第43回会議(政治とカネ、日本航空の破綻)
検察捜査「もっと批判を」 「報道と読者」委員会
共同通信社は20日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第43回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「政治とカネ」と「日本航空の破綻」をめぐる報道について議論した。
第43回「報道と読者」会議で意見を述べる(奥左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=2月20日、東京・東新橋の共同通信社
弁護士の小町谷育子氏は、鳩山由紀夫首相の虚偽献金事件や、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる事件について全体的に記事のバランスは良かったと評価する一方で「(石川知裕衆院議員らを)逮捕して自白を取って捜査を進めるという検察の手法などに対し、もっと批判記事があっていい」と指摘。東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「小沢氏を告発した市民団体とはどんな団体だったのか。興味があるが書かれておらず、知りたい」と要望した。
同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は「検察のリークに依存している割合が多いのではないか」と質問。共同通信社の宮城孝治社会部長は「読者から誤解されないよう、多方面の取材を心掛けた」などと説明した。
日航破綻の報道では、小町谷氏が「なぜこんなに業績が悪く、しかも改善できなかったかという点で記事はよくまとまっていた」と話し、橘木氏は「地方空港が次々に造られ、政治家がからんだ問題などをもっと掘り下げてほしい」と強調。
姜氏は「日航の再建で"一丁上がり"とするのでなく、日本の交通体系をどうするのか考えるべき問題だ」と述べた。
「政治とカネ」検証必要 「報道と読者」委員会
共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第43回会議が2月20日開かれ、3人の委員が「政治とカネ」「日本航空の破綻」をテーマに論議した。
小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる事件などの報道では、東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は政権交代という大きな図柄の中で検証すべきだと指摘。弁護士の小町谷育子氏は検察の捜査手法への批判が必要だと述べた。
日航問題では同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏が、政治家も絡んで地方空港が次々に造られた経緯をもっと掘り下げてほしいと求めた。
【テーマ1】政治とカネ
捜査手法批判を―小町谷氏 政治変える視点必要―姜氏 リークに依存では―橘木氏
小町谷育子委員
―鳩山由紀夫首相の偽装献金事件や小沢幹事長の事件の報道には、民主党や読者から「検察が情報をリークしている」という指摘もあったが、感想をうかがいたい。
橘木俊詔委員
小町谷委員 通常の事件報道と異なり、国会議員の事件なので、このまま政権を委ねていいかどうか判断する材料を提供する必要があった。全体的に見てバランスの取れた報道だったと思う。
橘木委員 記事に書かれた情報をどこで入手したかということに一番関心を持った。各社競争しているというが、検察のリークに依存していたのではないか。
姜尚中委員
姜委員 今回の事件では、市民団体が小沢幹事長を告発したが、どんな団体なのか、新聞を見ても書かれていなかった。また全国紙の方が(検察寄りで)ちょっと問題だったのではないか。
宮城孝治社会部長 検察捜査の動きを追い、速報するのは当然の仕事だと考えているが、今回は検察リークという言葉に代表されるように、読者から、小沢氏か検察か、どっち側に立っているのかという目で見られ、悩ましかった。読者に詳しく説明したいが、取材源の秘匿の問題があり、軽々にできなかった。
