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第34回会議(ねじれ国会、地球温暖化問題)

民主批判報道に疑問も  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第34回会議が4月26日開かれ、3人の委員が道路特定財源見直しや日銀総裁人事をめぐる「ねじれ国会」、地球温暖化問題に関する報道の在り方をテーマに議論した。

 道路特定財源問題に関し、弁護士の林陽子氏は、道路政策での「官僚支配の弊害」を明らかにするよう求めた。日銀総裁人事では、立命館大教授の佐和隆光氏が、財務省出身者の起用に反対した民主党への批判的な報道に疑問を呈した。

 地球温暖化問題については、ジャーナリストの五十嵐公利氏が、生活に密着した視点の重要性を指摘した。

【詳報1】ねじれ国会

全体の構図示せ―五十嵐氏  意見の違い解説を―林氏 負担増具体的に―佐和氏

 ―衆参「ねじれ国会」の下、暫定税率など道路特定財源の問題や日銀総裁人事をめぐって混乱が続いたが。

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五十嵐公利氏

 五十嵐委員 政府、与党も野党も非常に迷走している印象が強い。マスコミもつられて若干迷走している。いつも感じているのは、全体としてどういう構図の中で政治が動いているのかを読者は知りたいということだ。日銀人事、道路特定財源をめぐる民主党の対応について「もっと妥協してもいいのではないか」との論調が強かったが、民主党の党内力学がどう働いたかなどもう少し詳しく伝えてほしかった。

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林陽子氏

 林委員 昨年の参院選で「地方や弱者の意見を聞いていないじゃないか」と主張した民主党が伸びたことで、小泉政権から続く行財政改革と、草の根の人たちの暮らしを良くすることの調整をどうするかということが、政治の焦点として大事な問題になってきた。日銀総裁人事と暫定税率に関する共同通信の報道は全般的に分かりやすく、検証報道もなされていたと思う。しかし「中央」と「地方」の意見の相違や、知事の意見と地方の住民の意見の相違がどこから来るのかについて、もう少し踏み込んだ解説が欲しかった。

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佐和隆光氏

 佐和委員 日銀総裁人事をめぐっては、マスコミは政府の人事案に反対した民主党の対応を一斉に批判した。しかし日銀と財務省出身者のたすき掛け人事という霞が関の悪い慣行を打ち破るため、民主党が財務省主計畑の人に「ノー」と言ったのはもっともだと思う。

 ―日銀総裁人事をめぐる共同通信の報道で要望は。

本会議に向かう河野議長

抗議する民主党議員らの中、普段とは違う経路で衆院本会議場に向かう河野議長(プラカードの手前)=4月30日、国会

 五十嵐委員 共同通信は白川方明氏が日銀総裁になった後に、頭が良くてエコノミストとしては優秀だが、大きな組織を率いる管理能力があるのかどうかを指摘し、批判的に書いた。しかし批判するのなら総裁になる前に「総裁としては駄目だ」という議論があっても良かった。

 梅野修政治部長 昨年11月に福田康夫首相と小沢一郎民主党代表の会談で大連立構想が表面化した。その経験により福田首相は日銀総裁人事と道路特定財源問題を長引かせてしまった。日銀人事については、福田首相が小沢代表とのパイプを過信しすぎた面もある。

 岩永陽一経済部長 日銀総裁は誰でも務まるものではなく候補者は意外に少ない。総裁ポストを務められる人材を育てることもあまりやっていない。適格者がいないとなると、財務省で経験を積んできた人が安心ということになりがちだ。民主党がなぜ反対したかは、もっと書いておけば良かったと反省している。

 ―道路特定財源をめぐる報道はどうか。

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 五十嵐委員 民主党は暫定税率を廃止しても地方の財源は手当てできると言っているが、本当に地方自治体が困らない対応策が実現可能かどうか教えてほしい。

 林委員 道路政策における官僚支配の弊害があぶり出せたのかと言えば、物足りない。道路特定財源の一般財源化について福田首相がコミットすることを表明したが、そのことが持つインパクトや、これを突破口に日本にどういう変化が起こり得るのかということについて、解説的な記事があっても良かった。

 佐和委員 道路に限らず特定財源を一般財源化する方向性は評価すべきだ。暫定税率が廃止されれば地方財政に負担になると報じられているが、具体的にどういう面で地方財政に影響が出て、地方に暮らす人々にどう不利益になるのかが、記事からはあまり見えてこない。具体的かつ数字に基づいた議論が新聞報道の中でなされていないからだ。

