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第79回会議(菅政権のコロナ対応、米国の政権交代)

コロナ、米政権交代を議論 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第79回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=3月13日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は13日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第79回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が菅政権の新型コロナウイルス対応や米国の政権交代の報道について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏はコロナ対応を巡る菅義偉首相と小池百合子東京都知事の確執を取り上げ「国民生活に重大な影響を及ぼす緊急事態宣言の判断を政治的思惑で決めてほしくない。これは問題だ、と報じてほしい」と述べた。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は観光支援事業「Go To トラベル」に触れ「お金が本当に必要なところへ回る制度、政策なのか」と疑問を呈した。女性の貧困問題を含めて検証を促した。

 京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は「政策の効果を検証することこそが国民生活に直結する。公共政策や公共経済学の知見を借りて定量的に評価できる」と助言した。

 米国の政権交代に関し、鎌田氏は「民主主義の理想が揺らぐ中での選挙で、これまでと違う面があった」と強調。今後、民主主義と中国のような制度との比較が議論されることが予想される中、米国の政治を丁寧に報じていくよう求めた。

 廣田氏も「対中国が世界の政治経済の中心課題になる」として中国の価値観や日本の姿勢を論じるよう要請した。曽我部氏は「トランプ政権の検証記事が少なかった。幅広く振り返るべきだった」と指摘した。

コロナ、米政権交代を議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第79回会議が13日開かれ、菅政権の新型コロナウイルス対応や米国の政権交代を巡る報道について議論した。ジャーナリストの鎌田靖氏は菅義偉首相と小池百合子東京都知事の確執を取り上げ、コロナ対応が政治的思惑で決められる状況を問題視。弁護士の廣田智子氏は女性の貧困問題を挙げ「お金が本当に必要なところへ回る制度、政策なのか疑問を持つ」と検証を促した。京大大学院教授の曽我部真裕氏は「政策の効果の検証こそが国民生活に直結する」と助言した。

【メインテーマ】菅政権のコロナ対応

新聞に啓発の役割―鎌田氏 接種判断に情報を―廣田氏 政策効果も検証―曽我部氏

2月26日、緊急事態宣言の一部解除について官邸で記者団のぶら下がりに答える菅首相。記者会見の要請には応じなかった

2月26日、緊急事態宣言の一部解除について官邸で記者団のぶら下がりに答える菅首相。記者会見の要請には応じなかった

意見を述べる鎌田靖委員=3月13日、東京・東新橋の共同通信社 ▽政治的思惑

 鎌田靖委員 菅義偉首相のコロナ対応は後手に回っている印象があり、国民が評価しなくなった時に世論調査で内閣支持率が急落する相関関係がある。菅首相と小池百合子東京都知事の確執を面白おかしく取り上げるのがいいのか。緊急事態宣言の再延長を決める際、どちらが主導権を握るかあつれきがあるという報道を見て怒りが湧いてきた。国民の生活に重大な影響を及ぼす宣言の判断を政治的思惑で決めてほしくない。これは問題だと報じてほしい。

 廣田智子委員 菅首相はコロナ対策と経済対策の折り合いをつける決断が求められたが、うまくできたとは言えない。観光支援事業「Go To トラベル」は小さい旅行代理店にお金が回らないのではないか。女性の貧困がクローズアップされ、非正規切りもひどい。前代未聞の財政支出で多額のお金が本当に必要なところへ回る制度、政策なのか疑問を持つ。

意見を述べる曽我部真裕委員=3月13日、東京・東新橋の共同通信社

 曽我部真裕委員 検証には意思決定の経緯と政策の妥当性の評価という二つがある。前者は、権力闘争的な場面に目を向けるものが多く、それがコロナ報道の中心となることに違和感がある。政策の効果を検証することこそが国民生活に直結する。社会部の記事では個々の店が困っているといったミクロの情報はある。ただ、政策はマクロの観点から評価することが重要だ。緊急事態宣言に伴う措置の効果、GoToの影響などについてマクロの観点で検証した記事は少ない。公共政策や公共経済学の知見を借りて定量的に評価できる。

