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第56回会議(介護・認知症、子育て・少子化、就活・雇用、生活保護・障害者)

生活報道を議論  「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

意見を述べる(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=16日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は6月29日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第56回会議を東京・東新橋の本社で開いた。3人の委員が介護や子育て、若者の就職活動など、暮らしにかかわる「生活報道」をテーマに議論した。

 介護・認知症については、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は「介護の問題は、皆さん真っ白な状態で直面する。基礎の基礎が必要だ」と述べた上で、事例を入れるなど分かりやすく読みやすい記事にするよう求めた。

 子育て・少子化では、弁護士の神田安積氏が「男性より女性に偏っていた子育ての負担を、男性や社会がどのように分かち合うかが問題」と指摘した。男性が遅くまで働く労働環境を変えるべきだとの観点で報じてほしいと要望した。

 就職活動や雇用では、京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、高齢者の65歳までの雇用延長について「若者の雇用に直結する問題だが、その観点があまり見えない」と強調した。若者の視点を記事に反映させる必要があると話した。

 生活保護など弱者支援では「障害年金との関連などテーマを広げて」(太田氏)、「貧困の問題を具体的に取り上げてほしい」(神田氏)、「問題を扱うスタンスの難しさを感じる」(佐藤氏)などの意見が出た。

介護や少子化対策を議論  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第56回会議が6月29日開かれ、3人の委員が「生活報道」をテーマに議論した。介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は、介護や子育ての問題は社会的な背景も含めて報じるよう求めた。子育てについては、弁護士の神田安積氏は、女性の負担を減らすために男性が育児に参加しやすい環境を整える観点が必要と指摘。京都大大学院教育学研究科准教授の 佐藤卓己氏は、記事に若者の視点を生かす必要があると強調した。


【テーマ1】介護・認知症

基礎の基礎を--太田氏  体験記事に説得力--神田氏 若者が読む視点で--佐藤氏

ヘルパー2級の講座で実習する記者(中央)=東京都内(「介護にGO!」より)

 太田委員 介護保険や年金の基礎知識をまとめた連載「あんしんシニア塾」は丁寧に書かれている。介護の問題は、皆さん真っ白な状態で直面する。基礎の基礎が必要だ。さらに具体的な事例を入れれば情報が頭に入りやすい。
 介護は政治の話だと思う。社会の中でどういうふうにつながって介護の問題が起きているか関連付けて見えるように社会的な背景も含めて説明してほしい。


 神田委員 介護や認知症の記事は、日々この問題で悩んでいる年齢層の読者には関心が大きい半面、若い世代は関心が乏しいように思う。しかし、若手の記者がヘルパー資格を取得する体験記事「介護にGO!」は、現場に身を置いた記者が利用者目線で書いており、若い世代にも訴えるものがあった。介護の現場を可視化して、若い読者にも分かりやすく伝える工夫を続けてほしい。

 佐藤委員 新聞記事は読者の高齢化に伴い、年金や介護の記事ばかりになる可能性がある。しかし若者がそういう記事を読むかどうかは大いに疑問だ。
 例えば外国人介護福祉士の問題を取り上げる際、環太平洋連携協定(TPP)が雇用に与える影響を導入部分にすれば、若者にも身近な問題になる。若者の視点で記事を出してほしい。有名人の介護経験をまとめた連載「介護の恵み」は、きれいごとばかりではない理想的モデルを示していて良い企画だ。

 石井達也生活報道部長 基本から分かる解説や、全体像を示すサイドの出稿を心掛けている。「介護の恵み」は、読まれる工夫の一つとして有名人を取り上げた。きれいごとにならないよう、信頼関係を築いて家庭内の事情も明かしてもらった。

 杉本新文化部長 「介護にGO!」で一番気をつけたことは、記者の自己満足にしないこと。今回は「もうだめだと思った」など記者が何度も弱音を吐いている。共感を得られたと考えている。

【テーマ2】子育て・少子化

環境変える目で--神田氏  育児労働の評価を--佐藤氏 一般人の声は大切--太田氏

神田安積委員

 神田委員 子育て、少子化の問題は、若者も関心を持って読むテーマであり、関心も高いのではないか。男性より女性に偏っていた子育ての負担を、男性や社会がどのように分かち合うかが問題。男性が遅くまで働かざるをえない労働環境を変えなければという観点からも問題提起をしてほしい。

佐藤卓己委員

 佐藤委員 待機児童をゼロにした「横浜方式」の記事は勉強になるが、「待機児童」という伸縮自在な概念についても踏み込んで説明してほしい。「育児休業3年」という安倍晋三内閣の成長戦略に私は非常に懐疑的。育児を仕事として正しく評価するべきだ。育児はできて当たり前、できなければ批判されるという割に合わない労働になっている。そういう育児の文明論的な文脈も踏まえて評価するべきだ。
 少子化対策についてまとめた記事で、対策に成功した国があると説明するなら具体的な国名を挙げてほしい。

太田差恵子委員

 太田委員 若い女性は「少子化対策のために子どもを産むのではない」と思っている。その視点を大事にしてほしい。政府の育休推進を伝える記事で、育休3年の必要性を疑問視する一般の人の声を取り上げている。こういう普通の人たちの声は大切だ。
 「横浜方式」がこれだけ取り上げられる中で異論を持つ自治体も多いようだが、その点をもっと深く知りたい。

 石井生活報道部長 少子化対策の制度や政策を取り上げるときは、子どもを産むことで人生を豊かにしたいという人の希望がかなえられる内容になっているか、との発想で記事を出している。育児に対する文化的な視点も今後の課題にしたい。

