1. トップ
  2. 「報道と読者」委員会
  3. 2007年開催分
  4. 第29回会議(格差社会、団塊の世代)

第29回会議(格差社会、団塊の世代)

豊かさの中の貧困に危機感  団塊の憲法観探ってほしい

 共同通信社は21日、外部識者による第3者機関「報道と読者」委員会の第29回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「格差社会」と「団塊の世代」をテーマに議論した。

 弁護士の梓澤和幸氏は、正社員と非正社員の処遇格差を取り上げ「効率優先で強い国を目指しながら、はい上がれない人を増やした」と指摘。

 同志社大教授の浜矩子氏は「浮かび上がったのは豊かさの中の貧困。正社員と非正社員など、対立する必要がない者同士がいがみ合わずに済むよう、根源的な"犯人"をつかんでほしい」と、社会環境の変化への踏み込んだ報道を求めた。

 前広島市長の平岡敬氏は、財政や雇用をめぐる地域格差について「かつて公共事業や景気対策をけしかけた政府の責任は大きいが、絶望的な例だけでなく、頑張っている自治体も紹介を」と要望した。

 大量退職が本格化する団塊の世代をめぐっては、浜氏が「企業戦士になり忙しさの中で失った問題意識を思い出してほしい」と期待。平岡氏は「高度経済成長で家族や地域社会が失われた」とし、団塊の世代が高度成長の陰をどう考えているかを伝えるべきだと指摘し、梓沢氏は「親の戦争体験を生の言葉で聞いた世代。憲法問題をどうみているか、取材してほしい」と述べた。

 長崎市長射殺事件について、平岡氏は「(長崎市長と)平和運動の同志としてお付き合いしてきた。市民社会や民主主義に対する挑戦だ」と非難。政治家の発言が委縮しないようバックアップするのが報道機関の役割だとの考えを示した。

【詳報1】 豊かさの中の貧困に焦点を 団塊世代の憲法観探れ

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第29回会議が21日開かれ、3人の委員が「格差社会」や「団塊の世代」などをテーマに議論した。

 格差問題では、同志社大教授の浜矩子氏が「豊かさの中の貧困について掘り下げるべきだ。根源的な〝犯人〟をつかんでほしい」と、社会環境の変化に切り込む報道を要請。団塊世代について弁護士の梓澤和幸氏は「親の戦争体験を生の言葉で聞いた彼らが、今の憲法問題をどうみるか、継続取材を望む」と述べた。

 前広島市長の平岡敬氏は、長崎市長射殺事件に触れ「政治家の発言が委縮しないよう、報道機関がバックアップしてほしい」と求めた。

根源的な"犯人"は―浜氏 政治の理念検証を―梓澤氏  社会の将来像示せ―平岡氏

 ―雇用など格差をテーマにした連載企画「『格差』を見つめる」を中心に読んでいただいた。

転換支援研修

希望に沿った就職がかなわずフリーターのまま取り残された「氷河期世代」の30代男女が、人材派遣会社の開く正社員への転換支援研修で懸命に学ぶ=3月8日、東京都新宿区のインテリジェンス本社

 浜委員 日本が世界有数の豊かな国であるにもかかわらず、これだけの貧困があるということを浮かび上がらせた。これがまともな先進国の姿なのかと。豊かさの中の貧困の核にあるものに踏み込んで、構造的な問題など、どういう仕組みで格差が出てきているのかを掘り下げることがこれからの課題だろう。正社員と非正社員など、対立する必要がない者同士がいがみ合わずに済むよう、根源的な"犯人"をきちんとつかんでほしい。

 梓澤委員 効率優先で強い国を目指す中で、はい上がれない人を増やした。このような格差全体を貫く政策と政治を誘導した日本のリーダーにインタビューし、どのような方向に日本を引っ張っていこうとしたのかを徹底的に引き出してもらいたい。一方で、真っ暗な時代の中でも、頑張って闘っている人たちがいる。厳しい状況の中で何を見て希望を持っているのか、ということにも焦点を合わせ掘り下げてほしい。

 平岡委員 雇用の規制緩和が企業の労働力の使い捨ての構造をつくり、そのしわ寄せが若者や女性に来ている。日本にあるのは絶対的な貧困ではなく、相対的な貧困だ。貧困が広がれば、不満はうっせきし、不安定な社会になる。下手したら戦争でもやりたいという層だって出てくる可能性がある。格差の拡大はどこまでが許されるのか。自分たちが求める社会がどのようなものか、立場をはっきりさせた上で、問題を見ていくことが必要だ。

