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第41回会議(衆院選と政権交代、初の裁判員裁判)

衆院選と裁判員裁判を論議 第41回「報道と読者」委員会 

 共同通信社は26日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第41回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「衆院選と政権交代」と「初の裁判員裁判」をテーマに議論した。

「報道と読者」委員会

意見を述べる(左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=9月26日、東京・東新橋の共同通信社

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は鳩山内閣が「脱官僚」を掲げていることを踏まえ「統治構造、政策決定過程がどう変わるのか、有権者にとって良いことだけなのか詰めてほしい」と、丹念な取材と継続的な検証が必要と指摘。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は民主党マニフェスト(政権公約)に関し「国民生活にどういう影響があるかを記事化すれば(有権者に)役立つ。財源問題にもっと踏み込むべきだった」と述べた。弁護士の小町谷育子氏は「前回選挙の報道のイメージは"刺客"の一点だが、今回は政策が多く紹介された」と評価した。

 裁判員裁判をめぐっては、小町谷氏がさいたま地裁職員が裁判員会見を遮ったことに関連し「懸念していたことがちらっと出た感じがする」と問題提起し、評議内容の取材を続けてほしいと要望。

 姜氏は「極刑しかないという場合もある。裁判員は死刑の具体的な実施状況を知っておく必要がある」とし、死刑制度の実態に切り込んだ記事が必要と強調した。橘木氏は「(裁判員裁判の対象が)なぜ一審だけなのか知りたかった」と述べ、司法制度になじみのない読者にも配慮した報道を求めた。

統治構造の変化、検証を  「報道と読者」委員会 

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第41回会議が9月26日開かれ、新たに就任した3人の委員が「衆院選と政権交代」と「初の裁判員裁判」をテーマに議論した。

 衆院選報道で、同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は各党マニフェスト(政権公約)点検記事で財源論についての踏み込みが足りなかったと指摘。東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「脱官僚」の具体像でもっと詰めた報道が必要だったと述べ、今後、統治構造や政策決定過程の変化を検証するよう求めた。

 裁判員裁判の報道をめぐっては、弁護士の小町谷育子氏がさいたま地裁職員が裁判員の会見を遮ったことに懸念を表明。評議の内容に踏み込んだ報道を求めた。

【テーマ1】衆院選と政権交代

財源論踏み込めず―橘木氏  政策紹介は評価―小町谷氏  「脱官僚」で詰めを―姜氏

 

 ―今回の衆院選報道の印象を。

姜尚中委員

姜尚中委員

 姜委員 共同通信の出稿の中で、衆院議員が主要な法案にどのような投票行動を取ったか、網羅的に示した記事が、知りたい情報の一つとして良かった。一方、全国知事会のマニフェスト評点と選挙の結果になぜ落差があったのかを検証してほしかった。知事会や民間シンクタンクなど9団体の評価が投票基準の一つとなった有権者もいたと思うが、その可否を検証してほしい。

橘木委員

橘木俊詔委員

 橘木委員 各政党の主張を細かく示し、今までの選挙とは違う情報を国民は得た。有権者はそれに基づいて投票してくれたと思いたい。しかし、投票が終わってから、例えば民主党の言っている高速道路無料化は反対が多数派。これをどう理解したらいいのかとの解説記事があれば、国民が何に基づいて投票したのかよく分かるのではないか。前回の衆院選報道は「刺客」が前面に出てうんざりしていたが、今回もあることはあったが抑制的だった。今回の方がポピュリズム(大衆迎合)ではない報道をしてくれた。

小町谷委員

小町谷育子委員

 小町谷委員 4年前の選挙報道のイメージは「刺客」一色だった。それと比較して今回は違う色彩があり、政策が非常に多く紹介された。その点で相当、民主主義が進んだと実感として受け止めている。「明日への願い」という連載企画は、草の根の活動をしている人たちの声を生で伝えており、非常に印象深かった。

 橋詰邦弘政治部長 4年前の小泉郵政選挙では、いろいろな争点を取り上げたつもりだったが、小泉流の選挙に乗せられてしまった。この教訓が今回の選挙報道の出発点にある。じっくりと政策、マニフェストを吟味、点検してもらう機会を設けた。自公政権の業績評価もこれまで以上に力を入れた。

花を付ける鳩山代表

衆院選当選者の名前に花を付ける民主党の鳩山代表=8月31日未明、東京・六本木

 ―政策比較の記事で気付いたことは。

 橘木委員 民主党の主張する「子ども手当」のベネフィット(利益)を税理士さんが試算した記事が良かった。高校無償化や高速道路無料化についても、国民生活あるいはマクロ経済でどんなことが起こるかを試算してもらったら、投票者にとって役立つ情報になったと思う。

