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第40回会議(新型インフルエンザ、北朝鮮のミサイル発射・核実験)

インフル報道、検証必要   「報道と読者」委員会

 共同通信社は27日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第40回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「新型インフルエンザ」と「北朝鮮のミサイル発射・核実験」をめぐる報道について議論した。

「報道と読者」委員会

意見を述べる(左から)五十嵐公利、佐和隆光、林陽子の各委員=6月27日、東京・東新橋の共同通信社

 新型インフルエンザ報道について、立命館大教授の佐和隆光氏は、今回のウイルスが「弱毒性」とされた経緯を踏まえ、「厚生労働省もマスコミの報道 も過敏に過ぎた」と指摘。ジャーナリストの五十嵐公利氏は「国内初の感染事例を報じる際のおどろおどろしさと比べ、冷静な対応を求める記事が小さくなる傾 向があった。政府の対応と実態との間に乖離もあり、何が教訓として残ったのか今後検証することが必要」と述べた。

 弁護士の林陽子氏は「弱毒性という意味を踏まえ、個人でどういう対策ができ、何を防げるかといった面からの報道を充実させる必要がある」とし、生活者の視点に立った取材、報道を求めた。

 一方、北朝鮮のミサイル発射に関する記事については、佐和氏は「こうではないか、ああではないかという憶測記事が多い」と分析。林氏は「有事報道の在り方として、政府の動きにもう少し警戒的で、批判的な報道が必要だったのではないか」と指摘した。

 五十嵐氏は「敵基地攻撃能力といった言葉が出てくるが、これがいかに荒唐無稽であるかという報道が全くない。できもしないことがなぜ記事になるのか。検証という意味で足りなかったのではないか」と述べた。

政府対応の検証を  「報道と読者」委員会 

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第40回会議が6月27日開かれ、3人の委員が「新型インフルエンザ」と「北朝鮮のミサイル発射・核実験」をテーマに議論した。

 新型インフルエンザ報道について立命館大教授の佐和隆光氏は「あまりに過敏で騒ぎ過ぎ」と指摘。ジャーナリストの五十嵐公利氏は「政府の対応と実態との間に乖離があり、検証が必要」と述べた。

 北朝鮮のミサイル報道をめぐって弁護士の林陽子氏は「有事報道の在り方として、政府に批判的な報道が必要だ」と訴えた。

【テーマ1】新型インフルエンザ

実態と乖離―五十嵐氏  権力介入の予防を―林氏  過敏で騒ぎ過ぎ―佐和氏

  

 ―インフルエンザ報道の感想を。

五十嵐公利氏

五十嵐公利氏

 五十嵐委員 全体におどろおどろしさを感じる。麻生太郎首相や舛添要一厚生労働相の大げさな反応と、実態との間に乖離があった。

佐和隆光氏

佐和隆光氏

 佐和委員 水際作戦が事実上意味を成さなかったことは、一連の記事から明らかに読み取れる。地下鉄で多くの人がマスクをしている異様な光景が見られたが、報道もまたあまりに過敏で、不必要に騒ぎ過ぎたという印象がぬぐえない。

 林委員 感染症は極めて大事な問題で、記事の量もこれくらいは必要だ。感染症やテロリズムの問題に国境はない。日本に上陸した際の対応をどうする か。今回は大事な機会だった。科学報道として十分だったのかという検証が必要だ。一方、私のところには企業としての対応に関する相談も多く、そういった面 の報道もほしい。


林陽子氏

林陽子氏

 石川義彦社会部次長 未知のウイルスで、危険度が分からないまま報道が始まった。最悪の事態を想定し、最大限の出稿をすべきだと考えた。特に注意したのは生活に役立つ情報の提供。国の対応については、メディアとしての監視を意識し細かく報道した。

 五十嵐委員 弱毒性と分かってからも政府は強毒型(H5N1型)を想定した従来の基本計画に従って国内対応を進めた。そこに政治性を感じるが、報道は引きずられ過ぎたのではないか。

 林委員 緊急、重大な事態に乗じて公権力が市民生活に介入してくることをいかに予防するかが、メディアに期待されている。政府の対策の是非をどれ くらい批判的に報道できているか。例えば感染の影響を緩和するには、空港での重装備による検査ではなく、何が必要だったのか。読者には分かりづらかった。 弱毒性の意味を踏まえ、個人で何ができるか、何が防げるかといった面での報道をより充実させるべきだ。

