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第28回会議(憲法、国会議員の事務所費)

改憲の既定事実化に警戒を 政治とカネの追及に期待

 共同通信社は17日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第28回会議を東京・東新橋の本社で開き、三人の委員が「憲法」と「国会議員の事務所費」をテーマに議論した。

 前広島市長の平岡敬氏は、安倍晋三首相が憲法改正に意欲を示していることを踏まえ「憲法の条文と現実が合わないから改憲するというのは問題。改憲を既定事実として報道すれば流れは止められない」と指摘。「60年間平和だったことの意味を考えてほしい」と、戦後の日本の歩みを含め息の長い報道を求めた。

 同志社大教授の浜矩子氏は「分析家的に受け止めるのではなく、政治家の"下心"にまで踏み込んだ報道を」と、改憲の動きの背景への切り込みを要望。弁護士の梓澤和幸氏は、自民党が憲法改正手続きを定める国民投票法案の5月3日の憲法記念日までの成立を目指していることについて「国の行く末を左右する法案にはふさわしくない。熟慮期間はもっと長くてしかるべきだ」と述べた。

 国会議員の事務所費問題では、梓澤氏が「政治資金がどこから入り、どこに使われているかを明らかにする取材をしてほしい」と要請。浜氏は「メディアの力で法改正まで盛り上げてほしい」と述べ、透明度を高めるため政治資金規正法の改正にまでつながる報道に期待した。平岡氏は政党交付金の在り方まで含めた論議と報道を求めた。

【詳報1】 改憲の既定事実化に懸念  政治資金の流れ解明を

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第28回会議が17日開かれ、3人の委員が「憲法」と「国会議員の事務所費」をテーマに議論した。

 憲法では、前広島市長の平岡敬氏が「憲法の条文が現実と合わないから改憲するというのは問題。改憲を既定事実として報道すれば流れは止められない」と、現在の改憲論議に懸念を示した。

 国会議員の事務所費問題では弁護士の梓澤和幸氏が「政治資金がどこに使われているかを明らかにする取材をしてほしい」と要請。同志社大教授の浜矩子氏は「メディアの力で法改正まで盛り上げてほしい」と政治資金規正法改正につながる報道に期待した。

両論併記ではなく―平岡氏  政治家の本音えぐれ―浜氏  熟慮期間は長く―梓澤氏

 ―この一年間の憲法企画を中心に読んでいただいたが。

意見陳述する参考人

衆院憲法調査特別委の審査小委員会で意見陳述する参考人ら=06年11月

 平岡委員 憲法は国民が守るべき規範のような受け止め方をされているが、国家権力を制限するのが基本的理念だということを報道がもっと言わなければならない。憲法の条文と現実が合わないから改憲するという考え方が問題だ。改憲を既定事実として報道すれば流れは止められない。六十年間平和だったことの意味を国民に考えてほしい。個条を追って検討していっても「解釈論争」の枠から逃れられない。そうではない議論の立て方をすべきだ。

 浜委員 論説で「なぜ今改憲なのか」という問題提起を、改憲論者の政治家たちにぶつけてほしい。分析的に受け止めるのではなく、政治家の"下心"にまで踏み込んだ報道の視点がほしい。報道と憲法というテーマでもっと突っ込んでも良かったのではないか。目に留まったのは、石破茂元防衛庁長官の憲法解釈に絡んだ「百回言えば本当になる」という発言。背筋が寒くなる思いがしたが、そういう発想で前に進めようとしているのかと感じた。この一言を引っ張り出したのは面白い。逆に言えば「百回言わせれば馬脚を現す」ということだ。百回言わせて本音を引き出すことに今後も一段と力を入れてもらいたい。

 梓澤委員 今の憲法論議は民衆がどういう国を造り上げるのかではなく、政治、政党の議論に流されている。もう一回そこをひっくり返してみる必要があるのではないか。憲法とは何か、立憲主義とは何かを明治憲法、日本国憲法、今回の憲法論議―と歴史の中に位置付けることがあってもいい。二点目として、憲法九条に焦点を合わせた情報をメディアが提供していない。改正論者が欲しいのは九条改正で、それを最も欲しがっているのは米国だ。メディアの歴史に対する責任は極めて大きい。戦争の歴史をきちんと伝え、その時メディアが何をやり、何をやらなかったかを明らかにすれば、若い記者は「われわれの責任は重大だ」と奮起するのではないか。

