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第52回会議(東日本大震災1年、大学の秋入学、秘密保全法、社会保障と税の一体改革)

震災1年などを議論 「報道と読者」委員会


意見を述べる(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=3月31日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は3月31日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第52回会議を東京・東新橋の本社で開いた。3人の委員が「東日本大震災1年」と「大学の秋入学」「秘密保全法」「社会保障と税の一体改革」をテーマに議論した。

 震災1年の報道について、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は「自分の中でも風化している部分があるということを実感した。報道を続けることで、風化を抑止する効果がある」と評価した。

 弁護士の神田安積氏は、一連の原発事故報道で既存メディアは「大本営発表」をそのまま報じたというイメージを読者に持たれていると指摘。「イメージを拭い去る報道をしてほしい。共同通信が新たに設けた原子力報道室に期待したい」と述べた。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は「今の複雑な社会では報道にも正解はない。原発や地震の専門的な話では、分からないことを一緒に考えようという姿勢も求められているのではないか」と問題提起した。

 東大の懇談会が全面移行を打ち出した秋入学について、佐藤氏は反対している地方大学などの意見を取り上げるよう提言。神田氏は、政府が検討する秘密保全法に関連して「メディアは国民の知る権利を負託されている」と話し、賛否の議論につながる報道を求めた。

 社会保障と税の一体改革で、太田氏は「生活者の目線で丁寧に書いてほしい」と注文した。

震災1年の課題議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第52回会議が3月31日開かれ、3人の委員が「東日本大震災1年」と「大学の秋入学」「秘密保全法」「社会保障と税の一体改革」をテーマに議論した。

 震災1年報道について、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は風化を抑止するための報道に期待。弁護士の神田安積氏は、被災者が求めている情報の発信が大切だと指摘した。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、大学の秋入学問題報道に関連し、社会、教育を変えるという大きな視点が欲しいと述べた。

【テーマ1】東日本大震災1年

風化抑止に効果―太田氏 大本営発表払拭を―神田氏  報道に正解ない―佐藤氏


地震発生時刻に合わせ、「奇跡の一本松」の前で海に向かって黙とうする人たち=3月11日午後2時46分、岩手県陸前高田市

 太田委員 特集や関連記事はバランスよく、いろいろな方面から取材していて、あらためて知ることがたくさんあった。1年たち、自分の中でも風化している部分があることを実感した。報道を続けることで風化を抑止する効果があるのだと思った。

 神田委員 これからの報道は復興と原発問題が二大テーマだ。共通するのは忘却、風化との闘いになるということ。復興については、やはり被災者が求めている情報に軸足を置くべきであろう。子どもや女性の視点も大切だ。


政府主催の東日本大震災追悼式で、犠牲者に哀悼の意を表される天皇、皇后両陛下=3月11日、東京都千代田区の国立劇場

 復興の背後に隠れているかもしれない利権や無駄な支出、また、東京電力に対して多額の税金が当然のように投入されていることに対しても、監視の目を緩めないでほしい。これまでの原発報道で既存メディアは「大本営発表」をそのまま報じているとのイメージを持たれている。それを払拭(ふっしょく)する報道を強く期待したい。

 佐藤委員 震災孤児を取り上げた大型連載企画「新・日本の幸福」は感銘深い。共同通信が全国レベルで国民感情を共有する連載をやることの意味は非常に大きい。高く評価したい。

 震災への思い入れは恐らく西日本に行けば行くほど薄れるし、原発がその県にあるかないかで記事の扱いも異なると思う。全日本レベルの問題として、どう課題を設定していくのかが共同通信の大きな役割だ。

 今の複雑な社会は誰もが納得する正解のない社会。報道にも正解はないと思う。失敗を繰り返していく中で一歩ずつ進歩していく以外にないと、震災報道を読みながら、あらためて思った。


反原発を訴える集会でプラカードを掲げる参加者=3月11日、広島市中区

 田中太郎編集局次長 震災1年特集は3月3日付朝刊用から12日付朝刊用まで、10日間連続で8千行近い記事を配信した。これほど長期間にわたって特集を継続したのは共同通信として初めてだった。

