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第45回会議(普天間移設問題と日米安保50年、事件報道ガイドライン実施後の報道)

「抑止力」の具体的検討を 「報道と読者」委員会

 共同通信社は26日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第45回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「普天間移設問題と日米安保50年」と、共同通信が裁判員制度施行に先立ち"犯人視報道"しない工夫を定めた「事件報道のガイドライン」の運用状況をテーマに議論した。

意見を述べる3委員

意見を述べる(左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=6月26日、東京・東新橋の共同通信社

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、米軍普天間飛行場の移設をめぐり「抑止力という言葉が独り歩きしている。いろいろなとらえ方があり難しい。軍事専門家も含めもっと具体的に検討しても良かったのではないか」と問題提起した。

 弁護士の小町谷育子氏も「抑止力」を「マジックワード」と疑問視。「リアリズム(現実主義)を超えたいろいろな平和の在り方がある。一連の報道で理想、希望を見ることができなかったのは残念だ」と指摘した。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「国際情勢も変化し、日米安保をどうするか本格的に考えなければならない時がくるだろう。これからの日米安保50年を特集してほしい」と要望した。

 一方、ガイドラインの運用状況について、小町谷氏は「(情報の)出所が明示されるようになり、すごく良かった」と評価した。また姜氏は「今後(取材が)過熱する大きな事件で、どこまで冷静に報道できるかが試される」と指摘。橘木氏は「捜査当局が何を目的に(情報を)出すのかまで記事にすれば、信頼性も高まる」と要望した。

今後50年の日米安保展望を 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第45回会議が6月26日に開かれ、3人の委員が「普天間移設問題と日米安保50年」と、共同通信が裁判員制度施行に先立ち"犯人視報道"しない工夫を定めた「事件報道のガイドライン」の運用状況をテーマに議論した。

 普天間と安保問題に関し、同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「国際情勢は変化しており、今後50年の日米安保を展望した特集を読みたい」と要望。東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「『抑止力』という言葉が独り歩きしている」と具体的な検証を求めた。

 事件報道ガイドラインの運用について弁護士の小町谷育子氏は「情報の出所明示はありがたい。『~によると』は多くあっていい」と、一定の評価をした。

【テーマ1】普天間問題

「抑止力」検証を―姜氏 日米中の視点重要―橘木氏 理想も論じて―小町谷氏

姜尚中委員

姜尚中委員

 ―米軍普天間飛行場移設と日米安保条約改定50年報道に関する感想は。

 姜委員 普天間移設と鳩山由紀夫前首相の辞任の関係について深く突っ込んでいる。普天間問題を安保改定50年の問題にまで深めようとしたのは良かったし、長期連載企画「転機の同盟―安保改定50年」は読み応えがあった。

橘木俊詔委員

橘木俊詔委員

 橘木委員 鳩山氏がどうやって「県外移設」を達成しようとしているのか、なぜ鹿児島県・徳之島移設案が出てきたのか、もっと知りたかった。鳩山氏は自信がなかったから発言がぶれたのだろうが、政治家としてやや失格との印象を持った。

小町谷育子委員

小町谷育子委員

 小町谷委員 メディアが外交・防衛の現実を報道するのは分かるが、リアリズム(現実主義)を超えた平和の在り方、国家の在り方があると思う。一連の報道に理想や希望を見ることができなかったのは残念だ。

 井原康宏政治部副部長 政府、与党内で浮上した移設案をフォローするだけでなく、沖縄や本土側自治体の声を丹念に報じた。同時に普天間問題は政局と不可分との視点を持って事態を追った。11月のオバマ米大統領来日に向けて、さらに掘り下げた報道に努めたい。

米軍普天間飛行場

沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場=09年12月、共同通信社へリから

 本多晃一社会部長(前編集局編集委員) 安保改定50年の節目に、安保をめぐるさまざまな動きをとらえようと、社会、政治など各部が連携して長期連載企画を始めた。普天間だけでなく、日米密約や在日米軍基地ルポ、憲法9条をめぐる問題なども取り上げた。

