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第68回会議(天皇退位、「共謀罪」)

天皇退位、「共謀罪」 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

 「報道と読者」委員会の第68回会議。奥左から清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=8日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は8日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第68回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が天皇陛下の退位問題と、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を巡る報道について議論した。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は陛下の退位に関し「問題になっているのは憲法で創設された制度としての天皇」と指摘。「人間としての天皇という面に引きずられているのではないか。整理した報道が必要」と問題提起した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は5月の郵送方式による世論調査報道に触れ「国民の圧倒的多数が、陛下のビデオメッセージを了として受け止めていることがはっきり出た。動かしたのは世論だった」と述べた。

 国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は政府の有識者会議などを念頭に「政権の設定した動きを後追いせざるを得なかった」と問題視。同会議がまとめた論点整理に疑問を呈した。

 共謀罪法に関し、清水氏は「権力との関係で監視をどんな形で認め、運用の中身をどこまで開示させるのかというルールを作らないといけない」と提案した。

 三浦氏は「監視社会の問題は今後追い掛けていく価値がある分野だ」として積極的な報道を要請した。

 後藤氏は「為政者のチェックをきちんとすることがジャーナリズムの原点だ」と訴えた。

天皇退位、「共謀罪」議論  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第68回会議が8日開かれ、委員3人が天皇陛下の退位問題と、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を巡る報道について議論した。弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は憲法の天皇制と人間としての天皇を整理することが必要と強調。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は有識者会議の在り方に疑問を呈した。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は共謀罪法成立を踏まえ、権力監視の使命を果たすよう求めた。

【テーマ1】天皇陛下の退位問題

憲法上の制度重視--清水氏  印象深い世論調査--後藤氏  有識者会議に疑問--三浦氏

6月、天皇陛下の退位を実現する特例法の成立を伝える街頭テレビ=東京・有楽町

6月、天皇陛下の退位を実現する特例法の成立を伝える街頭テレビ=東京・有楽町

 ▽「機関」と人間

 後藤委員 昨年8月の天皇陛下のビデオメッセージは難解だったが、お気持ちがよく伝わってきた。報道の中で一番印象深かったのは今年5月の郵送方式による世論調査だ。国民の圧倒的多数が、このメッセージを了として受け止めていることが数字ではっきり出た。退位の法整備は国民の「多数」の意見を尊重し、落ち着くところに落ち着いた。動かしたのは世論だったと感じる。

 清水委員 さまざまな議論の中で、天皇制の捉え方が人によって違う。現在、退位が問題になっている天皇は、現行憲法で新たに創設された制度としての天皇だ。生身の人間を制度に取り込んだところに問題を難しくする要因がある。ビデオメッセージの印象があまりにも強いので、読者は人間としての天皇という面に引きずられているのではないか。整理して報道しないと情緒に流れてしまう。

 三浦委員 明治以降の歴史の中で天皇主権説を制限する役割としての天皇機関説にこだわり過ぎると、天皇個人の人権を圧迫することを見落としてしまう。明治以前の歴史をよく分かっている人の意見も伝えていかなければならない。天皇の役割や、日本における権力と権威の二重性を考えるような企画記事があってもいい。

 山田昌邦編集局企画委員(皇室取材チーム長) 陛下のメッセージの意味を、かみ砕いて伝えることに重点を置いた。天皇の地位は国民の総意に基づくと憲法で規定されており、国民の考えを明らかにしたいとの思いで世論調査を実施した。象徴天皇の在り方を考えてもらうことを第一に取り組んだ。

意見を述べる後藤正治委員=8日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 阪神大震災の時に被災地で天皇陛下を間近に見たことがある。共同の記事では、天皇陛下は被災地の見舞いや、戦争犠牲者の慰霊といった活動で、象徴という言葉を具現化したと指摘しているが、その通りだと感じる。

 ▽政権後追い

 三浦委員 メッセージが発出された直後、世間の関心は極めて高かったが、その後は政権の設定した動きを後追いせざるを得なかった。退位問題を国民全体で考える上で大きな問題点だったのではないか。政府の有識者会議がまとめた論点整理は、変化を阻む保守派の意見が強調され、明らかにおかしかった。

意見を述べる清水勉委員=8日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 有識者会議のメンバーに憲法学者がいないのは問題だ。現行憲法の解釈の問題として、天皇は機関であると同時に人間であることをどう整理するか、という議論が国民に見えるためには憲法学者が必要だった。有識者会議の議論が完全非公開だったのも問題だ。

退位を巡り想定される流れ

 小渕敏郎政治部長 有識者会議が、陛下一代限りの退位ありきという中で始まったことは何度も指摘してきた。有識者会議によるヒアリングなどでは、さまざまな意見をできる限り忠実に再現し、丁寧に伝えてきたつもりだ。特例法という方向に持っていくかのような論点整理になっていた部分は否めず、指摘すべきは指摘した。政権側は制度の安定性に非常に力点を置いていたと思う。

