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第42回会議(鳩山新政権の3カ月、新政権とメディア)

事業仕分けの背景検証を   「報道と読者」委員会

 共同通信社は5日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第42回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「鳩山新政権の3カ月」と「新政権とメディア」をテーマに議論した。

意見を述べる3委員

意見を述べる(左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=5日、東京・東新橋の共同通信社

 行政刷新会議の事業仕分けをめぐる報道について、東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「解せないのは仕分け人の人選だ。鳩山由紀夫首相のイニシアチブなのかどうか、一般の読者には分からない」として、背景の検証が必要と強調した。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「民間の仕分け人は何の権限があって事業の廃止とか削減を言う資格があるのか。新聞やテレビを見て率直に思った」と疑問を呈し、仕分け人に焦点を当てた報道を求めた。弁護士の小町谷育子氏は「大幅予算削減」と判定された独立行政法人「国立女性教育会館」などの現状を伝えた記事を取り上げ「一つ一つをサンプル的に報道すると実相が分かる」と評価した。

 新政権とメディアをめぐり、小町谷氏は鳩山政権が打ち出した「官僚の記者会見原則禁止」に言及。「政治主導と『官僚は話してはいけない』ということが結び付く、という民主党の感覚に違和感を覚えた。(問題視する)報道で会見が復活しているのは良かった」と指摘した。

 橘木氏は、政治家と官僚の意思疎通の欠如を描いた特集記事に触れ「ばらばらに動いていることを表現している」と評した。姜氏は「メディアは『国会論議をオープンにしてもっとやれ』と強く押し出すべきだ」と要望した。

事業仕分けの人選検証を 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第42回会議が5日開かれ、3人の委員が「鳩山新政権の3カ月」と「新政権とメディア」をテーマに議論した。

 鳩山政権3カ月の報道では、東大大学院情報学環教授の姜尚中(カン・サンジュン)氏は行政刷新会議の事業仕分けで、「仕分け人」の人選基準に関する突っ込んだ報道が必要だったと注文。同志社大経済学部教授の橘木俊詔(たちばなき・としあき)氏も民間の仕分け人の権限に疑問を呈し、ともに仕分けの背景の検証を求めた。

 新政権とメディアでは、弁護士の小町谷育子(こまちや・いくこ)氏が鳩山政権が打ち出した官僚の記者会見禁止方針に関し「政治主導と会見禁止が結び付くという民主党の感覚に違和感を覚えた」と指摘した。

【テーマ1】鳩山新政権の3カ月

高支持率の背景は―橘木氏 安保再定義の議論を―姜氏 地元の声伝えよ―小町谷氏

小町谷育子委員

小町谷育子委員

 ―9月の鳩山新政権発足後の報道にどんな感想を持ったか。

 小町谷委員 毎日目まぐるしくいろんなことが報道されるので、キャッチアップする(追いつく)のが難しい3カ月だった。

橘木俊詔委員

橘木俊詔委員

 橘木委員 鳩山由紀夫首相の政治資金問題に国民がおかしいと感じているのに、鳩山内閣の支持率が高い。なぜ国民がそう思っているかを知りたかった。首相への糾弾記事もなかったような気がする。

 姜委員 鳩山政権の政策決定を迷走とみるか、これは試行錯誤でもう少し可能性を見ていくべきだと考えるか。見解を聞きたい。ジャーナリズムの役割は、権力を監視すると同時に、読者でもある世論の暴走にも抑制を加えることだ。今はまさしくそういう状況ではないか。

姜尚中委員

姜尚中委員

 伊藤修一(いとう・しゅういち)編集局長 政権交代により政策決定プロセスが変わり、既存の取材組織も見直しを迫られるだろうとの問題意識から、政権移行報道本部をつくった。各部の取材を融合し、攻めの取材の組織づくりをした。

 橋詰邦弘(はしづめ・くにひろ)政治部長 政権の評価はテーマによって異なるが、米軍普天間飛行場移設問題は明らかに迷走だ。民主党政権の意義は「パンドラの箱」を開けることにある。情報公開、ガバナンス(統治)の透明化はメディアも応援していい。