 ―ほかの論点でいかがでしょうか。

 姜委員 鳩山氏にふがいない印象があったにしても、米国の有力紙がカリカチュア(風刺画)的な報道をしたことを、日本の一部メディアが鬼の首を取ったように報じた。その感性が分からない。本当に米国のホワイトハウス、国務省、国防総省、メディア、シンクタンク、世論はただただ怒っていて、不信感の固まりだったのか。もう少し多様な意見があったのではないか。そこを国民に伝えてほしかった。また鳩山政権内で官邸と関係閣僚、党の連携がどれくらいあったのか、なかったのか。キーパーソンは誰で、どんな行き違いがあったのか。具体的に知りたかった。

普天間問題めぐる経過

 橘木委員 徳之島がいかに困っているかという報道は良かった。米国からみると、普天間問題はものすごくマイナーな問題だと思う。米政府内部ですら、ごく一部の人しか関心のない問題だったのではないか。

 小町谷委員 ここ数カ月、沖縄の方々に心苦しい気持ちが続いている。自分がいかにこの問題に無関心だったかということだ。政局の報道、普天間移設の事実は分かるが、本土の私たちはこの問題をどうとらえているのかが見えにくかった。例えば本土の人たちにアンケートで、米軍基地が来ることの賛否、沖縄に基地があることの賛否を尋ねたら、負担を沖縄に押し付けて自分たちは素知らぬふりをしている現実を共有できると思う。その点が報道の在り方として足りなかった。

 姜委員 「抑止力」という言葉が独り歩きしている。もっと具体的に検証してほしい。「抑止力」にはいろいろなとらえ方があり、どう考えたらいいか非常に難しい。軍事専門家も含めて検討してほしい。

 橘木委員 50年前の日米安保改定のころと国際情勢は大きく変化している。米中問題が今後どうなるか、日米安保を考える上でも非常に重要な視点になってくる。

 小町谷委員 「抑止力」はマジックワードで、何のことかいまだに分からない。理想ばかり語ってもいけないが、米軍は本当にいなくちゃいけないのか。「軍事、外交は分からない」と思考をストップさせているのではないか。もっと分かりやすい情報があれば、変わってくる。米国にとっては日本だけでなくどの国のこともマイナーな問題。日本は「日米関係が大事」と言っているが、それは一方的な偏愛関係で(米国の)一般市民にはどうでもいいことだと思う。相当、意識の乖離(かいり)があるのではないか。今、日米同盟という言葉で言いくるめられているが、もう少し市民サイドに立って考え直してほしい。

 ―今後この問題をどのように取り上げていくべきか。

 姜委員 朝鮮半島の南北関係に日本が外交安全保障上、どうコミットするかが差し当たり重要な試金石になる。11月に沖縄県知事選が行われるが、普天間問題は一切解決しておらず、菅直人首相の政権運営との関係でどういう報道になるのか、興味がある。

 橘木委員 「駐留なき安保」が通るのなら米軍基地はいらない。日米安保をどうするか、もう一度考えなければならない時が来るかもしれない。今後の日米安保50年を展望した特集を読みたい。

 小町谷委員 安保というと憲法9条の問題を避けて通れない。「押しつけ憲法論」が幅を利かせているが、もう一度市民自ら9条を選び取るというのもあり得るのではないか。9条の問題は取り上げてほしい。

日米安保条約
 1951年にサンフランシスコ平和条約とともに締結されたが、旧条約は米軍に日本防衛を明確に義務付けていなかったため、60年に改定。改定条約5条は日本が武力攻撃された場合、日米両国が「共通の危険に対処する」と明記。6条は「日本国の安全に寄与し、ならびに極東における国際の平和および安全の維持に寄与する」ため、日本国内に米軍基地を置くことを認めている。60年5月20日、衆院本会議で改定条約が強行可決されると、デモ隊が連日、国会周辺に押し寄せた。改定条約は混乱の中、国会で自然承認、6月23日に発効した。