 平岡委員 平和を言うと「まだそんなことを言っているのか」とよく言われるが、分かりきった平凡なことを言う格好悪さに耐え、手を変え品を変えて同じ問題をいろんな角度から追究しないといけない。大事な問題は一回書いたらそれでいいのではなく、繰り返し問い掛けることがメディアの責任ではないか。日本にとって一番重要なことは、平和を維持することだ。改憲はそれにプラスするのかどうか、という観点が大事だ。

 ―具体的な紙面では。

 浜委員 連載企画「憲法の足元で」は身近な社会の中でどういうことが起こっているかという観点から憲法問題を考えていて非常に良かった。惜しむらくは取り上げている一つ一つのことが、憲法のどことどうかかわるのかを書いてもらうとつながりがよく見える。

 梓澤委員 憲法改正手続きを定める国民投票法案は、自民党と民主党の「談合」で通常国会で通ってしまいそうだが、この国の行く末を左右する法案にはふさわしくない。憲法改正の是非についての熟慮期間はもっと長くてしかるべきだ。

 平岡委員 戦争か平和かというもっと大きな文脈で考えてほしい。安倍晋三首相は使命感を持ってやると言っているが、なぜそんなに急ぐのかと聞きたい。いま国民の関心は暮らしの問題にあるだけに、ちょっとおかしいのではないか。そういう素朴な問い掛けをメディア側がやるべきだ。

憲法改正のための法整備

 ―取材の現場は。

 梅野修政治部長 二〇〇四年と〇五年の二つの世論調査で、憲法改正を容認する人が六―八割近くいて、多数党が憲法改正を前提に議論している。国会論議を伝えていくのがわれわれの役割であり、反対論ばかりに光を当てるわけにもいかない。ただバランスは必要であり、いろいろな意見を紹介していこうという立場だ。

 後藤謙次編集局長 格好悪くても耐え忍んで報道し続けていくという姿勢をもう一度取り戻さなければいけない。マスコミの原点はどうあるべきかということを取材体制や現場の中で立て直すことがわれわれの課題だ。

 平岡委員 通信社としては大変難しいと思う。普通の問題であれば両論併記で、読者に判断を委ねてもいいが、言論、報道、思想の自由や人権、平和にかかわることでは主張を打ち出していいのではないか。これは非常に根本的な問題で、憲法問題にも直結している。国民の側に立つのか国家権力側に立つか、ジャーナリスト一人一人が自分の胸に問い掛けて決すべきだ。そういう覚悟を問われつつある。

 浜委員 大勢が傾いている方向に逆らうというのがメディアというものの本来的な役割だ。われわれにできないことをメディアに期待している。新人衆院議員百人に憲法改正への考え方を聞いた記事では、89%が憲法改正論者だった。一口コメントを読んでいくと、こんな程度のことしか考えていないのかということがよく分かった。

 梓澤委員 少数であるが故にその人たちの思いが伝わらないというのでは、メディアの公共性は果たせていない。その人たちに味方せよというわけではない。少数派と多数派の見解がぶつかり合って討議の公共空間を作り出していくことにメディアは貢献するべきだ。

国民投票法案
 憲法改正に必要な国民の承認を得るための投票制度を定める法案。憲法96条は改正規定を設けているが、具体的な手続きは整備されていない。昨年5月に自民、公明両党と民主党がそれぞれ法案を提出。衆院憲法調査特別委員会での審議などを通じ、昨年の臨時国会までに(1)投票権者年齢を「原則18歳以上」(当面20歳)とする(2)新たに衆参両院に設ける憲法審査会での具体的な改憲案の審議を3年間凍結―など9項目の修正で大筋一致した。与党は憲法記念日の5月3日までの成立を目指す方針だが、野党は慎重審議を求めている。

