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第44回会議(日米密約報道、トヨタ自動車のリコール問題)

密約調査委の検証を 「報道と読者」委員会

 共同通信社は10日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第44回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「日米密約報道」と「トヨタ自動車のリコール問題」をテーマに議論した。

意見を述べる3委員

意見を述べる(左端から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=4月10日、東京・東新橋の共同通信社

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、密約を調査した外務省の有識者委員会について「委員の選任過程がよく分からない」と指摘。弁護士の小町谷育子氏も「委員会の性質があいまいなまま報道されている」と検証を求めた。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「外交上の機密を保つには(国民に)うそをつくことは許されるという論理だってあり得る。それを容認する立場の記事があまりなかったのはなぜか」と疑問を呈した。

 リコール問題で橘木氏はトヨタ内部の連携不足が対応の遅れにつながったとの見方を示し「(社内の)あつれきを取材できなかったのか」と問題提起。姜氏も同様の要望をした上で、報道と新聞広告の関係に言及し「ジャーナリズムとして(批判が)鈍ることはないと思うが、(広告問題は)頭の中になかったか」とただした。

 小町谷氏はブレーキの不具合を「運転者のフィーリング(感覚)の問題」と説明した幹部の対応について「発言があまり取り上げられていない」と指摘した。

密約調査委の選任検証を 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第44回会議が10日開かれ、3人の委員が「日米密約報道」と「トヨタ自動車のリコール問題」をテーマに議論した。

 密約を調査した外務省の有識者委員会について、東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「委員の選任過程がよく分からない」と指摘。弁護士の小町谷育子氏も「委員会の性質があいまいなまま報道されている」と検証を求めた。

 リコール問題について、同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は、トヨタ内部の連携不足が対応の遅れにつながったとの見方を示し「(社内の)あつれきをもっと描いてほしい」と問題提起した。

【テーマ1】日米密約報道

報告の扱い疑問―小町谷氏 うそ許されないか―橘木氏  外交と世論の視点で―姜氏

姜尚中委員

姜尚中委員

 ―日米密約報道について感想をうかがいたい。

 姜委員 真相に迫ろうという、行間から出てくるものを感じた。

橘木俊詔委員

橘木俊詔委員

 橘木委員 一昨年、村田良平元外務事務次官が著書の中で「密約」を書いたときは無視したのか。昨年あたりから(報道が)わーっとなってきた経緯が分からない。密約があり、政治家がうそをついてきたのは事実だが、外交上の機密を保つには(国民に)うそをつくことは許されるという論理だってあり得る。それを容認する立場の記事があまりなかったのはなぜか。

 小町谷委員 共同通信のスクープ記事をきっかけに、外務省の閉ざされていた部分に初めて光が当たった。この一連の報道は評価したい。

小町谷育子委員

小町谷育子委員

 橋詰邦弘政治部長 密約の調査に政権交代をアピールする政治的な主眼があったのも事実だが、過去の隠された歴史を明らかにする意義も大きかった。密約問題だけでなく、外交文書の公開の在り方という部分も含めて多角的に取り組んだ。

 太田昌克編集委員 村田氏の回顧録には「密約」と何回も出てきて、国民にうそをついてきたとはっきり言っている。だが、なぜ密約があったと言えるか、具体的な説明がされていない。そこで取材を申し入れた。密約は外交権、行政権に裁量を与える手段として、容認されてもいいのではとの議論はあってしかるべきだ。ただ、密約を容認すべきだとの記事がなかったのは、政策の妥当性、合理性の問題。それから国民の間に根強い非核、反核感情の問題、国民文化の問題もあった。

核密約引き継ぎ文書

米核搭載艦船の日本への寄港を容認した核密約について、1968年に当時の東郷文彦北米局長が作成し、歴代の首相や外相に説明したメモが残る「引き継ぎ文書」のコピー

 小町谷委員 少し疑問に思う報道もあった。密約を調査した外務省有識者委員会の報告の取り扱いだ。委員の人選が非常に不可思議で不透明。委員会が法的に見て何なのか、性質があいまいなまま報道されている。沖縄核再持ち込みに関して佐藤栄作元首相が家に持ち帰った書類だが、(密約と認定しなかったのは)法律家の観点からすると考えられない事実認定だ。引き継ぎがあったかなかったかは、密約の存否とは関係ない。そういう面からの報道があまりなかった。

