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第82回会議(皇位継承、大阪ビル放火事件)

皇位継承、大阪放火議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第82回会議。(奥左から右へ)鎌田靖委員、廣田智子委員、曽我部真裕委員=5日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3月5日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第82回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「皇位継承」と「大阪ビル放火事件」の報道について議論した。

 ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏は秋篠宮ご夫妻の長女小室眞子(こむろ・まこ)さんの夫小室圭(こむろ・けい)さん側の金銭トラブルに絡み、週刊誌報道に対する新聞社の対応は難しいと問題提起。同時に「インターネット上の中傷が非常に大きな問題になっている」と強調し、報道機関として警鐘を鳴らすよう促した。

 弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は皇位継承議論が男系重視に偏り「女性皇族を男系男子天皇維持のための道具としか考えていない。それが当たり前のように新聞で語られている」と批判。「政府の有識者会議の案をジェンダー論や男女平等の観点から捉え直す記事がなかった」と注文を付けた。

 京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は「女性・女系天皇の容認か、旧皇族の復帰かという二つの選択肢の掘り下げがあまりなかった」と指摘。女性・女系天皇を支持する世論を「多数派ではない保守派がブロックしている。保守派の主張が正当なのかという検証は死活的に重要だ」と求めた。

 大阪ビル放火事件に関し、曽我部氏は実名や容疑者の前科を報じた記事で「おことわり」が目立ったとし「配慮に一定の意味はある。より読者に分かってもらうための工夫も考えられるのではないか」と述べた。鎌田氏は遺族取材の難しさに言及しながら「当事者なり当事者に近い方への取材で説得力のある原稿が出る。継続した取材をお願いしたい」と要請した。廣田氏は悲惨な現場に直面した消防隊員らのケアを扱った記事に触れ「こういう点を取り上げることで制度も充実する」と評価した。

皇位継承、大阪放火議論  「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会が3月5日開かれ、皇位継承と大阪ビル放火事件の報道について議論した。ジャーナリストの鎌田靖(かまだ・やすし)氏はインターネット上の皇室バッシングに警鐘を鳴らすべきだと要請。弁護士の廣田智子(ひろた・ともこ)氏は皇位継承問題で「ジェンダー論や男女平等の観点から捉え直す記事がなかった」と問題提起した。京大大学院教授の曽我部真裕(そがべ・まさひろ)氏は実名や容疑者の前科を報じた記事に付記した「おことわり」に関し「配慮に一定の意味はある」と指摘した。

【メインテーマ】皇位継承

中傷に批判不可欠―鎌田氏 男女平等の視点を―廣田氏  保守の検証重要―曽我部氏

結婚し、記者会見に臨む小室圭さんと眞子さん=2021年10月、東京都内のホテル

結婚し、記者会見に臨む小室圭さんと眞子さん=2021年10月、東京都内のホテル

意見を述べる鎌田靖委員=3月5日、東京・東新橋の共同通信社 ▽週刊誌報道

 鎌田靖委員 皇室を巡るスキャンダルは大体、週刊誌が先行し、共同通信社を含めた主要な新聞社は最初ほとんど報じない。そのため単純に共同通信社の記事だけから何が起こったのかを読み取ることは難しくなる。かといって週刊誌やワイドショーが報じるような内容を共同通信社が細かく報じる必要性について私は否定的だ。週刊誌各社は今も小室圭さんを追い掛けている。そういう動きについて批判的に論じつつ、継続して取材してほしい。インターネット上の中傷が非常に大きな問題になっている。ネット被害について警鐘を鳴らす一方で、宮内庁の広報が不足しているという指摘についても、もう少し踏み込んで批判的に論じてもよかった。

意見を述べる廣田智子委員=3月5日、東京・東新橋の共同通信社 廣田智子委員 女性・女系天皇や女性宮家創設が議論されている中、眞子さんの結婚問題がそれらを阻むために利用されているように思えた。眞子さんの人物像に迫る記事が見当たらなかった。週刊誌が関心をあおり、ネット上には真偽不明の事実が飛び交っている中で、新聞は皇室の何を報じようとしているのか。生身の人間である天皇や皇族について知らないと、その在り方や人権について議論することができない。新聞は天皇や皇族の生身の姿を修飾なしに、スキャンダルとか興味本位ではなく伝える責務がある。逆に言えば、新聞はなぜ週刊誌と同じ報じ方はしないのか、皇室報道の意味を問う記事が欲しかった。

