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第74回会議(天皇代替わり・改元・平成振り返り、司法制度改革10年)

代替わり、司法改革議論 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第74回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=6月22日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は6月22日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第74回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が天皇代替わりや改元、平成振り返りに関する報道と、司法制度改革10年の報道を巡り議論した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は、上皇さまについて「象徴天皇を自分で形作ってきた、切り開いた人という印象を持った」とし、上皇さまと上皇后美智子さまに関しては「人間性が伝わってくる記事は興味深かった」と評価した。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「これまで皇后には天皇を支えること以外に生きがいは必要ないという常識が世の中にはあったのではないか」と話し、皇后さまについて「どんな令和的な皇后像を描くのか読んでいきたい」と期待を示した。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は「元号を存続させるかどうかは、今後さらに考えなければならない」と述べた。

 司法制度改革10年では、清水氏は裁判員裁判に関し「多くの課題がある」と指摘。市民が死刑事件に関わる是非を取り上げた記事について「両論併記で済ませてはいけない。掘り下げた記事が必要だ」と求めた。

 後藤氏は「制度を社会にとって有意義に定着させていくことが大事ということが伝わり、共感して読んだ」とし、三浦氏は「痛みを負った人のその後を伝え、社会としてこの問題を考えるような報道をするべきではないか」と提言した。

代替わり、司法改革で議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第74回会議が6月22日開かれ、委員3人が天皇の代替わりや改元、平成振り返りの報道と、司法制度改革10年の報道を巡り議論した。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は、上皇ご夫妻に関し「人間性が伝わってくる記事は興味深かった」と評価、国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「雅子さまがどんな令和的な皇后像を描くのか読んでいきたい」と期待を示した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、裁判員裁判で死刑事件を扱う問題に関し「掘り下げた記事が必要だ」と求めた。

【メインテーマ】天皇代替わり・改元・平成振り返り

元号存続か議論を―清水氏 皇后像どう描くか―三浦氏  平成くくり違和感―後藤氏

即位を祝う令和最初の一般参賀で手を振られる天皇、皇后両陛下=5月4日、宮殿・長和殿

即位を祝う令和最初の一般参賀で手を振られる天皇、皇后両陛下=5月4日、宮殿・長和殿

 ▽国の成り立ち 意見を述べる清水勉委員=6月22日、東京・東新橋の共同通信社

 清水勉委員 元号は日本独特の制度だ。昭和54(1979)年に法制化されるまで慣習だった。一世一元も明治以降のこと。法的制度がいいのか、慣習がいいのかを考える論考があってもよかった。元号を存続させるかは今後さらに考えなければならない。代替わりの時期に懐疑的なことは書きにくいかもしれないが、今後取り上げてほしい。

 三浦瑠麗委員 新元号選定の有識者懇談会メンバー選定の記事で「女性は2人」と書いているが、メンバーは各界から選んでいる。男性を書く際は業界でまとめ、女性は性別でまとめるのは不見識だ。新元号の公布に関して保守派が文句を言ったが、保守派の定義や、なぜ反対なのかが明らかでなく、読者からすると全体としてイメージしにくい。また、歴史分析などは読み応えのある記事が多かったが、政治的要素を含めたこの国の成り立ちからする議論が必要だったのではないかと思う。

 松浦基明政治部長 改元の祝賀ムードがあり、やや書きにくい雰囲気があった。元号の在り方に関しては今後も機会を捉えて報じていきたい。有識者懇のメンバーを女性でくくることに対する指摘は虚を突かれた感じがあり、気を付けたい。

 ▽人間性

 後藤正治委員 上皇さまは象徴天皇を自分で形作ってきた、切り開いた人という印象を持った。非常に良きリベラリストという言葉が浮かび、個人的には好感が持てる。宮内庁担当経験のある記者らによる連載記事「記者が見た両陛下」が印象的で大変面白く読んだ。代替わりについては上皇ご夫妻の人間性が伝わってくる記事は興味深かった。

意見を述べる三浦瑠麗委員=6月22日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 これまで皇后には天皇を支えること以外に生きがいは必要ないという常識が世の中にはあったのではないか。子どもをなかなか授からなかったという話では、なぜ雅子さまだけを苦労した主体として書くのか。不妊は女性の問題だという偏見につながる。天皇陛下も苦労されたと書くべきだった。雅子さまがどんな令和的な皇后像を描くのか読んでいきたい。また今後、上皇ご夫妻の地方訪問の報道の在り方はどう考えているのか。

 清水委員 難しい立場にいながら言葉を選び発信し続けた上皇の知力はすさまじい。国内外に対する責任感の強さを感じる。これからの天皇すべてに同じ期待を持てるかは不透明だ。

 山田昌邦編集局企画委員 代替わりの報道では、退位するお二人の人物像を明らかにするため、象徴としての行動や事跡、国民との関係を連載企画などでまとめた。雅子さまの苦労は夫婦の問題として捉えればよかった。上皇さまはプライベートで出てくる機会は少なくない。われわれとしては「二重権威」に気を付けなければならないと考えている。

意見を述べる後藤正治委員=6月22日、東京・東新橋の共同通信社  ▽掘り起こし

 後藤委員 平成の30年を振り返るというのは違和感がある。30年でくくるのは人為的、人工的で無理がある。その中で通年企画「平成をあるく」は面白かった。特に「市町村の大合併」を拒否した福島県矢祭町長を取り上げた記事を興味深く読んだ。やはり人間が出てくるものが一番面白い。記事は新鮮でなくてはならないし、掘り起こしてくることも大切だ。さらにちょっとおかしみやユーモアがあっても良いと思う。

