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第70回会議(働き方改革、仮想通貨)

働き方改革、仮想通貨の大量流出 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

 「報道と読者」委員会70回会議。(奥左から)清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=10日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3月10日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第70回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が働き方改革と仮想通貨の大量流出の報道について議論した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は、働き方に関する報道で「ジャーナリズムは弱い人の立場に立つべきだ。正規と非正規であれば非正規に、男性と女性では女性に寄ったスタンスで見つめていけばよい」と提案。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、裁量労働制の拡大を巡る厚生労働省の労働時間調査が不適切だった問題で、労働基準監督官が調査のずさんさを証言した報道を評価した。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「働き方は複合的なテーマで、少子化が進む問題がすべて集約されているのに、記事は男性社会における代表的な語り方である労使の協調や対立がメインになっている。読者に伝わりにくい原因ではないか」と主張した。

 仮想通貨の大量流出問題では、後藤氏は「多くの読者にとって、よく分からないというのが正直な感想だろう。通貨とはいいながら投機の対象となっているのが実態ではないか」と指摘。清水氏は、業者に説明責任を果たす方が良いと誘導する取材、報道を求めた。三浦氏は「コインチェックはかたくなに財務状況を開示しない」として、同社を含めた交換業者の詳しい実態が分かる記事を要望した。

働き方、仮想通貨で議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第70回会議が3月10日開かれ、委員3人が働き方改革と、仮想通貨の流出問題の報道を議論した。働き方改革は安倍政権が掲げる政策のほか、広く「働き方」の報道を論議。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は「ジャーナリズムは非正規、女性など弱い人の立場に立つべきだ」と提起した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、裁量労働制の不適切データを巡り労働基準監督官が調査のずさんさを証言した報道を評価。仮想通貨について、国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は、交換業者の詳しい実態が分かる記事が必要と指摘した。

【テーマ1】働き方改革

証言記事を評価--清水氏 掘り起こし不足--後藤氏 成功例も報道を--三浦氏 

 2016年11月、電通の東京本社に家宅捜索に入る東京労働局の労働基準監督官ら=東京都港区

 2016年11月、電通の東京本社に家宅捜索に入る東京労働局の労働基準監督官ら=東京都港区

意見を述べる清水勉委員=10日、東京・東新橋の共同通信社  ▽ずさんデータ

 清水委員 裁量労働制の拡大を巡る厚生労働省の労働時間調査が不適切だった問題で、労働基準監督官が調査のずさんさを証言した記事は良かった。データを拙速に作ったのが問題。調査のマニュアルがどうなっていたのか紹介する記事があっていい。

 三浦委員 厚労省の能力不足は深刻だが、単にミスがあったというだけではなく、法案の効果がどうなるか、もう少し科学的に検証してもいい。新聞がしなければいけないわけではないが、社会的な議論をそういう方向に向ける動きがあってもいい。

 須佐美文孝生活報道部長 国会の中の対立を報じるだけでなく、実際に調査に当たった監督官にじか当たりをして証言を引き出すなど、重層的な取材で、政権の不手際を浮かび上がらせようと努力した。報道の一定の役割を果たしたと思う。

意見を述べる後藤正治委員=10日、東京・東新橋の共同通信社  ▽電通過労自殺

 後藤委員 電通の新入社員だった女性が過労自殺したニュースは強いインパクトを持っている。義憤を喚起させたのか分からないが、世論が怒り、労働基準監督署も素早く対応した。公判にまで持ち込まれたのは大きな世論の力だ。

 清水委員 女性はうつ病の治療を受けていたのか。同僚や社宅の人たちはどう見ていたのか。うつ病は自分だけでは克服できない。周囲の人たちの取材をし、記事化できるといい。うつ病を患いながら働いている人は多い。誰もがうつ病に無関係では生きられなくなっているから、意味のある報道になる。

 三浦委員 課題の一つは健康管理。「働き方改革」の法案では詰まっていない、と政府案を批判するだけではなく、どういうふうにしたらいいのかを取材し、成功した企業などの具体例を見つけていくことが必要だ。

 石川義彦社会部長 亡くなった女性の暮らしぶりをもう少し伝えることができたらという指摘は、その通りだと感じる。具体的な人間が出てくる記事でなければ読んでいる人にも伝わらない。

 ▽働かせ方改革

 後藤委員 総体としては、具体的な事例や自社で掘り起こしたニュース、斬新な問題提起の記事が少なかった。その中で、三菱電機で違法残業を強いられていた研究職の男性の記事は、努力して地道な取材で発掘されたのだろう。働き方で言えば、ジャーナリズムは弱い人の立場に立つべきだ。正規と非正規であれば非正規に、男性と女性では女性に寄ったスタンスで見つめていけばよい。

意見を述べる三浦瑠麗委員=10日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 働き方は複合的なテーマで、少子化が進む問題がすべて集約されているのに、記事は男性社会における代表的な語り方である労使の協調や対立がメインになっている。読者に伝わりにくい原因ではないか。

 清水委員 労働者の意向が反映されたのではなく、経営者側が主導したのなら「働き方改革」は「働かせ方改革」と呼んだ方がいい。少子高齢化が進む社会で、労働者を短期間で使い切って捨てるという考え方ではいけない。企業は貴重な労働力を育てることが重要で、裁量労働制と高度プロフェッショナル制度はそれに沿うのかが問題だ。

 須佐美生活報道部長 高度プロフェッショナル制度でも裁量労働制にしても、経済界からの主張が強く反映された安倍政権の考え方が色濃く出たものだと、厳しく捉えたつもりだ。