 現在は原発の再稼働を政府がどう判断するかが焦点となっているが、ほかにもがれき処理や高台移転など、復興面ではさまざまな問題がまだまだ残っている。神田委員から言及があったが、原発報道は息の長いテーマなので、編集局に「原子力報道室」を新設した。科学、社会、内政、経済各部から専従の取材要員を入れてやっていく。

 風化との闘い、子どもや女性の視点、大本営発表などのご指摘はまさにその通りで、きちんと意識して取材活動を進めていきたい。

 岡部央経済部長 東京電力についてはしっかり監視していく。電力会社の体制、発送電分離などの問題提起もしていきたい。

 江頭建彦科学部長 大本営発表との批判。事故後しばらくはそういった面が強かったことは認めざるを得ない。だんだんと日々の発表の中から問題点を捉えて書くことができるようになってきた。今後、一番気になるのは長期間の被ばくの影響。人だけでなく環境や生態系にも着目して報じたい。

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小学校の体育館にキャンドルの明かりで浮かび上がった「3・11」の文字=3月11日、岩手県陸前高田市

 吉田文和編集局長 震災報道で得た大きな教訓の一つは、情報源が官庁なのか、あるいはわれわれが自分で開拓したものなのかという、ジャーナリズムの基本にかかわること。記事の権威を官庁情報に頼ってきた限界を十分わきまえて、今後の報道を心掛けたい。

 佐藤委員 原発や地震の話は分かりやすくすれば、それでいいのかという面もある。分からないことは分からないと、はっきり書く必要もあるのでは。分からないから一緒に考えようという姿勢が報道する側に求められているのではないか。

 松本浩ニュースセンター長 何が起きているか分からないだけでは無責任なので、合理的な仮説をいくつか示して、こういうことが起こり得る、こういうことが将来懸念される、と書いていくのもわれわれの仕事だと思う。

 本多晃一社会部長 「新・日本の幸福」は震災を機に価値観が多様化し、従来と違う人生観が生まれているだろうということで、新しい幸福の在り方を考えようという狙いで始めた。すべて署名記事で、記者の思いをストレートに出している。

 佐藤委員 子どもにぜひ読んでもらいたい記事だ。教育現場で使えるよう全ての漢字にルビを振って配信してはどうか。

 石亀昌郎仙台編集部長 記者も記事に出てこないと、ものが書けなくなっている。例えば原発や放射線に関する報道では、記者がどこに住んでいるのかだけでも物事の見方、報じ方が変わる。自分の立場や、どこにいて、どういう取材をこれまでしてきたかが伝わる記事を書いていきたいと思っている。

東日本大震災の現状
 警察庁のまとめでは 4月11日現在、死者1万5856人、 行方不明者3070人。約34万4千人が仮設住宅などでの生活を強いられている。環境省によると、岩手、宮城、福島の3県で出たがれきは計2245 万 7千トン。処分済みは 9日時点で 8・ 5%にとどまる。東京電力福島第1原発事故は政府が昨年12月に「事故収束」を宣言したが、原子炉建屋内は依然高線量で、廃炉に向けた課題は多い。各地に避難した原発周辺住民の帰還問題も具体的なめどは立っていない。

【テーマ2】大学の秋入学、秘密保全法、社会保障と税の一体改革

社会変える契機―佐藤氏 メディアが反対を―神田氏  生活者の目線で―太田氏

 ■大学の秋入学■


佐藤卓己委員

 佐藤委員 共同通信の記事は東大の議論に絞り込み過ぎて報じている印象だ。反対している地方の大学などの意見も拾い、この問題を全国的な視野で考えるべきだ。

 本多社会部長 必ずしも秋入学を率先して進める立場で報道していない。異論があるという報道が比較的多い。

 佐藤委員 秋入学問題は、大学を変えることで社会を変える可能性がある唯一の切り札みたいなところがある。大学が秋入学になれば、小中高校がそのままではあり得ず、ドミノ現象が起こる。それは社会を変えること、教育を変えることになる。そうした大きな視野を持ってほしい。