 姜委員 有権者がマニフェストをどれくらい精査して読んだか、それがどこまで有権者の投票行動を決めたかは、よく分からない。「脱官僚」「政治主導」が有権者にとってこれまでとどう違うのか、良いことだけなのか、もう少し詰めてほしかった。統治構造、政策決定過程のプロセスがどう変わるのか、変えるために政治はどんな力を振るう必要があるのか、その辺を突っ込んで検証してほしい。

 小町谷委員 例えば子ども手当を直接支給することでどう効果が違うのか、どうしても分からない。たぶんそれを判断基準にした投票はできなかったと思う。本当に自分に利益なのかどうかやっぱり検証できない。そういうマニフェストだったのではないか。

 橘木委員 財源論についてもっと踏み込んだ方がよかった。それから国民が選挙で何に一番関心があったかというと、社会保障だ。ところが今回は自民、民主両党とも社会保障ではっきりした政策を言わなかった。この点で国民の関心と乖離(かいり)があることをもっと批判したらよかった。

民主党政権の政策工程表

 ―政権交代後の報道で取り組むべき点は。

 姜委員 「透明な統治」を考えると、四つの「日米密約」をめぐるディスクロージャー(情報開示)が差し当たり大きなテーマになる。

 小町谷委員 情報公開による透明なガバナンス(統治)が進めば非常に面白い。ぜひそういうところもウオッチをしてほしい。また民主党政権が配偶者控除を含めて、女性のことを今後どう考えていくのか。自民党ははっきり言えば、介護を含め福祉は専業主婦が家の中でやれというようなものだった。それが今崩れてきているわけで、民主党政権が「家族と女性」といった点にどう取り組んでいくのか、何か特集になったらいい。

 姜委員 野党になった自民党がどうなるのかをきっちり報道してほしい。万が一でも自民党が四分五裂した場合に、日本の政党政治はどうなるのか。つまり日本の民主主義にとって、どういう政党政治が望ましいのかという少し大きなグランドデザインを常に考えておくべきではないか。それと「痛みの政治」を強いる時代になり、ナショナルミニマム(国家が国民に保障する最低生活水準)は何なのかをきっちりと議論していくべきではないか。そういう点で、自民党時代からの税の在り方の議論をおさらいした記事を書いてほしい。

 橘木委員 民主党も自民党もいろんな考えの人が混在していて、日本は今のままの二大政党でいけるのかという疑問を持った。そういうことも考えて記事にしてほしい。

第45回衆院選
 7月21日に衆院解散、8月30日投開票された。民主党が308議席を獲得し圧勝。野党第1党が選挙で過半数を制し、政権を奪取したのは戦後初めて。自民党は選挙前の300議席から119議席に落ち込む歴史的惨敗。結党以来初めて衆院第1党から転落し、麻生太郎首相(当時)は退陣。公明党は小選挙区で太田昭宏代表(同)ら8人全員が落選し、選挙前の31議席から21議席に後退。共産、社民両党は横ばいだった。小選挙区の確定投票率は69・28%で、前回を1・77ポイント上回り、小選挙区制導入後最高となった。

【テーマ2】初の裁判員裁判

評議に踏み込め―小町谷氏 可視化含め報道を―姜氏  集中審理に疑問―橘木氏

 

 ―8月から始まった裁判員裁判の報道にどんな印象を持ったか。

記者会見する裁判員ら

裁判員裁判を終え、記者会見する裁判員と補充裁判員=9月9日、神戸地裁

 小町谷委員 東京地裁の場合、弁護側の技術にも問題があったのではないか。その点をもう少し書いてもよかったのではないか。また被害者参加の影響は裁判員の感想から検証するしかないが、青森地裁の裁判員経験者の会見の記事が非常に詳しく、興味深かった。気になったのは、裁判員を務めた人の「親身になって」という言葉。裁判所は中立公正に判断する場所。裁判員が被害者の立場に自分を置いていいのか、触れてほしかった。

 橘木委員 素人的には裁判の対象がなぜ一審だけなのか知りたかった。東京、さいたま、青森各地裁の裁判は3、4日で判決を言い渡した。ここまで集中審理にしてしまってよいのだろうか。

