1. トップ
  2. 「報道と読者」委員会
  3. 2017年開催分
  4. 第69回会議(衆院選、北朝鮮問題)

第69回会議(衆院選、北朝鮮問題)

衆院選、北朝鮮問題 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

 「報道と読者」委員会の第69回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=11月18日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は11月18日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第69回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が衆院選と北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る報道について議論した。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、天皇の国事行為を規定する憲法7条に基づいて安倍晋三首相が衆院を解散した経緯に触れ、憲法が想定する解散権行使ではないと疑問視。「解散権の在り方をもっと深く掘り下げる記事があってよかった」と提起した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は財政再建問題の重要性を強調。希望の党の失速を念頭に「選挙戦で風が吹く期間は短くなっている気がする」とし、立憲民主党が野党第1党に躍進した詳しい背景分析を求めた。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「衆院選では『解散の大義』や『野党再編』といった政局のキーワードの頻出ぶりに驚かされた」と指摘。政策報道もさらに充実させるよう要請した。

 北朝鮮の核・ミサイル問題に関し、後藤氏は「国際社会にも手詰まり感がある」と言明。清水氏は、緊急情報を伝える政府の全国瞬時警報システム(Jアラート)に関し「リアリティーがない」と訴え、多面的な観点からの取材を提案した。

 三浦氏は、有事になった場合の犠牲者数の予測についても報道を要望した。

衆院選、北朝鮮問題で議論  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第69回会議が11月18日開かれ、委員3人が衆院選と、北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る報道について議論した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、憲法を絡めて衆院の解散権の在り方を深く掘り下げる必要性を強調した。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は、立憲民主党が野党第1党に躍進した詳しい背景分析を求めた。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は政策報道の充実を要請。北朝鮮に関しては犠牲者数の予測の報道も重要だと指摘した。

【テーマ1】衆院選

政策報道意識を--三浦氏  解散権問うべき--清水氏  財政再建も重要--後藤氏 

9月、野党が欠席する中、解散した衆議院

9月、野党が欠席する中、解散した衆議院

 ▽解散の大義

 三浦委員 共同通信の解散報道の一報は早かった。報道では解散の大義を疑問視していたが、私は、憲法9条改正を阻もうとする公明党を納得させるための解散だったと理解している。衆院選では解散の大義、野党再編といった政局のキーワードが頻出したが、政策報道が少ない。増やしていってほしい。

意見を述べる清水勉委員=11月18日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 憲法の規定の仕方は、衆院議員は任期を全うすることが基本だ。内閣不信任決議案の可決などで政治が進まない時だけ憲法69条に基づいて衆院を解散できるのではないか。憲法7条は天皇の国事行為を規定しているだけだから、これを根拠に首相の一存で解散できるという運用をするのはおかしい。実質的にも各党の政策が煮詰まらない選挙になることは、主権者にとっても熟慮できないマイナスが大きい。解散権の在り方をもっと深く掘り下げる記事があってよかった。

 後藤委員 読み応えがあったのは日本の財政の危機的状況に関する記事だ。増税は国民に不人気だからと先送りしている間に、先進国で最悪と言われるようになってしまった。今回、安倍晋三首相(自民党総裁)らが掲げた教育無償化も人気目当てのばらまきともいえ、本当にこれでいいのかと義憤さえ覚えた。旧炭鉱地や高齢化率が高い都市などを取り上げたルポも力があった。

 小渕敏郎政治部長 さまざまなテーマを多角的、重層的に深掘りし、読者に投票へ向けた判断材料を提供することを主眼に報道した。政策本位で取り組み、公平性にも留意した。「自己都合解散」ではないかという選挙が繰り返されており、解散権の問題は引き続き掘り下げていく。公約比較などでは争点を押し付けるのではなく、多様な意見の紹介に努めた。

 東隆行経済部長 財政再建は日本の将来を左右する問題で、しっかり報じていかなければならない。安倍政権は消費税の使途変更によって教育無償化という聞こえのいいことに使う。今後もきちんと監視していきたい。

 ▽野党どう再生 意見を述べる後藤正治委員=11月18日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 立憲民主党がなぜ野党第1党になったのか、きちんと分析する必要がある。選挙戦で風の吹く期間は短くなっている気がする。今回の選挙だけでなく、もう少し長い期間で世の中の動きを見つめていくことがあってもいい。

 三浦委員 新しい政党が出てくると、メディアが流れをつくってしまうことがあるが、メディアが政局にかまけて本質を見失うこともある。希望の党の失速は、代表だった小池百合子東京都知事による「排除」発言がきっかけではない。失速は選別と言っていた頃からだが、メディアはこの件では自意識過剰だ。

 小渕部長 立憲民主党は1955年以降で最少勢力の野党第1党だ。野党がどう再生していくのかは重要な取材テーマと思っている。希望の党の失速は、小池氏の「排除します」発言に加え、民進党出身者の変節とも受け取られた「合流」などさまざまある。

 清水委員 共同通信の全国電話世論調査(トレンド調査)では、投票の際に最も重視する点として「年金や少子化対策など社会保障」が最も高かった。「震災復興」は非常に低い。いかに国民的な関心事にするかはメディアの果たす役割でもある。

主な政党の比例代表得票率

 石川義彦社会部長 社会面では有権者に身近な問題を分かりやすく報じるよう心掛けた。地震や豪雨災害の被災地の人々が今回の解散・総選挙をどう考えているのか、女性の候補者がなぜ少ないのか、若者の選挙意識はどうなっているのかを取り上げて出稿した。

