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第80回会議(東日本大震災10年、ミャンマー・クーデター)

震災10年、ミャンマー議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第80回会議。(奥左から)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=6月19日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は6月19日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第80回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「東日本大震災10年」と「ミャンマー・クーデター」の報道について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は復興予算の使い道などを巡る検証記事を評価し「教訓を語り継ぐメディアの責務を果たしたのではないか。課題は検証し続け、克服しなければならない」と強調した。

 一方、京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は震災後の報道の振り返りがなかったと指摘。「正確な情報がなかなか出なかったことや、メディアが被災地に押し掛けた問題など、報道の在り方の検証を」と促した。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は政府が東京電力福島第1原発事故の処理水の海洋放出を決定したことについて「(福島の水産物の)風評被害が懸念されるのか、安全性が懸念されるのかは別の問題。きちんと安全性を監視してほしい」と注文を付けた。

 ミャンマー国軍によるクーデターに関し鎌田氏は「日本政府は国軍との『独自のパイプ』を強調してきた。もう少し働き掛けができる手だてはないのかが、知りたいポイントだ」と指摘した。

 廣田氏は「私たちは見ているだけで良いのか、国民的な議論をするときだ」と語り、国内議論を促す報道に期待した。曽我部氏は企業の社会的責任に触れ、現地に進出する日本企業の国軍との関わりや日本政府の対応を報じていくよう求めた。

震災10年、ミャンマー議論  「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会が6月19日開かれ、東日本大震災10年とミャンマー・クーデターの報道について議論した。ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は「震災の教訓を語り継ぐのがメディアの責務。検証を続け、課題の克服を」と強調した。京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は震災後の報道の在り方も検証するよう促した。弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏はミャンマーのクーデターに関し「私たちは見ているだけで良いのか、国民的な議論をするときだ」と語った。

【メインテーマ】東日本大震災10年

教訓語り継ぐ責務―鎌田氏 報道も検証必要―曽我部氏 原発事故は進行形―廣田氏

2011年3月11日(上、菅原英樹さん提供)と今年2月22日の宮城県気仙沼市鹿折地区。かさ上げされた土地に災害公営住宅などが整備され、飲食店や住宅なども増えてきた

2011年3月11日(上、菅原英樹さん提供)と今年2月22日の宮城県気仙沼市鹿折地区。かさ上げされた土地に災害公営住宅などが整備され、飲食店や住宅なども増えてきた

意見を述べる鎌田靖委員=6月19日、東京・東新橋の共同通信社 ▽被災地への共感

 鎌田靖委員 東日本大震災から10年の節目に総力を挙げた取材がされ、風化を防ぎ、教訓を語り継ぐメディアの責務を果たしたのではないか。検証の連載企画では、巨大防潮堤や集落の高台移転の是非など、復興予算の使い道をさまざまな視点から問題提起していた。阪神大震災を取材したが、その時の教訓で改善されてきたこともある。課題は検証し続け、克服しなければならない。問題を指摘する記事の一方で、被災地への共感というか、一人称で記者の感情を込めるような、情感に訴える原稿がもっとあっても良かった。

 廣田智子委員 私は東京電力福島第1原発事故で強制避難になった福島県の住民が東電に損害賠償を求めた訴訟の弁護団に関わってきた。論評記事にあった「原発事故は現在進行形」というのはその通りで、被災者は今も深い孤独を抱えている。世論調査で76%が原発ゼロにすべきだという結果があるのに、なぜ原発再稼働なのか、原発ゼロに向かわないのか。その分析も書いてほしかった。緊急事態宣言は新型コロナウイルスだけではない。「原子力緊急事態宣言は解除されないままだ」という論説記事があったが、本当にそうだ。「アフターコロナ」を論じる時、「アフター3・11」と一緒に考えるような問題設定をしてほしい。