【テーマ2】事件報道

出所明示を徹底―小町谷氏 正確さ大切に―橘木氏 記者の目利き重要―姜氏

 ―裁判員制度の施行に先立ち「事件報道のガイドライン」を作成、昨年3月から運用している。

 竹田昌弘社会部編集委員 ガイドラインは容疑者を犯人視しない、中立的な報道に向けた記事表現の指針だが、読者や各新聞社からは「決め付けた表現がある」「情報の出所が示されていない」などの指摘が寄せられている。また足利事件のような冤罪(えんざい)が相次ぐと報道の信頼も揺らぐので、ガイドラインの周知徹底を図っている。

被告の親を取材の報道陣

2008年6月10日、秋葉原事件被告の両親を取材する報道関係者。右端が被告の父親=青森市内(画像の一部を加工しています)

 小町谷委員 情報の出所明示は読者としてありがたく「~によると」は多くあっていい。ガイドラインにある「犯人視しない報道」に関し、特に気を付けなければならないのは容疑者が犯人ではないと事件とのかかわりを否定しているケース。そうでない場合と濃淡があってもいいと思う。

 橘木委員 一般の読者は一つの新聞しか読んでいないのに、記者は他社を気にし過ぎているのではないか。

 本多晃一社会部長 記者は細かいレベルから競争していかないと、大きな不正も暴けない。

 奥野知秀編集局長 特ダネを書こう、他社よりいい記事を書こうという記者のエネルギーがマスメディアを支えている。

事件報道のガイドライン

 姜委員 ガイドラインを作ったのはいいことだが、例えば宮崎勤(元死刑囚)事件では、父親が自殺し、姉は結婚が破談になった。東京・秋葉原の無差別殺傷事件では、容疑者の母親がカメラの前で謝罪し、卒倒した。どこまで事件を報道するかという問題があると思う。社会が注目する凶悪犯罪で逮捕された人について、冷静にあくまで容疑者として記事が書けるかどうかだ。

 ―捜査側と容疑者・被告側の「対等報道」も課題となっているが。

 小町谷委員 容疑者の認否などは記憶との関係でよく変化するので、弁護士は取材に応じづらく、対等報道は難しいと思う。一方で山口県光市の母子殺害事件のように、弁護団が記者会見に応じても質問が不活発で、対等報道にならないケースもある。

 竹田編集委員 弁護士には、事件の内容については取材拒否でも「容疑者は有罪が確定するまで無罪を推定される」「逮捕容疑は捜査側の一方的な見解にすぎない」といったコメントをお願いしたい。

 ―今後の課題は。

 橘木委員 新聞は正確さを大切にしてほしい。それが読者の信頼につながっている。

 姜委員 読者には、最初の報道が大きな影響を与えるので、新聞は冷静な対応が求められる。それだけに事件に対する記者の目利きがとても重要だと思う。そうした目利きの力はガイドラインでは伝えられないし、マニュアル化された思考に慣れれば慣れるほど育たない。経験を積みながら培っていくしかないだろう。

事件報道のガイドライン
 政府は2004年成立の裁判員法の制定過程で「事件報道に当たり、裁判員らに偏見を生ぜしめないよう配慮しなければならない」という規制条項を検討したが、報道機関側は自主的取り組みに委ねるよう求め、制定は見送られた。新聞協会は08年1月、犯人視報道しないことを再確認し、供述報道などの留意点を示した「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」を公表。共同通信社は加盟新聞社と協議するなどして、同年10月に協会の指針を具体化した「事件報道のガイドライン」を定めた。(1)中立的な記事を心掛ける(2)情報の出所を原則明示する(3)「対等報道」に努める(4)決め付けた表現はしない―などが柱で、09年3月から運用している。

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