―規制緩和の話が出たが、政策面はどうか。

 梅野修政治部長 小泉政権になってから、一段とこういう流れができている。自由競争を許容する人たちが当時はかなりいたが、これほど格差が広がるとは思っていなかったし、気付いていなかった。今度の参院選では民主党が格差是正を争点に掲げ、安倍政権は再チャレンジ政策で格差を固定化させないとしている。あるべき方向性を取材していく。

 平岡委員 緩和すべき規制が多くあったのは事実だ。当時はマスコミもはやしたが、流通の規制緩和は地方都市のコミュニティーを破壊してしまった。本当に直すべきものと、そうでないものの仕分けが必要になっている。

 ―地域格差の記事を読んで感じたことは。

 浜委員 すべての格差問題に共通するが「格差は死に至る病」ということを非常に強く感じた。横並びを義務付けられた日本の行政の中で、結果的に地域の共同体は余計なことを考えずに、旧自治省の言うことに従うことを強要されてきた側面がある。政策や行政、制度が生み出した問題を指摘する切り口が全体的に欠落している。地域格差の特徴を突っ込んで分析する必要がある。

 梓澤委員 地方の街に行くと、寂れている。誰が地方を切り捨てたのかという分析が大事だ。厳しい現実の中でも、街を生き返らせているケースもあると思う。それを掘り起こしてほしい。

 平岡委員 地域間の格差は、東京と地方、同時に地域の中でも中核都市とそのほかの市町村、さらに市町村の中でも格差があり重層的だ。問題になっているのは、「平成の大合併」で行政が広域化し、細かいところに目が届かず行政サービスに格差が出てきたことだ。政策によって出てきた問題にもかかわらず、地方の累積赤字は地方自治体が悪いのだと言わんばかりの報道が多い。もちろん地方にも責任があるが、公共事業や景気対策をどんどんやらせたのは政府の政策だ。国の巨額の財政赤字について、財務省は責任を取っていないことを指摘しておきたい。地域の根幹をどのように立て直すのかを考える場合には、農業についても考える必要がある。

 梓澤委員 安い農産物が輸入されるのだからいいという新自由主義的な発想では、日本の農業はやられてしまう。米国のアジアに対する農業戦略の分析や中国物産の流入などを通じて、日本の農業がどれだけ影響を受けているか。効率とは違う物差しで、政策がどう在るべきかを示すのがメディアの役割だ。

非正社員
 パートやアルバイト、派遣、請負社員など正社員以外の雇用者の総称。人件費削減や雇用調整の容易さに着目した企業が導入を急ぎ、1990年代半ばから若年層を中心に増加傾向が強まった。この4年間で正社員が78万人減少した一方、非正社員は226万人の増。昨年は役員を除く雇用者全体の33%を非正社員が占めるに至った。正社員と比べた賃金水準は男性で64%、女性も69%にとどまる。

【詳報2】世代体験見えない―梓澤氏 彼らの古里とは―平岡氏  団塊の意識問え―浜氏

 世代体験見えない―梓澤氏 彼らの古里とは―平岡氏  団塊の意識問え―浜氏

 ―団塊の世代が大量退職を迎えている。

 平岡委員 団塊の世代は、戦後の経済成長を支えてきた労働力であると同時に消費者だ。退職金や年金の行方、技術の継承がどうなるかということに関心が向かうのは分かるが、個人の生き方を論ずる場合、世代論でくくれるのか。団塊世代には地方から出てきた人が多い。彼らにとって古里とは何かという問い掛けがほしかった。(企業から大量退職する)2007年問題を前に、地方は農業や地域振興のため「帰ってきてほしい」と呼び掛けたが、生活基盤が都会にある以上、そう簡単には帰れない。そういうところにも目を向けてほしい。

 浜委員 70年安保世代が「企業戦士」やマイホーム主義となり、忙しさの中で失った思想性や問題意識をもう一度思い出してほしい。憲法や在日米軍基地問題が不気味な形で出ている時に、真っ正面から戦った経験と実績を持つ人たちが発言してほしい。安倍政権をはじめ、今の政治状況をどう思っているのか知りたい。世論調査などのアンケートにしても、団塊世代に限ってみたらどういった結果が出るのだろうか。

