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第81回会議(東京五輪とパラリンピック、菅首相退陣から岸田内閣発足)

五輪パラ、自民総裁選議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第81回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=11月6日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は11月6日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第81回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「東京五輪とパラリンピック」と「菅首相退陣から岸田内閣発足」の報道について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は五輪・パラリンピックの開催の是非について「より踏み込んだ記事があってもよかった」と指摘。各界からの寄稿を多数出稿した点は評価し「将来世代がこの大会を考える上での判断材料になる。繰り返し検証する取り組みを続けてほしい」と促した。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は五輪直前に開会式の演出関係者の辞任、解任が続いたことに「過去に何かやらかしたら復活できなくなる社会は排除であって、共生や多様性につながらないのではないか。識者のインタビューなどで問題提起してほしかった」と注文をつけた。

 京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は「世論の空気に流されずに冷静な判断材料を提供するのが報道の役割だ」と強調。大会の開催によって「長老支配、人権意識といった日本の問題が可視化された」と位置づけた。

 自民党総裁選に関し、曽我部氏は「報道側の政策課題認識が刷新されていない」として、気候変動やジェンダー問題を取り上げるよう求めた。鎌田氏は菅義偉首相退陣に絡み「政局の水面下の動きは取材力が問われる。それだけでは不十分だが、やはりファクトがベースだ」と指摘した。廣田氏は総裁選に女性2人が出馬したのを踏まえ「自民党の支持率が落ちる中で、2人が出馬した経緯と意味を探る記事があってもよかった」と述べた。

五輪パラ、自民総裁選議論  「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会が11月6日開かれ、東京五輪・パラリンピックと菅首相退陣から岸田内閣発足の報道について議論した。ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は大会開催の是非について、より踏み込んだ記事が必要だったと指摘した。弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は、パラリンピック報道に「多様性とは何かに深く切り込んだ記事が見当たらなかった」と問題提起。京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は自民党総裁選に関し「報道側の政策課題認識が刷新されていない」と強調した。

【メインテーマ】東京五輪とパラリンピック

開催是非論じたか―鎌田氏  多様性に切り込め―廣田氏  世論に流されず―曽我部氏

東京五輪の開会式で、旗手の八村塁を先頭に入場行進する日本選手団=7月、国立競技場

東京五輪の開会式で、旗手の八村塁を先頭に入場行進する日本選手団=7月、国立競技場

意見を述べる鎌田靖委員=11月6日、東京・東新橋の共同通信社 ▽押しつけ

 鎌田靖委員 多幸感が薄く、全てが中途半端な五輪・パラリンピックだった。個人的には延期を選択すべきだと思っていた。新型コロナウイルスの感染拡大が続いて、緊急事態宣言も度々発令される中、中止すべきではないかとの社説を書いた新聞社もあったが、共同通信も開催の是非にもう少し踏み込んでもよかったのではないか。日本選手の活躍が目立ち、競技も伝えてコロナも踏まえなければいけないという中で、バランスはどう考えたのか。理想に向けた思いはパラリンピックの時の方が素直に表出されていた。

意見を述べる廣田智子委員=11月6日、東京・東新橋の共同通信社 廣田智子委員 多様性と調和、共生というのが盛んに言われた。いい記事はたくさんあったが、多様性とは何かに深く切り込んだ記事が見当たらなかった。パラリンピック選手の能力や努力は純粋にすごいと思ったが、頑張ろうと思っても頑張れない障害者はたくさんいる。そうした方たちとの共生にも目が向けられているか。「障害は個性」と言うには、社会環境の十分な整備が前提だ。多様性や共生が多数者に都合よく使われて、押しつけになっていないか注意が必要だ。

曽我部真裕委員 中止、再延期の世論が高まった段階で、国民に必要な判断材料をどれだけ提供できていたのか。気になった点は感染状況と開催に関する報道の在り方だ。開催すると感染者が顕著に増えるかのような報道が一貫してなされていた。そうではなかったように思えるが、この点に関する検証記事が見当たらなかった。世論の空気に流されずに冷静な判断の材料を提供するのが報道の役割だ。今回の五輪・パラリンピックはやってよかった。長老支配、人権意識、そういった日本の問題が可視化された。