 大学をどう改革するかという問題ではなく、教育全体、大学に行かない人も含めた社会全体をどう変えることができるのかという視点がほしい。

 ■秘密保全法■

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神田安積委員

 神田委員 秘密保全法に対するメディアの反対姿勢に迫力を感じない。秘密保全法は、内部告発と密接な関係がある。内部告発はメディアにとって重要な取材源のはずであるが、メディアは内部告発を生かしきれていない。尖閣諸島の漁船衝突事件のビデオ流出事件の際に、既存メディアでは報道できなかったのではないかという疑義の声があった。今回、警察情報が新たに秘密として加えられていることなど、いろいろな視点から工夫して報道をしないと、この法律の危険性が広く理解されないのではないかとの危惧を感じる。

 堤秀司論説副委員長 非常に危ないという認識は持っている。きちんと報道していかないといけない。

 神田委員 政府は、現在の法案をこのまま通すことを考えていない。どこかの時点で、メディアや国会議員に対する規制を見送る修正案を出してくる。そのときこそ、メディアは筆の力を緩めないでほしい。この法案はゼロか百かの問題であり、修正案というものはない。

 堤論説副委員長 一度国会に出ればすぐに成立してしまうとの危機感は持っている。

 神田委員 メディアは国民の知る権利を負託されている。国会の情勢にかかわらず、反対するのがメディアの意義だ。

 ■社会保障と税の一体改革■

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太田差恵子委員

 太田委員 社会保障は生まれてから死ぬまで、人々にとって絶対に外せないもの。生活者に密接な関係がある。一方で消費税は、高いのは困るという議論になりがちだ。どうリンクして、どう必要なのか、生活者の目線で丁寧に書いてほしい。その意味でQ&A方式の記事は頭の整理ができて分かりやすい。

 飯田裕美子社会保障室長 分かりやすいと思っているレベルも、もっとかみ砕く必要があるかもしれない。何度も説明を重ねていきたい。

 神田委員 一体改革に不可分なものとして、共通番号制が提起されている。共通番号制で問題となる情報は極めて慎重に取り扱うべきものであり、万が一これが漏れたら、取り返しがつかない。医師会や歯科医師会も懸念を表明していることに注目する必要がある。

 太田委員 4月1日から24時間介護が始まる。専門職の方は「無理」と言い、地方では「都会の考え方だ」と言う。現場ではなかなか機能していかないだろう。現場の声をすくい上げてほしい。

秘密保全法
 2010年9月に沖縄県・尖閣諸島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した際の映像がインターネット上に流出した事件を機に、政府が本格検討に着手。有識者会議がまとめた報告書では(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全と秩序の維持―の3分野で、行政機関が保有する秘密情報のうち「国の存立に重要なもの」を「特別秘密」に指定し、公務員による漏えいだけでなく、公務員への働き掛けも処罰の対象とした。日本新聞協会などは反対を表明。政府は今国会への法案提出を見送った。

【事例報告】別人写真の誤配信問題

別人写真配信を報告 大分の女児遺体遺棄事件

 共同通信社は、大分県の女児遺体遺棄事件で被害女児と逮捕された母親とは別人の写真を誤配信した問題を「報道と読者」委員会に報告した。

 神田安積委員は「容疑者や被害者の顔写真は、仮に本人であっても載せていいのかという問題がある。載せる場合は慎重さに慎重さを重ねなければならない」と述べ、再発防止策の徹底を要望した。

 太田差恵子委員は「誤報は起きるかもしれないということを常に念頭に置きながら、再度こういうことを起こさないよう取材、報道活動をしていただきたい」と強調。佐藤卓己委員は「どういう事情で誤報が起きたか意を尽くして説明して初めて読者と意思疎通ができる」と述べた。

 昨年9月に当時2歳だった女児が行方不明になり、今年2月5日に大分県警が死体遺棄の疑いで母親を逮捕。共同通信は同日夜、この母子とは全く別の女性と子どもの写真を配信し、多くの加盟社と契約社が掲載した。翌6日に間違いが判明した。

 共同通信社は間違えた女性や親族に謝罪し、取り違えの経緯を検証した記事を配信。編集局長を更迭した。

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