意見を述べる曽我部真裕委員=6月19日、東京・東新橋の共同通信社 ▽距離置いた視点

 曽我部真裕委員 原発事故で私たちが学んだことの一つは、問題に気づく機会が何度もありながら先送りにしたことが事故につながったということ。メディアの将来像を考える上でも重要な視点だ。当時の報道の振り返りがなかったのは気になった。正確な情報がなかなか出なかったことや、メディアが被災地に押し掛けた問題など、報道の在り方の検証もあると良かった。それからヒューマンストーリーでは「被災者は弱者、東電や国は悪者」という構図になりがち。それは事実だと思うが、加害者・被害者の図式で見ると見えなくなることもある。距離を置いた視点をメディアが意識的に取ることも重要だ。

 山内和博仙台支社編集部長 被災者の思いをくみ取った記事は十分に出稿したと考えているが、記者個人の思いを伝える視点はやや抑制的過ぎた。

 中村毅社会部長 未曽有の災害から教訓を学び次に生かす意味でも、われわれ自身がどう動いたか、政府による情報統制はなかったかなどは検証すべきテーマだった。

意見を述べる廣田智子委員=6月19日、東京・東新橋の共同通信社 ▽安全性の監視

 廣田委員 原発事故で出た汚染水を浄化した後の処理水の海洋放出が決まった。(福島の水産物の)風評被害が懸念されるのか、安全性が懸念されるのかというのは別の問題。きちんと安全性を監視してほしい。放射能関連の報道も少ない気がした。被災地には今も放射線量が高い場所があり、低線量被ばくの危険性も含め、医学的に分かっていないことを報じることがタブーにならないようにしてほしい。福島の被災者に対する心のケアの必要性は事故直後から言われたが、コロナ禍も加わっており、ぜひ追い続けてほしい。

 曽我部委員 海洋放出自体の安全性に問題があるかないか、私も気になった。政府は国際基準を満たすと説明しているのに、韓国や中国から批判が出ている。国際基準を含めて安全性はどうなのか。風評被害の懸念と政府の説明不足が報道の主な視点だったが、そういう問題なのか。分からないことが多々あった。良かったのは、原発事故対応で日本政府との連携に当たった、米国の原子力規制委員会委員長らのインタビューだ。情報収集能力や危機のシナリオ分析能力に、日米では桁違いに差があることが書かれていた。コロナ禍の現在とも関わるが、国民への透明性や説明責任も含め、専門家が機能していることがよく分かった。

東日本大震災の経過

 鎌田委員 廃炉、避難解除は全く見えず、処理水の定義自体も揺れている。非常にもやもやしており、取材を尽くしてほしい。その上で指摘しておきたいのは、東日本大震災は犠牲者の数が多過ぎて、どうしても数字に変換してしまうが、それにあらがう一人一人に肉薄する記事を続けてほしいということだ。災害の悲惨さや人の死を伝えること、そして当時のメディアへの批判。報道関係者に対する批判を受け止めている記事もあり、ちょっとは考えてもらっているのかとは思った。

 橋本一彦原子力報道室担当部長 トリチウムを含む処理水は「政府が安全と主張する」など、断定的にならないような表現を心掛けている。トリチウムを基準値以下にして流せば安全といわれても、事故を起こした原発、デブリ(溶け落ちた核燃料)に触れた水を流すのは前代未聞。「安全」が安心にはつながっていない。報道としても非常に難しい問題だ。

 沢井俊光編集局長 当時からあったメディア批判への受け止めを、この10年の節目で検証すべきだったとの指摘も重く受け止めている。震災や原発事故の報道はこれで終わりではなく、継続していくので、機会を捉えて改めて検証したい。

東日本大震災
 2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源にマグニチュード(M)9・0の地震が発生した。最大震度7を観測し、東北地方を中心に大津波が押し寄せた。東京電力福島第1原発は電源を喪失して炉心溶融(メルトダウン)が起き、原子炉建屋が水素爆発で損壊、大量の放射性物質が飛散した。警察庁などによると、1万5900人が死亡し、2525人が行方不明、関連死は3775人に上り、原発事故被災者を中心に4万人以上が避難している(いずれも3月時点)。

