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第33回会議(裁判員制度、サブプライムローン問題)

事件取材指針、具体的に  「報道と読者」委員会

 共同通信社は2月16日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第33回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が裁判員制度と米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題の報道について論議した。

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「報道と読者」委員会の第33回会議で議論する。左から五十嵐公利、佐和隆光、林陽子の各委員=16日、東京・東新橋の共同通信社

 裁判員制度をめぐり、弁護士の林陽子氏は日本新聞協会が事件報道の留意点をまとめた「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」について「容疑者の犯人視など問題があったのは事実で、もう少し具体的な対策を盛り込んでほしかった」と述べた。

 また弁護士取材の在り方について、日弁連との協議を提案する一方、最高裁の参事官が昨年9月のマスコミ各社の集会で報道への懸念を表明したことには「冤罪(えんざい)を生んできた裁判所から言われることに違和感を感じる」との見解を示した。

 ジャーナリストの五十嵐公利氏は「警察や捜査の問題点がどう議論されているのかが報道されていない」と指摘した。

 立命館大教授(計量経済学)の佐和隆光氏は「意見を率直に言わない日本人に制度は向いていない気がする」とし、共同通信の伊藤修一編集局長が「日本人気質と絡めた記事を考えたい」と答えた。

 サブプライム問題について、林氏は「構造的なことから分かりやすく解説する記事が欲しい」と注文。五十嵐氏も「政治や社会に与える影響なども取材し、広がりのある記事を書いてほしい」と語った。佐和氏は「楽観論もあるが、影響は読めない」などと問題の難しさを説明した。

裁判員制へ指針具体化を  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第33回会議が16日に開かれ、3人の委員が裁判員制度と米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題の報道をテーマに論議した。弁護士の林陽子氏は、裁判員に過度の先入観を与えないよう事件報道の指針具体化を求めた。佐和隆光氏はサブプライムローン問題の難しさを指摘し、ジャーナリストの五十嵐公利氏は「分かりやすく広がりのある記事を書いてほしい」と述べた。

【詳報1】裁判員制度

死刑問題深く追って―林氏  なぜ裁判員制度か―佐和氏 欠陥書くべきだ―五十嵐氏

 ―日本新聞協会は1月に事件報道の留意点をまとめた「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」を公表したが「公正な裁判」と「報道の自由」をどう調和させるかが課題となっている。

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林陽子氏

 林委員 (昨年9月のマスコミ各社の集会で、自白や生い立ちなどの報道に懸念を表明した)最高裁の参事官の発言にショックを受けた。裁判所が不当な逮捕、拘置をチェックできず冤罪(えんざい)を生んでいることへの反省もなく「裁判員に偏見を与える報道をするな」と上から言っている。裁判員法制定から時間があったのだから、マスコミ側で先手を打てなかったのか残念に思う。容疑者の犯人視報道など問題があったのは事実で、指針にはもう少し具体的な対策を入れてほしかった。今からでも遅くない。裁判員制度の報道は分かりやすくやっていると思う。

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五十嵐公利氏

 五十嵐委員 スウェーデンのパルメ元首相が殺された時の記事を記憶しているが、容疑者の名前は一切なかった。制度はその国の社会や文化などの背景を持っており、記事はその背景を説明しなければならない。制度論議の中で報道の自由と容疑者の人権との調整がつかなければ、人権という原点に返らざるを得ないと思う。

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佐和隆光氏

 佐和委員 連載記事を読んでも、なぜ今裁判員制度なのか、その政治的背景が読み取れないのは物足りなかった。自分の意見を率直に述べたり、違う意見に耳を傾けたり、感情抜きでディベートする習慣が乏しい日本には、裁判員制度は向いていないような気がする。

 ―裁判員制度は一般の人から見ると、いつの間にかできたという印象がある。

 五十嵐委員 法務省の友人たちに話を聞くと、彼らも唐突と思っている。土屋美明論説委員が書いた記事にもあるように、むしろ政府、裁判所など統治する側の都合で出てきたものではないか。

 ―共同通信の報道は制度の問題点を指摘する面ではどうか。

模擬裁判の裁判員ら

模擬選任手続きで選ばれ、裁判官(中央3人)とともに模擬裁判に臨む6人の裁判員ら=07年5月30日、東京地裁

 林委員 裁判員制度と死刑の問題を深く追ってほしい。「昨年の死刑判決46人」という記事が出ているが、国連総会で昨年、史上初めて死刑廃止が決議されたのは重要なこと。もっともっと書いてほしい。

