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第16回会議(少年事件報道、プロ野球再編問題報道)

少年事件、親世代の分析を  球界全体の構造に迫れ

 共同通信社は九日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第十六回会議を東京・東新橋の本社で開き、長崎の小六女児事件など少年事件報道とプロ野球再編問題報道について論議、「少年の親世代に接近して分析を」「球界は大きな曲がり角にあり、全体の構造分析が必要だ」などの意見が出た。

 少年事件報道について前広島市長の平岡敬委員は「事件の原因を性急に求めすぎだ。『よく分からず報道側も悩んでいる』という観点を出してもいいのでは」と述べ、日本総合研究所理事長の寺島実郎委員は「団塊世代以降の私生活主義、拝金主義の価値観が背景にある。親の世代の価値観に迫るべきだ」と主張した。

 明治学院大法科大学院教授で元検事の渡辺咲子委員は「法改正で少年院収容年齢を引き下げるというが、少年院は過剰収容状態。隔離すればいいと思っていないか。税金が増えても少年院を作るのがいいのか。国民の選択に役立つ情報を出すべきだ」と求めた。

 球界問題で寺島委員は「巨人の渡辺恒雄前オーナーの『たかが選手』発言で報道が勧善懲悪に走っている。プロ野球全体の構造分析が必要だ」と注文した。

 渡辺委員は「経営側がストに対し賠償請求すると言った時、記者は基礎知識がないのかぱっと切り返せない」と指摘。平岡委員は地域密着型の球団経営に言及し「プロ野球は大きな曲がり角を迎えている。未来を分析してほしい」と述べた。

【詳報1】 少年事件、親世代を探れ  プロ野球の構造分析を

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第十六回会議が九日開かれ、平岡敬前広島市長、寺島実郎日本総合研究所理事長、渡辺咲子明治学院大法科大学院教授の三委員が、長崎の小六女児事件など少年事件報道とプロ野球再編問題報道について論議した。

 少年事件報道では平岡氏が「原因を性急に求めず、『よく分からず報道側も悩んでいる』との観点を出してもいい」と述べ、渡辺氏も「捜査段階は非常に流動的。どこまで報道できるか不安に思う」と懸念を示した。寺島氏は「親の世代の問題を体系的に追うべきではないか」と主張した。

 球界問題で寺島氏は「プロ野球全体の構造分析が必要だ」と指摘。平岡氏も「曲がり角にあるプロ野球の未来を分析してほしい」と述べた。

性急に結論求めずに  読者の視界広げる情報を

 ―長崎の小六女児事件など衝撃的な少年事件が相次いでいる。

 平岡敬委員 分厚い報道がされているが「これで動機が分かった」とはならない。読者もそうだと思う。そこが少年犯罪の特徴だ。初期段階は警察の情報に頼るしかないが、動機は調べる人の解釈によって決められ、大人の意識が投影される。捜査機関が動機を決め、マスコミが報道して事件の性格が決まってしまうが、大人にしても子どもにしても「動機なんて本当は分からない」というのが真実ではないか。動機や原因についてあまり性急に結論を出さなくていいと思う。「報道側も悩んでいる」という観点を出してもいいのではないか。

ムード的報道避けよ

 渡辺咲子委員 家裁がなぜ決定や精神鑑定の内容を詳しく公表しなければならないのか。加害少年の付添人も接見後に会見して少年の様子を語る。世間が驚いている事件について、たくさん説明しなければならないと家裁も付添人も報道も思うのだろうが、ムード的に情報を流しすぎてないか。それに一つの事件から一般論を導き出すのはどうか。一つのサンプルで正しい答えが出るはずがない。読者は結局は「ネット社会」や「母子関係」といった事件を説明するキーワードを見つけたい。報道の方もそれに応えて無責任にキーワードを出していないか。

