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第60回会議(人口減少、朝日訂正)

人口減少と朝日訂正を論議  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

 「報道と読者」委員会の第60回会議に出席した(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の3委員=1日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は1日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第60回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「人口減少問題」と「朝日新聞の訂正問題」の報道をテーマに議論した。

 人口減少問題について、京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は「政府も新聞も人口減少は不安だと訴え、生み出される空気が問題を冷静に見えなくする危惧がある」と述べ、長期的な視点による分析や解説が必要との認識を示した。

 弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は、全自治体の半数が「将来消滅する可能性がある」とした日本創成会議の発表に関し「自治体が消滅するということが具体的にどのような事態になるのか十分理解できなかった」と指摘、地方の現状を掘り下げるとともに、安倍政権が取り組む地方創生や国土強靱化(きょうじんか)などの政策検証を要望した。 介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は安倍政権の「女性活躍」政策について「女性の活躍とは何なのか。専業主婦では駄目なのか。釈然としない」と話した。外国人労働者の実態に迫った報道も求めた。

 朝日新聞の訂正問題で、神田氏は「事実が全て確定してから報道するのではニュースにならない。誤報はあり得る」とした上で、徹底した取材と多面的な検討が必要と強調。共同通信の問題として引き寄せて検討する必要があると指摘した。

人口減報道で問題提起  「報道と読者」委員会

共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第60回会議が1日開かれ、委員3人が「人口減少問題」「朝日新聞の訂正問題」の報道をテーマに議論した。京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は、人口減少を否定的に評価する政府の姿勢を疑問視し、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は、安倍政権が掲げる「女性活躍」政策の問題点を指摘した。朝日新聞の訂正問題に関し、弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は共同通信の問題として引き寄せて検討する必要があると述べた。

【テーマ1】人口減少問題

未来像もっと--太田氏  長期視点で解説を--佐藤氏 地方の実情伝えて--神田氏

 「まち・ひと・しごと創生本部事務局」の看板を掛ける安倍首相(右)と石破地方創生相=9月、東京・永田町の中央合同庁舎

 「まち・ひと・しごと創生本部事務局」の看板を掛ける安倍首相(右)と石破地方創生相=9月、東京・永田町の中央合同庁舎

▽展望示す記事

 太田委員 人口減少の現実をどう受け止めるかという記事は興味深く読んだ。安倍首相がどんな社会を目指しているのか、日本のこれからのビジョンが見えないからどんどん暗い気持ちになる。他にどんなビジョンが考えられるのかを示す記事を読みたい。

 佐藤委員 人口減少は不安だと政府も新聞も訴え、生み出される空気が人口減少問題を冷静に見えなくしている側面を危ぶむ。今、工業社会が情報社会や知識社会に変わろうとする時、あまりにも人口減少を否定的に評価するのはどうなのか。

 今のままでは2060年に日本の人口は8674万人になるというが、1945年の終戦時は約7千万人だった。高度成長以前のスタートラインに戻るだけの話ではないか。戦前の日本は7千万人でも過剰と感じて満州や中南米に移民をしていた。もう少し長期的な視野で解説するべきではないか。

日本の人口構造の変化

 フランスの人口増加政策が成功したといわれるが、カトリック教徒が多く、イスラム系も含めた移民も多いといった特性がある。宗教や所得、移民の出生率などの相関関係を分析せず、政策の効果とするのは雑に過ぎる。

 高橋茂地域報道部長 日本創成会議の座長を務める増田寛也元総務相が5月、市区町村別の人口推計データを公表した。2040年に20〜30代の女性が半分以下となる自治体を「消滅可能性都市」とする内容だ。一方的なレッテル貼りにつながると考え、記事ではこの言葉を使わなかった。

 地方創生は首相官邸主導だが、従来の施策の焼き直しが目立つ。地方に拠点をつくり人口流出を止める構想も、一つ間違えば切り捨てにつながる。中央省庁の抵抗を排除し、地方に権限や財源を渡せるかが試金石になる。

▽地方の可視化

 神田委員 「自治体が消滅する」ということが、具体的にどのような事態になるのか十分に理解できなかった。東京五輪が開かれる2020年、そして30年、40年に、地方がどうなっているのか分かりやすく報道してほしい。そして、今の地方の実情をもっと読者に可視化してほしいと思う。

 岡部央編集局次長 安倍政権の人口減少対策は、来春の統一地方選を強く意識した政策だという点に留意しなければならない。本当に人口減少に本腰を入れて取り組む政治的な覚悟があるのか見定めなければならない。事業の重複や縦割りが調整できているかのチェックも必要だ。

 政権の政治的意図がある一方で、人口減少や地方の疲弊は日本が直面する重要課題だという問題意識を持っている。真正面から向き合って報道し、地域の実情や取り組みを丹念に取材して伝えていきたい。

 谷口誠経済部長 人口減少問題では、政府が考える政策の意図や民間企業の動きを伝えてきた。若者の雇用への貢献が期待できる農業問題にも取り組んでいきたい。

▽男性の意識大事

 太田委員 (安倍改造内閣で)女性活躍担当相ができて、女性の活躍とは何なのか、専業主婦では駄目なのかという釈然としない気持ちを抱いた。少子化に関しては男性の問題だという指摘もあるので、そういう視点の記事をもっと読みたい。

