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第7回会議(食の安全、鈴木宗男議員事件と検察捜査)

規制緩和が背景に 食の安全など議論

 共同通信社は二十一日、外部識者三人による第三者機関「報道と読者」委員会の第七回会議を東京・虎ノ門の本社で開き、「食の安全」や「鈴木宗男議員事件と検察捜査」などの報道をめぐり議論した。

 評論家の内橋克人氏は、一連の牛肉偽装事件など食の安全にまつわる問題について「これまでの報道では規制緩和の視点が忘れられている。命や安全の問題が事前規制から事後チェックという流れに変わってしまった」と指摘。食の安全を企業倫理に委ねない仕組みづくりが必要と述べた。

 元最高検検事の土本武司氏は「食品衛生法などを見る限り、企業は食品が安全無害なものであることを保証し、消費者はこれを全面的に信頼して購入している」とした上で、予防措置を取らなかった「業者と行政官庁の責任は非常に重い」と強調した。

 学習院大教授の紙谷雅子氏は、雪印食品を最初に告発した倉庫業者が自らも処分の対象となったことに触れ「みんなのために役立っているとの観点から(告発者を)保護、免責する仕組みをまじめに考える必要がある」と訴えた。

 鈴木議員の逮捕・起訴については、土本氏が「日本の利権、金権政治を象徴する事件という意味で評価できる」と説明。内橋氏は検察側の動きについて「検察の調査活動費の問題と関連はないか、狙い打ちの意図はなかったか」との疑念を示した。

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による日本人拉致事件に関して紙谷氏は「かつて韓国でも同じような問題があった。日本だけの問題であるかのような報道が心配だ」と述べた。

【詳報1】 食の安全」背景取材を  鈴木議員捜査に疑問も

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第七回会議が二十一日開かれ、評論家の内橋克人氏、元最高検検事の土本武司氏、学習院大教授の紙谷雅子氏の三人が「食の安全」や「鈴木宗男議員事件と検察捜査」などをテーマに議論した。食の安全をめぐり委員からは、行政、企業責任のほかに、規制緩和や日本企業による開発輸入などの問題があり、メディアはこうした背景をきちんと報道すべきだとの意見が出された。鈴木議員事件については、外務省の大きな疑惑にメスが入らなかった点で検察捜査への疑義が残ったと指摘した。

必要な規制は強化を  消費者の意識にも問題

 ―食卓を脅かす問題が相次いでいる。食の安全についてどう考えるか。

買い取り牛肉の検査風景

BSE対策で国が買い上げた牛肉の検査風景=2月8日、川崎市川崎区

当然の帰結だ

 内橋克人委員 食の安全の問題はテレビなども大きく報じているが、規制緩和の問題を見逃している。一九九五年三月に規制緩和推進五カ年計画が閣議決定され、消費者の安全は事前規制から事後チェックという流れに変わった。

 グローバリゼーションが進む中で、すべての規制を悪として退け、企業の倫理とか、善意のレベルに任せてしまった。一部農薬や有害物質を含むものなど、社会的に必要と思われる規制まで撤廃してきた。この結果、食品でさえも問題が起きれば事後にチェックすればいいとなった。現在の状況は当然の帰結というべきだ。

 メディアは大局を見る目を失い、この問題を指摘していない。反省すべきはメディア自身ではないか。企業倫理だけにすべてを委ね、企業の良心を信じさえすればよい、というような流れを促したのはいったい誰だったのか、という怒りがある。

国の制度が不正誘発

 土本武司委員 食品については、現代では、企業が安全無害なものであることを保証し、消費者はこれを全面的に信頼して購入する。法は国、都道府県ともにきめ細かく予防的行政措置を取るよう定めているが、一連の問題でこれを十分尽くさなかった行政の責任は大きい。

 BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)の問題で、農水省は肉骨粉の輸入制限を行政指導で済ませたが、きちんとした法規制が行われていたら今日のような感染はなかったのではないか。国の買い上げ制度は業界団体への丸投げ方式で、チェックシステムが機能していない。制度そのものが不正行為を誘発している。制度を悪用し国民の税金をだまし取ろうとした企業には、企業倫理の一かけらもない。報道機関は、これらの失政や犯罪行為を徹底的に洗い出すべきだ。