▽ジェンダー意識

意見を述べる曽我部真裕委員=3月5日、東京・東新橋の共同通信 曽我部真裕委員 記事は全般的に幅の広さ、深みに欠けた。ジェンダー問題がまさにそうで、他のメディアはもう少し取り上げていた。報道の皇室問題への取り組みについては、秋篠宮さまの天皇観、皇室観を検証するというのが一つの在り方だ。これから悠仁さまの問題が出てくる中で意義がある。眞子さんの結婚問題では週刊誌による誹謗(ひぼう)中傷が目についた。眞子さん側が立場上、訴訟を提起できないことを見透かして、あることないことを現在も書き続けているのは非常に悪質だ。週刊誌もメディアの一角を占めている以上、これをきちんと批判しておくことは極めて重要だ。メディア全体の信頼が問われる。

 山脇絵里子社会部長 皇族の人権についてあまり報道してこなかったことを眞子さんの結婚を通じて気付かされた。皇族、皇室制度を論じる上で、生身の皇族はどういう人たちなのかを伝えなければ議論にならない。ネット中傷に関する特集記事などに取り組むほか、宮内庁の広報の在り方も問題提起していきたい。

▽選択の材料

皇位継承問題の経過

 廣田委員 皇族の役割は皇族維持のための男系男子の供給、母の血筋では駄目、悠仁さまの配偶者に男子出産を期待、というような議論とか方策は、女性皇族を男系男子天皇維持のための道具としか考えていない。さらに驚くのは、それが当たり前のように新聞で語られていることだ。一般社会で許されないことが、皇室だからといって許されていいのか。女性・女系天皇を容認する世論調査の結果ともかけ離れている。安定的な皇位継承問題と政府の有識者会議の案をジェンダー論や男女平等の観点から捉え直す記事が欲しかった。

 曽我部委員 憲法では天皇の地位は国民が決めるとなっている。国民主権と結び付いている。報道には国民の賢明な選択を支える材料を提供することが強く期待されている。その観点からすると、女性・女系天皇の容認か、旧皇族の復帰かという二つの選択肢の掘り下げがあまりなかった。世論調査によると、国民は女性・女系天皇を基本的に支持しているのに、多数派ではない保守派がこれをブロックしている。保守派の主張が正当なのかという検証は死活的に重要だ。

 鎌田委員 そもそも皇族との養子縁組の対象となるのはどういう人で、その人はどうなっていくのか、該当者がいるのかという辺りが全て曖昧模糊(もこ)としている。世論調査では、保守派の人々を除けば国民の多数は女性天皇を是認している。今の天皇制を維持していくのであれば、もう先送りというわけにはいかない。最も重要な国の根幹である仕組みだ。先延ばしがまずいと思うのであれば、メディアはもう少し踏み込んで論ずることがあっていい。多くの国民が是認している事実を踏まえ、提言的なメッセージを発することがあってもいいのではないか。

 山根士郎政治部長 皇位継承問題に絡み、女性を道具としか考えていないような議論が堂々と行われているとの指摘は非常に重い。報道機関として、ジェンダー的な視点で意見を紹介するような記事や、保守派の主張を整理した長い特集記事なども出稿していきたい。

 沢井俊光編集局長 皇室報道には取材上の制約もあるが、それを言い訳にして記事の幅広さや深みが欠けては問題だ。皇位継承問題が先送りできないというのは誰の目にも明らかだ。天皇の地位をどう考えるかは重要な問題であり、そこに資する材料を提供していくのはわれわれの役割だ。

皇位継承
 皇室典範は、皇位は皇統に属する男系男子が継承するとし、女性・女系天皇を認めていない。次世代の継承資格者は秋篠宮さまの長男悠仁さまのみで危機的状況とされる。政府有識者会議は2021年12月、国会が求めた皇位継承策の検討を先送りし、代わりに皇族数確保策として/(1)/女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する/(2)/皇族の養子縁組を可能とし皇統に属する男系男子を皇族とする―の2案を軸とした報告書を答申。岸田文雄首相は22年1月に答申を国会へ報告した。