【詳報2】 カネはどこへ―梓澤氏  今後の追及に期待―浜氏  モラルを厳しく―平岡氏

 ―国会議員の事務所費問題報道について。

 梓澤委員 政治資金規正法にこう反しているというだけではあまり面白くない。問題は(事務所費として政治団体から出た)カネがどこへ行ったのか。実態論の取材を詰めていただきたい。政党交付金と一緒に政治家個人のところに入っているのではないかという疑いが本当の関心事ではないか。カネの「入り」では、どういう人たちの利益のために政治家が動いているのかも明らかにしてほしい。二点目に庶民の声。こういう人だったら私はもう投票したくないという声があるのではないか。格差で苦しむ人たちは、カネの大きな動きをどう見ているのか明らかにしてもらいたい。

 平岡委員 制度上の欠陥を利用した政治家のモラルを厳しく問わなければならない。もう一つは三百億円を超える政党交付金をもらいながら何でこんなことになるのかということ。政界は自浄能力が大変弱い。マスコミが報道を通じて監視をしっかりしていかなければならない。また政治になぜそんなにカネがかかるのかということも掘り下げて報道してほしい。かつては失言放言ですぐ閣僚の首が飛んだが、今は飛ばない。少々放言しても日常茶飯事で大丈夫ということなのか、メディアがしっかりしてほしい。

 浜委員 これからも続けられる追及の第一部と受け止めた。これからに強く期待する。カネが政治をどう動かし、政治がカネをどう動かしていくのか。米国のウォーターゲート事件並みの大政変につながるような動きになればと思う。政治とカネのからくりがこれだけ次から次へ出てくると、これはもう日本の大政党のスタンダードプラクティス(慣行)になっている感じだ。その背景には何があるのか。政策を担う人々が、並みの神経では考えられないことを集団的にやっている。まともな社会とはいえない。報道された、政治とカネの関係を前提にしている人たちであるが故に、今のような政権が出来上がっていると思う。その辺りの関係をしっかり示すのが次の課題になる。専門家のコメントがないのも気になった。

 梓澤委員 これだけ大きなカネはどこへ行っているのか。

 牧野和宏社会部長 まさにブラックボックスで、追及のテーマだ。

 浜委員 制度の透明性を高めなければならない。メディアの社会的な役割という意味では、法律を変えさせるところまでいくべきテーマと思う。事務所費で領収書の添付も必要なく何億というカネになっていく。こんなことが許されては、まともな国と思われない。

 平岡委員 政党助成制度の見直しをすべきだ。企業献金をやらない代わりだったのに、本来の意味を失っている。

内訳

 ―法律家から見て、どこに問題があるのか。

 梓澤委員 カネがどこへ出て行ったのかは、領収書を取れるのだから領収書を取らせる。政党交付金はその目的に沿って使われた公金である以上、より厳しい管理が求められるべきだ。事務所費だけでなく、政党交付金の行方をきちんとフォローできる制度が必要だ。政党交付金がこのまま続けられていいのかという議論に発展していい。

 浜委員 共同通信として最終章をどう想定しているのか。

 牧野社会部長 例えば政治団体が土地、建物を所有しているケースで、政治家本人が政治活動をできなくなった場合、どうするかという問題もある。そういう制度上の不備を一つ一つ洗い直していく必要がある。実態を取材する中で問題点をあぶりだしながら考えていきたい。

 平岡委員 与党、野党問わず議員は自分たちの損になることでは団結してしまうので、うやむやになる可能性がある。何でカネがかかるのかというと、選挙がある。その政治風土を変えていかなければならない。

政治資金規正法
 政治資金の透明性を確保し政治腐敗を排除する目的で1948年に制定、これまでに7回、大きく改正された。政治団体に毎年、政治資金収支報告書の提出を義務付けている。報告書の支出の項目では、事務所費や光熱水費などの経常経費は領収書添付の必要がなく、総額だけを記載。政治活動費は5万円以上の支出に日付や目的、領収書の添付が必要となっている。不動産所有も認めているが、報告には契約書などの添付書類は不要で、団体解散時の取り扱いなどの規定もない。

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