 佐和委員 自然現象ですら虚心坦懐(たんかい)に観察するのは難しい。いわんや裁判においてやだ。裁判員になろうがなるまいが、マスコミなどを通じて事件の概要を知ったとき容疑者が犯人か否かについて予断を持つ。裁判員制度の導入により公正さが高まるとか、冤罪が防げるわけではない。裁判官は特殊な職業だから社会的経験の豊富な多様な人を裁判に参加させれば公正な裁判につながるというのは錯覚だと思う。

 ―報道でも裁判員制度の是非論をやるべきだという意見がある。

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 五十嵐委員 対談記事で小田中聡樹(おだなか・としき)・東北大名誉教授が述べているように、例えば裁判員が加わった裁判をスピードアップするため、公判前整理手続きが導入されたが、中身は非公開など非常に深刻な問題がある。また警察や捜査の問題点がどう議論されているのかがよく分からない。警察は取り調べの可視化(録音・録画)は絶対やらないと言っているようだが、捜査の問題についての報道が必要だ。

 林委員 私は裁判員制度の是非について定まった見解はない。ただ反対論者の記事のうち、西野喜一・元裁判官は「まじめに生きてきた人には縁がなかった犯罪に付き合わされる」と言っているが、同意できない。犯罪は教育や福祉、貧困などに起因することが多く、社会からの排除が犯罪を生む。まじめな人も含め、みんなで考えなければならない。

 佐和委員 スイスの経済学者が書いた「幸福の政治経済学」という本によると、幸福と豊かさは違う。例えばブータンは一人当たりの国内総生産(GDP)は低いが、幸せ度は極めて高い。GDPと幸福はほとんど関係ない。社会に参加し、受け入れられることが幸福の条件。裁判員制度は参加の機会を増やし日本人の幸福度を高めるとも言えるが、日本でそのような制度を導入しても参加意識につながるかどうか疑問だ。

 五十嵐委員 公正さを確保する上で有効に作用するのかが分からない。システムからすればマイナスではないか。欠陥があるなら厳しく書くべきだ。

 伊藤修一編集局長 来年春の実施に向け、新聞協会の報道指針に加えて裁判所などと取材ルールを詰め、それを十分に報道していく。裁判員制度と日本人の気質や文化などについても取り上げていきたい。

新聞協会の取材・報道指針
 日本新聞協会の「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」 事件報道には「社会の不安を解消したり危険情報を共有して再発防止策を探ったりする意義があり、捜査・裁判をチェックする使命がある」とあらためて確認。(1)被疑者の供述内容(2)被疑者の対人関係や成育歴などのプロフィル(3)識者のコメント・分析―の報道では、被疑者を犯人と決め付け、裁判員に過度の先入観を与えないよう十分注意するよう求めている。裁判員法の制定過程で、事件報道への法規制が一時検討された際、新聞協会は「報道の自由を尊重し、自主的な取り組みに委ねるべきだ」として指針策定を表明した。

【詳報2】サブプライムローン問題

構造分かる解説を―林氏  広い視点で―五十嵐氏 情報公開に問題―佐和氏

 ―米国のサブプライムローン問題をめぐる共同通信の報道について感想は。

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住宅市場の低迷が続く米コロラド州デンバーで売りに出された住宅=07年12月(AP=共同)

 林委員 どれだけ邦銀の損失が増えていくか追っていこうと思ったが、記事から経過が読み切れなかった。また構造的な問題が必ずしも十分に解説されていないのではないか。専門的な話でもあるだけに、構造問題にさかのぼった解説がもっとあって良かった。

 五十嵐委員 サブプライムという言葉が共同通信の記事に登場したのは2007年3月の記事が最初のようだが、米国では、ゴールドマン・サックスのように早くから事態を予測していた会社が現にあったわけで、情報のプロとしては、ベタ記事ほどの端緒からどこまで全体像を描けるか、力量が問われているのではないか。後から考えてどの段階で全体像が報道できたのか知りたい。

 佐和委員 世界恐慌に至らしめるほどの激震か、軽微な被害にとどまるのか、今のところ判断しかねる。夏ごろからの一連の記事を読んだが(当時明らかになった)日本の金融機関の被害は、現状と一けたぐらい違ってきている。企業の情報公開に問題があるのではないか。

 ―共同通信としての報道姿勢は。

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 岩永陽一経済部長 金融市場の混乱が起きるかもしれないという記事を、早い時期でまとめることは力量がないとできないが、そういう資質が必要だと痛感している。問題の全体像が分かりにくいという指摘は悩ましい。どうしても個別分野に焦点を当てた記事が多くなるが、いろいろな機会に分かりやすく説明する試みをしている。

