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第24回会議(人工呼吸器外し問題、在日米軍再編)

延命指針に患者の視点を  米軍再編に危機感希薄

 共同通信社は二十日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第二十四回会議を東京・東新橋の本社で開き、三人の委員が「人工呼吸器外し問題」と「在日米軍再編」をテーマに議論した。

 富山・射水市民病院の呼吸器取り外し問題では、厚生労働省が策定を検討している延命治療の在り方に関する国のガイドライン(指針)について弁護士の梓澤和幸氏が「患者や家族の意見を取り入れる指針づくりが行われるか、メディアが監視を強めてほしい」と述べ、患者や家族側の視点が必要と強調した。

 前広島市長の平岡敬氏は「指針をつくっても(基準)すれすれの問題が出てくる。最後は医師の判断であり、医師の全人教育が重要だ」と指針づくりに慎重な姿勢を示した。同志社大教授の浜矩子氏も「指針を出すことが求められるという方向の論調には警戒心を持つ」と述べた。

 在日米軍再編問題に関して平岡氏は「米国の世界戦略に日本が組み込まれてしまった。日本側に全く戦略がなく米国の土俵の上でやってしまった」と指摘。「(政府は)軍拡ではなく軍縮の方向を打ち出すべきだ」と提起した。

 梓澤氏は「米軍再編が普天間(飛行場移設)に収束しては(米軍の軍事行動に対する)危機感が迫ってこない」と指摘。浜氏も「報道の視点が(騒音問題など)ミクロになれば喜ぶのは日本政府ではないか」と述べた。

【詳報1】 延命指針は慎重対応を  戦略欠いた米軍再編協議

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第二十四回会議が二十日開かれ、三人の委員が「人工呼吸器外し問題」と「在日米軍再編」をテーマに議論した。

 延命治療の在り方に関する国が検討しているガイドライン(指針)策定について前広島市長の平岡敬氏は慎重な姿勢を示し、同志社大教授の浜矩子氏も同調。弁護士の梓澤和幸氏は「メディアが監視を強めてほしい」と述べた。

 在日米軍再編に関して平岡氏は「日本側に全く戦略がなく摩擦の種が残った」と指摘した。

信念を知りたい―平岡氏  指針作りの監視を―梓澤氏 同意めぐる議論必要―浜氏

 ―終末医療をめぐる安楽死あるいは尊厳死の問題。事実経過と今後の展開について説明を。

記者会見する麻野井院長

人工呼吸器取り外し問題で記者会見する、射水市民病院の麻野井英次院長(左端)=3月26日、富山県射水市

 丸山慶一名古屋支社編集部長 昨年十月十二日、富山県の射水市民病院で、外科部長が患者の人工呼吸器を取り外そうとした。五年間で末期患者七人の呼吸器が外され死亡していた。カルテには家族の同意が記されていたが、病院から届けを受けた県警は殺人などの疑いで捜査している。取材できた遺族は、取り外しに同意したと答えた。捜査のポイントは死亡との因果関係だが、東海大病院事件判決の延命治療中止要件も念頭に置く。書類送検の容疑は何か、延命治療に関する厚生労働省のガイドライン(指針)作りがどうなるか、取材を尽くしたい。

 ―全体的な感想を。

 梓澤委員 第一報の殺人事件という取り上げ方は問題の性格とは違うのではないか。いろいろな考え方が錯綜(さくそう)する中、ある医師が医学上の選択をした面がある。両論併記的にした方がいい。そもそも尊厳死を受け入れるかどうかの相当突っ込んだ倫理的、哲学的解明があっていい。医療倫理学などの識者見解をフォローすべきだ。医療費削減や病院経営の都合ではなく、患者らの意見が反映された指針作りが行われるかの監視も強めてほしい。

 浜委員 今は格差の時代と言われ、その面が出ている。特にインフォームドコンセント(十分な説明と同意)。情報を持っている医師と患者には大きな格差があり、今回の問題は医師に安心してすべてを託すわけにはいかないことを突き付けた。それと「国の指針が求められる」という記事のまとめ方はまずい。指針自体が必要なのか、「国とは何だ」という議論もある。その方向でメディアの論調が流れることに強い警戒心を抱く。また時間の経過とともに問題の受け止め方が大きく変わってきた。全体像を把握するには構成を考えた記事が必要だ。

 平岡委員 外科部長は一種の信念を持っていると思う。それを知りたい。今、死生観の問題が医師、患者、家族で共有されていない。病院で生まれ死んでいく。死を自然の営みとして受け入れる余地がない。延命治療問題は医療技術の進歩が背景にあるが、倫理が追いつかない。医師の人生観、死生観が問われているが、見えてこない。自信がないから、判断できないから指針が欲しいとなる。しかし「延命治療を中止してもいいよ」という観点からできてくるのはおかしい。世の中には今「社会的負担になる者を切り捨てる」という考え方がある。効率至上主義が幅を利かせているだけに、「意識なく生きているのは無駄」という危険な考えがはびこる可能性があり、指針が後押ししてはならない。