退位を巡る経過

 清水委員 人それぞれに人生で遭遇する大きな事件がある。2011年の「3・11」は日本社会のありようを変える大事件になると思ったが、そうではなかった。しかし、東京電力福島第1原発事故を追った連載企画「全電源喪失の記憶」は、現場で文字通り必死に悪戦苦闘する作業員らの姿を実名で書いており、将来に引き継がれるべきいい記録だと思った。

 影井広美編集委員室長 「平成をあるく」は専門知識のあるさまざまな記者が参加した。ルポルタージュはいかに事実を引き出し、言葉を引き出せるかが鍵となる。

 井原康宏編集局長 国の成り立ちに関する議論や皇位継承の問題をもっと深掘りするべきだったという意見を受け止め、今後に生かしたい。震災に関しては証言していない人もたくさんいると考えられるので、再来年の震災10年に向け掘り起こしていきたい。

天皇の代替わり
 天皇の位(皇位)が、次代に引き継がれること。現行の皇室典範は、明治期に制定された旧皇室典範の規定を継ぎ、皇位継承を天皇が亡くなった時に限定している。上皇さまが2016年8月8日に退位の意向をにじませたビデオメッセージを発表したのを契機に、政府が退位の実現に向けた法整備の議論を始め、17年6月に一代限りの退位を認める特例法が成立した。上皇さまは今年4月30日に退位、5月1日に天皇陛下が即位した。退位は江戸時代後期の光格天皇以来、約200年ぶり。

【サブテーマ】司法制度改革10年

制度の定着が大事―後藤氏 裁判後の報道必要―三浦氏  市民感覚に疑問も―清水氏 

全国初の裁判員裁判が行われた東京地裁104号法廷=2009年8月

全国初の裁判員裁判が行われた東京地裁104号法廷=2009年8月

 後藤委員 裁判員制度は国民主権の社会にとって必要だという価値観が記事には流れている。問題はあるが、制度を社会にとって有意義に定着させていくことが大事ということが伝わり、共感して読んだ。強制起訴制度については、起訴の判断は法律のプロに委ねたほうが合理的という思いもある。しかし、市民参加という点から決して悪くないと思う面もある。

 三浦委員 裁判員制度を経験した人の声があまり共有されていない。社会に伝えていく意義がある。性犯罪が厳罰化されていく流れはいい方向だ。ただ、判決を下して終わりではない。痛みを負った人のその後を伝え、社会としてこの問題を考えるような報道をするべきではないか。そうすれば裁判員になる人もこの問題を深く理解できる。

裁判員裁判10年の主なデータ

 清水委員 市民の裁判参加という考え方は否定しないが、この制度でいいのか。多くの課題がある。裁判員経験者アンケートで92%が市民感覚が反映されたとある。市民感覚は感情や情緒に流される面があるので、いいことばかりだとは言えない。人を裁くのは難しい。記事では市民が死刑事件に関わることについての賛否が両論併記されているが、世界の潮流は死刑廃止。両論併記で済ませてはいけない。掘り下げた記事が必要だ。

 中村毅社会部長 裁判員経験者の声をすくい上げて検証し、現状と課題を多角的な視点で浮き彫りにしようと心掛けた。強制起訴制度は十分議論されないままスタートしたという経緯があり、考える材料を示した。

 清水委員 法廷で強姦(ごうかん)罪の被告を重く罰することで被害者が守られると考えるのはおかしい。性犯罪は被害者の身近な人を加害者とする顕在化しにくい犯罪類型なだけに、顕在化しない被害者を視野に入れた企画をつくってほしい。

 井原康宏編集局長 死刑については、多角的な視点で報じるのが大事だ。判決が出たから終わりではなく、その後を追ってほしいという意見はその通りだと感じた。引き続き取り組みたい。

裁判員制度
 刑事裁判に市民感覚を反映させる目的で2009年5月に始まった。市民から選ばれた裁判員6人が裁判官3人とともに、有罪、無罪と量刑の判断をする。対象は殺人や傷害致死事件など。20歳以上の市民から無作為に選ばれた裁判員候補者の中から、裁判所での選任手続きを経て、裁判員が決まる。欠員に備えて補充裁判員も選任される。判決内容を決める評議の具体的な中身は守秘義務が課される。

【委員提言】

報道の大義自覚を―三浦氏 弱者の声を大事に―後藤氏  適切な判断に重要―清水氏 

 ―「報道と読者」委員を務めた感想と提言を。

 三浦委員 取材されることもある立場からすると、報じる側の暴力を意識していない取材者に会うことがある。取材相手があってこそのジャーナリズムだということを現場の記者には分かってほしい。また、ネットでどれくらい目を引くかでニュースをラインアップしてしまうと、ページビューの確保に流れて最初の報道の大義が何だったのか分からなくなると思う。

 後藤委員 ネット社会でフェイク情報がまかり通る中、新聞こそジャーナリズムの本道だ。社会の健康度を高めるためにジャーナリズムは存在している。権力の監視や社会的弱者の声を拾い上げることを大事にするのが仕事だ。ライバル社同士でもジャーナリズムの仲間意識があったが、今は共に携わるという意識が乏しいのが残念だ。

 清水委員 必要な情報が国民に伝わり、社会生活上での適切な判断をするにはメディアは重要だ。日本のネットの中にもフェイクニュースがあって報道がそれにのみ込まれてしまうかもしれない危機的状況がある。読者がお金を払ってでも読みたいと思うニュースをぜひ報じてほしい。

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