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第71回会議(米朝会談、日大アメフット部の悪質反則問題)

米朝会談、日大アメフット部の悪質反則問題  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

 「報道と読者」委員会第71回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=6月30日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は6月30日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第71回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が米朝首脳会談と日本大アメリカンフットボール部による悪質な反則問題の報道について議論した。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「韓国、北朝鮮の専門記者、核問題に取り組んできた記者など層の厚さが生かされている」と評価した上で「米国の核不拡散政策の歴史を振り返る企画があってもいい」と述べた。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は日本政府の立ち位置が鮮明になっていないことを懸念。報道について「日本に引きつけて、とよく言われるが、日本のためだけに書くのではなく、世界中の人に読まれているという自負心でやってほしい」と要望した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は米朝首脳会談が実現したことで戦争の危機が遠ざかったと歓迎。地下市場経済の浸透など「北朝鮮はかなり変容しつつあるのではないか」として長期の連載を提案した。

 日大アメフット部の悪質反則問題では、後藤氏が「評論記事で、スポーツの名を借りた犯罪だと厳しい指摘をしているが、全く同感」と話し、三浦氏は「加害選手の記者会見全文を配信したのは良かった」と指摘。清水氏は当初、成人だった加害選手を匿名で報じたことを疑問視した。

米朝会談と悪質反則を議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第71回会議が6月30日開かれ、委員3人が米朝首脳会談と日本大アメリカンフットボール部による悪質な反則問題の報道を議論した。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は北朝鮮社会が変容しつつあるのではないかとして、長期の連載を要望。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は米国の核不拡散政策の歴史を振り返る企画を提案した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は日本政府の立ち位置が鮮明になっていないと懸念。アメフットの反則問題では、後藤氏が評論記事での「スポーツの名を借りた犯罪」との指摘を取り上げ、「全く同感」と述べた。

【メインテーマ】米朝首脳会談

時代の節目提示を―三浦氏 日本の立ち位置は―清水氏  北朝鮮は変容―後藤氏

 共同声明に署名後、握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=6月12日、シンガポール(ロイター=共同)

 共同声明に署名後、握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=6月12日、シンガポール(ロイター=共同)

意見を述べる後藤正治委員=6月30日、東京・東新橋の共同通信社  ▽事実を伝える

 後藤委員 米朝首脳会談は歴史的な出来事で、戦争の危機は一歩、または半歩遠ざかったのだと感じた。今後の問題や不透明さを抱えつつも、会談の実現は望ましいことなのだと歓迎したい。読み応えがあったのは編集委員のインタビュー連載だ。日米韓の当事者が出ている。

 三浦委員 韓国、北朝鮮に関する専門の記者、核問題に取り組んできた記者など層の厚さが生かされている印象を受けた。米国の核不拡散政策の歴史を振り返る企画として、1960年代から始めた読みものがあってもいい。また、米国に忖度(そんたく)して使わなくなったが、首相周辺は「最大限の圧力」を強調していた。だが自民党内は意外にハト派。首相官邸と自民党の違いみたいなものは読み応えがある。

 沢井俊光ニュースセンター長(前外信部長) 一番心掛けたのはファクト(事実)を伝えること。米朝首脳会談では起きたことを余すことなく記録するため、日程をドキュメントとして送信し、公になった発言を全文や要旨にまとめた。米国の不拡散政策の中で、朝鮮半島の問題をどう位置付けるかという企画はやってみたい。

 ▽「蚊帳の外」

 清水委員 連日の報道で、読者も翻弄(ほんろう)されている感じがした。米朝首脳会談と言っても、中国やロシアの問題があり、朝鮮半島では南北の考えがある中で、日本がどんな立ち位置にあるのか鮮明にならなかった。日本について「蚊帳の外」という言葉がよく使われているが、これは蚊帳の中にいた人が外に出た状況を指す言葉で、最初から外にいた場合は当てはまらない。この問題で、日本が当事者として蚊帳の中にいたという感じはしない。

意見を述べる三浦瑠麗委員=6月30日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 米国が北朝鮮に融和政策を取っていることと、各国と貿易紛争を起こしていることを、長期的には合わせて論じるべきだろう。第2次大戦後の秩序の終焉(しゅうえん)だ。日本にとっては、安倍政権が米国の後を追い掛けてかっこ悪い、という意味合いにとどまらない。日本の自立論なども記事で示す中で、国民がどういう時代の節目にいるのかが見えるようになればいい。

 小渕敏郎編集局次長(前政治部長) 日本政府の立ち位置を一言で言えば「トランプ頼み」だ。小泉首相(当時)の訪朝時には北朝鮮に拉致を認めさせ、謝罪させる形で物事を動かした。それに比べれば明らかに北朝鮮外交での当事者性は欠如している。

 ▽見出し工夫も

 三浦委員 首脳会談を巡り、トランプ米大統領が新聞では追い付けない速度で態度を変更する状況を、見出しでどううまく伝えるかは課題になったと思う。事態が急変するときに「予測不能」という見出しや「迷走」という単語を使っていたが、読者には判断の放棄のように見える。

 沢井ニュースセンター長 見出しに思考停止の印象を持たれたならば、全く本意ではない。先読みを放棄しているわけではなく、見出しの表現に工夫が必要だと思う。

 後藤委員 脱北者が日本国内で約200人に達していることは共同の報道で初めて知った。素人なりの見方だが、北朝鮮はかなり変容しつつあるのではないか。為政者がせき止めようとしても、地下市場経済が社会にも入ってきているらしい。長期の連載もあり得るのではないか。