検疫官と乗客

成田空港に到着した航空機の機内検疫を終えた検疫官と乗客=5月

 佐和委員 最近の論説では「致死率も季節性に近いと分かったから、的確に対処すれば社会や経済への影響を回避できそうだ」と、「社会システムがまひする」と報じた当初より格段にトーンダウンしている。

 ―国民にとってはどのような情報が必要か。

 五十嵐委員 症状の程度については、当初から専門家の間でいろんな意見があったと思う。最初からそういった専門家の意見を幅広く伝えた方がよかっ た。ある段階からは冷静さを求める論説や解説が出てくるが、国内初の感染事例を伝えた際には、見出しのおどろおどろしさに比べ、冷静な対応を求める記事が 小さくなってしまっている。不安をあおらないようなバランスが必要だ。

 佐和委員 専門家の意見を伝える記事が政治・経済記事に比べて断然少ない。厚労省にメディアが振り回されたのか、それとも医科学者は経済学者のように適当なことを言わないためなのか。

 林委員 「水際作戦を強調し過ぎると、感染の疑いがあると感じた人が自己申告できにくくなる。もっと申告しやすいような環境を」といった専門家の コメントを紹介した記事があった。政府の対応とは別の方法を取るなら、どんなことが可能かという視点を提供する意味で、専門家の意見というのは大変役立 つ。

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 五十嵐委員 医学的にどういうことまで分かっているかという点をフォローしていただきたい。

 ―感染者が出た学校を実名で報道したが。

 佐和委員 なんら差し支えない。

 五十嵐委員 事態の重要性を考えれば正しかったと思う。

 林委員 必要な報道。実名が出たことで嫌がらせがあったことも、きちんと報道すべきだ。入国制限など公権力による人権規制は今回は起きていないが、民間同士の人権侵害があるのなら、それを報道するのがメディアの役割だ。

 稲葉智彦大阪社会部長 全社的な議論を経て学校名を報じた。周囲にアラームを鳴らす意味でも必要という点を最優先に考えた。秋冬にかけて再び流行し、死者が出た場合の対応の仕方を考えておく必要がある。

 ―これからの報道に何が必要か。

 五十嵐委員 弱毒型であった今回の不幸中の幸いを次の第2波、あるいは強毒型への教訓とするためにも、行政当局がどういう対応をしたかを検証することが一番大事。何が教訓として残ったのかをきちんと検証する必要がある。

 佐和委員 今年末にかけて、弱毒から強毒に転じて大騒ぎになる可能性はあり得る。その時の報道はどうあるべきか。この1カ月半の経験を生かしてほしい。

新型インフルエンザ
 新型インフルエンザ(H1N1型) 豚インフルエンザウイルスが人に感染しやすく性質を変えて生まれた。世界保健機関(WHO)はメキシコ、米国で の患者急増を受け4月27日(現地時間)、新型インフルエンザの発生を認定し、警戒水準を初のフェーズ4に。その後も感染拡大が続き、6月11日(同)に フェーズ6に引き上げ、世界的大流行(パンデミック)を宣言した。主症状は高熱、のどの痛み、筋肉痛など通常のインフルエンザと同じ。糖尿病やぜんそくな ど慢性疾患のある人や妊婦は重症化の恐れがあるとされる。

【テーマ2】北朝鮮のミサイル発射・核実験

有事対応に批判必要―林氏  憶測記事多い―佐和氏  敵攻撃論検証を―五十嵐氏

 

 ―北朝鮮ミサイル発射・核実験に関する報道にどんな感想を持ったか。

 林委員 北朝鮮問題は日本の安全保障にとって重大な問題で、紙面を割いて多くのものを報道することは必要だった。ただ有事報道の在り方としては、 政府の動きにもう少し警戒的、批判的な報道が必要だった。北朝鮮は「人工衛星打ち上げ」と主張し、日本政府も4月10日の官房長官会見までミサイルだと断 定していなかったのではないか。そうすると報道機関が先にミサイルと断定するのはいかがなものか。今なぜ北朝鮮が単独行動に走っているのか、もう少し解説 が欲しかった。

