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第58回会議(秘密法、靖国参拝)

秘密法、靖国参拝を議論 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会に出席した(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=3月15日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3月15日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第58回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「特定秘密保護法」「靖国神社参拝と外交」をテーマに議論した。

 秘密保護法に関し、弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は「法案の閣議決定から約2カ月で成立した。報道を始めるのが遅すぎたのではないか」と指摘。取材現場が萎縮するようなことがあれば知りたいと求めた。京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は「特定秘密に指定後のプロセスについての記事が少ない」と述べ、公文書としての保存、破棄のルールを詳しく報じるよう要望した。

 介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は「自分にどう関わるのか引き寄せることが難しかった。多くの人もそうだったと思う」と話した。

 安倍晋三首相の靖国神社参拝について、太田氏が「私は参拝に否定的だが、論理的な賛成意見があるなら読んでみたい。何が問題なのか判断する指標になる」と注文した。

 神田氏は、中国、韓国の反発が予測される中で参拝に踏み切ったことについて「首相が個人的な心情を優先した意味をもっと分かりやすく報じてほしい」と述べた。

 佐藤氏は「もっぱら米中韓との関係という外交問題として記事になる状況が正常なのか」と提起し、歴史認識など国内問題として考えることの重要性を強調した。

秘密法で問題提起  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第58回会議が3月15日開かれ、委員3人が「特定秘密保護法」と「靖国神社参拝と外交」をテーマに議論した。秘密保護法について、弁護士の神田安積氏は、報道を始めるのが遅すぎたのではないかと指摘。京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、公文書としての保存、破棄のルールを知りたいと求めた。安倍晋三首相の靖国神社参拝に関しては、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏が、何が問題か判断するため、反対だけでなく賛成意見の記事も読みたいと要望した。


【テーマ1】特定秘密保護法

報道遅すぎた--神田氏  秘密破棄の議論を--佐藤氏 問題捉えづらい--太田氏

特定秘密保護法が可決、成立した参院本会議=2013年12月

特定秘密保護法が可決、成立した参院本会議=2013年12月

 神田委員 特定秘密保護法の問題は、主権者である国民の問題であるだけではなく、報道機関の存在意義が問われる問題だ。一定の報道がなされたことは評価できるが、法案が提出されれば、成立まで時間を要しないことが予測されていたにもかかわらず、報道が始まった時期が遅すぎたのではないか。法案の問題点が伝わりにくく、分かりやすい解説や身近な問題で説明を重ねる工夫が必要であった。法律は1年後に施行され、運用基準を検討する政府の情報保全諮問会議も開かれている。今後、この法律について、どのように取り上げ、どのように報じるか、報道機関の姿勢と工夫が再び問われることになる。


 佐藤委員 私は、法律がないまま秘密が管理され、ずさんに破棄されている現状より、はるかにましだという前提で、手続きや合意形成の点に問題があると批判してきた。特定秘密に指定されたものが、その後どう扱われ、破棄されるのか、されないのか、そのプロセスの記事が少なく不満だ。もっと議論してほしい。そもそも条文をどれだけ紹介したのか。反対するなら、条文ごとに解説した記事が必要だと思うが、そういう記事の出稿は法律ができてからだった。法律もお粗末だが、これだけのキャンペーンをしながら、それほどの効果がなかったことは反省する必要がある。

 太田委員 丁寧に報道がなされており、どのメディアも頑張っていると感じた。にもかかわらず、ああいう形で成立してしまったことに怖さのようなものを感じた。報道を見ながら、自分にどう関わってくるのだろうかとずっと考えていた。自分に引き寄せて考えることが難しかった。いくつか事例も出ていたが、多くの人にとって自分の問題として捉えることが難しかったと思う。法律が成立して大きく落胆したが「粘り強く見直しを迫ろう」という論説を読んでほっとした。一方で、見直しなんて本当にできるのかとも思った。

 石亀昌郎(いしがめ・まさお)社会部長 国民に必要な情報が出てこなくなり、憲法の基本原理である国民主権が形骸化しないかという思いが、われわれを突き動かした。報道の立ち上がりが遅かったという指摘は、最大の反省点だ。一般の人には現実味がないのではないかという点も心配し、なるべく分かりやすくと、施行後をシミュレーションした記事や、戦前、戦中の軍機保護法と比較した記事も用意した。秘密を扱える人物かどうか調べる適性評価など、この法律で警察がさらに力を持つことになるのではないかと警戒している。秘密が闇から闇へと破棄される怖さというのも報じていかなければならない。

特定秘密保護法の要点

 鈴木博之(すずき・ひろゆき)政治部長 政治部の取材のメーンは法案作成から国会審議まで。法案の中身や国会論戦を分かりやすく詳しく伝える。そこに問題意識をかぶせ、読者の判断材料にしてもらうというのが基本姿勢だ。報道の開始が遅かったことは反省している。法案がこんなに早く出てくるとは想像していなかった。問題点を分かりやすく解説し、論戦で浮かんだ問題点、論点を節目で紹介した。政府自身も答弁しきれない部分があり、記事も若干生煮えになった点はある。秘密の指定基準の策定など政府の動きを見逃さず、節目で問題点を指摘し、国会審議にも反映される記事を書きたい。

 堤秀司(つつみ・ひでし)論説委員長 法案の概要を見て、まず日本語が理解できなかった。これはどういう意味かとあちこち聞いて回り、かなり手間取った。条文解説にしてみると分かりやすい面もあったが、後の祭りだった。今後は、秘密保護法を頂点とする秘密保全体制全体の見直しを迫る中で、公文書管理法や情報公開法などの改正、運用の是正をどうやっていくのかがテーマになると思っている。