 寺島実郎委員 少年事件を深く継続して報道するなら親の世代への接近が必要。団塊の世代以降、戦後生まれの欠陥が出てきているとしか思えない。私生活主義と拝金主義。今の小学生の親は、さらに私生活主義にどっぷりひたった環境にいる。事件を起こした当人の親を断罪するということではなく、親の世代の問題をもっと体系的に追うべきだ。こういう事件が起きると懲罰主義に走りかねないが、目線を広げるのが報道の役割だ。

 ―共同通信の姿勢は。

 水谷亨共同通信社社会部長 基本姿勢は、少年の健全育成を目的とした少年法の精神を踏まえつつ、国民の知る権利に応えるため事件の事実関係や背景について適切な報道をするということ。周囲から情報を集めて事件の真相に迫り、いろんな素材を読者に提供する必要があると考えている。

 ―事件の初期段階の報道については。

 渡辺委員 起訴されるまでの捜査段階というのは非常に流動的だ。事実関係が不確定なものをどこまで報道できるのか不安に思っている。

 ―小六女児事件ではネットが事件の要因の一つとされたが。

 寺島委員 背景には閉じた人間関係という問題もある。長崎の女の子の世界はネットと日記だけ。一人で憎悪が盛り上がってしまう。「人間関係の過疎化」みたいなものがある。だから普通の子が突然、逆上する。そういう子供たちの状況を突き動かすヒントになるような話が記事で紹介されれば大変参考になる。

 平岡委員 おしゃべりではなく、チャットという無言の会話が日常の世界と幻想の世界の境目をなくしてしまうのだろう。言葉による人のつながりと、文章による人間関係は何か違うのかもしれない。その解明も必要。

 渡辺委員 昔だって、交換日記とか手紙とか情報交換はあった。それを禁止したからといって今回のような犯罪がなくなるわけではない。ネットを強調すると道を誤るのではないか。

社会性えぐり出せ

 ―茨城県警が五月、少年ら容疑者の似顔絵を公開したが、共同通信は「緊急性がない」として配信しなかった。十月の広島県の高二女子殺害では「少年の可能性がある」との「おことわり」をつけて似顔絵を配信した。

 渡辺委員 少年の可能性があったら似顔絵も一切出さないというのはおかしい。だが、安易に利用されたら困る。

 寺島委員 世界的には少年犯罪でも公開してきちっと処断していくという流れで、その方向に僕は共感する。ただ、やった少年を処断すれば終わりではなくて、事件の背後に横たわる社会性をえぐり出すということでなければいけない。

 平岡委員 報道側には少年法の理念の堅持を期待したい。そうでないと大衆感情に流され少年法をもっと変えようということになる。それで解決すればいいが、刑事罰の対象の十四歳以上を十二歳にしても解決しない。

 ―十四歳未満も少年院に送致できるようにと、法改正が諮問されたが。

 渡辺委員 収容年齢を下げ、要するにみんなぶち込めということになるが、少年院は現在でも五人部屋に七人とか、すごい過剰収容。まともな更生教育をできる状況にない。刑法の重罰化も同じで刑務所も過剰収容だ。隔離すれば安全な社会になると思っていないか。税金を増やして少年院や刑務所をつくり、職員を大増員するのが国全体のバランスとして健全なのか。国民の選択に役立つ情報を出してほしい。

 寺島委員 年齢にかかわらず責任が伴うという教育的な視点を含めた少年法の見直しが必要と思う。その際は、厳罰主義だけではこの問題は解決しないという視点を絶えず並走させて持っていないといけない。社会の構造の問題だということを、社会的に認識することが前提だと思う。