▽ギャップ

 永井利治論説副委員長 基本的な姿勢として中止すべきだというような考え方は取っていなかった。感染爆発の局面で、どうバランスを取って報道するかは議論して相当注意深くやってきた。

 正田裕生編集局次長 競技のすばらしさを、これまで以上に素直に伝えようと一生懸命やったが、中止の場合の影響に関する記事をもう少し出したほうが良かった。

 中村毅社会部長 競技場の外の出来事や社会現象、世の中の空気感みたいなものをどう伝えるかは非常に苦心した。多様性、共生とは何かについてはもう少し掘り下げてもよかった。

 廣田委員 今回、最も印象的だったのが、裏方の辞任が直前まで続いたこと。辞任した人たちの問題となった言動はひどいし、起用も不適切であろうが、それを責めるだけでいいのか。インターネットで検索すれば、過去の言動が容易にわかるようになった。過去に何かやらかしたら復活できなくなる社会は排除であって、共生とか多様性にはつながっていかないのではないか。識者のインタビューなどで問題提起してほしかった。記事の随所にSNS(会員制交流サイト)時代の五輪というのが出てきた。一般の人がSNSで声を上げやすくなった一方で、批判や中傷を受けたアスリートの心の問題というのもある。こうしたところも検証してほしい。

意見を述べる曽我部真裕委員=11月6日、東京・東新橋の共同通信社 曽我部委員 今回のキーパーソンの一人が国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長。空気を読まないということで、ネガティブイメージをかき立てるような書きぶりになっていた。ただIOCを解剖する連載記事だとそうでもなくて、優れたリーダーでもあるようだ。日本でのイメージと大きくギャップがある。これがどこから来るのかというのを掘り下げると、いろんなことが分かったのではないか。

▽将来世代

東京五輪・パラリンピック8年の歩み

 鎌田委員 東京五輪・パラリンピックとは何だったのか、という点を記事化しなければいけないとの思いを感じた。各界の方に話を聞いたのはいい試みだった。将来世代がこの大会を考える上での判断材料になる。前の東京五輪も、終わった後の継続した報道の中で、プラスの評価が固まっていったのではないか。今回も繰り返し検証していくという取り組みを続けてほしい。海外はこの大会をどう受け止めていたのかは、もっと報じてほしかった。

 正田編集局次長 開幕直前の、開会式の統括責任者の解任は、過去にミスをしたものは抹殺するような恐ろしさをはらむ出来事だった。きちんと指摘すべきだった。

 白井弘史運動部長 「バッハ会長イコール五輪」というイメージが完全に日本では定着してしまった。若干冷静さを欠いた記事も中にはあったかと思う。

 沢井俊光編集局長 全体のバランスについては今日は金メダルが大事、ある日はコロナの方がというようなことを毎日議論しながら報じてきた。この大会は何だったのかを繰り返し検証し、五輪・パラリンピックそのものの意義も含め今後も問い続けていきたい。

東京五輪・パラリンピック
 2013年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で20年夏の開催が決定したが、15年に新国立競技場の建設計画が白紙撤回されるなど問題が続出。新型コロナウイルスの感染拡大で、20年3月に大会の1年延期が決定した。21年も感染は収束に向かわず、緊急事態宣言が発令される中、大半の会場は無観客で競技を実施した。日本勢の活躍が目立ち、五輪は史上最多の金27個、総数58個のメダルを獲得。パラリンピックは金13個を含む51個のメダルを得た。

【サブテーマ】菅首相退陣から岸田内閣発足

政策課題刷新を―曽我部氏  やはり事実が土台―鎌田氏  与野党バランスは―廣田氏

自民党総裁選の公開討論会を前に、色紙に記した字を披露する(左から)河野行革相、岸田前政調会長、高市前総務相、野田幹事長代行=9月、東京・内幸町の日本記者クラブ、肩書は当時