 山根士郎政治部長 コロナ対応で政治的思惑を科学的知見より優先するのは問題だと強く認識している。政策効果を検証する場合、政府の資料を基にするのはためらわれるが、何が正しい政策かという視点を持って取材したい。

▽対照的

 鎌田委員 どう怖がればいいのかを指し示すような記事を期待する思いは変わらない。ワクチン接種のQ&Aのような情報は大事で、重複してもいい。読者が迷う時に、ファクトに基づいて一歩踏み込んだ見方を提示するのがメディアの主流であってほしい。新聞には啓発の役割がある。

意見を述べる廣田智子委員=3月13日、東京・東新橋の共同通信社

 廣田委員 社会面の連載企画で、一斉休校中に不登校の子が自分に合った学ぶ環境を見つけたという記事や、逆に自閉症の子が困難に直面しているという記事があった。いろいろな影響を丁寧に伝えている。ワクチンについては、接種するかしないかは国民が決める。怖がらせずに正しい知識を持ってもらうのはマスメディアの責任だ。行政の発表をそのまま伝えるのではなく、専門的知見を持った方への取材や調査で伝えてもらいたい。

 曽我部委員 日本のワクチン接種は他の主要国と比較して遅れているのに、報道は冷静だ。調達の失敗が問題視されていないのは不思議。ヒートアップするのがいいという意味ではないが、菅政権批判の熱量とは対照的だ。

 中村毅社会部長 コロナ禍が生き方を見詰め直す機会になっている。人との接触が減ることで、逆につながることの意味を問い掛けていきたい。

 渡辺寛樹科学部長 ワクチンを個々人の判断で打つということは尊重されるべきだ。判断に資する正しい知識を伝えたいと思って報じている。

緊急事態宣言を巡る経過 ▽意思決定

 鎌田委員 新聞に期待する役割は正確な情報を伝えることに加え、事実をどう見ればいいのかの方向性を示すことだ。緊急事態宣言が解除されても、またどこかで再び発令となるかもしれない。解除判断の材料提示だけでなく、その是非に踏み込んでほしい。

 廣田委員 コロナの専門家会議と分科会を取り上げた検証記事で、専門的な知見が政治的な意思決定にどのような影響を及ぼすのかということについて、政治と科学の綱引きでいまだに意思決定のプロセスが分かりにくいという指摘があった。今後も専門家の高度な知見が必要になる政治判断が起こりうるので、引き続き検証していただきたい。

 曽我部委員 欧米に比べて患者数が少ないのに医療崩壊状態になっていることについて、政府や自治体の責任が取りざたされている。個々の病院が頑張っているケースは随時報じられているが、医療界全体として何をしているのかは全く不透明だった。医療界の責任というのは本来大きいのではないかと思う。

 香高重美生活報道部長 コロナ以前は病院再編が議論されていたが、今はストップしているので今後どうなっていくのかを注視する。医療界がコロナでどのように動いたのかも見ていきたい。

 沢井俊光編集局長 コロナ感染の広がりから約1年がたち、現状を一歩引いて報じる観点から大型検証の「検証コロナ時代」を始めた。読者が何を知りたいのか、何が必要なのか、想像力を鍛えて、それに応える報道をしていきたい。かゆいところに手が届く記事が重要と再認識した。

緊急事態宣言
 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づく措置。国民の生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある時、期間と区域を定め首相が発令する。対象の都道府県知事は外出自粛や飲食店を含む施設の使用制限の要請や命令が可能となる。2月の法改正で命令違反に行政罰を設けた。昨年春に一時、全国が対象となった。今年1月に首都圏など11都府県に順次再発令され、栃木は2月7日、関西、東海、福岡の6府県は2月末、首都圏は3月21日に解除した。

【サブテーマ】米国の政権交代

証言何残し伝える―廣田氏 現代に教訓示せ―曽我部氏  メディア責任重い―鎌田氏

米大統領候補の討論会で主張をぶつけ合う共和党のトランプ氏(左)と民主党のバイデン氏=2020年10月、米テネシー州(ゲッティ=共同)

