長期連載‐国内

(31)沖縄に向き合う「右翼」 自らの加害性出発点に

 スマートフォンの待ち受け画面には、「農魂」との力強い文字が浮かぶ。「土着のものを守る。大地を守る。それこそが保守の考えだと思うんだよね」。沖縄県東村の山中で、中村之菊(なかむら・みどり)(44)は車からメガホンを取り出すと、肩にかけて歩き出した。その先にあるのは、米軍北部訓練場の入り口ゲートだ。

 規制線ぎりぎりのところに立ち、訴える。「沖縄の人にとって、脅威なのは中国よりも米軍だ」。2016年、訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設に反対するため現地を訪れて以来、この場に立つのは250回を上回る。

 「沖縄の米軍基地を東京へ引き取る党」を立ち上げ、千葉県内に住みながら、多い時は年間で100日以上を沖縄で過ごしてきた。行動の原点は、18歳で加わった右翼団体での活動にある。

【北部訓練場のゲート前で語りかけるように抗議を行う中村之菊=沖縄県東村】

 ▽疑問と怒り

 東京の下町、浅草で生まれ育った。高校を中退し、10代で出産を経験した。けんかや体罰など、暴力が身近な環境だった。その頃から政治に関心があり、シングルマザーとして育児に追われながらも、街頭演説があれば足を止め聞き入った。

 最初に興味を抱いたのは共産党だった。だが、集会では「女性の権利」を口にする男性が、懇親会では上座に座って女性に配膳をさせる姿を見て、幻滅した。

 一方で、右翼の主張と行動には「表裏がない」と感じた。「演説は乱暴だけど、自分にはスッと入ってきた」。右翼団体の門をたたき、戦闘服を着て街宣車に乗った。

 そんなある日、沖縄出身の同い年の女性と話をした。「国土面積の1%にも満たない沖縄に、米軍施設の7割が集中している」。衝撃だった。沖縄の歴史や現状を知らない自分を恥じた。「自主国防」を掲げる右翼が、沖縄の米軍に目をつぶっていいのか。疑問と怒りが渦巻いた。

 その思いを組織にぶつけた。沖縄に米軍基地が集中している現状に声を上げないのは、欺瞞(ぎまん)ではないのか。独立の意味を問うべきではないのか。だが、反応は冷たかった。「女は黙っていればいいんだ」とも言われた。日米安全保障条約や米軍基地問題の資料を作っても、誰にも読まれない。逆に、そうした行動が問題視され、中村は団体から除名処分された。

  

【右翼団体の戦闘服姿でポーズをとる中村之菊。団体からは除名処分されたが、沖縄を重点に活動を続けている=2008年ごろ(本人提供)】

 ▽おまえは左翼か

 理解を示してくれた仲間と、16年に新たな政治団体「花瑛塾(かえいじゅく)」を設立した。真の愛国を取り戻そうと「愛国奪還」を掲げ、活動期間は5年に限定した。「何周年を祝うような惰性の組織にはしたくなかった」。活動の重点を沖縄に置き、基地反対運動に参加した。

 右翼団体の知り合いからは「おまえは左翼になったのか」と、何度も聞かれた。「右翼であるなら、外国の軍隊が日本にいるのはおかしいと思うはず」。一方で、左翼活動家からは「右翼は出ていけ」との言葉を浴びせられた。

 自分のやっていることは何なのか。自信をなくし、足元が揺らぎかけた時、本土に住む自分たちが沖縄に米軍基地を押し付けている加害性を、あらためて考えた。それならば、首都の東京が負担を引き受けるべきだとの思いが、22年の「引き取る党」の立ち上げにつながった。

 同年の参院選では、東京選挙区から立候補した。貯金から供託金300万円を捻出し、軽自動車で都内を走り回った。結果は3043票。候補者34人中33番目で、供託金は没収された。

 しかし、悲愴(ひそう)感はなかった。「3千人以上が主張を支持してくれた。それがうれしかった」。この数字は次につなげる起点になると受け止めた。

 ▽ひめゆりの碑で

 自らが「右翼」であるとの看板を下ろすつもりはない。「右翼を名乗る人たちが、排外主義的なヘイトスピーチをまき散らしている。それは偽物で、自分のやってることが『本物の右翼』だってことを示したいから」

 左翼からは「日本のどこからも基地はなくすべきだ」と批判され、右翼からは「国防を考えていない」とこき下ろされた。そのたびに「沖縄の米軍基地は東京でも引き受けるべきだ」と反論し、自分の考えを投げかける。かみ合わなくても、議論なしに話は先に進まない。「次の世代にこの問題を残したくない」という焦りのような気持ちが、行動を下支えする。

 沖縄を訪れると、いつも足を運ぶ場所がある。糸満市の荒崎海岸にある「ひめゆり学徒散華の跡」の碑。沖縄戦で追いつめられた10人のひめゆり学徒が、手りゅう弾で自らの命を絶った場所だ。

 「今も米軍の戦闘機が上空を飛んでいる。ただただ、彼女たちに申し訳ない気持ちで」。美しい海を見渡すように、海辺の岩場にひっそりと置かれた碑に向かい、じっと手を合わせる。

【「ひめゆり学徒散華の跡」の碑に向かい献花する中村之菊。「申し訳ない」という気持ちで手を合わせている=沖縄県糸満市の荒崎海岸】

 「右翼」としての活動をやめる気はない。でも、政治を動かすにはどうしたらいいのだろうか。「妥協ってものも必要なのかな」。その答えは、まだ見えていない。

(敬称略、文・佐藤大介、写真・今里彰利、2023年8月26日出稿、年齢や肩書は出稿当時)