 橘木委員 普天間も内政問題も閣内ばらばらで、鳩山首相のリーダーシップはもう疑問符が付くのではないか。そうした記事が必要ではないか。

 小町谷委員 岡田克也外相は「原理主義者」と言われていたが、普天間問題でゲーツ米国防長官に一喝されると翻してしまった。日米密約問題の有識者会議メンバーも、自民党政権時代から親和性を持っていた方が選ばれた。外務省の事務方の人選をそのままのんだのかなと推測してしまった。もう一つ「沖縄の声」が東京にいると伝わらない。地元の新聞と東京の新聞では相当の温度差がある。

握手する鳩山首相ら

国家戦略室と行政刷新会議事務局の看板を除幕し、握手する(左から)仙谷行政刷新相、鳩山首相、菅国家戦略相=9月18日、内閣府

 橘木委員 沖縄の人の意見も非常に大事だが、ほかの国民がどう考えているかを伝えるのも大事ではないか。

 姜委員 普天間問題で民主党の小沢一郎幹事長がどう考えているのか、これまでの記事に出ていない。東京が考えているほど、沖縄の方が甘くなくなってきている。

 ―普天間の話が続いたが、外交報道についてはどうか。

 姜委員 そもそも日米安保は何を目指して、日米は何を同盟の絆(きずな)としていくのか、それがきちんと議論されていない。「米国が怒っているから鳩山首相は駄目だ」という議論より、日米安保の再定義のようなところに話の水準を上げてもよかったのではないか。

鳩山政権の歩み

 小町谷委員 地球温暖化問題での鳩山首相の提案は、各国から肯定的に受け止められたが、国内の財界との関係でどうなっているかを分かりやすく説明してほしかった。

 橘木委員 東アジア共同体構想はまだ夢物語にしか映らない。面白かったのは温室効果ガス25%削減で、日本経団連は反対したが、経済同友会は支持した。財界分断という観点で報じてほしい。

 姜委員 日ロ関係が鳩山内閣でかなり進むのではないかと期待している。日本の世論のロシアに対する関心が薄れているが。

 ―鳩山政権発足直後、ダム問題がかなり注目された。

 橘木委員 中央と地方の対立が如実に出た事象だった。

 小町谷委員 (ダム中止に)猛反発しているのはダム推進派。でもやむなく(居住地を)移転した人も相当数いたはず。住民の一人一人が本当はどう受け止めているのかを知りたかった。

 姜委員 大型連載企画「ニッポンの行方」が良かった。改革の現場で何が起きているのかをきちんとフォローしている。不思議なのは、前原誠司国土交通相はなぜ八ツ場ダム(群馬県)を最初の切り口にしたのかだ。前原さん自身がそう思ったのか、あるいは官僚が仕向けたのか、ブレーンがいるのか。その辺が知りたかった。

 ―11月の事業仕分けの報道はどうか。

 姜委員 多くの人にとって、何かが大きく変わったというイメージがわいたし、自分たちの税金の使途がどう決められていくのかの片りんがガラス張りになった。だが非常に解せないのは、仕分け人の人選だ。仕分け人の中に小泉改革を急先鋒(せんぽう)で進めた人もいた。人選の基準が分からなかった。

 橘木委員 民間の人があんなに勝手に「廃止」「削減」「継続」と、何の権限があって言う資格があるのかと、率直に思った。民間の人を入れるのは結構だが、民間の人には専門家として意見を言ってもらうが、最後に投票するのは政治家に限るべきだった。

 小町谷委員 パフォーマンス的要素が強すぎるが、大きな効果はあった。一度予算を付けるとなかなかやめられないから、そこに切り込んでいくならいいことだ。仕分けの対象になった事業の一つ一つをサンプル的に紹介した記事は、実相が分かって良かった。

 本多晃一(ほんだ・こういち)・政権移行報道本部事務局長 「予算大幅削減」となった国立女性教育会館など4カ所を取り上げ、その現場がどうなっているかをまとめた。こういう仕分けられた側の取材をもう少しすべきだった。仕分け人については、一部インタビューを出稿したが、仕分け人そのものに迫る報道も必要だった。