米大統領候補の討論会で主張をぶつけ合う共和党のトランプ氏(左)と民主党のバイデン氏=2020年10月、米テネシー州(ゲッティ=共同)

▽第2のトランプ

 廣田委員 トランプ氏の支持者が米連邦議会に乱入したのは衝撃的だった。トランプ氏が大統領だった4年間から、日本が何を学び、何に備える必要があるのか。一連の報道の随所に示されていた。また、中国への対応は世界の政治経済の中心課題だ。近い将来、米国を抜いて世界一の経済大国になり得るというが、中国の価値観が分からない。香港や新疆ウイグル自治区に対する中国の行動を

 曽我部委員 トランプ政権下の4年間を検証する記事が少なかった。普段起こり得ないことがいろいろあったので、より幅広く振り返るべきだった。トランプ氏は今回の大統領選で約7400万票を獲得し、一連の報道の通り、トランプ的なものは残るはずだ。少数派になっていく白人の不安や分断の悪化を背景に、第2のトランプ氏が出てきてもおかしくない。今後、共和党や巨大な固まりであるトランプ支持者の動向を継続的に取材してほしい。

 鎌田委員 米国は唯一の超大国で世界的影響力が強く、日本と同盟関係にあるので、米大統領選を大々的に報道するのは意味がある。今回は民主主義の理想が揺らぐ中での選挙で、これまでと違う面があった。高い関心にも応える報道で妥当だった。米国の課題は民主的価値の復権だ。新型コロナウイルス禍で、取材が困難になったケースはあったのか。

▽残る疑問

 廣田委員 バイデン氏がコロナ禍でいかに民主主義を取り戻し、女性初の米副大統領になったハリス氏が力を発揮していくかを報じてほしい。トランプ氏のツイッターアカウント永久凍結に衝撃を受けた。巨大な力を持つ一企業による表現規制の是非を論じてほしい。

米大統領選を巡る主な経過

 曽我部委員 ハリス氏が演説で言及した「声を聞かれる権利」に着目し、歴史上、女性にとって公の場で発言することがどれだけ困難だったかを実例を挙げて解説した記事が意義深かった。トランプ氏はツイッターで規約違反を繰り返したが、大統領だから凍結されなかった。凍結は原則、企業が判断するのが通常なのでひとまず問題はないと思うが、プラットフォームの影響が大きくなっているのも確かであり、議論を続ける必要がある。

 鎌田委員 分断や差別的な言動を良しとしたトランプ氏を、なぜ多くの米国民が支持したのかが最大の疑問。背景を説明する報道がやや足りなかった気がする。今後、民主主義より中国のような制度の方が正しいのではないかとの議論も出る中で、米国の政治についてはきちんとフォローしてもらいたい。

 有田司外信部長 コロナ禍でトランプ支持者の動向取材が難しくなるといった影響が出たが、現場の努力で乗り切った。トランプ政権の問題は多岐にわたるため、さらに報道する余地はあった。今後は支持者の動向を注視したい。バイデン政権の対中外交や中国の価値観も国際報道の大きなテーマだ。ツイッター凍結問題も細かく取材していく。

 沢井編集局長 トランプ支持者の動向や民主主義は重要な取材テーマだ。米中関係が今後の世界を規定するのは間違いない。読者の疑問に答えていく報道を続けたい。

2020年米大統領
 20年11月3日に投開票され、民主党候補のバイデン氏が約8100万票、共和党のトランプ氏が約7400万票を獲得した。主要メディアはバイデン氏勝利を報じたが、トランプ氏側は不正があったとして法廷闘争を展開した。21年1月、トランプ支持者らが連邦議会議事堂に乱入し、一時占拠する事件が発生。トランプ氏は支持者をあおり立てた責任を問われ、米史上初めて2回弾劾訴追された大統領になった。事件を契機にツイッターなどのアカウントも永久凍結された。

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