東京地検の事情聴取を終え、記者会見に臨む民主党の小沢幹事長=1月23日、東京都内のホテル
竹田昌弘社会部編集委員 記事の捜査情報がすべて検察のリークだと誤解されているが、政治的意図を持ったリークは報道の公正を欠くのでそのまま書かないし、例えば容疑者の供述内容は本人から弁護人や家族に伝わることが多く、容疑者周辺を広く取材している。そこで聞いた話は捜査当局を含めた別の取材先で確認し、記事にすることがよくある。こうしたケースは今後誤解がないように「複数の関係者によると」として区別する。
橘木委員 今回は各紙ともリークに依存しているように見えるが。
美浦克教社会部副部長 一見、検察から出たとしか思えない情報も、容疑者周辺から聞いた情報であることが多くある。
―報道の側として考えるべき点はどこか。
姜委員 まず小沢さんに関する事件の容疑がどれだけ悪質なのか、また元秘書の石川知裕衆院議員を逮捕し、たたけば小沢さんの関与を供述するだろうという見込み捜査ではなかったのかといった点はしっかり押さえておかなければならない。ただ政治権力対検察権力ではなく、政権交代という大きな図柄の中で事件をとらえたい。「小沢的なるもの」によってしか政権交代はできなかったと思うが、この小沢的なるものの功罪をしっかり見据え「政治とカネ」の問題を検証すべきだ。
小町谷委員 今回の事件で捜査批判が強かったのは(検察に摘発されたことがある)鈴木宗男衆院議員や(元外務省主任分析官の)佐藤優さんたちの発言や本で、東京地検特捜部の捜査手法が知られてきたからではないか。推定無罪の人を長期間拘束して自白を強いる捜査手法に対し、もっと批判記事があっていい。
姜委員 韓国では、これまで政権交代を挟んで権力対権力、権力対メディアという構図がはっきりしていた。デジャビュ(既視感)がある。
橘木委員 参院選に向け、小沢さんは幹事長を降りるのかどうか。
橋詰邦弘政治部長 小沢さんが辞任すると、同じように元秘書が起訴され、本人は「知らなかった」と言っている鳩山さんはどうなのかという話になる。小沢さんの金の動かし方に対して、もやもや感はみんな持っている。姜委員の言われた「小沢的なるもの」はどうなるのかも含め、今後も動きを追っていきたい。
―一連の報道はバランスが取れていたか。
橘木委員 小沢さんの事件はバランスが取れていたが、鳩山首相の事件の方は記事が少ないと感じた。家族内の問題だから、これ以上の追及は日本人として忍びないと思ったのかもしれないが。
小町谷委員 鳩山さん関係は、正直言って小沢さんの抱えている問題とは質が違うもので、この程度で結構だ。後は、これを前提にどう判断するかは選挙が決めることだ。多様な識者のコメントが載せられた記事もあり、よかった。
姜委員 全国紙と比べるとバランスが取れていたが、検察が立件した過去の事件の「成績」を詳しく書いた記事が読みたかった。最近も佐藤栄佐久元福島県知事の事件は検察側の主張の多くが退けられたし、足利事件のような冤罪もある。また小沢さんと言うと、すぐ田中角栄元首相との関係が出てくるが、二大政党制や小選挙区制は岸信介元首相と通じるものがあり、もっと別の面も含めた特集を組んでほしい。
―事件が政治に与えた影響の報道について。
姜委員 この10年、20年、何をやってきたかと言うと、ヒートアップとクールダウンを繰り返して、結局のところ「同じ穴のむじな」だから政治はもういいという国民感情になっている。「もう投票に行かない」という"政党難民"が多くなっている。冷笑主義の蔓延が一番怖い。メディアはきちっと権力を監視しなければならないし、速報だけでなく、一歩引いて政治を過去から検証することが必要だ。定期的に政権交代が起きる仕組みへと、日本の政党政治を積極的に変えていくためにはどうしたらいいのか、そんな視点も持ってほしい。
橘木委員 こんな敵失が続く中で、自民党の支持率が上がらないのはなぜなのか、もっと書いた方がよかった。
小町谷委員 わたしは"政党難民"になって久しいが、危機の時代だからこそ新しい力が生まれると期待している。いまは政局報道が多く、政策が見えにくい。政策の進み具合やその評価について、もっと分かりやすく伝えると、わたしたちも評価しやすくなる。
橋詰政治部長 長いスパンで日本の政治の立ち位置を検証することは、参院選に絡めて考えていきたい。
