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第72回会議(自民党総裁選、障害者雇用の水増し問題)

自民党総裁選、障害者雇用の水増し問題で議論 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第72回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=11月17日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は17日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第72回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が自民党総裁選・内閣改造と障害者雇用の水増し問題の報道について議論した。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は「104万人の党員がどんな議論をしたのか。各地の党員・党友の意見をもっと紹介すれば、党員でない読者にも身近な選挙となったはずだ。誰に読ませる記事なのか分かりにくかった」と述べた。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は、安倍晋三首相(総裁)の連続3選が確実な中で「読者にどう関心を持ってもらえるかが大きなチャレンジだったのではないか」と指摘。首相と石破茂元幹事長の憲法改正論議に触れ「この2人だと、かなり右寄りの論戦になる。日本全体あるいは自民党内で見た場合、対立軸の中心線がずれているということを指摘してもよかった」と述べた。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は「石破氏が地方票を集めたことを分析する記事が少なかった」と、さらなる掘り下げの必要性を提起した。

 障害者雇用の水増し問題では、後藤氏が「具体的な現場の話が盛り込まれた連載が印象的だ。諸外国の現状も読みたい」と評価。

 三浦氏は「根深い問題が存在していることに目を向けてほしい」として「官バッシング」で終わらないよう求めた。

 清水氏は「問題の根本は、障害者を社会でどう位置付けるかという考えが、できていないところにある」と強調した。

総裁選と障害者雇用議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第72回会議が17日開かれ、委員3人が自民党総裁選・内閣改造と障害者雇用の水増し問題の報道を巡り議論した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は党員らの意見を広く紹介すべきだったと指摘。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は、安倍晋三首相(総裁)の連続3選が確実な中で読者の関心をつなぎとめる工夫を要望。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は分析記事の充実を求めた。障害者雇用問題で三浦氏は、批判に終わらせず根深い問題に目を向けるべきだと指摘した。

【メインテーマ】自民党総裁選・内閣改造

誰に読ませるか--清水氏 論戦のずれ指摘を--三浦氏  石破票分析が必要--後藤氏

9月、自民党総裁選を終え、石破元幹事長(左)と手を取り合う安倍首相=東京・永田町の党本部

9月、自民党総裁選を終え、石破元幹事長(左)と手を取り合う安倍首相=東京・永田町の党本部

 ▽善戦の理由

 清水委員 全国の104万人の自民党員が総裁選でどんな議論をしたのか。各地の党員・党友の意見をもっと紹介すれば、党員でない読者にも身近な選挙となったはずだ。総裁選の仕組みをもう少し丁寧に説明した方がいい。当選した人が事実上、首相になるという重大性を踏まえて報道していることは分かるが、誰に読ませる記事なのか、誰が読んで考える記事づくりになっているのかが分かりにくかった。

 三浦委員 安倍晋三首相の連続3選が確実視される中で、報道機関として読者にどう関心を持ってもらえるかが大きなチャレンジだったのではないか。共同通信の票読みは確かだった。ただ読者の認識が深まっていく報道だったかというと、課題が残る。総裁選は安倍氏と石破茂元幹事長の一騎打ち。この2人だと、かなり右寄りの論戦になる。日本全体あるいは自民党内で見た場合、対立軸の中心線がずれているということを指摘してもよかった。小泉進次郎氏ら若手議員が訴える政策を取り上げて、世代間のずれを書くこともできたのではないか。

意見を述べる清水勉委員=11月17日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 最初から勝敗が決まっているような中で、総裁選自体が盛り上がらず、報道も低調な印象を受けた。唯一意外だったのが石破氏が地方票の45%を獲得し、善戦したことだ。大都市圏と地方の格差の広がり、地方の閉塞(へいそく)感を反映しているのではないか。石破氏が地方票を集めたことを分析する記事が読みたかったが、少なかった。

 松浦基明政治部長 地方票を構成する党員の実態を捉えることが大事だという問題意識はあり、党員調査や県連幹事長アンケートを実施したが、投票動向をつかむにとどまった。石破氏が地方票で善戦した意味合いをきちんと報じるため、選挙後でも党員の声を拾っていく努力が必要だったとも思う。

意見を述べる三浦瑠麗委員=11月17日、東京・東新橋の共同通信社  ▽地方票は「基盤票」

 三浦委員 安倍首相にとって、地方票が思ったほど取れなかったことが今後の政権運営に影響してくるのではないか。首相が意欲を示す憲法改正についても、足を引っ張る動きは顕在化している。首相がしたいことを必ずしもできないレームダック化を論じていくことが重要。「安倍1強」とは逆のイメージだが、これが実態だ。石破氏に関して言えば、地方創生を打ち出す中で、ばらまき政策のような主張が目立った。これでいいのかと疑問を呈することがあっても良かった。

意見を述べる後藤正治委員=11月17日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 地方票は「基盤票」と呼ぶのが適当なのではないか。自民党の国会議員を支える人たちの票と考えれば基盤票だ。この人たちが何を求めているかを受け止め、実行することが党総裁、そして首相に求められている。メディアも候補者の主張を伝えるだけでなく、基盤となっている人々の意見を聞き、候補者がどう反応していくのかを報じるべきだ。