 神田委員 今後、法律の施行を控え、取材現場において「こういったものを報じていいのか」と議論になったり、判断に悩む状況に直面したりすることがあれば、報道の自由が萎縮しかねない現場をありのまま報道してほしい。

 石亀社会部長 われわれとしては萎縮せず、必要な情報は書いていくということに尽きる。内部情報に基づく調査報道がより難しくなる可能性はあるが、権力監視という観点から、そういうニュース活動は続けていきたい。

特定秘密保護法
 特定秘密保護法 防衛や外交、スパイ防止、テロ防止に関する政府の情報を担当大臣らが特定秘密に指定し、漏らした公務員らに最長懲役10年の刑を科する。漏えいを唆した民間人らにも最長懲役5年の罰則がある。昨年12月に成立し、今年12月までに施行される。「秘密の範囲があいまい」「知る権利が損なわれる」との批判がある。政府の有識者会議が運用基準を検討中で、国会に置く監視機関についても与党を中心に議論が進んでいる。

【テーマ2】靖国神社参拝と外交

国内問題の視点を--佐藤氏  賛成意見も指標に--太田氏 多面的な報道必要--神田氏

靖国神社を参拝した安倍首相=2013年12月、東京・九段北 

靖国神社を参拝した安倍首相=2013年12月、東京・九段北 

 佐藤委員 靖国神社参拝という問題がもっぱら中国、韓国、米国との関係という外交問題として記事になる状況が正常なのか。靖国問題が本来、日本国民としてどのように先の戦争にけじめをつけるのかという問題であるならば、国内問題としてどう扱うかという視点が一番重要だ。国内における靖国問題が未整理のまま外交の場面に投げ出されるということが、実は非常に不幸な事態を招いている。安倍晋三首相の参拝が不幸の引き金になったが、中韓両国の反応を追うだけでは不幸の上塗りになりかねない現在の状況を危惧している。

 太田委員 サンフランシスコ講和条約を結んだ以上、そこに書かれていた東京裁判の内容は受け入れざるを得ないというのが私の認識だ。A級戦犯の存在は国際ルール。なぜ首相は(A級戦犯が合祀(ごうし)された)靖国神社に行くのかと否定的な意見を持っている。論理的な賛成意見があれば読んでみたい。いったい何が問題なのか判断する指標になる。アベノミクスで暮らしが良くなるなら首相の靖国参拝や安倍政権の国家主義的政策も仕方ないなというムードがある。本当に暮らしは良くなっているのか。報道に課題があるのではないか。

靖国神社をめぐる主な動き

 神田委員 外交問題という点からは、A級戦犯が靖国神社に合祀されていることが問題とされている。この問題は、そもそも東京裁判は正しかったのか、侵略戦争だったのかということにさかのぼる。また、特定の宗教施設に首相が参拝することで、個人の内心の自由が制約されかねないという問題もある。さらに、首相の参拝を支持する人たちも数多く存在するのであって、その生の声を聴くことも必要である。靖国参拝について、中国、韓国からの反発という側面ばかりが強調されるのではなく、さまざまな視点からの報道をしてほしい。

 鈴木博之(すずき・ひろゆき)政治部長 政治的思惑があるとはいえ中国、韓国との関係が悪化している状況で、処方箋がないままに首相が参拝に踏み切り、さらに中韓の反発を招いたというのが問題の本質だと考えている。首相という公職にある安倍氏が個人の信条と、自民党総裁選での支持者との約束を優先した。記事では「中韓両国が反発しているが、首相には解決策があるのか。あれば示せ」というスタンスで臨んだ。自民党にもA級戦犯の合祀に抵抗感を持つ議員もいる。そうした意見も紹介しながら多角的な視点で報じたつもりだが、正直に言って内心の問題に切り込むのは難しい面もある。今後、首相個人の信条がどこから生まれたのか、日本をどこに導こうとしているのか、行き着く先はどうなるのかと大きな視点を持ち、報道したい。

 藤井靖(ふじい・やすし)外信部長 安倍政権が注目される中、外国の反応を伝えることは日本語のメディアとして大事だと思う。サイバー世界における新しい形のナショナリズムが中韓両国でも起こっており、お互い歴史認識に関して妥協できない三すくみの状況だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産をめぐっても日中韓に行き過ぎた争いが起きている。日本は特攻隊員の手紙、中国は南京大虐殺の資料、韓国は従軍慰安婦の資料を登録させたいという。こうした争いが、世界のGDPの5分の1を持っている日中韓にとって果たしてプラスなのかと伝えたい。

 佐藤委員 靖国参拝を国内問題として書けば、周囲との摩擦を覚悟する必要もあり、返り血を浴びたりするはずだ。外交として扱う方がはるかに書きやすい。その意味で靖国問題をもっぱら外交で捉えるのは、言論として逃げの姿勢につながるのではないかと恐れる。

 神田委員 首相が個人的な心情を優先した背景を、もっと分かりやすく報じてほしかった。

 鈴木政治部長 外交の方が書きやすい、返り血を浴びたくないから逃げているとの指摘は違う。A級戦犯分祀や追悼施設、東京裁判の評価など論点はいろいろあるが、当面、何が優先されるべきかという問題だ。やはり中韓との関係をどうするのかが日本政治にとって大きなテーマだとの観点から取り上げている。

安倍首相の靖国参拝
 安倍首相の靖国参拝 安倍晋三首相は、第2次政権発足からちょうど1年に当たる2013年12月26日、A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社を参拝した。首相の参拝は06年当時の小泉純一郎首相以来。世界中の戦没者が祭られているとされる鎮霊社にも参拝した。談話を発表し、参拝理由について「御英霊に政権1年の歩みと、二度と戦争の惨禍に苦しむことのない時代をつくるとの決意を伝えるためだ」と述べた。中国と韓国は反発し、米政府が「失望」を表す声明を出した。

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