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第50回会議(東日本大震災と津波、福島原発事故)

象徴地域の定点観測を 「報道と読者」委員会

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意見を述べる(左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=6月25日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は25日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第50回会議を東京・東新橋の本社で開いた。3人の委員が「東日本大震災と津波」「福島原発事故」をテーマに議論した。

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「福島県南相馬市のように、津波や原発の被害を象徴する地域を定点観測してみてはどうか」と要望した。

 「原発作業員が今後不足することは間違いない。作業員の労働実態や取り巻く環境も報じてもらえたらいい」と求めた。また日本の核政策や核の平和利用の経緯を報じる際は、米国政府の影響など国際的な視野も必要とも強調。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「東京も大地震の被害を受ける恐れがある。東京一極集中をこれ以上進めて良いのか。 地方分権の在り方をさらに特集した記事が読みたい」と発言した。「欧州各地で原発の賛否が分かれている。各国の国民感情や政治問題もいろいろと報道してもらえれば、参考になる」と述べた。

 弁護士の小町谷育子氏は原発事故の情報公開について「これまでも原発では事故隠しがあり、不透明と言われてきた。 事故が起きた時にだけ『情報公開せよ』と言うのはおかしな理屈。海外での情報公開の実情を紹介してほしい」と提起した。

 3氏は今回の会議で2年の任期を終えた。

震災・原発報道に提言 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第50回会議が6月25日に開かれた。「東日本大震災報道」を統一テーマに、3人の委員が「震災・津波報道」と「福島原発事故報道」について議論した。

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、津波と原発の被害が重なった地域の定点観測や、日米関係も念頭に置いた企画記事を提言。同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は、東京の大地震被害を想定した首都機能分散の必要性を強調した。弁護士の小町谷育子氏は、国内外の原発をめぐる情報公開の在り方を報じるよう求めた。

 3氏は今回の会議で2年の任期を終えた。

【テーマ1】震災・津波報道

報道の重み痛感―小町谷氏 震災呼称議論を―姜氏  政策検討が必要―橘木氏

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多数の宮城県南三陸町の住民が避難した登米市内の体育館=3月20日

 奥野知秀編集局長 当初130人を現場に出して取材がスタートした。被災状況そのもの、死者・行方不明者など数字、救援復興活動、原発事故、放射性物質被害と避難、国民生活や経済活動への影響、国のエネルギー政策に発展するような問題など、ポイントに分けて取材を進めた。

 震災で新聞の存在意義や価値が見直された。停電でテレビが映らず、ラジオを持つ人も限られている中で、住民の安否情報が載る地元紙が避難所に配られ、くしゃくしゃになるまで被災者が回し読みをしたと聞く。

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橘木俊詔委員

 橘木委員 津波被害の方がはるかに大きかったが、どうも福島原発の被害の方に関心が移り、地震・津波被害で苦しんでいる人たちをどうしたらいいかというのが、やや二次的になったのではないか。

 本多晃一社会部長 被災地の報道は、原発と並んで二大報道テーマだと考えている。人の面でも原発と同じぐらい、ある意味ではもっと人をかけてやっている。

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姜尚中委員

 姜委員 「東日本大震災」という呼び方はもっと議論してもよかったのではないか。東日本大震災と呼ぶと、100年後に津波や原発事故のことに思いが及ばなくなってしまうのではないかと危惧する。「東日本大災害」がいいのでは。

 「炉心溶融」も炉心露出、メルトダウン、メルトスルーに表現が変わった。今回の地震・津波災害と原発事故を集約的に表している場所を定点観測し、連載にしてもよかったのではないか。例えば福島県南相馬市。

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小町谷育子委員

 本多社会部長 3月11日の発生当日に配信した12日付朝刊用の記事は「東北・関東大地震」という表現だった。しかし津波被害が甚大で、震災とした方が津波の被害を包含すると考えた。12日朝、編集局内で議論し、東日本大震災に修正した。政府が4月1日に名称を東日本大震災と発表し、新聞各社やNHKも一斉に同じになった。

 影井広美科学部長 炉心溶融=メルトダウンという認識だった。ただ東京電力や原子力安全・保安院は正式な学術用語ではないという理由で、なかなかメルトダウンという言葉を使おうとしなかった。最悪のケースを連想させるということで、意識的に使っていなかったのではないか。できるだけ読者に分かりやすい言葉で、誤解を与えないようにしていきたい。

 小町谷委員 今回の震災で、あらためて報道機関の重要性を痛感した。言葉を失う映像がテレビで数多く流され、インパクトがすごかった。被災地の詳しい実情を読みとる手段は新聞以外にない。二つの報道機関が併せ持って非常にいい報道だったという印象がある。阪神大震災のときにあったような一部の被災者に押しかけての取材が今回はなかったようだ。被害が大きすぎて、どの人を取材してもさまざまな人間ドラマがあったということなのかなと思う。

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 石亀昌郎仙台支社編集部長 避難所では自然に取材対応の決めごとができていた。抑制的な取材が経験としてメディア側に蓄積され、行政側にも対応方法が蓄積されていると感じた。

 橘木委員 仮設住宅は1軒建てるのに400万円ぐらいかかるのであれば、被災者からすると、自分で住宅を見つけて、建設資金の足しにしたいという希望が結構ある。仮設住宅が一番優先度が高い政策かどうかを一度検討してみる必要があるのではないか。