 梓澤委員 団塊の世代は、親の戦争体験を生の言葉で聞いた世代だ。戦争と平和について議論する時にも共通体験を持っている。企画の中で彼らが学生時代にどういう世代体験をしたのかが出ていないのはなぜか。全員ではないが、平和問題でデモに行くのが普通の世代だった。社会に入って激烈に働き、時代をどうくぐり抜けてきたのか。特に憲法問題をどうみているか、取材してほしい。20、30代は「60年たって(憲法が)古いから変えよう」という雰囲気がある。60歳に差しかかった世代はたぶん違うのではないか。

 浜委員 高度経済成長を担い、労働組合の軸となって賃上げを獲得してきた(団塊の)人たちは、今の政権が「上げ潮」とか「底上げ」と経済政策を議論することに、言いたいことがあるのではないか。にわかボランティアなどやっている場合ではないと目覚めるのではないか。

 梓澤委員 団塊世代の退職で労働力不足になる。日本が何百万人かの外国人労働力を受け入れるべきだとの、マイナーだが有力な意見もある。この問題に光を当ててほしい。

 平岡委員 高度経済成長の中で家族や地域社会が壊れてしまった。団塊の人たちが、高度成長の陰の部分をどう考えているか、見えてこない。これが見えると、この世代の政治的関心、社会的関心に結び付く。

 梓澤委員 (団塊世代の)精神の時代軌跡はドラマチックな体験だ。欧州の同世代と比べてずいぶん違う。欧州では、団塊世代の体験が、その後の左翼政権の誕生に結び付く。その体験を掘り返すと面白い。

団塊の世代
 戦後復興期の1947年から49年ごろまでの第1次ベビーブームに生まれた。堺屋太一氏が小説のタイトルで命名。経済成長を支えたが、バブル崩壊後は企業の過剰雇用の要因ともされた。今年から2009年にかけて一斉に定年退職を迎える。年金など社会保障制度に大きな影響をもたらすと予想されるほか、人材不足に陥ったり、ものづくりなどの技能継承に支障が出たりする恐れが指摘され「2007年問題」と言われる。

【詳報3】 政治家の萎縮を懸念 メディアは暴力と対決を

 「報道と読者」委員会は冒頭、長崎市長射殺事件を取り上げた。平岡氏は、射殺された伊藤一長前長崎市長とは1995年、オランダ・ハーグの国際司法裁判所で「核兵器の使用が国際法に違反することは明らか」と陳述した仲。「『同志』という感覚でずっと付き合ってきたので、大きな衝撃を受けた」という。

 自身も広島市長時代、8月6日の「平和宣言」にアジアへの謝罪を盛り込んだ際、右翼の抗議行動を受けた体験を紹介。「自宅や市役所を街宣車が取り囲み『出てこい』とやられた。秘書が撃たれないよう、あまりそばに寄るなと言った。わたしは慣れていたが恐怖感はあった」と振り返る。

 「(事件で)政治家が委縮するようになる気がする。『触らぬ神にたたりなし』という風潮が怖い。政治家の勇気ある発言を支えるのがメディアだ」と強調した。

 また「開発事業で地上げにからんでくるなど、暴力や暴力団の存在を許容する風土があったし、いまも依然とある」と分析。「昔は『ヤクザにはヤクザの世界』があったが、いまは垣根が取り払われ、表に出てきた」とみる。

 「それに対して『ノー』と言わなければならない。暴力との対決をメディアが徹底的にやっていかないといけない。戦前の日本の歴史をみても自由にものが言えなくなった時、社会が変な方向に行ってしまった。その繰り返しを許してはならない」と警鐘を鳴らした。

 浜氏は「一過性の報道で終わらず、背後に何があるのかをずっと追及してほしい」と要望。

 梓澤氏は「今年は朝日新聞阪神支局襲撃事件から20年で、未解決ということをメディアとして強調していくべきだ」と話した。

【詳報4】 「協議経過報道も役割」 抗議対応事例で委員指摘

 共同通信社は第29回会議で、2月22日に配信した関西電力の原発2次系配管減肉調査に関する記事をめぐり、同社から「減肉は定期検査ごとに発表しているのに、全部が新たな事実との誤解を招く配信」と抗議を受けた事例など2件について報告した。

 関電には名古屋支社編集部長らが出向いて老朽原発の課題を正しく指摘した内容で悪意はないと説明、指摘を受けて一部手直ししたことを説明し関電の了解を得た。浜委員は「抗議を受け協議した結果、どう対処したかという経過自体を報道するのも報道の持つ役割ではないか」と指摘した。

 このほか参院補選で、民主党公認候補を推薦と誤り、候補者本人の指摘で翌日「訂正とおわび」で紙面訂正した事例を報告した。

ページ先頭へ戻る