鳩山、小沢両氏めぐる事件 |
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東京地検は昨年12月、鳩山由紀夫首相の資金管理団体の政治資金収支報告書に虚偽の寄付者を記入したなどとして、政治資金規正法違反罪で元秘書1人を在宅起訴するなどした。母親からの贈与を原資とする起訴状記載の虚偽記入額は約4億円。首相は嫌疑不十分で不起訴となった。また小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入をめぐり、収支報告書に虚偽を記入したとして、東京地検は2月4日、同法違反罪で元私設秘書の石川知裕衆院議員ら3人を起訴した。起訴状に記載された虚偽記入額は約20億円。小沢氏は嫌疑不十分で不起訴。 |
【テーマ2】日本航空の破綻
地方の相克を描け―橘木氏 交通体系の視点を―姜氏 安全の確保重要―小町谷氏
―日本航空の経営破綻、再建の動きに関する報道をどう評価するか。
羽田空港の整備地区にある格納庫を視察する日本航空の稲盛和夫会長(中央)。右は大西賢社長=2月2日
橘木委員 日航の経営問題を歴史的な視点から書いたことは評価できる。人事抗争や経営統合の失敗、地方空港の建設に政治家が関与し、それが選挙での投票行動につながり、日航は採算が悪くても就航させられる。破綻にはそういう構図があった。ただ地方空港をめぐる相克についてはもっと掘り下げてほしかった。地方に空港がなくなるとどういうことになるのか。そこで暮らす人たちの交通手段はどうなるのか。中央と地方の格差という視点から、日航に負担を押し付けるのではなく、国民全員で負担する案だってあってもいいのではないかという指摘がほしかった。
小町谷委員 日航の破綻は青天のへきれきだった。どうしてそんなに業績が悪くなったのか。どうして業績を改善できなかったのかという点に関心があった。それについては記事がまとまっていたと思う。経営改善にはリストラ、コスト削減がついて回るが、それと安全性の確保というのが、どう位置付けられているのかが航空機に乗る立場からすると一番重要だ。そうした観点からの取材を継続していただきたい。また日航には巨額の公的資金が投入され、ライバルの全日空には不公平感があると思う。今後、日航と全日空がどちらも国際線を維持していけるのかといった点にも関心がある。
橘木委員 日本の航空業界は2社体制が必要なのか、国際線は1社でもいいのではという問題は経済学的にも重要だ。日航は国内線だけで再建を目指すという案もあり得る。こうした問題にも切り込んでほしい。
姜委員 韓国では、仁川をハブ(拠点)空港にしようとする都市戦略があるが、日本は交通体系をどうしていくのか、その鍵となる都市についてどういう戦略を練るかという視点が欠けている。日航問題についても、日本全体の交通体系をどうしていくのか、高速道路の無料化と航空行政がどうかかわっていくのか、全般的な交通、地域経済、都市戦略がない。日航の再建問題はこれで一丁上がりととらえると、元のもくあみになってしまうのではないか。公的支援による再生は、日航が破綻にいたった原因を、もう一度繰り返すことになるのではないかとの見方もある。
河原仁志経済部長 単に日本に航空会社が何社必要かという議論ではなく、日本の国際経済戦略の中で、ハブ空港をどうするか、航空自由化をどうするかという話を含め総合的なグランドデザインを描かないと答えが見えない。総合的な交通体系の問題は、民主党政権が問われる点だと思う。地域の読者のニーズ、地域の心に触れるような取材を心掛けていきたい。
日航の経営再建問題 |
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日航の経営再建問題 日本航空は不況による旅客低迷や高コスト体質が響き、約8600億円の債務超過に陥った。1月19日に会社更生法の適用を東京地裁に申請、政府は再建支援の声明を出し、官民が出資する企業再生支援機構が支援を決めた。出資や融資を合わせ9千億円規模の公的資金を投入し、運航を継続させながら3年間で再建を図る。グループ人員は約3割の約1万5700人を削減、不採算路線からの撤退も進める。稲盛和夫氏が会長兼最高経営責任者(CEO)として再建に取り組んでいる。 |