 石井達也生活報道部長 少子化対策で大事なのは男性の意識だ。家事を分担するなどして、女性が働きながら子育てもできる環境や文化がないとうまくいかないとの指摘がある。女性の活躍という言葉に違和感があるというのは、共同通信の現場の記者も同じ感覚だ。女性は仕事を終えても家事をしなければならないことが多く、それを含めれば既に実際の労働時間は女性の方が多いという見方もできる。

STAP細胞問題の経過

人口減少問題をめぐる動き

▽政策の整合性は

 太田委員 外国人技能実習制度に関する解説記事で「メリットとデメリットを国民に示し、合意形成に取り組む姿勢が必要だ」と指摘していたが、まさにその通りだ。今後の報道を注視したい。

 神田委員 例えば、労働法制において、労働者派遣制度の見直しや残業規制の緩和が検討されているが、少子化問題に有効どころか、むしろ支障を来すのではないか。また、東京五輪や国土強靱化(きょうじんか)はさらなる東京一極集中を招き、人口減少対策とも矛盾する。地方創生を訴える安倍政権の政策が、全体として整合性がとれているのか検証してほしい。

 外国人労働者の受け入れ問題の根底には、困った時には来てもらい、困らなくなったら帰ってもらうという意識があるのではないか。現在の外国人技能実習制度の問題点や、家事労働での外国人受け入れをめぐる課題など積極的に報道してほしい。

 永井利治特別報道室長 外国人労働の問題は必ず貧困と人権というテーマが付いてくる。フィリピン人女性の介護施設の労働問題を取り上げた。片言の日本語しかできない、英語もできない、資料もないとなると労基署や自治体の窓口でも取り上げようがなく、問題の表面化を妨げている。外国人労働の開放の問題では、家事労働に注目している。海外の事例を見ても、密室での労働なので問題が起きやすい。

▽議会もテーマに

 神田委員 地方が今、何に悩んでいるのか、具体的に何を検討しているのか、地方議会の動きなどももっと知らせてほしい。地方新聞社や共同通信が存在意義を試されるテーマだ。兵庫県議の政務活動費の問題で地方議会が注目を浴びたが、地方議会の問題をもっと掘り下げて報道してほしかった。

 諏訪雄三編集委員 政務活動費は法改正で幅広く使えるようになり、兵庫県議会のような問題が生じている。地方議員のなり手がいなくて、定数を減らして議会を維持しようという動きも出ており、来春の統一地方選に向けて幅のある報道をしていきたい。

 伊藤祐三編集委員 地域の活性化に取り組む団体に直接エールを送ろうと、2010年度に全国の地方新聞社と共同通信社で「地域再生大賞」を始めた。より良いものになるよう取り組んでいきたい。

日本の人口減少 
 日本の人口減少 総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、日本人の人口は1月時点で約1億2643万人となり、2009年をピークに5年連続で減少した。国立社会保障・人口問題研究所は、60年に8674万人まで落ち込むとの推計を出している。民間団体「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)は5月、40年に20〜39歳の女性が10年比で半分以下となる自治体は896市区町村、全体の半数に上るとの試算をまとめ「将来消滅する可能性がある」と指摘した。

【テーマ2】朝日新聞の訂正問題

正誤欄の導入を--佐藤氏  自社の問題として--神田氏 誤報迅速に訂正を--太田氏

 佐藤委員 新聞は以前に比べはるかに正確になっていると思う。ただ正確になるほど間違ったときの影響が大きい。コンピューターのソフトウエアのバグ(不具合や誤り)を直しながら更新していくような保守・点検が、これからの新聞のあるべきサービスだと思う。米有力紙にあるような「正誤欄」を日本の新聞も導入すべきではないか。

 神田委員 事実が全て確定してから報道するのでは、ニュースにならない。そういう意味で誤報はあり得る。ただ、誤報が許されるのは、徹底した取材と多面的な検討がなされていることが前提になる。これらの観点をふまえた説明責任が朝日新聞に求められている。共同通信も他社の問題としてではなく、取材・報道の在り方について、自社の問題として引き寄せて検討してほしい。また、朝日新聞の記者に対する個人的なバッシングには目に余るものがあり、今後も注視していってほしい。

 太田委員 なぜこれほど(記事取り消しまでに)時間がかかったか、なぜ今だったのかが分からないままだ。池上彰(いけがみ・あきら)氏の原稿は不掲載にするほどなのかと感じた。新聞は、読者に考える材料を提供し「知る権利」を保障する担い手になれるかが問われている。誤報を絶対になくすというのは無理かもしれないが、速やかに明らかにすることで信頼につながると思う。

 河原仁志編集局長 間違った後に速やかに訂正する、誤報の後が大事だということが、この問題の核心だと思っている。池上氏の問題について言えば、自社への批判を読者の目に触れさせないということはあってはならず、われわれも自戒したい。

朝日新聞の訂正問題
 朝日新聞の訂正問題 朝日新聞は8月5、6日付朝刊に、従軍慰安婦をめぐる過去の報道を検証する記事を掲載。「済州島(現・韓国)で強制連行した」とする故・吉田清治(よしだ・せいじ)氏の証言を「虚偽と判断」し、関連記事16本を取り消した。これを同紙の連載コラムで批判しようとした池上彰(いけがみ・あきら)氏の原稿を一時掲載拒否したことも発覚。木村伊量(きむら・ただかず)社長が9月11日に記者会見し、東京電力福島第1原発事故に絡む「吉田調書」報道でも誤りを認めて記事を取り消すとともに、一連の問題で謝罪した。

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