 ―衆院解散・総選挙に向けマスコミが世論喚起すべきだという声もあるが。

 林委員 そうした議論は当然必要だと思うが、他方で言論機関としての中立性とのバランスを考えなければならない。内閣支持率が今よりさらに下がった場合に、報道する側としても内閣が民意を反映していないという主張をどこかで出すべきだと思う。

【詳報2】地球環境

NGOの動き伝えて―林氏  制度設計論議を―佐和氏 財界動向に関心―五十嵐氏

 ―この1年間の共同通信の地球環境をめぐる報道について。

 林委員 環境問題は日本でも市民が関心を持ち、読者の知識が急速に増えている。もっとひとひねりした報道があってもよいのではないか。例えば、日本とスウェーデンを航空機で往復すると一人当たり二トン分の二酸化炭素(CO2)が出るので、その分をお金にして、中国で風力発電をしている団体に寄付するという報道。本当にその金は中国に行って、環境問題に貢献しているのか。誰かが追いかけてちゃんと見ないといけない。ジャーナリズムに切り込んでほしい分野だ。

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スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」で講演する福田首相=1月(共同)

 五十嵐委員 1月の世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」での福田康夫首相の提案がどういうバックグラウンドで出てきたのか。米大統領選での民主、共和党候補の環境問題に対する提案が詳しくはどういうものなのかも知りたい。産業界の考え方や環境省と経済産業省の対立が、昨年末のバリ会議での日本政府の評判の悪さや、日本の温暖化対策が先進国で最下位だという報道の原因になっていると思われる。企画記事にある、京都議定書の目標達成計画見直しについての新日鉄副社長の主張が正当なものなのか、削減目標値はどう作るべきなのか、産業界と専門家の両論併記ではなく、間を埋める情報をもっと提供してほしい。

 佐和委員 地球環境の通年連載記事は大変良くできている。今までの常識に照らして信じられない気候異変が起こるのが温暖化問題の本質。その結果として、食料不足や生物多様性の減少、水問題など、さまざまな悪影響が及ぶことをうまくシリーズでまとめている。

 ―北海道洞爺湖サミットやポスト京都など、今後の報道への期待は。

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 五十嵐委員 経済界の動向が一番知りたい。米国が変われば、日本だけ取り残されるという構造の中で、産業界がどう対応しようとしているのかが大変気になる。福田首相の地球温暖化問題に関する懇談会で、奥田碩内閣特別顧問をトップにすえたが、どういう力関係が作用するのかも精査してほしい。われわれの生活をどう変えるのかを示す報道も重要になる。そういう記事も増やしてほしい。

 林委員 地球温暖化を最初に取り上げたのは科学者だった。新しい提言や動きは政府よりも非政府組織(NGO)や民間から出てくる。そこをウオッチしてほしい。1992年の地球環境サミットは国連の全体会議の中でも歴史的なもので、NGOの参加枠がこの時を契機に広がった。単なる反政府ではなく、民間の科学者とか学識経験者が問題を指摘して行動を迫ってきたのがこの間の動き。今年はアフリカ開発会議もあるし、北海道洞爺湖サミットもある。日本政府にどういう提言をつきつけ、実行させていくのかおもしろくなってくる。報道にも期待したい。

 佐和委員 4月1日から京都議定書の第一約束期間が始まったが、削減目標の達成は不可能に等しい。とどのつまりロシアやウクライナに足元を見られ、高値で温室効果ガス排出枠を購入する羽目に陥りかねない。政府が何の対策も講じなかったため1兆円規模の税金を排出量購入に支払うのは、とんでもない無駄遣い。しかも、排出量取引は「補足的」と議定書に書かれているのだから国際的な批判を浴びる恐れもある。英国は気候安全保障法を成立させ、2050年に1990年比60%削減を自国に義務付けているし、米国でも2050年に05年比63%削減すること、そしてそれに至る道筋を示す法案が上院の環境・公共事業委員会を通過している。日本も英米に追随すべきだと思うのだが、こうした海外の動きについての報道が不足気味だ。加えて、国内排出量取引制度の導入は不可避なのだから、その制度設計についての議論を深めてほしい。

 田中太郎科学部長 この問題はこれまで科学部を中心にカバーしてきたが、今後は排出量取引や政策的な問題に関しても編集局の各部が協力して当たらなければならないと考えている。

京都議定書
 1992年に採択された国連の気候変動枠組み条約の議定書で、97年に京都市での会議で採択された。日本などの先進国の2008年から12年の温室効果ガスの平均排出量を90年比で少なくとも5%削減することを義務付けた。13年以降の規定はなく、新たな国際枠組み「ポスト京都」に向けた議論が活発になっている。07年末にインドネシア・バリ島で開かれた同条約の締約国会議では、米国や中国、インドも交渉に参加、09年末までに合意を目指すことが決まった。

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