 姜委員 なぜ委員会が広義と狭義の密約概念をあえて設定し、カテゴリーを分けたのかよく分からなかった。委員の選任過程もよく分からない。密約を戦略的に位置付け、外交当事者で継続していくならまだいいが、密約の共有さえもあいまいだった。国民の知る権利に供するのが当然で、外交戦略として密約があってもしかりという言い方は、説得力がない。

 橘木委員 元毎日新聞記者の西山太吉さんに関心を持った。なぜ西山さんが辞めざるを得なかったか、フォローするのもジャーナリストの仕事だ。また密約文書破棄の疑いがクローズアップされたが、事件としては、密約があるかないかよりも、誰が破棄したのか、誰が命令したのかとなる。どのように進展するのか関心がある。

日米密約をめぐる主な動き

 橋詰政治部長 文書破棄の問題は今後、大きな展開になる可能性がある。引き続きフォローしたい。

 太田編集委員 委員会の人選プロセスは不透明な部分があり、分析の光が当たっていないのは各社とも反省すべきだ。沖縄再持ち込みを密約でないとした判断は極めて論争が多い。西山さんの問題は、紙面的に名誉回復はある程度図られている。政府のうそを明るみに出した西山さんの仕事がすごかったというのは否定できない。破棄の問題は論争になるだろうし、メディアが引っ張って論争にしていかなければならない。

 小町谷委員 西山さんの話は取材倫理の問題。違法かどうかの問題と倫理の問題は区別すべきだ。取材の倫理はいつも問題になる。それに備えるために、過去の報道が事案に照らして適切だったのかを考える報道があってもよかったのではないか。

 姜委員 外交文書の公開を原則的にどうしていくかが重要だ。

 ―密約報道で今後残された課題は。

 橘木委員 「非核二・五原則」などの話。密約の問題も重要だが、日本の今後を考えたら、非常に重要なテーマだ。どういう方向に日本が行きそうなのか、行くべきかを検討していただきたい。

 小町谷委員 外交文書公開の動きがこれから出てくる。30年で公開するのなら、反対に相当厳しい形での秘密保護法を作ろうという話が出てくるのではないか。せめぎ合いもあるだろう。今までの外交は、国民とは関係がないという姿勢だったが、もうそういう時代ではない。外交の民主化と言われるが、情報公開と外交をどう結び付けるか、一つの視点になる。

 姜委員 外交は世論の裏付けがあって初めて、より良い成果がもたらされる。外交と世論の問題を今後、どう報じていくか。また米軍普天間飛行場の移設問題も含め、米側の意見は一枚岩のように報道されている場合があるが、実はさまざまだ。米国内の多様な意見をもう少し報道した方がいい。

日米4密約
 日米秘密合意とされた(1)1960年の日米安全保障条約改定時に米核搭載艦船の通過・寄港を事前協議の対象外とした「核持ち込み」(2)朝鮮半島有事の際、日本から出撃する米軍の戦闘作戦行動を事前協議の対象外とする(3)沖縄返還を決めた69年の日米首脳会談で有事の際の沖縄への核再持ち込みを認める(4)72年の沖縄返還に伴う軍用地の原状回復費400万ドルを日本が肩代わりする―の四つ。岡田克也外相が昨年9月に調査を命令。外務省の有識者委員会は3月、(3)以外を「密約」と認定した。