【サブテーマ】大阪ビル放火事件

説明より丁寧に―曽我部氏 遺族取材、継続を―鎌田氏  幅広い視点を評価―廣田氏

大阪市北区の火災があった現場付近に集まった消防隊員ら=2021年12月

大阪市北区の火災があった現場付近に集まった消防隊員ら=2021年12月

▽「おことわり」

 曽我部委員 この事件の報道の在り方を考えたとき、思い付くのは京都アニメーション放火殺人事件だ。被害者の実名について、今回は現場が心療内科クリニックでプライバシー性は高いと思うが、京アニ事件と比べてあっさり報道された印象がある。実名や容疑者の前科を報じた記事では、報道方針を説明する「おことわり」が目立った。丁寧に説明すべきだとずっと言われていたので、配慮に一定の意味はある。ただ、より読者に分かってもらうための工夫も考えられるのではないか。

 鎌田委員 容疑者は死亡して真相解明ができなくなり、やりきれなさが残った。被害者は身元が分かった段階で実名が公表されたとのことだが、やはり実名報道が原則ではないか。容疑者の人となりの記事で前科を書いている。前科報道には慎重さが要るが、事件の本質を理解するのに必要だ。おことわりという形で触れていて、これでいいと思う。心療内科に通っている被害者が多く、当事者なり当事者に近い方への取材で説得力のある原稿が出る。継続した取材をお願いしたい。

 廣田委員 容疑者も被害者も亡くなってしまい、解明に限界がある中で意味のある何かを残そうという意思を紙面全体に感じた。なぜ前科や被害者の実名を報道したのかについて説明したのはいいことだ。被害者が心療内科の患者という点を踏まえても、なお実名にしたという説明があってもよかったのでは。

 池田裕明大阪社会部長 実名・匿名の議論が一番葛藤があった。被害者の名前やプロフィルは遺族の承諾を得て書くべきだという意見もあったが、心療内科への通院歴を過度に配慮することで偏見を助長しかねないとの意見の方が説得力があると考えた。前科前歴も背景の検証に欠かせないと判断し、おことわりと一緒に報じた。

▽自殺報道

 曽我部委員 事件の背景を掘り下げようとする姿勢が強くうかがえた。孤独や孤立、雑居ビルの防火やガソリンの販売規制などの問題をそれぞれ扱っていた。事件報道の役割の一つは、背景を探って問題点を抽出し改善を図るきっかけにすることだと思うので、引き続き注力してほしい。

大阪ビル放火事件の経過

 鎌田委員 この事件がきっかけではないが「拡大自殺」という言葉がキーワードになった。この言葉が広がることが果たしていいのか。自殺報道は以前と比べ極めて抑制的になった。拡大自殺と単に報じることで、模倣が生じないか若干懸念する。メディアは相談窓口を報じるなどの工夫が必要だ。

 廣田委員 遺族支援の記事は、遺族の苦しみを伝えて支援の必要性を報じていた。こうした記事によって被害者報道への理解も深まっていくと思う。消防隊員が被る惨事ストレスケアの課題を指摘する記事もよかった。犯罪や災害現場の最前線で働く方々の負担は非常に重く、こういう点を取り上げることで不調を訴えやすくなるし、ケア体制も充実する。

 池田大阪社会部長 拡大自殺は新しい言葉で無意識に使ってしまった部分もある。もう少し慎重に扱う必要がある。

 沢井編集局長 被害者の実名については個々の事件で議論し、判断することが重要だと思う。おことわりは、もっと丁寧な説明を考えていきたい。

大阪ビル放火事件
 2021年12月17日午前10時15分ごろ、大阪市北区の繁華街・北新地にある堂島北ビル4階の「西梅田こころとからだのクリニック」から出火。一部を焼き、フロアにいた西沢弘太郎(にしざわ・こうたろう)院長(49)や通院していた人ら26人が犠牲になった。府警は院内の防犯カメラに写っていた谷本盛雄(たにもと・もりお)容疑者(61)を殺人と現住建造物等放火の容疑者と特定。容疑者はやけどを負い、12月30日に死亡した。府警は22年3月16日、殺人容疑などで容疑者を書類送検した。

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