 清水委員 安倍政権下の予算の変化を示す数字やグラフがあると、何を重視しているかが分かりやすくなったと思う。財政逼迫(ひっぱく)の折に、何にでも予算をつけるのは無理で、何を削るのかというような議論を国民ができるようにしていくべきだろう。若い人たちの時代は明るいのか、との問題提起にもなる。

 梅野修編集局長 安倍政権がどのような政権運営をしていくのか、これに野党がどう対抗していくのか、見定めていきたい。国会では憲法論議が本格化する。国の在り方に関わる重要な問題だ。拙速な改憲論議は許されない。論議を注意深く吟味しながら取材していきたい。

7条解散
 7条解散 憲法7条の「内閣の助言と承認」によって天皇の国事行為として行われる衆院解散。天皇に助言する内閣に独自の解散権があるとの考えで実施することから「7条解散」と呼ばれる。首相の解散権行使は、憲法69条が定める内閣不信任決議案の可決か、信任決議案否決の場合に限られるとの議論があったが、1952年の吉田内閣による「抜き打ち解散」以降、7条解散が定着するようになった。現行憲法下で内閣不信任決議を受けた解散は4回しかない。

【テーマ2】北朝鮮問題

冷静だった報道--後藤氏 有事での犠牲は--三浦氏  現実味欠く警報--清水氏

北朝鮮がミサイルを発射したことを伝えるJアラートの画面=8月、東京都港区

北朝鮮がミサイルを発射したことを伝えるJアラートの画面=8月、東京都港区

 ▽犠牲者数

 後藤委員 北朝鮮に核開発をやめさせようと国際社会は努力してきたが手詰まり感がある。核を実際に使いかねないとのおそれもあって、二重三重に困った行動だということになる。その中で共同通信の報道は総じて抑制的で冷静。正確に報道したいという姿勢が伝わってきた。

 三浦委員 制裁万能論などがある中で、共同通信の報道はバランスが取れている。報じてほしいのは、米国の強硬論の果てに有事になった場合の犠牲者数の予測だ。米メディアは毎日2万人ずつ死ぬという国防総省の試算を報じた。核兵器ならどうなのか。

 沢井俊光外信部長 犠牲者数は、ソウルと東京で210万人との試算もある。こうした数字は日本独自でも必ず出しているはずなので、議論することは大事だ。

 清水委員 日本のどこかが攻撃されれば、何十万人が亡くなるだけでなく、インフラもだめになり、日本全体の経済もだめになる。被害がどう広がるかをリアルに考えていくことが必要だ。

 ▽圧力 意見を述べる三浦瑠麗委員=11月18日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 日本のメディアの報道では誤解が目立つが、「対話と圧力」の「圧力」で現在、米国が目指しているのは、戦争ではなく封じ込めだ。経済関係を遮断して北朝鮮を封じ込めることの意味合いを、分かりやすく報じてほしい。冷戦初期の歴史を振り返るような特集があれば、過去との比較が可能になる。

 小渕敏郎政治部長 安倍政権の基本的なスタンスは、対話のための対話はせず、国際社会と連携して圧力を最大限に高めることだ。ただ、この路線に展望、成算があるのかという部分は取材で掘り下げる必要がある。

日本列島越えの北朝鮮ミサイル

 清水委員 全国瞬時警報システム(Jアラート)にはリアリティーがない。ミサイルは机の下にもぐり込めば助かるという問題ではない。高台に避難するような水害などとは異なる。政府の話だけで完結させるのではなく、違った観点の報道が必要だ。

 石川義彦社会部長 ミサイルが間違って落ちてくるのではとの懸念に、少しでも応えるという意味で記事を出した。

 後藤委員 日本の上空を何度かミサイルが通過しているが、迎撃はしなかった。迎撃能力が実はどの程度あるのか。迎撃するか、政府内にきわどいやりとりがあったのか、取材に期待したい。

 梅野修編集局長 北朝鮮問題は、いたずらに危機感や偏狭なナショナリズムをあおらないことを基本姿勢に、今後も冷静に報じていく。

北朝鮮の核・ミサイル開発
 北朝鮮の核・ミサイル開発 北朝鮮は2005年2月に核保有を宣言し、06年10月から今年9月まで北東部の豊渓里(プンゲリ)で6回の地下核実験を強行。回を重ねるごとに爆発規模を強め、6回目の後、大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水爆実験に成功したと発表した。7月4日と28日には米本土を狙うICBM「火星14」を日本海に試射し、成功と表明。中距離弾道ミサイル「火星12」など複数の新型ミサイル開発を進めている。8月29日と9月15日には日本列島越えで弾道ミサイルを発射。11月29日には日本海に発射した。

3委員が「新聞への期待」

 第9期の初回に当たり、再任の委員3氏に「新聞への期待」を聞いた。

 後藤委員 新聞のポテンシャルは信頼性。100年に達する歴史的な力を持つ。今後も必要とされるだろうし、ネット社会でも信頼あるメディアとして存続してほしい。

 清水委員 調査報道にもっと力を入れてほしい。パナマ文書報道のようなメディア連携も重要。取材過程を見せる記事が時にあることで、取材される側も協力したくなるのでは。

 三浦委員 新聞はプロが判断する情報の媒体。専門性を生かしながら、分野横断的なアプローチを深めていくことが大事だろう。欠けているのは女性の視点。

ページ先頭へ戻る