発射されるミサイル

4月7日に朝鮮中央テレビが放映した発射されるミサイル。北朝鮮は人工衛星を搭載した「銀河2号」の打ち上げ場面としている(共同)

 佐和委員 こうではないか、ああではないかとの憶測記事が多い。それほど北朝鮮の情報はマスメディアにとって入手しにくいものなのか。

 五十嵐委員 マスコミが困惑していたという印象だった。

 中川潔外信部長 日本メディアで唯一、共同通信社だけが平壌支局を持っている。ただ正確な情報がすぐ出てくるわけではない。日本の北朝鮮関連団体の情報や北朝鮮のテレビ、通信社、新聞の報道。また北京で、北朝鮮から出てくる人から情報を集めて分析もしている。

 橋詰邦弘政治部長 ミサイル発射の予告後、日本政府がどういう準備をし、何を考えているか、から取材を始めた。政府は地対空誘導弾パトリオット (PAC3)やイージス艦配備などの有事態勢を取り、これに対し、報道を含め大げさだったとの評価もある。しかし、こそこそやられるよりよかったのではな いか。

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 ―有事報道、危機管理についてはどうか。

 五十嵐委員 日本の有事態勢全体やミサイル防衛(MD)が米国のシステムの一部であることを伝えるのが一番大事だった。そういう点が足りなかった のではないか。今回のミサイル発射や核実験後、敵基地攻撃能力や核保有論という話が出てきたが、これがいかに荒唐無稽であるかの指摘が全くなかった。でき もしないことがなぜ記事になるのか、そのあたりの検証が足りなかった。

 佐和委員 イランや北朝鮮のように米国から敵視されている国にとって、核抑止力は外交交渉上のツールだ。核とミサイルの保有をデモンストレーションして、北朝鮮は米国との外交交渉に先手を打った。

 林委員 今回は政府の判断としてPAC3などの配備をあえて公にしたのは、その方が国民の支持を得られやすいし、今の政局にとって有利だ、などの 判断があってのことだと思う。その意図をもう少し批判してもよかった。批判的な識者コメントも出ているが、政府とは違う見方をもっと報道してほしい。

 ―ミサイル発射や核実験の背景の報道は。

 五十嵐委員 「平壌ウオッチャー」の腕の見せどころという面があって、大変興味深く記事を読んだ。北朝鮮の後継問題など国内的要因が非常に強いこ とがいろいろな記事に出ていたので、きちんとフォローされていると評価している。ただ、この問題の鍵を握る米国と中国からの情報をもう少し読みたかった。

 佐和委員 中川昭一前財務相の日本も核保有すべしとの発言は全くの的外れと指弾すべきだ。

 林委員 6カ国協議全体の再評価や、日朝間のこれまでの外交交渉、特に小泉純一郎元首相の訪朝以降の交渉をどう評価するかという検証報道が必要だ。

委員の提言

記者の分析力重要―佐和氏  提言対応を評価―五十嵐氏  広い視野で報道を―林氏

 

 ―「報道と読者」委員会の委員を2年間務めた感想と提言を。

 佐和委員 今の大学生は新聞を読まずに、インターネットで新聞を読んでいる。識者コメントなどはネットに出ない場合が多い。日本人の知的レベルの 劣化を防ぐためには、活字離れ、特に新聞離れを食い止めないといけない。新聞も単にニュースを報道するだけではなく、与えられた情報から何を読み取るか、 記者の分析力が重要だ。識者コメントも適切な人選をして有意味な配信をお願いしたい。

 五十嵐委員 過不足なく、かつ空理空論でなく、記事に即して発言しようと思ってきた。言う方は言いっ放し、聞く方は聞きっ放しにならないように、委員の意見や提言に対する共同通信側の対応をフィードバックしてもらい、感謝している。

 林委員 一種の自己検証、自己批判のため、こうした機関の活動をぜひ継続し、一層充実させてほしい。今、日本人全体が幼稚化している。インター ネットとの競争に負けないよう、新聞は難しいことは難しくても構わないし、一つの記事をもう少し長くしてもよい。広い視野で報道してほしい。そのためにも 書き手は大いに自己啓発、自己研さんし、ますます良い記事を書いてほしい。

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