もっと食の情報を

 紙谷雅子委員 食の安全は非常に重要な問題だ。事件が起こっていなくても、情報としていろんな形で取り上げてほしい。日本ハムグループの牛肉偽装事件で同社の商品がスーパー、デパートなどの店頭から撤去されたが、ラベルを見て買うか買わないかを決めるのは消費者のはず。流通業者は大きなおせっかいをしたのではないか。日本ハムは生肉の流通でも大きな役割を果たしているが、ラベルに表示がないので実際にはかなり流通していたと聞いている。新聞にハム、ソーセージ(の撤去)だけが取り上げられたのは、バランスを欠いていた。

 ―輸入食品の汚染も問題になったが。

「日本製アジア製品」

 内橋委員 中国産というが、実際は少なからず日本の業者が現地で作らせたものだ。わたしが聞いた話では、栽培に当たって重視されたのは見た目の美しさと安いコストの二点だけだった、と。要するに「日本製アジア製品」だ。中国の耕作者は日本企業の指導通りに作っている現実を、どう考えるのか。

 食の安全を脅かす材料は格段に増え、「食のブラックボックス」化が進んでいる。なぜこうなったのか。世界的にみれば、既に肥料から飼料、農薬、苗に至るまですべて同一の巨大な多国籍企業がやっている。こうした背景を知らないと「農業、農民を保護しすぎ」といった議論にすぐなってしまう。現実は逆に、日本ほど農業が冷遇されている国はない。食料自給率が40%の国がほかにありますか。

 土本委員 今の状態では「安かろう悪かろう」だけでなく、「安かろう危険だろう」になってしまう。日本企業が危険な物を作らせているのが事実なら、まさに調査、取材すべきだ。

消費、生産は一体

 紙谷委員 中国の農作物の安全性については、日本の農業とあまり違わないのではとの心配がある。作業効率を上げるため、無登録の農薬を使っている日本の農家もかなりたくさんあるのではないか。効率的に生産するためには安全性のチェックを飛ばしても構わないという点で、日本人に「食べるのは自分だ」という当事者意識がなくなっているのかもしれない。

 問題の中国産野菜は、実際には日本が発注して作らせているものが大半だ。形の良い、規格の統一されたものを要求しているのは消費者や生産者ではなく実は流通企業。この箱にきちんと入る形のそろったトマトでないと困る、という発想で規格が要求されている。BSE対策の牛肉買い取りでも生産者ではなく、流通にお金が流れる仕組みだ。政治的影響力として大きいのでは。

 土本委員 輸入ホウレンソウなどについては、検疫を厳しくする必要があるし、BSEは国の責任を追及する必要がある。その一方で、海外では安全性が認められているが、国内では使用が禁止されている添加物を使ったことが発覚し、破産宣告を受け、全社員が解雇された協和香料化学のケースなど、そんなに問題にすべきでないものもある。記事の上でも、その辺をきちんと分けて対応すべきだ。

 内橋委員 消費者軽視が今回の問題を引き起こしたとする、生産者と消費者を分断するような論調が多すぎる。消費者とは誰か。実際は働いている勤労者だ。モノが安ければそれでいい、と叫んでいる間に、賃金も下がる時代に直面している。デフレ経済になれば物価が下がって、賃金が下がらないはずがない。物を買う消費者と働く人の利害は一体だという視点の強調も必要ではないのか。

告発者守る仕組みを

 紙谷委員 原子力発電では法律で、内部告発者を保護する制度がある。同じように安全が脅かされるのに食品にはそのような制度はなく、牛肉偽装で雪印食品を告発した人は、不正を手伝ったと行政処分を受けている。告発は社会のためという観点から、告発者保護の仕組みが必要だ。

【詳報2】 せめて外務省にメスを  力を持った秘密知りたい

 ―鈴木宗男議員事件は、外務省の大きな疑惑に手付かずで終わった。検察の捜査はこの程度だったのかというのが国民の率直な気持ちではないか。

人員、能力超える

 土本武司委員 起訴に持ち込むにはさまざまな難点があった。第一には「疑惑のデパート、総合商社」と言われるように、疑惑の数は多くても一件一件が小さかった。すべての事件を捜査するには、人員や能力をはるかに超えていた。

 第二に関係者の多くが黙秘や否認で、証拠固めが困難だった。第三には、捜査開始前に鈴木被告をめぐる疑惑が取りざたされたことで関係者が証拠隠滅に走りやすく、捜査の壁になった。そうした中で、ともかく四件起訴できたのは良しとすべきだ。