 働き方改革関連法案の主な内容  ▽「女性目線」の懸念

 後藤委員 「働き方」というテーマは、ニュースというよりも企画報道の腕の見せどころではないかと思う。結婚する難しさを扱った連載企画は面白く読んだ。現代の最前線を伝えている。男女雇用機会均等法が施行されて30年で総合職の女性の8割が退職してしまっているとの調査記事も、追跡するといろいろ出てくると思う。

 三浦委員 結婚、子育てばかりに目がいきすぎてしまうと、「女性目線」と言いながら特定の方向に誘導してしまうような記事が多くなるのではないかとの懸念がある。女性については、セクハラやパワハラの事例は仮名でもいいので、個人の語りとして実態を伝えるべきだ。

 石川社会部長 われわれの職場も女性記者が増えている。女性の置かれている立場をしっかり取り上げていかなければならないと、現場のデスクも記者も感じている。

 尾原佐和子生活報道部担当部長 均等法三十余年で変わったところ、変わらないところがある。働く側に立った視点の記事を深く書いていきたい。企業の両立支援策から置き去りになっている非正規の人たちの状況も取り上げなければいけない。

 梅野修編集局長 働き方改革は安倍政権の看板政策。社会的な弱者に光を当てながら、問題点をクローズアップしていく姿勢が重要だ。改革の方向性を注意深く掘り下げていきたい。

働き方改革
働き方改革 安倍政権の目玉政策で雇用・労働政策の見直しの総称。政府は今国会で残業時間の上限規制や、非正規労働者の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」の導入を柱とする働き方改革関連法案の成立を目指す。厚生労働省の労働時間に関する調査を巡ってデータの不適切処理が発覚し、裁量労働制拡大は法案から削除することにした。一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」創設には、野党や労働組合が「過労死を増やす」などと強く反発している。

【テーマ2】仮想通貨の大量流出

実態は投機では--後藤氏 監督に問題--清水氏  交換業者解明を--三浦氏 

1月、記者会見で謝罪するコインチェックの和田晃一良社長(左)ら=東京・日本橋兜町の東京証券取引所

1月、記者会見で謝罪するコインチェックの和田晃一良社長(左)ら=東京・日本橋兜町の東京証券取引所

 後藤委員 仮想通貨の流出問題は多くの読者にとって、よく分からないというのが正直な感想だろう。通貨とはいいながら投機の対象になっているのが実態ではないか。通貨にウエートを置くなら行政の対応が遅れたとの論理でいいが、投機だとすると自己責任にすぎず、社会がどこまで問題にすべきなのかとの戸惑いもある。

 三浦委員 日本人は仮想通貨の知識が乏しいまま、世界最大の購買者になった。コインチェックのようにタレントを使ったCMで親近感を抱かせて「バスに乗り遅れるな」的なもうけの機会をあおったのが実情だ。ただ、決済手段などとしての仮想通貨の役割を説明せず、とりあえず悪みたいに捉えるのも問題だ。一から仮想通貨とは何かを解説する記事が必要になってくる。

 清水委員 コインチェックの安全管理のレベルはあまりにも低かった。規制する法律の規定も、金融庁の仮想通貨に対する監督の仕方も非常に問題があるとの印象を持った。今後さらに拡大する仮想通貨に国がどう関わっていくのか、海外との比較なども含めて多面的に記事化していかなければならない。

 東隆行経済部長 交換業者は急成長しすぎて安全面が追いつかず、一方で目を光らせる法律にも不備があった。仮想通貨をけしからんと決めつけて報道するつもりはないし、持ち上げようとも思っていない。是々非々のスタンスで臨みたい。

仮想通貨のイメージ

 北本一郎サイバー報道チーム長 仮想通貨の専門家は行政にも少なく、技術振興に役立てる観点から緩い規制で進めたところ、今回の問題が起きてしまった。技術的な取材と並行して法律面にも注目して記事をつくる必要があると感じた。

 後藤委員 人間が見えると見えてくることもある。コインチェックの社長は学生時代に投稿サイトを運営して創業したらしい。こうした側面を記事化すれば、分かりにくいところも少しは見えてくるのではないか。

 三浦委員 コインチェックはかたくなに自分たちの財務状況を開示しない。同社を含めた交換業者の詳しい実態が分かる記事がほしい。

 清水委員 外から眺めている感じの記事で、交換業者の内情があまり出ていなかった。業者に対外的な説明責任を果たすことの重要性の自覚がないのだとすれば、説明責任を果たす方が良いと誘導する取材、報道をするとよかったのではないか。

 石川義彦社会部長 警視庁の捜査をフォローするほか、仮想通貨への課税面など、多角的な記事を出して読者の理解を助けたい。

 梅野修編集局長 仮想通貨は行政も対応し切れていない。研究者、技術者ともパイプをつくりながら、専門的な知見を生かしつつ、分かりやすく解説していきたい。

仮想通貨
仮想通貨 インターネット上で取引される財産的な価値がある電子データ。1500種類程度あるとされ、「ビットコイン」や「イーサリアム」が代表的。中央銀行のような公的な管理者がいない点で、円やドルといった法定通貨とは異なる。専門の仮想通貨交換業者を通じて売買ができる。送金が迅速にできるメリットがあり、ネット上のサービスや実店舗でも利用が広がりつつある。その一方、値上がりを期待した投機マネーが流入。交換業者のセキュリティー対策の充実も課題となっている。

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