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第65回会議(参院選、相模原事件)

参院選、相模原事件  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第65回会議。奥左から清水勉委員、後藤正治委員、三浦瑠麗委員=3日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第65回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「参院選」、「相模原の障害者殺傷事件」報道をテーマに議論した。

 参院選に関し、国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は「いまや『改憲勢力』対『護憲派』という構図が全てではない」と強調。新しい議論を紹介することの必要性を訴えた。

 弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、公選法が戸別訪問や事前運動を禁じていることについて「お金のない人や無名の人が選挙運動をする際、どれだけ足かせになっているか」と批判。問題点を検証すべきだとした。参院選での合区にも疑問を呈した。

 ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は18歳選挙権を巡り「若者に政治参加を呼び掛ける論調は大事だが、もはや若者も政治を傍観できないという視点」を持つべきだと指摘した。

 相模原の殺傷事件で清水氏は「(容疑者が)突然変わったという報道は疑問だ。理解不能な危険人物だから言い分に耳を傾ける必要はないという思考停止に陥る」と述べ、容疑者の内面を掘り下げるべきだと主張した。

 三浦氏は、容疑者が衆院議長に宛てた手紙について「社会へのインパクトが大きい事件ではファクトが多い方が良い」と、記事掲載に理解を示した。後藤氏も「とんでもない文章だが、人となりがよく分かる」とした。

参院選、相模原事件を議論  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第65回会議が3日開かれ、委員3人が「参院選」、「相模原の障害者殺傷事件」の報道を巡り議論した。国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)氏は参院選で争点となった憲法改正について、最新の論点を紹介するよう求めた。ノンフィクション作家の後藤正治(ごとう・まさはる)氏は18歳選挙権に関し、若者の政治参加で新たな視点を打ち出すべきだと指摘。相模原事件で弁護士の清水勉(しみず・つとむ)氏は、容疑者の内面を分析する必要があるとした。

【テーマ1】参院選

新たな議論紹介を--三浦氏  公選法の点検も--清水氏 視点問われる--後藤氏

参院選翌日に記者会見する自民党総裁の安倍首相=7月、東京・永田町の党本部

参院選翌日に記者会見する自民党総裁の安倍首相=7月、東京・永田町の党本部

▽改憲論議
意見を述べる清水勉委員=3日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 参院選で改憲勢力が3分の2を突破したが、有権者は必ずしも改憲にイエスと言ったわけではないとの記事がいくつかあった。そういう意味で、改憲勢力が3分の2を超えるかどうかという課題設定は、やや先走りの印象を受けた。

 三浦委員 憲法を巡ってはいまや「改憲勢力」対「護憲派」という構図が全てではない。一般的に言われている論点を超えて、新しい議論を紹介することも必要だ。

 小渕敏郎政治部長 安倍晋三首相は選挙戦で改憲の具体論は語らず、争点化を回避した。しかし改憲勢力が3分の2を確保すれば、改憲を政治日程に乗せる基盤ができるという意味で分岐点になると考え、論点を読者に示すべきだと判断した。従来の護憲派の中から改憲論が出ている状況などを踏まえ、新しい論点も取り上げたい。

 河原仁志編集局長(16日付で総務局長に異動) 選挙報道では、どうしても両論併記的な書き方が多い。それを克服するスタイルを持たないと、時代についていけなくなる。

▽18歳選挙権
意見を述べる清水勉委員=3日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 18歳、19歳の有権者の意識をどう喚起するかという報道に意欲的に取り組んだという印象を持った。ただ、それ以外の選挙記事と連動していない感じがした。

 後藤委員 若者に政治参加を呼び掛ける論調は大事だが「若い層が政治に無関心であり得た幸せな時代は、もう終わっている」という視点の方が先にあるべきではなかったか。(社会保障などで)若い世代の負担が増える、あるいは日本が戦争できる国になりつつある状況の中で、もはや若者も政治を傍観できないという視点の方が大事だ。

 出口修社会部長 18歳選挙権に関し、選挙制度や各党の政策の違いを若者に理解してもらおうと心掛けた。18、19歳の生の声もできるだけ伝えようと思った。ほかの記事と連動していないという指摘には盲点を突かれた気がする。

衆参両院での改憲勢力

 衆参両院での改憲勢力

▽公選法

 清水委員 公選法の問題点の報道がない。日本では戸別訪問や事前運動が禁止されているが、世界共通ではない。それがおかしいという問題提起はできないのか。お金のない人や無名の人が選挙運動をする際に、公選法がどれだけ足かせになっていることか。参院選での合区も、かなり深刻な問題だ。東京一極集中の国政でいいのか。

 後藤委員 参院選1人区の東北や沖縄で、野党統一候補が当選した。なぜそうした地域で野党が勝てたのか、検証報道を読みたかった。

新たな議論紹介を--三浦氏  記者会見する安倍首相

 三浦委員 地方創生という新しいテーマでは、対立軸を拾い損なうことがある。「地方の町、村を残せ」だけではなく、異なる見解の識者も取り上げてほしい。

 小渕政治部長 公選法の妥当性を掘り下げていきたい。合区については、参院議員を地域代表と位置付けるのか、参院議員の定数を増やして合区を解消するのかなど、さまざまな議論がある。東北の1人区で野党が善戦した分析は足りていない。引き続き考えたい。