【テーマ2】トヨタ自動車のリコール問題

社内あつれき描け―橘木氏  アジアに共通の課題―姜氏  後手の原因探れ―小町谷氏

 ―トヨタ自動車のリコール問題をめぐる一連の報道をどう評価するか。

 橘木委員 新型プリウスのブレーキの欠陥について、トヨタは「フィーリングの問題だ」と説明した。技術者はこういう解釈をするのだろうなと思ったが、一般の人の納得は得られない。技術の人は技術のことばかり、営業部門や管理部門の人たちは技術のことには関与しない、というコミュニケーション不足が対応のまずさにつながったと思うが、そういう観点からの記事はあまりなかったのではないか。リコール問題をめぐって、社内でどのようなあつれきがあったかをもっと描いてほしい。

米公聴会で豊田社長が証言

2月24日、米下院で開かれたトヨタ自動車のリコール問題公聴会で証言する豊田章男社長(手前)=ワシントン(ロイター=共同)

 姜委員 トヨタは3代続いた創業家以外の社長の時代にグローバル化が進んだ。問題の根は(創業家社長への)大政奉還ではなく、その前にあったわけだ。トヨタ本社内で一体何が起きていたのかを掘り下げてもらいたかった。広告費がこれだけ削減されている中、ジャーナリズムの姿勢が緩むことはないと思うが、そういうことをどこか頭の中で考えなかったか。

 小町谷委員 「フィーリングの問題」は、テレビジャーナリズムのすごさを感じた。技術だけに特化して顧客と離れた話をしているのに、記者会見する本人だけが、それに気が付いていないことをテレビは映し出していたからだ。共同通信の配信記事では、そうした点があまり取り上げられていないような気がした。

 高橋昭名古屋経済部長 「フィーリングの問題」との発言は、技術者としての本心を信念を持って言ったのだと思う。記者は違和感を感じ、真意をただす作業をし、記事にもした。ただそれをもっと突き詰めていないところにわれわれの問題があったと感じる。

 河原仁志経済部長 広告の問題を直接意識したことはないし、圧力、遠慮みたいなもので記事を抑制するということはまったくしていない。

トヨタの最近の大規模なリコールや自主改修

 橘木委員 拡大路線に問題があったとされるが、そうすると前の経営者にも責任があるはず。それに関する記事がほとんどない。過去の経営者がどういう態度をとっているのかを知りたかった。

 姜委員 トヨタの問題を、実は韓国のサムスン電子が大変注目している。アジアのグローバル企業として、同じ創業家の問題を抱えているからだ。新興国で急成長した台湾や韓国、東南アジアの企業にも共通の問題がある。視点をそこまで広げてもよかった。

 小町谷委員 トヨタは対応が後手後手に回って世界的に恥をかいたが、リスク管理がどうなっていたのか。米国はそういうことを徹底している社会であり、北米であれだけ車を売っているわけだから、対応が不可思議で仕方ない。後手に回ったという記事はあるが、なぜそうなったのか、リスク管理はどうなっていたのかは解明できていない。

 橘木委員 米議会では、改選期を控えた議員を中心にトヨタたたきをしたが、私は一般の米国民はある意味で冷静だったのではないかと感じた。そういう点をもっと伝えてもよかった。またゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーが破綻(はたん)し、米国の自動車産業がトヨタに席巻されるのではないかという恐れが背景にあったことを、もっと書いてほしかった。

 姜委員 最初は下請けの部品会社の日米での優劣から問題が起きたのではないかと思っていたが、自動制御システムという中枢部分に問題があるのかどうかという点が焦点になっている。これは非常に難しい問題で、普通の人にはなかなか理解できない。

 河原経済部長 その点は解明できていない。行政の側も技術の進歩に追いついていないという問題があると思う。

トヨタリコール問題
 トヨタ自動車が販売した車のアクセルペダルやブレーキに、昨年秋ごろから不具合が次々と発覚。リコール(無料の回収・修理)や自主改修の対象台数は、国内外で延べ1千万台規模に上った。米議会が公聴会に豊田章男(とよだ・あきお)社長を招致する異例の事態にも発展。多額のリコール費用や販売台数の減少が、業績回復を目指すトヨタの経営に打撃を与えた。トヨタは近年の生産拡大に品質管理の取り組みが追い付いていなかったと反省し、社内体制の再構築に着手した。

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