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第62回会議(安保法制、年金問題)

安保法制と年金問題論議  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会第62回会議に臨む(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=11日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は11日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第62回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「安全保障法制」と「年金情報流出とサイバー」の報道をテーマに議論した。

 安保法制に関し、弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は賛成、反対双方の意見を幅広く紹介するよう求めるとともに「法案が成立すれば危険な地域に行く自衛官の本音も掘り下げてほしい」と述べた。

 京都大大学院教育学研究科教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は、自民党の報道圧力問題をきっかけに沖縄が注目された経緯に触れ「もっと早い段階で沖縄の視点を前面に出すべきだった」と指摘した。

 介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は「法案が成立した場合、国民がどうすればいいのか、読者の立場での報道を続けてほしい」と求めた。

 年金情報流出問題について、神田氏はサイバー攻撃をめぐり「組織としてどういう準備をすべきかといった警鐘を鳴らさないといけない」と提起。佐藤氏は「もう少し若者向けの書き方もあったのではないか」とする一方、インターネットを日常的に使用しない高齢者への情報伝達に懸念も示した。太田氏は、来年1月から始まるマイナンバー制度の報道を充実させるべきだと強調した。3氏は今回の会議で2期4年を終えた。

安保法制で問題提起  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第62回会議が11日開かれ、3委員が「安全保障法制」と「年金情報流出とサイバー」の報道をテーマに議論した。弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は、安保関連法案について多様な意見を紹介する必要性を強調。京都大大学院教育学研究科教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は、米軍基地が集中する沖縄の視点からの報道を求めた。介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は年金情報流出に関し、国民に番号を割り振るマイナンバー制度にはリスクが伴うと訴えた。3氏は今回の会議で2期4年を終えた。

【テーマ1】安全保障法制

多様な声紹介を--神田氏  沖縄の視点必要--佐藤氏 読者意識して--太田氏

国会前で安全保障関連法案に反対するデモ参加者=2日、東京・永田町

国会前で安全保障関連法案に反対するデモ参加者=2日、東京・永田町

▽多様な意見
意見を述べる佐藤卓己委員=11日、東京・東新橋の共同通信社

 佐藤委員 6月の衆院憲法審査会で3人の憲法学者が安全保障関連法案は「憲法違反」と発言した後、議論が安全保障の問題から、合憲か違憲かという法律論に変わった。議論を単純化してしまっているのではないか。6月の世論調査で国民が合憲性に疑念を持っているにもかかわらず、内閣支持率がそれほど下がっていないのはなぜか、踏み込んだ分析が必要だ。

意見を述べる神田安積委員=11日、東京・東新橋の共同通信社

 神田委員 憲法学者の「違憲」発言後、連立与党である公明党の議員や、支持母体である創価学会員がどう考えているのか、もっと迫る記事があってよかった。法案が成立すれば危険な地域に行く自衛官の本音も掘り下げてほしい。法案に賛成している人の声を紹介する記事がもっとあってよい。「法案が必要だ」という意見が説得的なのかどうかを伝えることで、法案を検証する機能も高まる。

 小渕敏郎政治部長 支持率は下降傾向にあるが、政権に対抗できる勢力が不在で、安倍晋三首相の強みになっている。学者の「違憲」発言が、公明党や創価学会に影響を与えていると聞く。政治家だけでなく、幅広い人々の考え方をインタビューなども含めて取り上げるようにしている。

 出口修社会部長 現場の自衛官の声は非常に大事だ。多様な意見を紹介するようにしており、イラクへの自衛隊派遣当時の陸上幕僚長ら自衛隊幹部をインタビューで取り上げた。法案は必要という立場の人の本音も継続して報じたい。

▽読者、沖縄の視点

 佐藤委員 安全保障の問題は基本的には外の脅威に対する問題であり、日本国内の反応よりも周辺諸国の反応に敏感になるべきだろう。有識者インタビューに20代、30代も登場させるべきだ。

 儀間朝浩外信部長 折に触れて報道している。南シナ海で実効支配を強める中国の反応などを具体的に伝えていきたい。

意見を述べる太田差恵子委員=11日、東京・東新橋の共同通信社

 太田委員 昨年の衆院選では経済政策「アベノミクス」が争点になった。選挙後に安保法案が提出されて焦点になることが分かっていながら、伝え切れなかったのではないか。この法案が成立した場合、中長期的に国民がどうすればいいのか、読者の立場での報道を続けてほしい。

 佐藤委員 自民党の報道圧力問題をきっかけに沖縄が注目された。本土で平和が叫べるのは、沖縄に基地が集中していることの裏返しであることをわれわれは日常的に忘れている。安全保障の問題は基地の問題であり、もっと早い段階で沖縄の視点を前面に出すべきだった。

 小渕政治部長 日米安保体制のひずみが表れている沖縄の視点を、今後の記事に生かしたい。

▽違憲審査
衆院選投開票日夜の安倍首相=2014年12月、東京・永田町の自民党本部

安保法案に関する憲法学者の主張

 神田委員 最高裁が法律が違憲かどうか判断する違憲立法審査権は、具体的な事件がないと発動されない。仮に安保法案が成立した場合、例えば、自衛官が思想・良心の自由を根拠として職務命令に従わないと、その処分をめぐって憲法訴訟になることが考えられる。

