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第47回会議(尖閣問題をめぐる日中関係報道、円高・経済報道の視点)

尖閣映像で問題提起 「報道と読者」委員会

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意見を述べる(奥左から)姜尚中委員、橘木俊詔委員、小町谷育子委員=4日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は4日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第47回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「尖閣問題をめぐる日中関係報道」と「円高・経済報道の視点」をテーマに議論した。

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突事件の映像が動画サイト「ユーチューブ」で流出したことに関して「もし映像が共同通信に持ち込まれたらどうするのか」と報道機関としての対応を問題提起した。

 弁護士の小町谷育子氏は「国家公務員の守秘義務、情報公開の外交上の支障などをもっと整理して報じる必要があった」と指摘。同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「なぜ中国がこれほど強気なのか。日本の政治家が弱腰なのか知りたかった」と注文を付けた。

 円高をめぐる報道について橘木氏は、輸出産業が打撃を受けて日本経済が駄目になるという記事が繰り返されていると指摘。「円高の利点をもっと生かそうという報道をもうちょっとしたらどうか」と提案した。小町谷氏は「読者の経済報道への関心は低く、どう分かりやすく読ませるかが課題だ」と述べ、生活との関わりを工夫して伝えるよう求めた。

 姜氏は20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議について、国際会議の舞台裏を詳しく伝えるよう期待を示した。

尖閣映像で問題提起 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第47回会議が4日開かれ、3人の委員が「尖閣問題をめぐる日中関係報道」と「円高・経済報道の視点」をテーマに議論した。

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、尖閣諸島付近の中国漁船衝突の映像流出について、報道機関に持ち込まれた場合の対応を問題提起した。弁護士の小町谷育子氏は守秘義務と情報公開の外交上の支障を整理する必要性を指摘。同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は経済報道で円高の利点をもっと伝えるよう求めた。

【テーマ1】尖閣問題をめぐる日中関係報道

試される映像流出―姜氏 法問題の整理を―小町谷氏  中国の矛盾報じて―橘木氏

 ―尖閣問題をめぐる報道の全般的な評価を。

姜尚中委員

 姜委員 中国人船長の逮捕、起訴をめぐり首相官邸など政権と検察でどのような動きがあったかもっと知りたかった。「ユーチューブ」で衝突の映像が流出した問題では、もし共同通信に映像が持ち込まれたら、どうするか。世界的には「ウィキリークス」で起きている。既存メディアの存在意義が試されている。

小町谷育子委員

 小町谷委員 刑事訴訟法(刑訴法)では、公判前の訴訟資料は原則、公開が禁止されている。行政が法律に基づくのは当然で、刑訴法の規定と情報公開の関係、国家公務員法の秘密と情報公開法の定める外交上の支障を整理して論じるべきだ。ユーチューブへの投稿は、ネットという公共空間に議論の素材を提供するという新しい表現行為と考えてもいいのでは。

橘木俊詔委員

 橘木委員 日本の政治家がなぜこんなに中国に弱腰なのか、中国はなぜこんなに強気なのか、そこをもう少し知りたかった。もう一つは、ノーベル平和賞の問題とか中国が抱える一党独裁の矛盾をもっと書けば、中国もいっぱい問題を抱えていることが日本の読者に分かってもらえるはずだ。

 井原康宏政治部長 中国人船長の扱いについては、菅政権の外交上の失策と指摘している。政府の対応や一連の意思決定は検証取材を続けているが、外交上、安全保障上の秘密という壁に阻まれてもどかしいところがある。

 渡辺陽介外信部長 中国の強気の背景には、既に国内総生産(GDP)は実質的に日本を超えたという国力増強による自信の表れということが一つある。もう一つは、中国政府は現在、人事の季節を迎えており、日本に厳しく出たほうが個人や組織の評価が高まるという状況がある。中国の国内問題に関する報道が足りないとの指摘は、反省材料としたい。

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中国漁船が海上保安庁の船にぶつかった様子の映像(動画サイト「ユーチューブ」より)

 本多晃一社会部長 衝突映像が共同通信に持ち込まれた場合は、信ぴょう性や持ち込んだ人間の身元、動機、政治的・社会的な影響などを検証しないといけない。すべて検討した上で報道したと思う。刑訴法の規定を理由に検察は必ず、捜査の中身を明らかにすることを拒否するのだが、それを書くのがメディアの仕事だろうという意識がある。ユーチューブへの投稿が表現行為という考えもあるのかと思う一方で、あの海上保安官の行為が本当に表現行為なのか、疑問も拭い去れない。

 ―各部長の考えを踏まえ、意見を。

 姜委員 自衛隊幹部がユーチューブに流出させた場合、メディアはどう扱うべきか。あり得ることだと思うので、共同通信の方針をつくっておくべきだ。日本の対中国観というものが非常に揺らいでいる。戦後、日本が中国をどう見てきたのか、特集してもいいのではないか。

 小町谷委員 ユーチューブへの投稿が表現行為の一つではないかと話したが、そういう視点があってもいいという指摘であって、組織の内部で公開の是非について議論を提起しないまま、いきなり投稿するのは違和感がある。

 渡辺部長 今回の事件で日本人は中国に強権主義的な面があることが分かったと思う。今後は中国が持っているそうしたリスクをもう少し報道していく必要があると思っている。

 本多部長 自衛隊員から内部告発があった場合、どうするかだが、告発の中身が報道すべきものであれば、報道した後に文民統制の問題を考えることになるのではないか。

 奥野知秀編集局長 匿名の告発とメディアでは、公共の利益に沿うかどうか判断をする点が決定的に違う。これだけネット社会になっている中で、伝統ジャーナリズムは本当に社会に貢献しているか、自問自答している。

