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第63回会議(新聞への期待)

新聞に期待込め提言  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第63回会議に臨む清水勉委員(奥左)、三浦瑠麗委員(同右)と共同通信社編集担当者=7日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は7日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第63回会議を東京・東新橋の本社で開き、「新聞への期待」をテーマに議論した。8月に委嘱した第8期委員による初めての会議。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は「日々の出来事を書くだけでなく、プライバシー保護の在り方など情報の扱い方がどうあるべきか考えてほしい」と要望。政府や企業の情報に関する問題が生じた際、なぜ起こるのかという構造的な問題提起をするよう訴えた。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「新聞社、通信社の責務は多様性の確保。多様な言論の自由が担保されていることが重要」と表明。新聞を作る側の目利きとしてのプロ意識が重要だと語った。

 安全保障関連法制の報道では、賛成派と反対派の意見がかみ合わないことが議論になった。清水委員は「国際情勢の認識をどこまで共通にできるかが最重要。その上で憲法解釈の議論をし、現実的にどう考えるべきか議論すればかみ合ったのでは」と指摘。三浦委員は来年の参院選でもかみ合わない議論が続くのは「物足りない」と述べた。

 欠席したノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は書面で意見を寄せ「新聞は、速報性より読み応えのある記事が求められている。調査報道や、書き手の個性が伝わるコラム、エッセーの充実を期待したい」と提言した。

新聞に期待込め提言  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第63回会議が7日開かれ、「新聞への期待」をテーマに議論した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は「民主主義社会での情報流通の在り方」に関して、政府や企業での情報の扱いに問題があった場合、背景に迫るよう求めた。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は、議論の多様さを担保することが新聞社、通信社の役割だと指摘。欠席したノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は書面で、調査報道や個性あるコラムなど、読み応えのある紙面作りを提言した。3氏は8月に第8期委員を委嘱され、今回が初会議。

【テーマ】新聞への期待

問題の掘り下げを--清水氏  多様さ確保が責務--三浦氏

10月、TPP交渉が閣僚会合で大筋合意し、共同記者会見する甘利TPP相(左から3人目)ら各国代表=米アトランタ(共同)

10月、TPP交渉が閣僚会合で大筋合意し、共同記者会見する甘利TPP相(左から3人目)ら各国代表=米アトランタ(共同)

意見を述べる清水勉委員=7日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 民主主義社会の中で、通信社は日々の出来事を記事として書くだけでなく、プライバシー保護の在り方、情報公開の充実などを含め、情報の扱い方がこの国ではどうあるべきかをベースに考えるべきではないか。企業や政府の情報の扱いに問題があったとき、単に揚げ足取りするような批判をするのではなく、なぜそのようなことが起こるのかという構造的な問題提起をすることができれば、読者は、日本の社会の問題として掘り下げて考えることができる。

意見を述べる三浦瑠麗委員=7日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 新聞社、通信社の責務は、平たく言えば多様性を確保することだ。日本社会、地方で多様な言論の自由が担保されているかが重要で、新聞を作る方々の目利きとしてのプロ意識が何よりも重要になる。地方では地元紙しか取らないという家庭が多い中、通信社は地方の活発な議論を担保していくという難しい責務を負っている。

 河原仁志編集局長 清水委員の指摘は、個々の事象で掘り下げることはやっているが、普遍化できていないという趣旨だろうか。例えば旭化成建材によるくい打ち工事のデータ改ざん問題。読者が一番関心を持っているのはこの問題の根深さだ。日本全体に巣くう、組織の問題にまで広げられるか。ここが新聞ならではの仕事だと思うが、個人的な感想を言えば、われわれはそういう仕事を一から始めるのがあまり得意ではなくなった。その辺のノウハウと問題意識の再構築が一つの課題だと思う。

 出口修社会部長 何か起きたとき、掘り下げていこうという意識は持っている。旭化成建材の問題は恐らく他の会社に拡大するだろう。実態はどうなのか。先日も全国の自治体に取材して、既に自治体自体が調査を始めていると報じた。

▽かみ合う議論に 安全保障関連法の国会審議と国民への説明について

 河原編集局長 環太平洋連携協定(TPP)でも原発でも安全保障関連法制でも、賛成、反対の識者の声を取るが、意見がかみ合っていない。安保法制の反対論者は法律論で、賛成の人は安全保障論をやっている。二項対立ではなく、賛否の中にある、いろいろな意見を小分けにして示したい。ここが今後、新聞が開いていける道なのかもしれない。

 三浦委員 安保法制の関係では、私のように完全な賛成派ではない人間は、成立前、テレビ討論の賛成派枠に入れづらかったようだ。議論がかみ合わないくらいのロジックしか言わない人でないと、平等に賛否両派に意見を言う場を与えたと見なされない不安があるようだ。来年は参院選があるが、このままのかみ合わない日本であり続けるのは物足りない。

 清水委員 かみ合わせる仕掛けも必要だ。特定秘密保護法のとき日弁連の委員会は、憲法論ではなく、これまでの漏えい事案を分析した上で「こういう法律が必要か」という立法事実の問題として提起したことによって、全ての弁護士会が反対意見にまとまることができた。安保法制でも、国際情勢の認識をどこまで共通にできるかできないかが最重要で、その上で、憲法解釈の議論をし、現実的にどう考えていくべきかを議論すれば、意見は対立してもかみ合ったのではないか。