【サブテーマ】ミャンマー・クーデター

企業はどう動く―曽我部氏 日本の役目議論を―廣田氏 独自のパイプとは―鎌田氏

ミャンマー最大都市ヤンゴンで抗議デモを監視する兵士たち=2月(ロイター=共同)

ミャンマー最大都市ヤンゴンで抗議デモを監視する兵士たち=2月(ロイター=共同)

▽メディアの原点

 曽我部委員 他と比べても多くの記事を出しており、とりわけミャンマーで起きていることについては非常に詳しく報じている。現地メディアが軍政から弾圧を受け、日本人フリージャーナリストも一時拘束されたが、どうやって安全性を確保して取材しているのか気になった。一方で、日本との関わりについては若干手薄な感じがあり、有識者のコメントが少ない点も気になった。

 鎌田委員 クーデター後の一夜明けたヤンゴンの雑観記事では緊迫した状況が書かれ、現場にいることの大事さが伝わってくる。これがメディアの原点だと改めて感じた。日本政府は国軍との「独自のパイプ」を強調してきたが、本当に独自のパイプがあるなら、もう少し国軍への働き掛けができる手だてはないのかどうか、これからも知りたいポイントの一つだ。

 廣田委員 国際社会はすぐに国軍を非難したが、日本が何をしているのか、よく分からない。同じアジアの香港、ミャンマーで民主主義と自由が暴力で破壊されている。若者たちがそれに立ち向かって撃たれる中、日本や私たちはただ見ているだけで良いのか、どう対応すべきなのか。中国新疆ウイグル自治区の問題もある。アジアの中で日本がどういう役目を担っていくのか、国民的な議論をするときだ。

 有田司外信部長 日本人記者が駐在しているアドバンテージを生かそうと、現場取材にこだわってきた。メディアの締め付けが非常に強くなっている。何とか工夫して現地の様子を伝える記事を出していきたい。

▽マグニツキー法

 曽我部委員 企業の社会的責任や人権問題との関わりが問題となっている。国軍系企業とビール事業の合弁解消の発表があったが、日本企業の動きが気になる。もう一つは日本政府の対応。各国が制裁を行っている中、日本は穏健な対応を取っている。何かパイプを使って説得しているという説明だが、具体的に何をしているか見えない。

ミャンマーを巡る経過

 鎌田委員 ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」と言われるが、それほど関心が高い国ではない。進出した日本企業約400社の対応を取り上げることで、関心を喚起できるのではないか。大企業の動きは日本国内でも取材できるので、現地の中小企業がどうなっているのか、現地の日本人はどうなっているのかを、もっと知りたい。

 廣田委員 米国では人権侵害に関与した当局者に制裁を科す「マグニツキー法」があり、4月には日本版マグニツキー法の制定を目指す国会議員連盟が設立された。同法の必要性の有無について有識者の解説などをもっと読みたい。また、単に外国でこんなことが起きているというのではなく、難民とか入管難民法の問題を一緒に考えるきっかけになるような記事を書いてほしい。

 清水健太郎特別報道室長 進出した日本企業は、できれば騒動が収まって事業を再開できないかどうか様子見している。社運を懸けて乗り込んだ中小企業が非常に多く、こうした企業の動向に注目していきたい。

 沢井編集局長 クーデターが起きた時というのは非常に伝え方が難しいと長年実感している。日本との関わりが突破口の一つになると思う。

ミャンマー・クーデター
 ミャンマー・クーデター 昨年11月に国民民主連盟(NLD)が圧勝した総選挙の不正を訴えていた国軍が今年2月1日、アウン・サン・スー・チー氏ら政権幹部を拘束し、政権を奪取した。国軍はミン・アウン・フライン総司令官を議長とする最高意思決定機関「国家統治評議会」を設立。一部地域に戒厳令を敷き、断続的にインターネットを遮断、メディアも締め付けた。武力弾圧で計800人以上が死亡した。民主派が発足した「挙国一致政府(NUG)」は独自の部隊「国民防衛隊」を創設。内戦の危機が指摘されている。

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