 橘木委員 メディアの世論調査が氾濫していて、政治も裁判も国民の意識に左右される時代になってはいないかという疑問がある。

 井原部長 世論調査は定点観測としてやっており、意図的な世論形成や誘導をするつもりはない。

中国漁船衝突事件
 沖縄県・尖閣諸島付近で、9月7日に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突。石垣海上保安部が公務執行妨害の疑いで中国人船長を逮捕し、中国側が反発。船長は処分保留で釈放された。政府は11月1日、衆参両院の予算委員会理事会のメンバーらにのみ衝突時の映像を公開したが、同4日にインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に映像が流出。同10日、神戸海上保安部の海上保安官が「自分がやった」と名乗り出たため、警視庁などが国家公務員法違反容疑で聴取したが、逮捕は見送った。

【テーマ2】円高・経済報道の視点

円高の利点伝えて―橘木氏 G20の舞台裏に関心―姜氏  読まれる工夫を―小町谷氏

 ―円高をめぐる経済報道の全般的な評価を。

 橘木委員 世界的に通貨安競争になっている。今まで円高で日本が苦労してきたのは事実で、円高になると輸出産業が打撃を受けて日本経済が駄目になるという記事はいつも読んできた。1ドルが50円、60円になる可能性すら言われている時代であれば、円高のメリットを生かすという方策をもうちょっと報道してくれたらという印象を持った。肯定的な面も出した方が国民も安心する。財政出動が期待されたときに具体的にどんな政策があるかということをもう少し書いてほしかった。

1ドル=80円台半ばの円相場を示すボード=10月25日、東京・東新橋

 小町谷委員 日本は資源がないから海外で調達している。資源調達面からいえば円高はいいものと思う。今回の円高が日本の経済にプラスになっていないのか、それが分からないという印象を受けた。

 姜委員 世界の金融・通貨の構造的な変化をマクロレベルで特集してもよかったのではないか。

 岡部央経済部長 自動車産業の動きをまとめた企画で、輸出が大変というだけではなく、ものづくりが根本的に変わりつつあるという視点を反映させたいと考えた。

 姜委員 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で米国が当初、経常収支の数値目標をやろうではないかと提案した。日本は、米国の方針がどこにあるのかということに関して全く蚊帳の外だったのかを一番知りたかった。結局、数値目標はG20では合意に達しなかったが、舞台裏を知りたい。

 橘木委員 G20の記事では、日本の相対的な地位低下を非常に感じた。

 小町谷委員 一般の読者のレベルから見ると、経済記事はちょっと難しすぎて理解できないと思う。自分たちの問題にすごく関わっているということが分からないと記事は読まれない。Q&Aの記事などを多用したらどうか。

 岡部部長 円高は製造業、雇用、家庭の暮らしにすべてつながってくる。初めての読者にもきちんと分かってもらえるように強く意識している。

 姜委員 経済記事を配信するときに気を付けていることは。

 岡部部長 地域と今の経済現象がどう関わるのかを詳しく分かりやすく報じるということ。工場だけでなく、航空会社の減便、地域金融機関の経営をめぐる話、企業の人事など地域に関係する記事の内容を厚くする。

 奥野編集局長 環太平洋連携協定(TPP)が問題になっている。国の将来という観点からも記事を書くが、同時に地方の農家がどういうことを考えているかという視点からも報道しようと思っている。

 ―国内産業の「空洞化」をめぐる報道は。

 姜委員 農業と観光をなんとか再び活性化しないといけない。観光や農業の多機能化が進んでいるかについて、各地方の取り組み例を紹介してもらえるとよい。

 橘木委員 円高で苦しいと、コスト高を避けるために外国に企業が逃げていく。日本に残った労働者をどういう産業で雇用していくか。日本はサービス産業などが雇用に占める比率は高い。製造業にこだわっているよりも、サービス業にどうやって人をスムーズに移すかということを同時に書いたらどうか。読者が「働く場所は商業、金融、医療、福祉、教育など他のところでいっぱいある」と気付いたら、意外と素直に受け止めるのではないか。

 小町谷委員 企業は経済原理で動いている。私たちが「国外に行くな」と言っても無理な話だ。危機感をあおる記事はたくさん見受けるが、政策をこんなふうにしていったらどうかという、希望が持てる記事が少ないという印象がある。若い人の雇用を拡大して日本の経済の成長につなげていくという視点も必要ではないか。

 岡部部長 国内で雇用を生むような産業はまだまだあると思う。雇用を生む、次の日本を支える産業を国内でどうつくるかという視点をしっかり持って報道したい。「将来にはこういう希望があるんだ」ということをきちんと伝えていくのも報道の役目だ。ぜひそういう報道をしていきたい。

通貨安競争
 輸出型産業を後押しするため、各国が競うように自国通貨の価値切り下げに動くこと。自国通貨売りの為替介入や、金融緩和で市場に多額の資金を供給した結果、金利低下で通貨が安くなった状況を通貨当局が黙認するといった手段がある。日米欧がデフレ対応のために金融緩和を加速。日本も9月に6年半ぶりとなる円売りドル買いの為替介入を実施した。ただ、自国の利益のみを優先する姿勢は世界経済に悪影響を与えかねない。より柔軟で市場に委ねた為替制度への移行や、過度の緩和策の抑制が課題になっている。

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