 出口社会部長 自衛官が訴訟を起こし違憲を主張することも十分あり得る。自衛官の思いを聞くなど取材を進めたい。

 神田委員 他国軍への後方支援のイメージをもっとリアルに伝えてほしい。

 小渕政治部長 後方支援では何が行われ、それが戦闘行為とどう違うのか、掘り下げた記事が必要だと考えている。

 出口社会部長 安倍首相が自衛隊活動の説明に使ったフリップボードと現実は異なる。具体的にシミュレーションできるかどうか考えている。

 神田委員 自民党の勉強会での報道圧力問題だが、自民党は憲法改正草案で、「公益および公の秩序を害する」ときは表現の自由が制約されるという考え方を提案している。今回のような問題が起きたときに、表現の自由に対する自民党の考え方を正面から検証していく必要があると思う。

安全保障関連法案
 安全保障関連法案 政府が昨年7月に閣議決定した憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認や、他国軍への後方支援活動拡大など新たな安保政策を反映させた法案。自衛隊法や武力攻撃事態法、周辺事態法など10の法律の改正案を一括した「平和安全法制整備法案」と、国際紛争に対処する他国軍の後方支援のため自衛隊を海外に随時派遣できるようにする新法「国際平和支援法案」で構成。政府は「平和安全法制」と総称するが、野党からは「戦争法案」との批判が出ている。
内閣支持率が急落
 安全保障関連法案は「報道と読者」第62回会議後の16日に衆院本会議で採決が強行され可決、参院へ送られた。共同通信社が17、18両日実施した電話世論調査では、内閣支持率は37・7%と前回6月から9・7ポイント急落した。

【テーマ2】年金情報流出とサイバー

情報伝わるか不安--佐藤氏  個人番号しっかり--太田氏 組織への警鐘を--神田氏

サイバー攻撃で個人情報が流出した日本年金機構本部=6月、東京都杉並区

サイバー攻撃で個人情報が流出した日本年金機構本部=6月、東京都杉並区

 佐藤委員 サイバー攻撃による日本年金機構の個人情報流出は、年金という高齢者に切実なテーマとインターネットが結び付きニュース性が倍加されたが、ネットを日常的に使う若者や中堅世代がどれほど関心を持って読んだのか。もう少し若者向けの書き方もあったのではないか。逆に70代、80代の高齢者に外来語は意味不明の世界。どのように情報を伝えられるのか不安を感じた。

 初期の報道はサイバー攻撃が中国からと示唆する内容だったが、結果を含め続報にない。何か対応が必要ではないか。

 太田委員 このような情報流出を踏まえ、マイナンバーがどうなるのか恐怖感を覚えた。間もなく私たちの手元に書類が届く。ウイルス感染などのリスクがあるということを前提に、マイナンバーの報道はしっかりしていただきたい。

 空港の公衆無線LANの無防備さを指摘する記事や、クレジットカード情報が闇サイトで販売されているとの記事にも恐怖感を持った。ではどうすればいいのかという記事を読みたい。

日本年金機構情報流出の経過

日本年金機構情報流出の経過

 神田委員 サイバー攻撃に対する危機意識の問題にとどまらず、組織としてどのようなセーフティーネットを構築しておくべきかという点について警鐘を鳴らしてほしい。民間企業であれば株主代表訴訟の対象となることが、役所や年金機構では責任の所在すらはっきりしないままになりがちだ。マイナンバー制度の導入が間近に迫っていることもあり、今後も引き続き、サイバー報道チームの専門的で分かりやすい視点からの記事を期待している。

 下山純サイバー報道チーム長 記事をあまりざっくり書くと専門家から不正確だと指摘され、正確性を突き詰めると興味を持ってもらえない。そのはざまでいつも悩む。サイバー攻撃が人ごとでないことを知ってもらいたい。どこからの攻撃かは捜査結果が出ないと分からず、その辺の事情を書き込むべきだった。

 古口健二生活報道部長 年金機構の情報流出は第三者委員会が検証している。今後、本格的なマイナンバー時代になったときに、こうしたことが再発しないかといった観点から、制度の推移をきっちり監視したい。

年金機構の個人情報流出
 年金機構の個人情報流出 公的年金の保険料徴収や給付実務を担う日本年金機構がサイバー攻撃を受け、基礎年金番号を含む個人情報約125万件が外部に漏えいした。「標的型メール」が送り付けられ、仕込まれたコンピューターウイルスに職員のパソコンが感染したのが発端。年金機構は成り済ましなどの不正防止策を強化した。振り込め詐欺グループなどが流出情報を悪用する恐れがあり、各地で不審な電話が相次いでいるため、消費者庁や警察が注意を呼び掛けている。

3委員提言

本質突く報道を--太田氏  地方紙に健全性--神田氏 10〜20年後見据え--佐藤氏

 --「報道と読者」委員を務めた感想と提言を。

 太田委員 高齢者の地方移住の話などが報道されるが、問題の本質が見えない。本質を突いた報道を継続してほしい。年金、介護、育児など生活に不可欠な報道は、分かりやすく読みやすくお願いしたい。子どもたちが報道をどう受け止めていくのか、という教育も必要になるだろう。

 神田委員 メディアの在り方の議論は読者と双方向のやりとりがあるといい。また、共同通信の若手の記者にもこの場に参加してほしい。地方紙の多様な意見は日本社会の健全性を担保する。少子・高齢化で地方紙は厳しい環境にあると聞いているが、共同通信も地方紙と共に今後も事実に迫る取材と報道に頑張ってほしい。

 佐藤委員 若者がアクセスしないメディアには未来がない。10年、20年後を見据える必要がある。経済も人口も縮小していく事実を直視し、いかに痛みを分け合うのかが、今後の報道に重要だろう。紙の新聞に価値があるためには、1日遅れでも読むに堪える新聞でなければならない。

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