支援を受けた政治家が、政治的信条を実現していく時に団体の意向と全く無関係と言い切れるのか疑問がある。癒着ぶりについてきちんとした検証を求めたい。今回の問題が政治的に問うているのは、この20年間の自民党保守派の時代そのものではないかとの評論もあった。

 廣田委員 旧統一教会がこれほど政治に入り込んでいたとは、自分だけでなく周りの人も知らなかった。行政や政治家が手を打ってこなかったとする記事があったが、報道や社会はどうだったのか。教団と安倍氏の関係はもちろんだが、票とお金に関してどんどん追及してほしい。来春は統一地方選がある。地方議員には教団の関連団体の力を借りている人が多いとも聞く。洗い出す必要がある。

 山脇社会部長 8月の全国会議員アンケートで幅広い議員に接点があったことを示した。その先に政策への影響や選挙協力、票や金の動きがあると思っている。

▽宗教2世の声

 曽我部委員 社会の問題と絡めて山上徹也(やまがみ・てつや)容疑者のようなものが生まれてくると論じた人がいたが、そういう記事は今回少なめだった。カルトに若者が入っていくのは、社会の中に生きづらさがあるからではないかという観点の記事もあまりなかった。今後、教団の解散命令請求に向けた質問権行使に進むと思うが、過去に解散命令を受けた2例は刑事事件になって証拠がそろっていた。今回は一から調べるので難航が予想される。

宗教法人法に基づく調査の流れ

 鎌田委員 解散命令を政府として請求するのか、被害者救済をどうするのかが当面の焦点であり引き続き伝えてほしい。解散命令請求では信教の自由が大きな問題となる。不法行為を繰り返していた団体がたまたま宗教団体だったというのがクリアな整理の仕方と思うが、憲法上の問題にも関わる。被害者救済が一番大きな柱になるべきだと思っていて、そういう点を強調していくことが原点ではないか。

 廣田委員 2015年に教団が「世界平和統一家庭連合」に名前を変えた時は、単に名称変更を報じただけだった。この時には宗教2世の問題は既にかなり深刻だったはず。苦しんでいる人の声を吸い上げることはできなかったか。21年に安倍氏が関連団体にビデオメッセージを寄せたことも当時は報じていなかった。取材能力を発揮した報道を望む。

 杉田政治部長 解散命令請求の議論で、信教の自由の観点からの指摘は少ない。一方的にならないように気をつけながら、被害者救済や政治に与えたゆがみを解き明かしたい。政治と宗教の在り方に関する国会の議論もきちんと見極めていく。

 小渕編集局長 信教の自由を確保しつつ、社会的に問題ある組織への適切な対応が行われているのか、その都度分析する。被害者救済法案も実効性があるかという切り口で見ていく。



世界平和統一家庭連合(旧統一教会)
 故・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が1954年に韓国で創設した宗教団体。2015年に「世界基督教統一神霊協会」(統一教会)から名称を変更した。世界中から男女が集まる合同結婚式などの活動で知られる。国内では霊感商法で高価なつぼや印鑑を買わされたなどとする被害の訴えが相次ぎ、社会問題化。高額献金を巡る問題も指摘されている。今年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で容疑者が教団への恨みを供述。教団と自民党との関わりが注目され、閣僚や党幹部らの関連団体の会合出席など接点が相次ぎ判明した。

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