 居石乃地域報道部長 地方創生に関しては、地方からの人口流出は止まっていないし、景気は中央ほどよくない。安倍政権の地方創生策がうまくいったのか、来春の統一地方選に向けて検証していきたい。

 ▽野党の記事も 自民党総裁選開票結果

 清水委員 党員調査の記事で、地方活性化への期待が低かった。都市部の党員比率が大きいからか、地方での期待が低いのか。分析があると総裁選だけでなく、これからの政策、政治が何をやるべきかとの問題提起につながる。

 三浦委員 内閣改造や自民党役員人事に関する分析記事に批判的視点を加えることは大事だが、「安倍1強」の一言でまとめるのではなく、もう少し説明する必要があるのではないか。

 後藤委員 内閣改造の報道の中で感じたことだが、日本社会の健康度を保持するために、政権に対する批判勢力側、つまり野党に関する記事を出していくことが必要だと思う。

 松浦政治部長 便利な言葉だが「安倍1強」という決まり文句に逃げ込んで思考停止になることは避けなければならない。野党に対しては、政権批判だけでなく、旗印と対立軸を明確にするよう求める記事を出していきたい。

 井原康宏編集局長 地方の声をもっと取り上げるべきだとの指摘を、しっかりと受け止めたい。党員・党友が求めることを今後の政治課題にどうつなげていくかという論点も掘り下げ、今後の報道に生かしたい。

自民党総裁選
 自民党の最高責任者を決める選挙。同党が衆院で過半数の議席を占める現状では事実上、首相を決める選挙となる。国会議員票405票と党員・党友による地方票405票の計810票で争われた。有効票の過半数を獲得すれば当選。地方票は従来300票に固定されていたが、2014年に国会議員票と同数に変更された。今回は12年総裁選以来、6年ぶりの選挙戦となった。

【サブテーマ】障害者雇用の水増し問題

諸外国の現状も--後藤氏 官批判で終わるな--三浦氏  実事例掘り下げて--清水氏

10月、中央省庁の障害者雇用に関する関係府省庁連絡会議であいさつする根本厚労相(左から3人目)=首相官邸

10月、中央省庁の障害者雇用に関する関係府省庁連絡会議であいさつする根本厚労相(左から3人目)=首相官邸

 後藤委員 なぜこうなったのか、どうすればいいのかを考えさせられた。連載企画やインタビュー連載は、読み応えがあっていい記事だ。現場の具体的な話が盛り込まれると印象が強くなる。制度などを説明したQ&Aも、大変分かりやすかった。米連邦政府の常勤職員に障害者が占める割合が、日本の12倍の高さだという記事があり、米国はさすがだと思って読んだ。欧州諸国や、中国などアジア諸国の現状はどうなっているのかも読みたい。共同通信のネットワークを生かし、海外の事例の紹介が、もう少しあってもよかった。

 三浦委員 官公庁という本来、民間のお手本となるべき存在が水増しをしていたという深刻な事件だ。十分な出稿量で、共同通信が他社に先駆けて報道したことを含め評価できる記事が多い。報道も非常に詳しい。一方、厳しい障害者雇用の実態についての調査報道が、さらに必要ではないか。自閉症や統合失調症で症状が重い人たちに、どう働いてもらうかはすごく難しい。障害のある子どもが将来、できる限り自立できるような教育がきちんとされているのか。教育から雇用に至るまで長きにわたって、根深い問題が存在していることに目を向けてほしい。官バッシングだけに終わるのはどうか。

不適切計上が多かった主な行政機関

 清水委員 問題の根本は、障害者を社会でどう位置付けるのかという考え方が、できていないところにある。問題を深く考えず、体面上、障害者を雇わなければならないと思っている限り、水増し問題はあらゆるところで起こるだろう。警察庁は水増しゼロになっている。障害のある人がどの部署でどんな仕事をしているのか詳しく分かれば、ほかの省庁の見本になったはずだ。きちんとできているという事例を報道する必要もあったのではないか。

 須佐美文孝生活報道部長 政府は誰も処分せずに法律の改正や障害者の追加募集でごまかそうとしており、見過ごせない。今後は働く人の現場のルポなどで、この問題をさらに掘り下げたい。

 後藤委員 障害者が働けるのはどんな職場なのかや通勤はどうするのか、受け入れ側にどんな工夫があるのかを、もっと知りたい。日本社会は障害者問題では取り組みが遅れていた。これからも具体的な事例を伝えてほしい。

 清水委員 障害者が生活や仕事場の中にいることが、みんなが生活しやすくなったり働きやすくなったりすることにつながる。障害者も障害のない人も社会を担っていくんだという、手探りの活動を取材した記事があれば面白いのではないか。

 井原康宏編集局長 障害者雇用の水増しは昔からあったのに、どうして気付かなかったのか。障害のある人たちも普通に職場にいる社会の実現に向け、何ができるかを考えたい。

障害者雇用水増し問題
 中央省庁が職員に占める障害者の割合を計算する際に、本来は対象外の人を障害者に加え、法律で定められた雇用率を達成したように見せ掛けていたことが8月に発覚。弁護士らによる政府の検証委員会が調査した結果、国の指針に反する不適切な算入は、昨年6月時点で28機関の3700人に上り、退職者や死者を加えていたケースもあった。政府は来年12月までに約4千人の障害者を雇用する計画を策定。同様の不適切算入は全国の自治体でも明らかになっている。

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