▽やりとりに説得力
9月、参院平和安全法制特別委で、安保関連法案の採決をめぐり鴻池委員長(左上)に詰め寄る野党議員

9月、参院平和安全法制特別委で、安保関連法案の採決をめぐり鴻池委員長(左上)に詰め寄る野党議員

 三浦委員 安保法制の議論について、見出しを読んだ瞬間に「ああ、こういう形の議論ね」と読み飛ばしてしまう人が結構いると思う。新聞を作る側の世界観が少し古いのではないかと感じた。賛成派が指摘する法案の不備といった論点を知らず知らずのうちに排除していなかっただろうか。

 小渕敏郎政治部長 安保国会で一番大事だと考えていたのは、分かりやすく報じること。記録性も重視し、首相答弁を中心に要旨を出した。一方で、こんな見方もあるという形で多角的な視点を提起できていたか。指摘を今後に生かしたい。

 清水委員 特定秘密保護法関係の全国の新聞に目を通したが、野党との修正協議を担当した中谷元・衆院議員のインタビューを詳細に載せた高知新聞の記事が面白かった。ほぼ全部掲載したことで、発言者の理解度がよく分かる。とてもいい作り方だ。

 河原編集局長 現防衛相の中谷氏に、共同通信の編集委員が会見でシビリアンコントロール(文民統制)について15回以上質問をした。防衛相の考え方がその問答を見れば分かる。短い会見記事しか出なかったが、やりとりをそのまま出せば説得力があった。

▽中国とTPP RCEP、TPPの交渉参加国

 三浦委員 日本人は国際問題に弱い。今のTPP報道でも、どこが損する、得するという話はすぐに理解しやすいが、中国をどう捉えて報道するのか。

 東隆行経済部長 TPPで、中国を日米、特に米国のルールで縛りたいという狙いがあるのは当然だが、一方で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など日本、中国が入っている仕組みがある。単一的な捉え方で日中両国が進んでいくとは限らない。分かりやすく伝えていきたい。

 清水委員 マイナンバーの通知は住民票の住所に届く。ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者について、住所を知られないよう住民票の住所以外でも受け取れる仕掛けができたが、あまり報道されていない。

 高橋茂地域報道部長 DVに遭った被害者の方の特例は8月の決定直後に記事を配信した。

 古口健二生活報道部長 住所変更せずに、介護施設に入った1人暮らしのお年寄りも、本人に届かないだろう。これも記事化した。弱者や問題を抱えている人への視線を持って報道している。

後藤委員の提言

読み応えのある紙面を  後藤氏の提言要旨

後藤正治委員

 以下の4点について私見を述べてみたい。

 一つは、若い世代に向けて新聞の魅力を伝える方策である。

 新聞を読まない若年層が増えているのは深刻だが、新聞に魅力がなくなったからとは思えない。むしろ新聞に接し、親しむ機会を失っているのが実情ではないか。

 京都新聞の事例であるが、識者が小学校を訪問する模様を紙面化する企画事業がある。私も参加させてもらう機会があったが、今日の君たちとの懇談は新聞に載りますよというと、子供たちが歓声を上げた。新聞に親しんでもらう機会を広げるいい試みと思えた。

 二つ目は、紙面の読み応えである。

 読者は新聞に速報性をさほど求めてはいない。信頼性の高い情報、立ち止まる記事、奥行きのある読み物を求めている。

 そのような意味で、共同通信配信の「戦後70年」のシリーズは読み応えがあった。戦後の歴史を、人々の証言を交えてたどっていく--そのような企画を今後も持続していってほしいと思う。

 三つ目は「調査報道」の充実である。

 取り上げてほしいと思うテーマはいくつかある。例えば、ドイツの総発電における再生エネルギーの割合は4分の1を超えている。赤字国債の発行ゼロも実現している。

 羨望(せんぼう)を覚えるような国のありさまはなぜ生まれたのか。

 四つ目は、個性あるコラムやエッセーを歓迎したいことである。

 新聞は慎重であることは大切だが、臆病であってはつまらない。書き手の個性があって紙面に活力が生じる。エッセーやコラムにおいては偏向もまたよし、と思う。

安全保障関連法制
 安全保障関連法制 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認など新たな安保政策を反映させた法律。5月に国会提出され、約4カ月の審議を経て与党などの賛成で成立した。一部野党は「戦争法」などと批判。成立直後の9月に実施した共同通信社の世論調査によると、安保法に賛成は34・1%、反対53・0%。安倍政権が法律を「十分に説明していると思う」が13・0%に対し、「十分に説明しているとは思わない」が81・6%。10月の調査でも「思わない」が78・6%に上った。
TPP
 環太平洋連携協定(TPP) 太平洋を取り巻く地域での貿易の自由化に加え、投資、知的財産などのルール作りを含めた包括的な経済連携協定。参加12カ国が10月5日、米国での閣僚会合で大筋合意した。発効すれば、国内総生産(GDP)で世界の4割を占める巨大経済圏となる。参加国のうち日本やオーストラリアなど7カ国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国や中国、韓国、インドなど計16カ国で進める東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉にも参加。

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