長崎の小6女児事件
 6月1日、長崎県佐世保市の小学校で、6年女児(12)が同級生の女児(11)に首をカッターナイフで切られ、死亡した。長崎家裁は9月15日の少年審判で計画的な殺害と認定、加害女児は児童自立支援施設に送致された。
少年事件の似顔絵公開
 少年の捜査は原則非公開とされてきたが、警察庁は昨年12月(1)犯罪が凶悪(2)再犯の恐れが高い(3)捜査上他にとるべき方法がない―などの場合に少年でも氏名や顔写真を公開できるとの新基準を示した。
初適用は2000年に茨城県で起きた強盗致死事件で、同県警が今年5月、少年とみられる容疑者らの似顔絵を公開。広島県廿日市市で10月、高2女子が刺殺された事件では広島県警が若い男の似顔絵を公開した。
少年法の関係条文
 少年法第二二条二項 審判は、これを公開しない。
第六一条 家庭裁判所の審判に付された少年または少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事または写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない

【詳細2】 球界の未来示す視点を  裏金問題は消化不良

席立つ古田会長と瀬戸山氏

記者会見を終え、互いに背を向けて席を立つ、日本プロ野球選手会の古田会長(左)とロッテの瀬戸山球団代表=9月17日、都内のホテル

 ―球界再編問題の報道について感想を。

 寺島委員 巨人の元オーナー、渡辺恒雄氏の「たかが選手」発言をきっかけに、勧善懲悪のような構図で選手会は白、オーナー側は黒というイメージの報道になってきた。少年たちの関心はサッカーに向かい、野球に運動能力の高い人が入るのは減っている。そういう状況で、十二球団を維持できればおめでとうという単純な話ではなく、一リーグさえ維持できるのかというところまできている。それが、渡辺恒雄氏はけしからんという変なエネルギーに支えられ、一つの流れができている。もう少し構造分析が必要なのではないか。

 渡辺委員 渡辺恒雄氏が辞めるに至った巨人のスカウト活動違反問題の掘り下げがなぜないのか。消化不良だった。プロ野球の問題というのは、ほとんどそこに尽きるのではないか。今の高校野球、大学野球、プロ野球は昔ながらの徒弟制度みたいな、裏金が動く世界を容認したままで動いている。そういう構造的問題を切り崩していかないと「ライブドアか楽天か」という面白い話だけで終わってしまう。

 平岡委員 事態が流動的で、新球団の参入やさまざまな発言に振り回されがちだが、一リーグ構想も全く消えてしまったわけではないだけに、プロ野球の未来をどう切り開くのか、誰のための改革かという視点を忘れずに報道してほしい。また、コミッショナーの責任がもっと追及されるべきだった。

 ―選手会との労使交渉が注目された。

 渡辺委員 わたしが法律家だからかもしれないが、雰囲気だけで「古田(敦也選手会長)頑張れ」みたいな報道ばかりだと感じた。例えば、ストをやったら経営者側が損害賠償を請求すると言うのに対して「選手会には労働組合が認められているのに賠償請求なんてことを堂々と言えるのか」とパッと切り返せないのは、報道陣に労働法の基礎知識もなくなってきたのかなという気がする。

 平岡委員 経営側の閉鎖性に警鐘を鳴らす意味でも、もっと「古田頑張れ」というニュアンスの記事があってもいいと思う。損害賠償請求についての解説記事がなかったことについては、わたしも疑問を持った。損害賠償と経営者に言わせたのは、世の中全体がストなんて過去のものと思っている反映かもしれない。

 ―プロ野球の行方については。

 寺島委員 野球が生き延びるとしたら、地域性というキーワードか、アジア太平洋リーグみたいな企画だとか、そういう方向に行かなきゃいけない。ライブドア対楽天の議論に巻き込まれて、それがこの問題の解決に近い構図だみたいなことしか報道されない。パターン化された情報を首をかしげながら見ている。

 平岡委員 Jリーグは地域密着という理念で地道にやってきた。プロ野球もこれからは巨人依存体質を改善し地域密着でやっていくべきではないか。地方に生きる者としては、スポーツの地方分権は歓迎すべき流れだし、大げさに言えば、日本の社会構造の変動の予兆であってほしい。

 渡辺委員 今回の問題でプロ野球の影響力、スポーツの力を実感した。学校スポーツとの関係など、問題は全体の構造の中から出てきている。国民スポーツの在り方にまで広げた視点が欲しい。

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