意見を述べる清水勉委員=6月30日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 日本に引きつけて、とよく言われるが、日本のためだけに書くのではなく、国際的な視野を持つべきだ。世界中の多くの人に読まれているという自負心でやってほしい。

 近沢守康外信部長 完全な非核化が実現するのかどうかが最大の焦点。「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄」という概念自体が米国と北朝鮮、中国では違うのではないか。現状を正確に伝えていきたい。

 米朝首脳会談 共同声明のポイント

 松浦基明政治部長 安倍政権が非核化への資金協力とか人的な協力、経済支援に言及しているのは、拉致問題の出口戦略を考えているのだろう。日朝平壌宣言の履行など、日本がやらなければいけない視点を忘れず、冷静に報じていきたい。

 梅野修編集局長 北朝鮮報道は、米朝の合意と共同声明に盛り込まれた非核化への道筋を、いかに検証可能で後戻りできない形にするのかが鍵となる。いたずらに危機感やナショナリズムをあおったりせずに事実を淡々と伝えるとともに、深みのある報道に努めたい。

米朝首脳会談
 米朝首脳会談 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は6月12日、シンガポールで初の米朝首脳会談を行い「シンガポール共同声明」に署名。(1)新たな米朝関係の構築(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築(3)完全非核化に向けた北朝鮮の取り組みの確約(4)朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集で協力―を盛り込んだ。北朝鮮に対する事実上の体制保証や、合意履行のため米朝高官が交渉を継続することも明記。ただ完全非核化や体制保証に関し具体策の合意はなかった。

【サブテーマ】日大アメフット部の悪質反則問題

メディアに甘さ―後藤氏 全文配信を評価―三浦氏  当初匿名は疑問―清水氏 

 5月6日、東京都内で行われた定期戦で、パスを投げ終えた関学大選手に背後からタックルする日大の選手(関学大提供・背番号をモザイク加工しています)

 5月6日、東京都内で行われた定期戦で、パスを投げ終えた関学大選手に背後からタックルする日大の選手(関学大提供・背番号をモザイク加工しています)

 清水委員 日本大アメリカンフットボール部の悪質反則問題は割と早い時期にネット上に出ていたのに、共同通信が報じたのは試合の4日後。スポーツの体裁をとっていても犯罪は犯罪で、報道しないのは疑問。当時の内田正人監督が試合後に報道陣の取材に応じたときのやりとりを当初、共同通信や一般の新聞はあまり問題にしなかった。ネット上ではもっと前から問題にしていた。

 後藤委員 共同の評論記事で、スポーツの名を借りた犯罪だと非常に厳しい指摘をしているが、全く同感。相手にけがをさせてもいいと指導者から指示が出たのは論外だ。タックルの映像を見て、とんでもないひどい行為だと思った。

 一般論になるが、体罰など、ある種日本的な文化に対してメディアは旧来から甘い。高校野球では気合を入れるといった言葉で許されてきた。日本的なもの、体育会的なもの、それは間違っていることをきちんと言わないといけない。日大だけの問題じゃない。

 日本大アメフット部の悪質反則問題

 三浦委員 加害選手の記者会見全文を配信したのは良かった。間違った指示を聞くべきではなかったということが会見の趣旨だったはず。言うことを聞かざるを得ないよねという方向に持っていったテレビなどの報道に違和感があった。

 結果的に選手はいい人、刑事訴追されるのはかわいそう、監督とコーチが悪という構図になった。社会やスポーツ界にとっての学びってなんだろうと不安になった。

 正田裕生運動部長 試合は一部スポーツ紙などしか取材していなかった。情報は伝わってきて、どのタイミングで書こうかと考えていたときに、関東学生連盟の処分があったので記事化した。犯罪行為というのは、その通り。ただ、選手の会見を聞いても、監督は直接指示していない。コーチから追い込まれる形になっていたので、どういう証拠に基づいて立証できるのか非常に悩んだ。

 清水委員 当初は加害者も被害者も匿名で報じた。加害者は成人。しかも衆人環視の中での傷害事件だから、何で匿名なのかと気になった。

 出口修編集局総務 当初は選手が何のためにやったのか分からなかったので匿名にした。記者会見で故意を認め、試合時に成人だったことも確認して実名に切り替えた。

 梅野修編集局長 監督が選手にゆがんだ自己犠牲を強いて、選手も拒否することなく従ったという構造的な問題。学生スポーツの在り方として、自律した判断力をいかに養うかを考えていく必要がある。

日本大アメリカンフットボール部の悪質反則問題
 日本大アメリカンフットボール部の悪質反則問題 5月6日の関西学院大との定期戦で、日大の選手がボールを投げ終えた相手クオーターバックの背後から危険なタックルをし、負傷させた問題。会員制交流サイト(SNS)で動画が拡散し、社会問題となった。加害選手は記者会見を開き、監督とコーチの指示に従ったと説明。負傷選手らに謝罪し、競技から退く意思を示した。辞任した内田正人(うちだ・まさと)前監督らは指示を否定しているが、関東学生連盟は指示があったと認定し、除名処分を科した。日大トップの田中英寿(たなか・ひでとし)理事長は問題発覚後、公の場に姿を現していない。

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