 杉本文化部長 男性の労働環境を変えないといけないとの視点は同感。若者に子育てへの関心を持たせる工夫では、男性不妊のような深刻な話を軟らかい文体で伝える、ロックシンガーのダイアモンド☆ユカイさんの寄稿連載「ユカイなダディライフ」を配信した。

待機児童
 待機児童 親の就労や求職など認可保育所に入るための要件を満たしているのに、定員超過などで入所できない乳幼児。厚生労働省によると、全国では2012年10月現在で4万6127人。待機児童数が一時は全国最多だった横浜市は今年5月「3年間で待機児童ゼロ」の目標を達成したと発表した。成長戦略の一環として待機児童解消を掲げる国は、民間企業の積極的活用などの「横浜方式」を推奨している。だが参入企業が倒産する懸念などから、自治体の中には横浜方式への異論もある。待機児童の定義が自治体によって異なるとの指摘もある。

【テーマ3】就活・雇用

異論を掘り下げて--佐藤氏  就活の現実今後も--太田氏 解雇の見直し注視--神田氏

大学生向けの合同就職説明会=2012年12月、東京都江東区

 佐藤委員 本来最も若者向けに書かれるべきテーマで、情報量もあり、有益な情報も提供されている。しかし、就活の解禁に関する記事などでは記述の仕方が建前論に過ぎるような気がする。このような就活の解禁時期を設定する護送船団方式が今の時代にふさわしいのか。逆に新卒者以外の就職にハードルを設けて、雇用の流動化を阻害しているのではという疑問がある。解禁時期を3カ月間遅らせるという政府の要請が善であり、正しいとどうして認定できるのか、その基準がまず分からない。異論を掘り下げてほしい。
 改正高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用義務も若者の雇用に直結する。ポストを高齢者が占有し続けることによる組織の不活性化も懸念される。そういう観点が記事にはあまり見えない。

 太田委員 生活報道は当事者意識がないと、なかなか身近な話として読むのは難しい。しかし、私の子を見ていても就活は結構大変だった。就活の現場の大変さがもっと書かれていても良いのではないか。あれだけ大変な就活をしても、辞めてゆく若い人たちがたくさんいるということも、現実問題として今後も書いていってほしい。

 神田委員 大卒の6〜7割しか内定がもらえない時代となり、就職難は極めて深刻な問題だ。私たちの体感以上に、若い世代は厳しい風に当たっている。
 安倍政権下で解雇ルールの規制緩和をするべきだとの議論がある。参院選後の政治情勢によって大きなテーマとなり、社会の大きな転換にもつながる問題である。厳格な解雇ルールに中高年が守られて、若者に職が回ってこないという議論もあるが、実証的な視点からの報道をしてほしい。

 石井生活報道部長 解雇ルール緩和の問題は選挙後に議論が先送りされたが、大きな取材テーマだと思う。若者と高齢者の雇用問題にも集中的に取り組みたい。

 杉本文化部長 解雇ルール緩和や就活時期に関しては、現場を探していくしかない。例えばブラック企業など、現代を象徴する取材対象を見つけたいと思う。

改正高年齢者雇用安定法
 改正高年齢者雇用安定法 希望する社員全員に対し、65歳までの雇用確保を企業に義務付ける法律で、今年4月1日に施行された。労使が合意すれば、継続雇用の対象者を選ぶ基準を設けることが可能だった従来の制度を廃止し、雇用範囲を親会社だけでなく子会社やグループ会社まで拡大した。厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢が4月以降、60歳から段階的に65歳に引き上げられ始めたことに伴う措置。雇用確保の勧告に従わない企業名を公表する規定も設けた。

【テーマ4】生活保護・障害者

問題周辺の記事も--太田氏  生々しい例報道を--神田氏 スタンスに難しさ--佐藤氏

 太田委員 生活保護の記事では、安易に受給者に冷たい視線を浴びせる風潮に対し、配慮した記述がされていると思った。ただ介護の話とも似ているが、生活保護の記事には生活保護のことばかりが書かれている。その周辺のことももうちょっと書いてもいいのではないか。
 生活保護を申請すると、役所は障害の状態によっては、障害年金の申請を勧める傾向があるらしい。例えば生活保護と障害年金の関連や、障害年金の課題は何なのかとテーマを広げていって状況を知りたいと思った。

 神田委員 生活保護は世代を超えて非常に大きな関心を呼んでいる。不正受給について実際に役所の窓口に立っている方から聞くと非常に生々しい事例がある。生活保護の問題は貧困の問題だ。具体例を取材すれば、不正受給とは違う、本当に必要としている人たちの実態を描けるのではないか。
 障害者雇用の問題については、整備されつつある法律を生かしていくことができるか。成功例と苦労している事例をバランスよく紹介してほしい。

 佐藤委員 生活保護や障害者の記事そのものを読んでいて疑問に思うところはほとんどなかった。ただ「若者たちがこの記事をどう読むのか」と考えたときに、やはりネット上でされている安易な生活保護給付批判のような議論に油を注ぐ素材にも読めてしまう。
 これまで国家がやっていたのは給付の分配だったのが、これからは負担の分配をしなくてはいけない時代になる。生活保護費の削減には一切応じられないという立場で書くことはできず、この問題を扱うスタンスの難しさが感じられる。

 高瀬高明編集委員 提案型の記事を心掛けている。それではどういう手があるのか、というところまで踏み込んで書きたい。委員の先生方のご指摘を踏まえてこれからも考えていきたいと思う。

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