 姜委員 鳩山政権は小泉改革の否定の下に実現したはずなのに、どうして仕分け人に小泉改革の急先鋒だった人たちがいるのか意外だった。小泉路線とどう違うのか、分からない。みんな喝采(かっさい)している割には、やっていることは小泉さんと変わらない。そこのところをしっかりと取り上げてほしい。

事業仕分け
 事業の必要性や予算額の適否を個々に精査し、行財政改革につなげる手法。加藤秀樹・行政刷新会議事務局長が代表を務める「構想日本」が2002年から地方自治体で実施してきた。与党議員と民間有識者らによる「仕分け人」が10年度予算要求に盛り込まれた事業について、約1時間の質疑、討論を経て「廃止」「予算削減」「見直し」などと判定。9日間の作業の結果、計7500億円の予算カットと、1兆400億円の基金などの国庫返納で財源を捻出(ねんしゅつ)した。

【テーマ2】新政権とメディア

禁止に違和感―小町谷氏 もっと国会論議を―姜氏 官と政ばらばら―橘木氏

 ―新政権は事務次官会見の禁止、閣僚会見のオープン化を打ち出した。感想と取材報道への提言をうかがいたい。

 小町谷委員 政権発足時に各大臣の記者会見を見ていて、メディアの質問が「政治家以外は会見できない」との方針に集中したことに違和感があった。その後の報道で、官僚の中で何が行われているのかを知らせるため、メディアが定期的に会見させる努力を続けてきたことを、初めて知った。政治主導ということと、官僚が話してはいけないということが、即結び付くものなのかどうなのか。政権の感覚に違和感を覚えた。

生中継するネット記者

記者クラブ非加盟のメディアにも開放された岡田外相(奥)の記者会見で、生中継するインターネットメディアのスタッフ(手前2人)=9月、外務省

 橘木委員 配信記事に官僚の「週末に大臣が出るテレビ番組も全部見る。大臣が何を言うかで、次の仕事が決まるからね」という言葉が出ている。大臣と官僚の間で対話がない。官僚と政治家がばらばらにやっていることをもろに表現している。政治主導がどんな問題を抱えているか、凝縮されていると思った。

 姜委員 官僚はいつもしたたかな面もある。全部政治家が責任を負うという形になることが、逆に官僚にとって身軽になる面もあるのではないか。一番大切なのは、国会論議が不調になってはいけないということ。政治家同士の激論、与野党間の激論を国民は期待しているし、そこからいろいろな情報が漏れてくるわけで、それをメディアがきちんと取材するというのがまず筋だと思う。政権とメディアがどういう関係なのかということ以上に、国会論議をオープンにしてもっとやれ、ということを強く押し出すべきではないか。

 宮城孝治(みやぎ・こうじ)社会部長 姜委員の話に、やはり生のやりとりが新聞の大きな売り物だと思った。政権交代で意思形成システムが変わり、取材も随分変わった。記事の文体も変わった。今まで官僚が族議員に了解を取ったことが、例えば「厚生労働省が方針を固めた」という記事になったが、今は政の主導で決まったことが「副大臣が明言」という記事になる。「誰が決めた」「どんなプロセスがあった」は国民に説明すべきテーマだと思って書いている。会見のオープン化では、権力機関に「おまえは入ってこい」「おまえは来るな」ということをさせてはならない。記者クラブは取材報道の自主組織という位置付け。現場での自主的な取り組みや論議を大事に対処したい。

 橘木委員 新政権になって、閣僚は記者会見がうまくなったか。

 宮城社会部長 閣僚によっても違うが、はっきり話すとか、新しいことを打ち出すと、会見が盛り上がり質問も飛ぶ。記者会見の取材活動の中での位置付けは、かなり上がったと思う。

記者クラブと記者会見
 記者クラブは、公的機関などを継続的に取材するジャーナリストで構成する取材・報道のための自主的組織。明治時代に権力側に情報公開を求めたことに始まる。日本新聞協会は、外国報道機関の記者らにも開かれた存在であるべきだとの見解を示している。記者会見は記者クラブが主催することが原則とされてきた。同協会の見解は、公的機関が主催する会見について「一律に否定はしないが、運営などが公的機関の一方的判断に左右されてしまう危険性をはらんでいる」としている。

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