 ―報道の内容が変化してきたという指摘があった。その経緯を。

 丸山名古屋編集部長 県警が殺人などの容疑で捜査しているし、外科部長の行為が倫理的、道義的にもどうかというところから始まったが、細かく取材していくと、背景にある終末期医療の在り方に焦点が移った。ただ安楽死や尊厳死の現状もサイド記事や識者談話などで当初から押さえている。

 平岡委員 ニュースとしては、法に触れるかどうかだろうが、指針ができても境界すれすれ、ぎりぎりの場面はある。それを判断するのは医師。だから医師には人間性を調和的に発達させる全人的教育が必要だ。医師の教育にも焦点を合わせてほしい。技術の進歩はプラス面もあるが金持ちしか医療を受けられない時代が来るとも言われる。指針が格差を助長させるよりどころになってはならない。防ぐのはジャーナリズムの仕事だ。

 ―三氏から安易な指針を否定する意見が出た。医療現場の声は。

 中村慎一科学部長 最近出した特集記事で末期患者を診ている五人の医師に話を聞いた。委員指摘のようなさまざまな見方を持っており、延命治療の中止は医療現場でも統一的な扱いがない実態が見えてきた。海外の事情も取り上げた。印象的だったのは、米国で延命治療中止が認められた女性の母親が「一例ごとに状況が異なるので論争は今後も繰り返される」と語っていたこと。境界線上でそれぞれ難しい問題があり、その都度考えていく必要がある。指針は、医師が最後の逃げ道として持っておきたいのかなと思う。患者に不利にならないかという点はきちんと報道したい。またオランダは安楽死を法律で認めているが、医療費は保険でカバーされ、経済的理由による治療中止はない。そんな保障の中で、本人に死を選ぶかを聴いている。

 浜委員 本人同意の原則は分かるが、それだけでいいのか。お墨付きとして振りかざされるのはどうか。どの時点の意思なのかも重要。本人同意をめぐる議論があまりされていないように思う。

 ―指針については指摘の点も踏まえ、社会部、科学部で今後も追いかけていきたい。

安楽死と尊厳死
 安楽死は、助かる見込みがなく、苦痛の強い患者を人為的に死に導く行為。生命維持装置を外すなど延命治療を中止する「消極的安楽死」と、薬物投与などによる「積極的安楽死」に大別される。患者本人の意思に基づく消極的安楽死を一般に「尊厳死」と呼ぶ。東海大病院事件で1995年の横浜地裁判決は、治療中止の要件として(1)回復の見込みがなく死が避けられない末期状態(複数医師の反復診断が望ましい)(2)患者の意思表示(本人の意思を推定できる家族の意思表示でも許される)―などを示した。

【詳報2】 非核化の道筋必要―平岡氏  再編の次は改憲か―浜氏 国会対応に批判を―梓澤氏

 ―日米両政府が在日米軍再編の最終報告を合意した。米国の世界戦略、日本の在り方、沖縄の基地問題などについてどういう見解を持ったか。

 平岡委員 最終合意で米国の世界戦略に日本が組み込まれてしまった。憲法、日米安保の枠を踏み外してしまった感じがする。日米安保は米軍が日本を守るということだったが、今度は日本が米国の国益を守る。日本側に全く戦略がなく米国の土俵の上で交渉した。安全保障は周辺国との関係を良好にして安全を分かち合う関係をつくっていくのが本来だ。軍事力一辺倒になってしまうと緊張が高まる。

 浜委員 米軍再編は米英同盟を模して日米同盟を再編するということがはっきり形になった。大いなる怒りとともにつくづく思う。この枠組みで憲法改正という方向性も追求されそうな勢いだ。

 梓澤委員 こういう重要な決定について国民主権はどうなっているのか。特に政治家たちは何をしてどう考えて、国会でどういう議論をしたのか。メディアにそういう批判がないのではないか。世界規模での日米軍事同盟という分析に加え、在韓米軍、在日米軍の二つの再編を総合し、北朝鮮への先制攻撃、自衛隊の後方支援という地域的側面も見るべきだ。

 ―基地問題についてはどう見ているか。

 平岡委員 政府が軍事力によって自国の安全を保とうという考え方でやってきた結果、引き返すことができないところまで来ている。沖縄も岩国も基地がなくなるのかどうかの展望が持てなくなった。将来展望を持っていれば基地縮小の道筋を提示して周辺住民に理解を得られたかもしれない。戦略が何もないまま(基地周辺住民の)頭越しにやったから摩擦の種が残った。道筋を示さない限り、国と地方自治体・住民との摩擦はずっと残っていくだろう。

