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第73回会議(外国人労働者の受け入れ拡大問題、辺野古移設問題と沖縄県民投票)

外国人、沖縄県民投票議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第73回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=3月9日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3月9日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第73回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が外国人労働者の受け入れ拡大問題と、米軍普天間飛行場の辺野古移設と沖縄県民投票の報道を巡り議論した。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、外国人受け入れ拡大の全体像が見えなかったとして「社会がどう受け止めるべき問題なのかが分かるような記事作りが必要だったのではないか」と述べた。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は「まず外国人労働者の現況を書く必要があった。ルポがあればもっと身近に感じられた」と提言した。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「使い捨ての問題をあぶり出すのなら、企業などへの厳しい目もあってよかった」と指摘した。

 辺野古移設と県民投票に関しては、三浦氏が「沖縄と中央政府を橋渡しするような言論がない」と強調。「沖縄の問題も安全保障全般でも、対米関係のみで論じていては読者は満足しない」と指摘した。

 清水氏は、県が国の工事差し止めを求めた訴訟に触れて「最高裁判例は正しいのか、訴訟制度に不備はないのかという問題提起の記事があってもいい」と話した。

 後藤氏は「一番大事なのは沖縄の声を伝えることだ。琉球新報、沖縄タイムスの両編集局長の特別寄稿は優れた企画だった」と評価した。

外国人と沖縄県民投票議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第73回会議が3月9日開かれ、委員3人が外国人労働者の受け入れ拡大問題と、米軍普天間飛行場の辺野古移設と沖縄県民投票の報道を巡り議論した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、法案審議の記事だけでは全体像が見えなかったと指摘。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は外国人に支えられている現状を報じる必要性に言及した。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は、辺野古移設と県民投票について、沖縄と中央政府の橋渡しをするような言論の必要性を強調した。

【メインテーマ】外国人労働者の受け入れ拡大問題

問題全体が見えず--清水氏 教えられる記事も--後藤氏  都市に集中が課題--三浦氏

衆院本会議を傍聴する外国人技能実習生=2018年11月

衆院本会議を傍聴する外国人技能実習生=2018年11月

 ▽具体例 意見を述べる清水勉委員=3月9日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 法律実務家からすると、改正入管難民法はあまりにも問題が多すぎ、立法過程もひどかった。さまざまな問題があるのに、それを掘り下げて進んでいくようになっていないので、記事を読んでいくだけで忙しい。政府側の答弁はその場その場のパッチワーク的な話になり、トータルに法案を理解することが難しかった。社会がどう受け止めるべき問題なのかが分かるような記事作りが必要だったのではないか。

意見を述べる後藤正治委員=3月9日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 企画や連載には、非常に印象深い記事があった。外国人技能実習生の悩みとか、自治体の動きとかが出てくると、具体的な媒介になって頭に入る。この問題を読者にのみ込んでもらうには、まず外国人労働者の現況を書く必要があった。日本の社会を支える外国人のルポがあれば、もっと身近に感じられた。多文化共生社会の先進地の取り組みを知りたい。

 中村毅社会部長 議論が深まらないまま、こうした大事なことを決めたのは大変問題だという意識はあり、批判的な視点で記事を書いてきた。行政の取り組みや、外国人が増えている現場の話は出してきたが、もう少しまとまった形で連載をやるべきだった。先進自治体の取材は進めている。

 須佐美文孝前生活報道部長 この問題は編集局全体で取り組むべきだと考え、外国人との共生元年をテーマとした通年企画を開始し、まずは実習生が働く現場に入ってのルポを出していく。

 ▽厳しい目 意見を述べる三浦瑠麗委員=3月9日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 論説や識者インタビューを通じ、さまざまな観点からカバーできたと思う。世論調査で外国人就労拡大に賛成が過半数だった結果には驚いた。気になったのは、何に寄り添って書いたのかという点。企業や地方の人手不足の声を代弁する一方、悪条件で働く外国人への取材ではそちらに寄り添う。これが紙面に出ると、読者はどう考えていいか分からなくなる。使い捨ての問題をあぶり出すのなら、企業などへの厳しい目もあってよかった。

 中村社会部長 立ち位置によって書き方は変わるが、それぞれの立場から現場の話を取り上げ、多角的、立体的に書きたいと考えている。

外国人労働者の受け入れを拡大する新制度の主なポイント  ▽失踪者

 清水委員 労働基準法違反がある実習生受け入れ事業所が増えたという記事があるが、数字だけ出すのでは意味がない。労基法違反の処罰の有無や、失踪者がどうなったのかが書かれていない。地域差があれば自治体の取り組み方に違いがあるかもしれず、しっかり書いてほしい。

 後藤委員 労働基準局に関する記事は、自治体や労基局が多言語での対応など現場でいろんな問題に取り組んでいることが分かり、教えられた。日本へ人材を送り出す海外のブローカーのことも伝えてほしい。

 三浦委員 今後報道していく上で、重要なのは地方で人が必要なのに都市に来てしまう問題だ。地方から若者が流出してしまっているのに、外国人を引きつけられると政府は思っているのか。