 梅野修編集局長 「陛下のお気持ち」と「国民の総意」が最初にあり、特例法の審議は衆参両院1日ずつで終わった。異例の手続きだった。今後も女性宮家や女系天皇など、さまざまな課題がある。多角的に取材を重ね、読者の判断材料になる記事を出稿していきたい。

天皇の退位
 天皇の退位 天皇が存命中に皇位を退くこと。皇室典範は、皇位継承を天皇が亡くなった時に限っており、明治時代の旧典範制定以降は認められていなかった。陛下は昨年8月、退位への思いをにじませたビデオメッセージを公表。政府が設置した有識者会議は今年1月、陛下一代限りの退位を有力視し、特例法を後押しする論点整理をまとめた。天皇の地位は「国民の総意に基づく」とする憲法規定を踏まえ、与野党の幅広い賛同を得て陛下の退位を実現する特例法が6月に成立した。

【テーマ2】犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を巡る報道

社会に不利益危惧--後藤氏   監視社会注視を--三浦氏  ルール作り必要--清水氏

6月、国会前で「共謀罪」法案に抗議する大勢の人たち

6月、国会前で「共謀罪」法案に抗議する大勢の人たち

 ▽なぜ今

 後藤委員 「共謀罪」法案は過去に3度廃案になっている。社会的な利益が見えにくく、むしろ不利益の方が危惧される。なぜ今の時点で問題のある法案を出してきたのかを、解きほぐす記事がなかったような気がする。安倍政権には治安重視という体質を感じるが、誰か絵を描いている人がいるのではないか。そのあたりの突っ込んだ記事も読んでみたかった。

 小渕敏郎政治部長 共謀罪は支持率を下げる要因にはなるが、直後に国政選挙が控えているわけではない。国際社会でテロが続発する中、東京五輪を前面に出せば国民の理解が広がるのではないかという判断もあって法案提出に至ったことは記事化してきた。

 ▽民間から情報

 清水委員 データ社会では警察官が監視する必要はなく、民間企業から情報を提供させることができる。日常生活の監視は共謀罪ができたから始まるのではなく、実はもう行われていて、共謀罪によって正当化されていく。そういう方向に進む日本社会という観点をもっと明確に出してもよかったのではないか。

 石川義彦社会部長 裁判所の令状が必要な強制捜査よりも任意捜査の方が問題だと思う。法律の施行で、任意捜査の名の下に警察当局がプライバシーを収集することになるだろう。ただ、国民の多くは自分とは関係のない法律だという認識ではないか。その点を十分伝えきれなかったのは反省している。

意見を述べる三浦瑠麗委員=8日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 監視社会の問題は今後追い掛けていく価値がある分野だ。自由社会であっても、完全に情報が見られているのは止められない流れだが、そんな中で何ができるのか。人工知能(AI)のような明るい話ばかりではなく、書いていけばいいと思う。

 清水委員 警察が国民を監視するというレベルでなくても、民間同士でも自由にのぞき見ができる情報環境になっている。民間企業の中のルールをどう確立するのかを考えるとともに、権力との関係で監視をどんな形で認め、運用の中身をどこまで開示させるのかというルールを作らないといけない。

 ▽「一般人」

 三浦委員 共謀罪法案に反対した人は「一般人かそれ以外か」という二分する政権のロジックを受け入れてしまっている。「一般人も巻き込まれる」という書き方は問題だったのではないか。

 石川社会部長 「私は一般人なので何もやましくない」「悪いことをしていないので安全を選ぶ」という形で世論ができてしまったと感じた。そうした論理にメディアもからめ捕られていたのかもしれない。

 三浦委員 識者の意見であっても事実誤認が含まれている場合があった。どうしたらいいのか。

改正組織犯罪処罰法の「共謀罪」規定のポイント

 清水委員 部分的に間違えていることはよくある。対談や討論の形にすれば、話す過程で修正できる。いい論点を拾って構成すれば、かみ合った、いい読み物になると思う。

 後藤委員 安倍政権は多数の議席を与えられ、1強でやりたい放題やってきた気がする。時の為政者のチェックをきちんとすることが、新聞は何のためにあるのかというジャーナリズムの原点だと思う。言わずもがなだが、その原点に踏みとどまってもらいたい。

 梅野修編集局長 安全・安心社会がどうあるべきか、法律で網をどう掛けるかという二つの課題のバランスは非常に難しい。法律の運用が実際どうなっていくのかを検証していかなければならない。

共謀罪
 共謀罪 日本が2000年に署名した国際組織犯罪防止条約は「重大な犯罪の合意」などを犯罪化するよう義務付けている。政府はこれを根拠に03〜05年、共謀罪を新設する組織犯罪処罰法改正案を3回にわたって国会に提出。適用対象を「団体」としていたことなどから、市民団体や労働組合の関係者も処罰されるとの批判が強まり、いずれも廃案になった。適用対象を「組織的犯罪集団」と規定し、現場の下見などの「準備行為」を構成要件に加えた改正法が成立。今月11日に施行された。

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