 浜委員 住民の意向で国の方針が左右されるのはナンセンスという意見や地域エゴという言い方さえあったが、その時の国とは何か、住民は国民ではないのか。住民の地域エゴとされる場合の国の主体は一体どこにあるのか考えさせられた。

 ―日本はどういう戦略を持つべきか。

 平岡委員 アジア地域に基地がなくてもいいような状況をつくらないといけない。朝鮮半島と日本の非核化に道筋をつけるのが日本の外交戦略だと思う。日本は軍拡ではなく軍縮の方向を打ち出すべきだ。

 ―一連の米軍再編報道についての感想は。

 平岡委員 日本はアジアに友人がいないから、米国に頼るしかないというムードをつくってしまった。日本の危機とは一体何か、あるとすれば、どうすればいいかを外交戦略としてきちんと示すべきだ。日本の安全をどうやって守っていくのか、根源的な問い掛けをこの機会にしないとどうにもならない。

 浜委員 報道の視点が(騒音問題など)ミクロになれば喜ぶのは日本政府ではないか。政府がそういう方向に誘導しているとすればメディアはそれに乗ってはならない。「対米追随でだらしない」で報道が終わってしまったのでは、政府の考えをえぐり出すことができない。どういう観点から対米追随という世界観につながるのかの取材が必要ではないか。

 梓澤委員 朝鮮半島の軍事衝突はソウルで五百万人の死者を生むともいわれる。三八度線とソウルから米軍が南の基地に下がって身の危険を避け、韓国軍が前に出されるのが在韓米軍の再編だ。現地は米軍の先制攻撃の危険があるとの見方が有力で日米軍事同盟の危険も指摘される。在韓、在日二つの米軍再編を総合した分析をやってほしい。

 ―対アジア外交への影響は。

 平岡委員 ストックホルム国際平和研究所の資料では、軍事費で米国が断トツの一位で、日本は英仏に次ぎ四位だがアジアでは一位。軍事費大国の軍事同盟はアジアの周辺国にとってすごい脅威だと思う。平和を目指すのであれば緊張緩和の方向で戦略をきちんと出し、東北アジア非核地帯といった目標を設定して努力すべきで、国民もそれを支持するという形にならないといけない。

 梓澤委員 米軍再編では座間に米陸軍第一軍団司令部が改編、移転し、自衛隊の対テロ中央即応集団司令部が同じく座間に移転するなど、日米共同作戦体制が具体的に進展する。米軍の北朝鮮への先制攻撃があれば、日本はいや応なく戦争の主体になり、有事(戦時)法制が動く。アジアに絶えず緊張をつくり出していくという米国の体制に組み込まれることで日本はアジアで孤立しつつある。

在日米軍再編
 米中枢同時テロ後の安全保障環境の変化に伴う米軍の世界的再編の一環。日米両政府は、抑止力維持と地元負担軽減を原則に協議を進め、今年5月1日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で在日米軍再編の最終報告について合意した。最終報告は普天間飛行場(沖縄県)のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設、在沖縄海兵隊員約8000人のグアム移転、キャンプ座間(神奈川県)への米陸軍第1軍団司令部の改編・移転などを明記している。関係自治体との調整や約3兆円に上るとされる経費関連負担などが政府にとって重い課題となっている。
普天間飛行場移設問題
 日米両政府は1996年、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の返還、移設で合意。政府は99年、同県名護市の「辺野古沿岸域」への移設計画を閣議決定した。だが反対派住民の抗議行動などにより昨年10月、米軍再編に関する中間報告の中で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設先を変更。今年4月に政府と名護市は同沿岸部にV字形に滑走路2本を建設することで合意。日米両政府が5月に合意した在日米軍再編に関する最終報告に盛り込んだ。

【詳報3】 「訂正経緯の報道を」

 共同通信社は第二十四回会議で、自宅から出ようとした女性運転の車が、自宅前を掃除していた母親に接触、母親が転倒して死亡した事故を「娘の車が母親をはねる」と報じた記事をめぐるトラブル対応について報告した。

 女性側から「ちょっと当たったかもしれないが、転んで心臓まひを起こしたようだ。はねるはおかしい」と抗議を受けた。警察発表は「接触」で、いつもの交通事故の表現で書いたことが分かり、女性側に謝罪。司法解剖でも死因は特定されなかったことを伝える続報で「接触」と訂正し、配信先の新聞社に掲載してもらった。

 浜委員は「抗議があり、続報で訂正した経緯は報道されるべきだ。この続報では読者には分からない」と指摘した。

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