 中村社会部長 実習生の問題は重要で、亡くなった事例では状況などをよく調べる必要がある。労基法違反や失踪者のケースも、個別のケースで実態や顚(眞の右に頁)末(てんまつ)を追い掛けたい。都市部偏在への施策は注意深く見ていかなければならないと考えている。

 近沢守康外信部長 ブローカーはマフィアとも関係があり、取材が危険な場合が多いが、できるだけ紹介していきたい。

 井原康宏編集局長 論点としては地方の問題、地方創生や再生と不可分と考える。日本人が共生の意識を高めていけるのか、どれだけコストをかけることを許容するのかといったところが問われる。問題意識を持ちつつ報じていきたい。

外国人の就労拡大
 少子高齢化などを背景とした人手不足に対処するため、入管難民法を改正し、在留資格「特定技能1号」「同2号」を新設した。施行は4月1日。一定技能が必要な業務に就く1号は、在留期限が通算5年で家族帯同を認めない。熟練技能が必要な業務に就く2号は期限が更新でき、配偶者と子どもの帯同も可能。資格は生活に支障がない程度の日本語能力が条件で、各業種を所管する省庁の試験を経て取得するほか、技能実習生からの移行も多く見込む。

【サブテーマ】辺野古移設問題と沖縄県民投票

沖縄の声を伝えて--後藤氏 橋渡しの言論必要--三浦氏  訴訟制度で提起も--清水氏

米軍普天間飛行場の移設先として、埋め立てが進む沖縄県名護市辺野古の沿岸部

米軍普天間飛行場の移設先として、埋め立てが進む沖縄県名護市辺野古の沿岸部

 ▽門前払い

 後藤委員 ジャーナリズムがこの問題を扱うときに一番大事なのは、沖縄の声をきちんと丁寧に伝えることだ。政府と沖縄の対立というパターン化した構図が続き、報道に工夫が求められる中、県民投票の投開票に合わせて共同通信が配信した琉球新報、沖縄タイムスの両編集局長の特別寄稿は優れた企画だった。

 三浦委員 沖縄の基地問題解決に向けて、沖縄と中央政府を橋渡しするような言論がない。行き着く先が見えないことが、本土の読者にストレスとなり、関心を遠ざける可能性を危惧している。米国の東アジア専門家の見方に関しても、旧世代の人だけではなく新しい若い専門家を取材してもいいのではないか。

 清水委員 福岡高裁那覇支部は昨年12月、沖縄県が国の工事差し止めを求めた訴訟の控訴審判決で、訴えを「却下」、つまり門前払いした一審判決を支持した。弁護士の常識からすると、却下判決を受けるような裁判を起こすこと自体が異常だ。それを沖縄県はなぜ起こすのか。これこそが事件だ。自治体は条例や規則に従わせるための訴訟を起こせないとする最高裁判例は正しいのか、訴訟制度に不備はないのかという問題提起の記事があってもいい。

 ▽共同幻想 辺野古移設を巡る国と沖縄県の主張

 松浦基明政治部長 安全保障という国の高度な政策判断に、地元の意思をどこまで反映させるべきか、非常に難しい。指摘があった「橋渡しする記事」を出していかないと、読者にとって他人ごとで終わってしまう可能性もある。沖縄の不満に向き合うことを基本に、新たな切り口を探りたい。

 酒田英紀福岡編集部長 昨年8月に翁長雄志知事が死去して以降、知事選、辺野古への土砂投入、県民投票と、取材はめまぐるしかった。「辺野古埋め立てノー」の県民投票結果を踏まえ、沖縄2紙の編集局長は「次は本土の人が考える番だ」と強調した。果たして、われわれの報道の中で、具体的な提案をできていたのか反省している。訴訟制度の不備を問う視点は確かに必要だ。

 後藤委員 沖縄の米海兵隊がグアムに移駐したら抑止力が低下するというのは「共同幻想」ではないか。そうしたことを気づかせてくれる記事があってもよかった。

 ▽対米関係

 三浦委員 沖縄の問題も安全保障全般でも、対米関係のみで論じていては読者は満足しない。防衛交流は日英、日豪にも拡大している。

 清水委員 県民投票の投票率52・48%は高いと言えるか悩ましい。沖縄でも投票率、賛否の地域差があったはずであり、市町村ごとのデータ分析をすべきだった。

 松浦政治部長 抑止力という言葉をうのみにせず、現実に即して使われているか注意したい。対米関係だけでなく、東アジア全体の安全保障という視点が重要だ。

 酒田福岡編集部長 市町村ごとの投票率を提示できれば、読者に有効な判断材料を与えられた。

 井原康宏編集局長 投票率が50%を超え、埋め立て反対票の得票率は70%を超えた。県民投票結果は一定の民意を表したと分析している。訴訟における国と自治体の関係も、課題として追求していきたい。

辺野古移設問題
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)返還の日米合意を受け、日本政府が閣議決定した名護市辺野古移設について県が反対し対立している問題。2013年に当時の仲井真弘多知事が辺野古沿岸部の埋め立てを承認。移設に反対する後任の故翁長雄志前知事が承認を取り消し、その後の法廷闘争で県の敗訴が確定した。国は17年4月、護岸造成に着手。18年8月に県は承認を撤回したが、国の撤回効力停止の申し立てが認められ、12月に土砂投入が始まった。

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