18歳選挙権
 18歳選挙権 選挙で投票できる年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げた措置。国政選挙では7月の参院選が初適用となった。選挙権年齢の引き下げは、1945年に25歳から20歳に下げられて以来。高校3年生の一部も対象に含まれ、放課後や休日に選挙運動が可能となった。総務省は9月9日、参院選での新有権者18、19歳全員(約240万人)の投票率(選挙区)を調査した結果、18歳は51・28%、19歳は42・30%、18歳と19歳を合わせた投票率は46・78%と発表した。

【テーマ2】相模原の障害者殺傷事件

思考停止を防げ--清水氏  内部で議論を--後藤氏 ファクトを多く--三浦氏

障害者施設殺傷事件が起きた「津久井やまゆり園」=8月、相模原市緑区

障害者施設殺傷事件が起きた「津久井やまゆり園」=8月、相模原市緑区

▽匿名発表

 後藤委員 警察が被害者の性別と年齢しか発表していない中で、実名報道を了解した被害者の家族もいることを伝えた記事が心に残った。今回のようなケースでは、実名か匿名かも含め、例えば社内に検討委員会をつくって議論し、悩みながら報道していくしかないのではないか。

 清水委員 警察が開示しないことは問題ではない。取材し、対象者と信頼関係をつくり、了解を得た範囲で報道すればいい。良い記事が出れば、ほかにも自分のことを書いてほしいと思う人は現れる。

 出口修社会部長 実名報道の意義は多々あるが、問答無用で実名を選択するのではない。被害者側が知られたくないと思わせる環境が社会にあると分かった。家族に理解してもらうという指摘はその通りだ。

 所沢新一郎東京支社編集部長 今後、最愛の家族が生きた証しを伝えたいと思う方も出てくるかもしれない。それを待ち続ける作業をしなければならない。

 平川志朗横浜支局次長 記者クラブ側から再三、実名発表を申し入れている。県警は、前例としない、実名報道の原則は理解していると回答した。記事にしている。

犯罪被害者の実名報道

犯罪被害者の実名報道

▽手紙と供述

 後藤委員 衆院議長宛ての容疑者の手紙はとんでもない文章だが、人となりがよく分かる。

 三浦委員 手紙は掲載するべきだ。社会へのインパクトが大きい事件ではファクトが多い方が良い。措置入院や障害者施設の安全確保、職員の労働環境などをフォローしてほしい。

 所沢東京編集部長 手紙の内容に不快感、嫌悪感を抱く読者も多いと考え、動機や背景の解明に必要と説明した「おことわり」をつけて報じた。

 古口健二生活報道部長 容疑者の供述を障害者らがどう受け取ったかが気になった。ショックを受けた知的障害者を親が励ました記事や、差別や偏見は誰にもあるとする筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の寄稿を配信した。

▽動機報道

 清水委員 容疑者は単なる差別者ではなく、日々接してきた人々の存在を否定した。働きながら何を見て何を感じ、どう変わっていったのか。突然変わったという報道は疑問だ。理解不能な危険人物だから言い分に耳を傾ける必要はないという思考停止に陥る。「措置入院の在り方見直し」などハード面の強化を訴える記事も、危険を誰かに任せようとしているだけで、一人一人が問題を考えなくなる。

 出口社会部長 特殊な異常者と考えてはいない。動機は憎しみではなく、容疑者なりの正義を実行していると受け取れるところがある。何が起きたのかという事実を報じるとともに、その解明が重要になってくる。

 清水委員 刑事弁護人の仕事をしてきたからだと思うが、容疑者が読むこと、読んで考えさせられる記事づくりになっていない。容疑者の考えを知る努力をしつつ、その考え方の問題性を考える報道が必要ではないか。

相模原殺傷事件
 相模原殺傷事件 7月26日、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が刃物で刺されて死亡、職員も含め27人が負傷した。神奈川県警が同日、逮捕した元職員植松聖(うえまつ・さとし)容疑者は「障害者なんていなくなってしまえ」と供述。植松容疑者は2月、手紙を持って衆院議長公邸を訪れていた。手紙では「障害者470人を抹殺できる。目標は重複障害者が安楽死できる世界」などと記述。同月の施設側との面談でも差別する発言を繰り返し、市は緊急措置入院を決定。3月に退院していた。

◎新聞の取材力発揮  リオ五輪報道を評価

 「報道と読者」第65回会議では、リオデジャネイロ五輪の報道についても議論した。

 三浦瑠麗委員は、インパクトがあるのは映像だったが、新聞は長所の取材力が発揮されていたと評価。「スポーツに詳しくなくても、選手のストーリーを通じていろいろ分かった」と話した。

 清水勉委員は「メダルの話ばかりで、国威発揚的な報道が気になった。見る側は、国民意識を植え付けられていないか」と指摘。世界のトップレベルの選手をもっと報道してほしいと要望した。

 後藤正治委員は、ドーピングや過剰な商業化、肥大化などで、五輪が複雑化し変わってきたとの印象を受けたと述べた。「五輪に過剰に何かを託す時代ではない。次の東京五輪も落ち着いた報道で迎えたらいいのではないか」と提言した。

 小林伸輔運動部長は「テレビにはない舞台裏の取材をテーマに、記者もよく準備した」と振り返った。また、東京五輪では会員制交流サイト(SNS)や映像の広がりが早まる中で、新聞がどう対応していくかが課題だと述べた。

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