 岡部央経済部長 議論しなければいけない。がれき処理や二重ローンの問題もある。政治判断の問題だが、答えはまだ出ていない。

 小町谷委員 大震災が起きているときに政府の批判をするのはいかがなものかという意見を聞いたが、記事全般を見ると政府の政策に対する評価が少し抑制的かもしれないという印象を受けた。

 井原康宏政治部長 被災地の感情、国民の一般的な感覚から今の菅政権は大きく懸け離れてしまっている点については、繰り返し指摘しているつもりだ。

東日本大震災
 3月11日午後2時46分、宮城県沖約130キロを震源に発生したマグニチュード9・0の巨大地震と、太平洋沿岸各地に押し寄せた大津波による未曽有の災害。地震の規模は国内観測史上最大。東京電力福島第1原発は津波で電源を喪失、原子炉の冷却が不能になり放射性物質を放出する重大な原発事故に。余震も頻発し、被害地域は東北を中心に北海道、関東などの広範囲に及んだ。警察庁のまとめでは6月30日時点で死者1万5511人、行方不明者7189人。内閣府推計の被害総額は16兆9千億円。

【テーマ2】福島原発事故報道

爆発当時の検証を―姜氏 首都分散が必要―橘木氏  常に情報公開を―小町谷氏

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3月18日に撮影された福島第1原発の衛星写真。右から1号機、2号機、3号機、4号機(デジタルグローブ・ISIS提供・共同)

 ―原発事故報道について。

 姜委員 3月12日に福島第1原発1号機で水素爆発が起きると、米国はすぐ80キロ圏内にいる自国民に避難命令を出した。今から思うと、かなり妥当性があるが、あの時点ではオーバーアクションではないかという受け止めだった。東京電力や政府の発表がどうだったのか、日米で原発をめぐりどのようなやりとりがあったのか、検証が必要だ。

 影井科学部長 当初米国は80キロを避難の目安にしたと記憶している。海外の企業が東京から関西へ拠点を移す動きもあった。水素爆発がきっかけだったのは間違いない。後から思えば地震の数時間後に炉心が損傷していたのだが、当時はそんなに早く冷却水はなくならない、電源車が到着して電源機能が回復すれば冷却水で炉心は冷やせるという東電や原子力安全・保安院の発表に頼っていた部分はある。水素爆発という事態に至って、うのみにできないと分かった。

 渡辺陽介外信部長 ニューヨーク・タイムズは福島の原発事故を6日間連続で1面トップで報道した。米国がどこまで状況を知っていたかはこれからの取材課題だ。

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 姜委員 共同の連載「原発と国家」の第2部「立地の迷路」は、福島における原発建設がどういうプロセスだったか歴史をたどっていて、非常にいい企画だが、原子力の平和利用と日米関係も含めてもう少し分厚い特集があってもよかった。

 原発作業員の問題でも下請け、孫請けに至る構造や、どういう労働実態なのか、取材していくと、いろいろな事実が明らかになると思う。

 岡部経済部長 地震が起きるまで、2030年には原発による発電量を電力全体の半分にするという道を日本は歩んでいた。なぜそういうことになったか、きちんとトレースしなければいけないと思っている。

 被爆国で原発を推進したのは、オイルショックの後に石油が輸入されなかったことや、原発はコストが安い、二酸化炭素を出さない、といったことがきっかけになったと思う。

 原子力の平和利用ということで、原発を推進した歴史の掘り起こしを含め検証するのはわれわれの使命だと思っている。

 田中太郎編集局次長 原発メーカーをはじめとした米国の産業、バックにある米政府の思惑も取材対象にしている。

 われわれマスコミも国民も原子力の平和利用についてどんな対応をしたか、当時を振り返るような出稿も考えており、この先いろいろなテーマで、さらに掘り下げていきたい。

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 橘木委員 私も「原発と国家」を非常に関心を持って読んだ。福島の原発で発電された電気は全部東京で使っている。福島の人からみると、何で俺たちが東京の犠牲になるのかという感情があるだろう。福島の人たちが安全と経済的な利益をどう考えて原発の受け入れを認めたのか検証してほしい。

 東京でも大地震が起きる可能性がある中、東京一極集中をこれ以上進めていいのかという心配もある。地方への首都機能分散を国是として図る必要があるのではないか。

 田中局次長 首都機能移転の話は前々から言われており、今回の震災を受けて大きなテーマとして浮上した。これまでも特集記事は配信しているが、引き続き注意していきたい。

 岡部経済部長 エネルギー政策をどう考えるか、判断材料を記事として提供していかないといけない。

 小町谷委員 原発事故が起きて、東電も政府も情報公開が非常に良くない。事故が起きたからといって情報公開せよというのは、ちょっと理屈としてはおかしい。地域の住民の生命、身体にかかわる重要な問題だから、もともとできる限り情報公開されなければいけない。外国ではどうなのか。各国の情報公開状況を知りたいと感じた。

福島第1原発事故
 3月11日の東日本大震災に伴い東京電力福島第1原発を最大15メートルの津波が襲い、原発の電源が喪失。原子炉や使用済み燃料プールの冷却機能がなくなった。1~3号機の炉心は過熱して燃料が溶融。水素爆発で一部の建屋が吹き飛んだ。放射性物質が大気や土壌、海などへ広範囲に拡散。炉心の安定的な冷却を目指した作業が進むが、建屋の内外にたまった放射性物質を含む大量の汚染水が支障となり、東電が示した6~9カ月で収束させる工程表の遂行が危ぶまれている。

おことわり

 4月9日に開くことが決まっていた第49回会議は、東日本大震災の影響で中止しました。49回会議は「欠番」とします。

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