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第15回会議(小泉純一郎首相の政治手法、皇太子発言と報道の在り方)

首相手法に危機感を  天皇制議論の契機に

 共同通信社は二十四日、外部識者でつくる第三者機関「報道と読者」委員会の第十五回会議を東京・東新橋の本社で開き、小泉純一郎首相の政治手法、皇太子発言と報道の在り方をテーマに論議した。

 前広島市長の平岡敬委員は、小泉首相の政治手法について「年金改革、自衛隊のイラク多国籍軍参加も十分な説明がないまま決めた。メディアが厳しく批判しないと、国会の崩壊につながる」と危機感を表明した。

 明治学院大法科大学院教授の渡辺咲子委員は、首相が参院選後も政権を担当していることについて「(参院選で)支持が得られなかったら、衆院を解散して民意を問うのが憲法の筋道だ」と問題提起。日本総合研究所理事長の寺島実郎委員は、報道機関の世論調査に関し「(参院選では)保守化していたサラリーマンが年金問題で危機感を高めた。社会構造の変化に踏み込んだ分析に欠けている」と述べた。

 「(雅子さまの)人格を否定する動きがあった」との皇太子発言をめぐっては、平岡委員が「憲法が定める天皇像と、実際とにギャップがあることが明らかになった。皇族の公務について議論すべきだ」と提起。寺島委員は「発言は象徴天皇制について国民が考えるきっかけになる。文化の統合のシンボルとしての役割を根付かせる方向で報道を」と述べた。

 渡辺委員は「時代が変わる過渡期の問題だ。皇室が人間としてどこまで制約を受ける環境なのか伝えてもいい」と指摘した。

【詳報1】 政策判断の過程追及を  皇族の公務で問題提起

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第十五回会議が二十四日開かれ、平岡敬・前広島市長、寺島実郎・日本総合研究所理事長、渡辺咲子・明治学院大法科大学院教授の三委員が小泉純一郎首相の政治手法、皇太子発言と皇室報道の在り方について論議した。

 寺島氏は首相の政治手法に関して「情報をどのように集積して首相が政策判断しているのか。意思決定のプロセスを執拗(しつよう)に追い掛けてほしい」と強調。渡辺氏は参院選での自民党敗北を踏まえ「(衆院を)解散して民意を問うのが憲法の筋道だ」との考えを示した。

 皇太子発言については平岡氏が「皇族の公務が何かは一度議論すべき問題だ」と指摘、寺島氏は「発言をきっかけに国民が象徴天皇制を考えていかなくてはならない」と述べた。

 読者対応事例として、四月の前回会議以降に読者から寄せられた配信記事への苦情、意見など四件を報告した。

首相スタイルに批判を  衆院解散が憲法の筋道

演説する小泉首相

7月、参院選の街頭演説で支持を訴える小泉純一郎首相=東京・浅草

 ―参院選結果も踏まえ小泉政権三年の総括を。

 平岡敬委員 (小泉純一郎首相は)サプライズ(驚き)でメディアを引っ張ってきたが、連発して魂胆が見破られたのが参院選の結果だという気がする。年金改革も、自衛隊のイラク多国籍軍参加も、十分な説明がないまま決めた。答弁に窮すると、見解の相違だと打ち切ってしまう。この問答無用スタイルを、メディアは厳しく批判すべきだ。そうしないと国会の崩壊につながる。

 渡辺咲子委員 今度の選挙結果から言えば、メディアを含めて青臭い書生論を忘れてしまったのではないか思う。議会制民主主義である以上、支持が得られなかったら(内閣は衆院を)解散して民意を問うというのが憲法の筋道だ。

 寺島実郎委員 共同通信の記事を見て(小泉内閣の)内政、外交を支える政策思想やビジョンを、国民の目線からもう少し深い評価の基軸ができなかったのかなと思う。世論調査の手法では、新しい次元の社会学的手法を使った日本の社会構造の変化に踏み込んだ分析に欠けている気がする。(参院選では)サラリーマンたちに年金という問題が見えた瞬間、急に危機感が高まった。

