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第64回会議(日銀政策と日韓合意議論)

日銀政策と日韓合意議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第64回会議に臨む清水勉委員(奥左)、三浦瑠麗委員(同右)と共同通信社編集担当者=7日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は12日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第64回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「日銀のマイナス金利政策」と「慰安婦問題解決の日韓合意」の報道をテーマに議論した。

 マイナス金利政策に関し、ノンフィクション作家の後藤正治氏は高齢者の暮らしや地方銀行への影響など「現場で意味しているものは何かという記事もあっていい」と述べ、生活者やミクロの視点からの報道を求めた。

 弁護士の清水勉氏は「生活や社会に連動する書き方をすると家庭にも関係する問題として読んでもらえるのではないか」と説き、社会保障などと組み合わせた取り上げ方が必要だと話した。

 国際政治学者の三浦瑠麗氏は日銀の政策を含むアベノミクスを「中身はどうでもいいから日本経済を活性化させろというものだ」と指摘。マイナス金利の海外での事例をもっと紹介しても良かったと語った。

 慰安婦問題では三浦氏が「日韓合意後に韓国の国内で広がっている反発の意味合いを解説することが必要だ」と要望。後藤氏は急転直下で合意に至った背景の分析に「物足りなさを感じた」と述べた。

 清水氏は「慰安婦が戦中、戦後にどういう生活を強いられてきたかが重要」と、人権問題という視点からの報道が不足していると指摘した。

マイナス金利で問題提起  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第64回会議が12日開かれ、委員3人が「日銀のマイナス金利政策」と「慰安婦問題解決の日韓合意」の報道をめぐり議論した。ノンフィクション作家の後藤正治氏は日銀の政策に関し、高齢者など生活者の視点に立った記事を求めた。国際政治学者の三浦瑠麗氏は中身を問わず経済を活性化させようとするのがアベノミクスだと指摘、海外でのマイナス金利の事例紹介を求めた。慰安婦問題では弁護士の清水勉氏が人権の視点からの報道が不十分との見方を示した。

【テーマ1】日銀のマイナス金利政策

現場の視点で--後藤氏  生活と連動必要--清水氏 海外の例も--三浦氏

1月、金融政策決定会合後に記者会見する日銀の黒田総裁=日銀本店

1月、金融政策決定会合後に記者会見する日銀の黒田総裁=日銀本店

▽高齢者や地方の目
意見を述べる後藤正治委員=12日、東京・東新橋の共同通信社

 後藤委員 Q&A形式の記事や図表も使い、比較的分かりやすく伝えていたと思う。年金暮らしで預金を取り崩して生活している高齢者や、国債運用で息をつくことが難しくなった地方の金融機関を取り上げて、一番困っている現場でマイナス金利が意味しているものは何かという視点の記事もあっていいと感じた。

 三浦委員 マイナス金利を導入した欧州では銀行が収益を圧迫され、住宅ローン金利を引き上げる動きもある。海外での事例をもっと見せてもよかった。日銀がマイナス金利によって過剰な円高を抑えようとしたことがなぜ失敗したのかという点の分析も、もう少し必要だと思った。

 清水委員 生活や社会に連動する書き方をすれば、サラリーマンだけでなく、どの家庭にも関係する問題として読んでもらえるのではないか。経済成長、社会保障の問題などをセットで考えていくべきだ。

 河原仁志編集局長 マイナス金利政策は難解で、効果が実証されていない劇薬。その是非や背景、経緯と合わせて、地域や暮らし、産業への影響を意識して書くようにしている。ただ読者から見ると、まだまだ食い足りないとは思う。

▽アベノミクス
意見を述べる三浦瑠麗委員=12日、東京・東新橋の共同通信社

 三浦委員 安倍政権ではマクロ経済に詳しい人ばかりが幅を利かせ、ミクロの声が論争の場に上がってこない。期待をあおり「中身はどうでもいいから日本経済を活性化させろ」というのがアベノミクスであり、その最終手段がマイナス金利だ。多少は倫理の問題だが、新聞では扱いにくい。だから「市場の混乱」という方が書きやすいのかもしれないが、そればかりでいいのか。

 東隆行経済部長 マイナス金利は、日本経済の長期停滞の行き着いた先だと思う。根本的な問題は日本の経済構造がうまくいっていないことに尽きる。そういう大きな問題意識を、ミクロの現場の話を交ぜながら書けたらと思う。

 岡部央編集局次長 アベノミクスは破綻しかけていて、今度は1億総活躍という、これまでの政策と違う、木に竹を接ぐような政策をとっている。安倍政権は、安全保障法制や特定秘密保護法という政権の重要テーマを経済政策で覆い隠してきた。恐らく次は憲法を覆い隠してやってくるだろう。そのときに経済政策をどう報じるのかが非常に大事な視点だ。

マイナス金利の企業や家計への波及

マイナス金利の企業や家計への波及

▽少子化と経済成長

 後藤委員 日本経済は少子化時代で成長し続けることが構造的に難しいことをわれわれは知っている。経済がどんどん大きくなった1980年代のバブル期を私は良い時代とは思わない。成長しなければいけないという強迫観念から解放され、新しい知恵を探る展開を新聞で読んでみたい。

 紙面で引きつけられるのは、経済的成功や豊かさとは違う、何か光っているという生き方をしている人の記事。そういう連載を読みたい。

意見を述べる清水勉委員=12日、東京・東新橋の共同通信社

 清水委員 少子高齢化社会で日本経済が落ち、税収が減っていく中では、税金の使い方や政策、公共的なことを多くの国民がそれぞれ考え、発言していくことが重要になる。例えば、疲弊した地方銀行の現状、地域の住民や企業との関係性は全国民が関心を持たざるを得ないテーマだ。共同通信が地域と連携して報道すれば、問題提起ができるのではないか。