 ―具体的には...。

口利き政治

 土本委員 最初に起訴したあっせん収賄罪は「口利き政治」、受託収賄罪は「政官業の癒着」、偽証罪は「政治家のうそつき性」、政治資金規正法違反罪は「公私混同」をそれぞれ浮き彫りにしたのではないか。ただ外務省にメスを入れるような事件をせめて一件でも起訴できなかったのかと思う。

 また、三井物産のモンゴルODA疑惑では、不正競争防止法上の外国公務員に対する「贈賄」容疑について「営業上の不正の利益を得るため」の要件の立証が困難として立件を見送ったが、裁判所の判断を受ける価値のある疑惑であり、消極的に過ぎる処理ではなかったか。

検察疑惑関心持ちたい

 内橋克人委員 大阪高検公安部長だった三井環被告が検察内部の調査活動費の流用疑惑を内部告発しようとして直前に逮捕された。その直後に、鈴木議員事件や井上裕前参院議長の元秘書の事件などのニュースが紙面を占拠した。果たして偶然だったのかという不審の声が国民の間にはある。検察疑惑との関連は本当になかったのか。

 三井被告の逮捕後に鈴木議員周辺を捜索したのは、検察の調査活動費流用疑惑への世間の目をそらせるためではなかったのか。同問題にはメディアも関心を持ち続ける必要がある。

 紙谷雅子委員 外務省はバックに政治家がいないというが(鈴木議員が)力を持つようになった秘密は何か。なぜ力を持つようになったのか知りたい。

 ―鈴木議員の政治的影響力は。

官僚システム熟知

 後藤謙次政治部長 鈴木議員は中央政界では処世術にたけ、政治家にとって興味のないところにも食い込む。防衛庁でも兵器産業ではなく小さな兵舎、弁当などに目を付ける。日が当たらない林野庁にも。外務省でもノンキャリアを押さえ、幹部の弱みを握る。官僚システムを熟知している。お金が入るシステムをつくる。一九九三年の政治資金規正法改正後、金が集まりにくくなっても、潤沢に若手に資金を渡した。規模はすべて「広く薄く」だった。

鈴木議員をめぐる事件とは
 鈴木議員をめぐる事件 衆院議員鈴木宗男被告(54)の一連の疑惑解明の過程で、鈴木被告をはじめ秘書や官僚ら計12人が起訴された。鈴木被告は北海道の後援企業2社から計1100万円のわいろを受け取ったとされるあっせん収賄と受託収賄のほか、政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記載)と議院証言法違反(偽証)の罪で起訴された。
 公設第一秘書宮野明被告(54)らが外務省関連の国際機関「支援委員会」発注の国後島「友好の家」建設工事に絡む偽計業務妨害罪に問われたほか、鈴木被告の「側近」といわれた外務省の元主任分析官佐藤優被告(42)らが支援委に対する背任や、支援委発注の国後島ディーゼル発電施設に絡む偽計業務妨害罪で起訴された。発電施設に絡む事件では三井物産元部長らも共犯とされた。

【詳報3】 事件記事は5年で削除 データベース、人権に配慮

 共同通信社は「報道と読者」委員会第七回会議で、過去に窃盗事件を起こした男性が「求職先が一般公開の記事データベースで自分の名前を検索し、事件を報じた記事を発見するため就職できない」として、実名と住所の削除を求めた経緯や、愛媛県教育委員会の教科書採択をめぐる石原慎太郎東京都知事の発言内容を取り違えた誤報など、読者からの要請や苦情計六件について報告した。

 データベースからの削除要請は大学に勤務していた男性がパソコンを盗んだとして窃盗の現行犯で逮捕された事件を報道した二○○○年三月の記事。共同通信社は事情を勘案し、公開しているデータベースから同記事を削除した。

 土本武司委員は「犯罪者のプライバシーも配慮しなければならない場面がある。苦情があってから対応するのではなく、制度的に一定期間で削除する必要がある」と指摘。土方健男法務部長は「プライバシーにかかわりが深い記事を対象に、特異でない事件は五年で削除している」と説明した。

 誤報問題では、石原知事がその後の会見で今度誤報をしたら共同通信の社団法人としての認可を取り消すとの趣旨の発言をしたことについて、内橋克人委員が「誤報については陳謝するにしても、知事発言は極めて強烈なブラフ(どう喝)だ。なぜこれに抗議しないのか。こういうことではジャーナリズムの存立基盤が脅かされる。言論が次第に委縮し、自己規制していくようになる心配がある。非常に怖いことだ」と注文を付けた。

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