 後藤謙次共同通信社政治部長 小泉首相のメディア利用は、われわれの攻撃目標だったが、またやられたという感じだ。投票一週間前の世論調査で自民党に非常に厳しい結果が出た後、社会保険庁の人事や(曽我ひとみさんの夫)ジェンキンスさんのジャカルタへの搬送など、矢継ぎ早に〝選挙隠し〟があった。

 ―小泉政権の本質が今回の参院選で相当程度表れてきたと考えるが。

 寺島委員 (政策判断する際に)材料となる(各省庁の)情報をどのように集積して首相が判断しているのか。意思決定のプロセスにかかわる構造を執拗(しつよう)に追い掛けてもらいたい。例えば北朝鮮問題で、日朝国交正常化交渉をやり遂げるという気迫を見せるなら、どういう政策論でアジア、北朝鮮外交を展開していくのかを問い詰める記事を期待したい。

 平岡委員 与野党ともに、日本を将来どうするのかという方向が見えない。長期的な展望や政策を国民に訴えるのが政治の基本だと思うが、メディアもあまり問うていない。参院選以後も、憲法改正問題でもう少し視野を広げた報道があっても良かったんじゃないか。現実に(理想である)憲法を合わせていこうという世論に歯止めをかけるのがメディアの役割だ。

 渡辺委員 今の改憲論議は九条だけ変えればいい、日本が国際貢献するために九条を変えるんだと、それしかない。そのときに民主主義は、基本的人権はどうなるのかといった問題提起もしなければならない。憲法の構造全体を問い掛けていく必要がある。

 寺島委員 メディアの人は、脈絡のない政策を許さないとの厳しい視線でにらんでいなければならない。例えば靖国問題で「なぜ、あなたは靖国神社に行くのか」と小泉さんに問い掛けると、「二度と戦争を起こさないため」という。A級戦犯合祀(ごうし)の神社にあえて行くというのは論理的には東京裁判を否定することになるのに、実は世にもまれな親米政権。そこで企画したら面白いだろうと思うのは、小泉首相とブレア英首相の比較。二つの親米政権がどういう末路をたどるのか対比させてみてはどうか。

 平岡委員 小泉首相のパフォーマンスは、悩ましいが、報道せざるを得ない。その際、基本的に報道する側が小泉政治を支持するのか支持しないかで(報道内容が)決まるのではないか。ただ、そういう政治的立場を通信社が取れるのかどうか非常に難しいと思う。

 ―小泉政権はスローガンから、中身が問われる時代に入ったのでは。

 国分俊英共同通信社編集局長 小泉首相のやり方が集中的に悪い方に出てきたのは、最近のことだ。構造改革がだんだん中身に入ってくるトレンドと重なっている。手法の中身の空虚さが、ガバッと出てきている段階なのかなと思う。

 渡辺委員 法律の分野では裁判員法が成立したが、国民が裁判に参加する民主主義の理想だということでメディアも褒めたたえ、総論的には反対のしようがない制度だ。ところが、それとセットで出てきた刑事訴訟法の改正は、非常に職権主義的、戦前の裁判に近い構造がある。司法ネットも同じで、刑事裁判にとっては危機的な制度だ。裏に隠れたというか、セットになった部分を、あぶりだしていくのがメディアの責任だと思う。

 寺島委員 本当の改革論とは何かをやってほしい。例えば政治改革。細川内閣のときに選挙制度を手直しし、中選挙区から小選挙区に変更した。賛成する人は改革派で、反対は守旧派という分け方だったが、本質的に政治改革だったのか。行政改革でも、省庁再編で効率がよくなったというのは大間違いで省の数が減っただけ。本当は機能別再編をやるべきだった。

 平岡委員 まだ構造改革はやるだろうが、大企業はリストラによって業績を回復した。そのリストラを受けた人を抱え込んでいる社会が問題だ。それで景気が回復した、と言っている。地方にいたら、市場メカニズムだけで物事を見たら駄目だとよく感じる。

第20回参院選
 第20回参院選 7月11日に投開票が行われ、自民党は勝敗ラインの51を下回る49議席にとどまり敗北した。民主党は改選38議席から大躍進、50を獲得して改選第1党となった。二大争点となった年金、イラク多国籍軍への自衛隊参加問題が小泉政権を直撃した格好。公明党は11、共産党は4、社民党は2議席。投票率は選挙区で56・57%で、前回2001年並みだった。