日銀のマイナス金利政策
 日銀のマイナス金利政策 日銀が民間銀行から受け入れている預金の一部にマイナスの金利を課し、事実上の手数料を取る政策。1月29日に決定し、2月16日から実施した。住宅ローンや企業向け融資の金利を押し下げ、消費や設備投資を活発にする狙いがある。外国為替相場を円安方向に導く効果もあるとされるが、世界経済が不安定なこともあり現時点で明確な効果は表れていない。一方で、個人の預金金利引き下げや運用商品の販売停止が相次ぐといった副作用が指摘されている。

【テーマ2】慰安婦問題解決の日韓合意

反発の意味解説を--三浦氏  当事者の視点必要--清水氏 再検証が不可欠--後藤氏

2015年12月、日韓外相会談を前に韓国の尹炳世外相(右)と握手する岸田外相=ソウルの韓国外務省(共同

2015年12月、日韓外相会談を前に韓国の尹炳世外相(右)と握手する岸田外相=ソウルの韓国外務省(共同

▽急転直下に驚き

 後藤委員 重苦しいニュースが多い昨今、歓迎したいニュースだった。短期間に急転直下で合意した驚きがある。平行線だった交渉が、なぜ一気にまとまったのかという疑問がわいた。水面下で日韓外務当局のやりとりがあったはずだ。米国の介入が指摘されているが、なぜ圧力をかけたのか。どんな外圧だったのか。報道には物足りなさを感じた。ある程度の時間がたった後で、もう一度検証してほしい。

 三浦委員 日韓合意は、韓国が設立する財団への日本の拠出が10億円にとどまるなど、日本政府に非常に有利だったというのが私の見方だ。しかし共同通信の記事は合意が日本政府にどれだけ有利な合意なのか、あまり書かず、淡々と記述した。韓国で広がっている反発の意味合いを解説することが必要だ。日本政府は、被害者を象徴する少女像の撤去と引き換えに10億円を拠出するとしたことで、国際社会にずる賢い印象を与えてしまった。その辺も分析してほしい。

 小渕敏郎政治部長 「最終的かつ不可逆的な解決」は確認されたが、少女像問題については曖昧な文言にとどまった。本当に不可逆的な解決になるのか予断を許さないという点を記事で強調した。合意が本当に日本の外交的勝利なのかどうか、冷静に伝えることが重要だと考えた。日韓両政府が、このタイミングでなぜ対立解消に動きだしたのか、米国の働き掛けなど国際情勢の背景も含めて今後も書き続けたい。

 沢井俊光外信部長 合意の背景で、米国や中国などがどう動いたかも検証し直したい。

従軍慰安婦問題の経緯

従軍慰安婦問題の経緯

▽人権問題

 清水委員 私は、薬害エイズ訴訟やハンセン病国賠訴訟に原告代理人として関わり、慰安婦問題を当事者の人権問題として考えてきた。当事者が戦中どんな生活をして、戦後どう生きてきたのか、家族との関係、地域社会との関係はどうだったのか。日韓は合意したが、彼女たちは政治のカードに使われただけで、親族も含めてひどい差別を受けているかもしれない。彼女たちの今後の生活はどうなるのか。そういう視点の報道が全く出てこない。彼女たちのために何をするのかということを日韓の国民レベルで考えるべきだった。交渉の状況が目まぐるしく動き、記事はそれを追っているだけだ。

 後藤委員 元慰安婦の肉声が記事にはない。直接取材を試みたが難しい事情があるのか。ガードされてしまったのか。

 沢井外信部長 1965年の日韓基本条約締結時、韓国は軍事政権だったこともあり、日韓関係は国民不在で進んだ。関係改善へ政治レベルで手を打つことはあっていい。一方、元慰安婦がどんな差別を受けてきたのか日本の若い世代は知らないので、そこに光を当てることも大事だ。ただ元慰安婦は高齢で長時間のインタビューは難しい。

従軍慰安婦に関する合意
 従軍慰安婦に関する合意 日韓両国が従軍慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した昨年12月28日の合意。日本は軍の関与と政府責任を認め、韓国が元慰安婦の支援を目的に設立する財団に10億円を拠出する。韓国は、日本が撤去を求めるソウルの日本大使館前の少女像について解決へ「努力する」とした。安倍晋三首相は、韓国の 朴槿恵(パク・クネ)大統領に電話で元慰安婦へのおわびと反省の気持ちを表明。韓国では、野党や抗日団体が「合意は無効」と主張している。

委員提起

「依存症の深刻性欠落」  覚せい剤事件で清水氏

 清原和博・元プロ野球選手の覚せい剤事件をめぐるメディアの報道について、清水勉委員は「薬物依存症の深刻性という捉え方が欠落している」と提起した。

 清水氏は「捜査機関は元選手を1年以上泳がせていた。捜査の在り方として非常に問題がある。そういう観点の記事はどこにもなかった」と指摘。「事件をきっかけに日本の薬物治療や依存症からの回復の問題を取り上げることに社会的意味がある」と注文を付けた。

 これに対して出口修社会部長は「捜査の問題は、そういう視点を持ち公判を見ていきたい。薬物犯罪は依存症の問題でもあり、予防や再発防止、治療の面からも取材に当たっていく」と述べた。

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