自民党総裁選の公開討論会を前に、色紙に記した字を披露する(左から)河野行革相、岸田前政調会長、高市前総務相、野田幹事長代行=9月、東京・内幸町の日本記者クラブ、肩書は当時

▽水面下

 曽我部委員 自民党総裁選は事実上、首相を決める重要なイベントにもかかわらず、国民が参加できない。非民主的な党内行事となるため、報道の視点も党内の派閥力学や有力者の動きに傾きがちだ。総裁選の公開討論会でがくぜんとしたのは、政策テーマが新型コロナウイルスや経済、原子力、外交・安全保障、あるいは森友・加計学園・桜を見る会問題にとどまっていることだ。気候変動問題や社会のデジタル化、ジェンダー問題はテーマに挙がってない。報道側の政策課題認識も刷新されていない。

 鎌田委員 菅義偉首相(当時)の突然の辞意表明について、一体何があったんだというのが多くの読者の関心事だ。政局の水面下の動きは日頃の取材力が問われる。ファクトを伝えるのは新聞の担う役割の一つだ。それだけでは不十分だが、やはりファクトがベースだ。動きを丹念に追って菅内閣とは一体何だったのか、が浮き彫りになる紙面展開を望みたい。

 廣田委員 自民党総裁選では、今回の4人に目新しさがあって注目を集めた。露出の多さの影響について、与野党のバランスで気を付けた点はあるのか。立憲民主党の枝野幸男代表(当時)らが予算委員会で質疑をしてから選挙を、と言っていたが、岸田文雄首相は予算委を開かなかった。首相が安倍・菅政権の「負の遺産」にどう取り組んでいくのか、注視して報道してほしい。

 山根士郎政治部長 衆院議員の任期が10月21日に迫る中、総裁選を含めて自民党一色の報道にならないように、野党の動きもなるべく丁寧に報じようとした。政局が中心にはなるが、ある時点で政治家はどう動いたのか、検証報道に力を入れた。

▽女性2人

 曽我部委員 岸田氏や河野太郎氏らが最近、本を出した。言いっ放しで吟味されないと無責任な出版を助長する。本に書いたことを後から検証して「言っていることが違う」と指摘していけば政治家の行動変容にもつながる。

自民党総裁選4候補の終盤戦略

 鎌田委員 菅首相が広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式でのあいさつの大事な部分を読み飛ばした。この事象については「首相、見えない歴史認識」という記事で深く取材している。また、菅首相が退陣表明した時点で、経済政策の企画記事が出ている。政局がクローズアップされる中、菅政権が掲げた経済政策や脱炭素化社会がどうなるのかという視点で書いたのは評価していい。

 廣田委員 総裁選に女性が2人立候補した。自民党の支持率が落ちる中で、2人を誰かがうまく使っているのではないかとも見えた。2人が出馬した経緯と意味を探る記事があってもよかった。総裁選候補4人の人物像については、SNSの使い方を比較してみたら面白かった。

 宮野健男経済部長 菅首相が辞任表明して政局が一気に流れていく前に功罪を併せ持つ菅政権の経済政策の連載を出稿した。検証報道や政策分析の記事に、折に触れて取り組んでいきたい。

 沢井編集局長 政策課題の認識が刷新されていないとの指摘を重く受け止める。デジタルや気候変動の問題には若い人も関心が高いので、デジタル空間も生かしながら政策課題を広く取っていきたい。

自民党総裁選
 自民党の党首を決める選挙。衆院議席の過半数を自民党が占める状況では、事実上の首相選びとなる。党総裁の任期は3年。党所属国会議員20人の推薦を得た国会議員が立候補できる。9月の総裁選は河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子4氏が、党所属国会議員382票と、党員・党友による地方票382票の計764票を争った。1回目の投票で過半数を獲得する候補がおらず、上位2人の決選投票で岸田氏が河野氏に勝利した。

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