【詳細2】 天皇制考えるきっかけに  本質的な問題提起を

 ―皇太子さまが、雅子さまをめぐり「人格を否定する動きがあった」と発言し関心を呼んだ。感想は。

 渡辺委員 大相撲の土俵に女性が上がれない時代に何を言っても仕方ないが、時代が少しずつ変わっていくという気持ちもあり、過渡期の問題だと思う。

 平岡委員 問題の一つは皇室取材。国民の関心事だけにプライベートな部分に踏み込むのだろうが、週刊誌が憶測を交えて報じる中で新聞はどう取材するのか。もう一つは天皇制。憲法が定める天皇像と実際に機能している天皇像との間に矛盾とギャップがあることが皇太子発言で明らかになった。皇族の公務とは何か議論すべきだ。お世継ぎ問題で皇室とは一体何か考えるきっかけをもらった。その意味で十分な報道がなされていない。

 寺島委員 ネットでは無責任な憶測情報が乱れ飛び、マスメディアでは自主規制なのかタブーなのか分からないような奥歯に物が挟まった情報がある。今回は象徴天皇制を国民が考えるきっかけにしないとまずい。「たくましい皇室」というか虚弱ではいけない。タブーに過敏だと存在感を失う。皇室の在り方の踏み込んだ議論をすべき時だと報道し、問題提起するのが正しいスタンスだ。

 ―発言の背景をもっと詳しく書くべきだとの指摘もある。

 渡辺委員 (天皇、皇族は)象徴天皇制で何もできない環境なのか、どのくらい人間としての自由が奪われているのか、国民が理解できる情報を伝えてもいい。

 平岡委員 皇太子さまはわりと率直に話す方。国民に言うとはよほどのことだったのだろう。

 ―記者会見の仕方は。

 古賀泰司共同通信社社会部長 記者側が事前に質問を出す。答える側は立場を認識して一言一句吟味されている。

 平岡委員 開かれた皇室というが全然違う。宮内庁自身の問題があることも意識しないと。

 ―欧州の王室報道との違いは。

 二藤部義人共同通信社外信部長 英国は長い伝統の中で王権と国民の力関係が決まった。その中で大衆紙の報道がある。ダイアナ妃がまた不倫とか書く。「ここまで書かなくても」と思いつつ保守的な人たちも買う。

 平岡委員 皇室を政治利用して昔に返そうというのは絶対いけないが、日本の文化として認めることができる気はする。

 寺島委員 明治期からの戦前の天皇制は極めて特殊な時代を経たため、反発する人と郷愁を感じる人といる。多くの国民が合意しているのは文化の統合のシンボルとしての象徴天皇制だと思う。二十一世紀の日本で権威を維持しながら国民に根付かせるには、その方向で報道、位置付けするのが現実的だろう。

 渡辺委員 英国王室は、ちょっと変だが人間らしい。皇室と質的な差がある。人間らしく扱われない面は批判し、明らかにすることが必要だ。

 ―皇室記事には敬語を使う。基準は。

 古賀部長 共同が敬称、敬語を使うのは、象徴としての天皇の地位、皇室に対する読者、国民の敬意、親近感を基にしている。文章の最初に敬語を使うが、多用は避ける。

 平岡委員 一カ所使えばいいんでしょう。

 渡辺委員 今の象徴天皇制を前提とする限り、この程度でいいのでは。

 寺島委員 言葉の問題よりコンテンツとしてのタブーの方が気になる。

皇太子発言
 欧州訪問を前にした今年5月10日の記者会見で、長期静養中の雅子さまに触れ「キャリアや人格を否定する動きがあったことも事実です」と発言。具体的な内容を尋ねる質問には「細かいことは控えたい」と話した。真意をめぐってテレビや雑誌の報道が過熱。天皇、皇后両陛下も心配していることが公表されるなど、波紋が広がった。6月8日に補足説明の文書を公表。「個々の動きを批判するつもりはなく、現状について皆さんにわかっていただきたいと思ってしたものです」と記した。

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