 姜委員 殺人など凶悪事件が対象なのはなぜなのか、どうして裁判員制度が必要なのか、一般の人にはよく分からない。後戻りはできないだろうが「そもそも論」があってもいい。刑事事件は捜査から始まり、逮捕、取り調べと続き、裁判はいわば「出」の部分。捜査の中身、取り調べの可視化、調書の信ぴょう性など「入り」から「出」まで包括的に考えるべきだろう。

 竹田昌弘社会部編集委員 「そもそも論」は重要だと考えている。また新政権は取り調べの可視化に積極的であり「入り」と「出」を意識して報道していきたい。これまでの裁判員裁判は被告が罪を認めている事件がほとんどで、審理期間は短いとは言えないのではないか。弁護の問題や裁判の中立については、さらに報じていきたい。

裁判員裁判の法廷と評議室

 ―裁判員裁判をめぐる情報公開については。

 姜委員 裁判員制度の一番の肝は量刑であり、その極限は死刑。裁判員が死刑の実態を知って後悔することもあり得る。完全にブラックボックスになっている死刑の具体的な実施状況を、裁判員は知っておく必要があるのではないか。

 小町谷委員 記者会見だけではなく、裁判員経験者への個別アタックに期待している。裁判官がどのように評議をリードしているのか、評議の内容に踏み込んだ報道を楽しみにしている。

 竹田編集委員 死刑の判断は何より厳格に、裁判員は腹を据えて判断しなければならないが、情報が少なすぎる。今後も情報公開を求め続ける。個別アタックには難しい壁もあるが、誠実に取材し評議を検証したい。

 ―さいたま地裁の職員が記者会見に介入した問題もあったが。

 小町谷委員 判決後に裁判長が被告を諭した言葉についての質問で、守秘義務に触れるのかどうか微妙だと思った。裁判官ならまだしも、裁判所職員が守秘義務の基準を考え(発言に介入する)権限を行使できるのか疑問。懸念していたことが出た感じがする。

 姜委員 (法律について)アマチュアの裁判員は、プロの裁判官の教唆や誘導には、どうしても弱いはず。傍聴席から見えない評議での具体的なやりとりを知ることはできないのだろうか。また裁判官と裁判員の関係はイーブン(対等)。裁判員は一緒に評議する裁判官がこれまでにどんな判決を出したのかなどの情報を知るべきではないか。

 橘木委員 米国の陪審制度では、市民から選ばれた陪審員は被告の有罪・無罪だけを決め、量刑判断は裁判官に任せている。どうして日本は裁判員に量刑を判断させるのかなども、あらためて報じてほしい。

裁判員裁判
 有権者から無作為に選ばれた裁判員と裁判官が刑事事件を審理し、被告が有罪かどうかを判断した上、有罪の場合は刑も決める。構成は裁判員6人と裁判官3人が原則。裁判員は裁判官と同じ権限で意見を述べ、被告人質問や証人尋問もできる。対象は今年5月21日以降に起訴された最高刑が死刑か無期懲役の事件(殺人、強盗致傷など)と故意の犯罪で被害者を死亡させた事件(傷害致死など)。9月30日までに11地裁で被告が罪を認めた計14件の判決があり、無期懲役1件、懲役15~5年10件、執行猶予付き有罪3件。米国の陪審裁判は原則として、有権者から選ばれた陪審員だけで有罪か否かを判断し、有罪の場合の刑は裁判官が決める。

メディアへの要望 3委員の提言

 「報道と読者」委員会の3人の新委員にメディアへの要望を聞いた。

 ▽深く掘り下げて
 小町谷委員 弁護士として私の仕事は情報公開訴訟が中心で、「知る権利」という面でメディアと近接した仕事をしている。いま新聞離れといわれるが、簡単にインターネットで検索できない掘り下げた記事を新聞で見るとうれしくなる。これからも深く掘り下げた記事、継続的に追った記事を期待したい。

 ▽新聞離れ阻止を
 橘木委員 若者の新聞離れは深刻。われわれの世代は新聞で情報を得ていたので寂しい気がする。ぜひとも新聞がもっと読まれるような態勢を取ってほしい。海外在住経験を生かし、国によって新聞の発行、報道体制が違う点にも着目して発言していきたい。

 ▽斜陽化も悲観せず
 姜委員 斜陽化する新聞をどうするか。新聞は生もの(生ニュース)と干物(知識)の関係をきちっと読者に提供できるメディアだ。干物の蓄積を生ものに転換できる翻訳者(記者)を養成していければ、新聞は斜陽化していても、社会のニーズに応えていける。その点であまり悲観的には思っていない。

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