 ―今後の報道で注意すべきポイントは。

 林委員 コメントを掲載するエコノミストの独立性はどう担保しているのか。情報の出所を明示しているから、共同通信の意見と読み違える読者はいないが、コメントする人を選ぶ責任は編集側にあるので、自分たちの立場をしっかり持って報道してほしい。

 五十嵐委員 経済にとどまらず、米国の政治や社会の考え方さえも変わってきているという記事には関心を持った。ほかの分野にどういう影響を及ぼすかといった広がりを持った記事を、もう少し出したら良いのではないか。

 佐和委員 サブプライムローンが日本のバブル崩壊と大きく違うのは、ローン債権を証券化してリスクを世界中にばらまいたことだ。米国の住宅価格がどの辺りで底入れするかが鍵。多くのエコノミストが今年後半にかけて持ち直すと言っているが、わたしは、マスコミが伝える以上に世界経済が深刻な打撃を受けると想定している。もっと深掘りした情勢分析を共同通信に望みたい。

サブプライム住宅ローン問題
 米国で、カードの延滞歴があるなど信用力が低い人向けの住宅ローンの焦げ付きが拡大した問題。ローン債権を組み込んだ金融商品の価格が下がり、シティグループなど欧米の金融機関を中心に巨額の損失が発生した。米景気の後退懸念が台頭し、東京株式市場をはじめ世界的に株価が下落するなど、金融市場の不安定化を招いた。

今年の報道に望む 委員の提言

 今年最初の会議に当たり、委員に1年間の報道について提言してもらった。

 佐和委員 昨年は「気候変動の年」だった。1997年の京都会議から10年。ゴア米元副大統領の「不都合な真実」という映画が好評を博した。今年7月の洞爺湖サミットでは、気候変動問題が優先度の高い議題として取り上げられるだろう。わが国では、日本経団連のトップが政府の経済財政諮問会議の委員を役目柄務めているように、経済団体の政治的影響力が甚大極まりない。政府が地球温暖化対策に乗り出そうとしても断固反対の姿勢を崩さない。温暖化問題でフェアな報道を望みたい。今年は原油と食糧価格の高騰を受けて世界経済が波乱の年になるものと予想される。その辺を的確かつ迅速に報道してほしい。

 五十嵐委員 NHKインサイダー問題の発端となった企業合併のニュースは新聞で言えばベタ記事の扱いだった。しかしベタでも見る人が見ればお金になる。一方多くの人はその意味が分からない。情報社会の中で解説記事の重要性がますます高まっている。ベタ記事の中から、どれだけ全体像を描けるかというのはプロとしての記者のあるべき姿で、それが仕事なのだと思う。今後もいろんなベタ記事が出るだろう。その中からどれだけ広げて読者にその意味を伝えるかが大事だ。

 林委員 国連に人権理事会が2006年発足し、国際人権(自由権)規約の10年ぶりの日本政府報告書審査もあり、今年は日本の人権状況が国連によって審査される。論点は(1)死刑制度(2)独立した国内人権機構の不存在(3)人身売買や戦中の従軍慰安婦など女性に対する暴力の解決努力―などで、洞爺湖サミットでは非政府組織(NGO)も海外から集まる。公式なプレスリリースだけでなく、そちらも取材してほしい。もう一つは食糧やエネルギーの問題を日本社会がどうしていくのかという問題を長期的な視野でとらえたい。共同通信ならではの特性を生かした報道を期待する。

事例報告

インサイダー対策を報告

 共同通信社は第33回会議で、NHKのインサイダー取引問題を受けて職員就業規則を改定することを報告した。

 竹田保孝常務理事が、現在も懲戒規定のある就業規則でインサイダー取引やインサイダー取引と疑われる行為を禁止しているほか、昨年制定した記者活動の指針で、取材上得た情報は自分や第三者が利益を得る目的で使わないことを規定していることを説明。

 改定は(1)取材で知り得た情報を基にして財産上の利益を得てはならない(2)勤務時間中の株式等金融商品取引禁止(3)株式について6カ月以内の短期売買の禁止―が柱で、3月1日実施。

 継続雇用職員やアルバイト、契約職員には短期株売買の自粛を要請するほか、電子編集システムや記事データベースへのアクセス権限について点検を進めるなど必要な措置を取ることなども報告した。

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