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第32回会議(政界の動き、スポーツ報道の在り方)

メディアは相互批判を  「報道と読者」委員会

 共同通信社は1日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第32回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が、新テロ対策特別措置法案の国会審議に絡む政界の動き、スポーツ報道の在り方などをめぐって議論した。

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「報道と読者」委員会で議論する(左から)五十嵐公利、佐和隆光、林陽子の各氏=1日、東京・東新橋の共同通信社

 福田康夫首相と小沢一郎民主党代表の党首会談で話し合われた両党間の大連立構想について、弁護士の林陽子(はやし・ようこ)氏は「仲介者とされる渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長の役割がほとんど触れられていない」と述べ、メディアが相互批判する必要性を指摘。立命館大教授の佐和隆光(さわ・たかみつ)氏は「政治が今後、どうなるかの展望を明快に出してほしい」と要望した。

 ジャーナリストの五十嵐公利(いがらし・きみとし)氏は、前防衛事務次官守屋武昌容疑者の汚職事件に関連し「防衛省を取り巻く利権、疑惑についての全体構図がはっきりしない」として、事件の全体像の解明に期待を示した。

 大相撲の横綱朝青龍問題や、ボクシング世界戦で悪質な反則行為を繰り返した亀田大毅選手ら「亀田ファミリー」に関する一連の報道で、林氏は「これだけ詳細に報道する必要があるのか」と疑問を呈したが、佐和氏は「新聞の中でスポーツ面は一番よく読まれているのではないか。今後もきちんとフォローしてもらいたい」と強調。

 五十嵐氏は「閉鎖的な相撲協会を外の社会へ開放していく方向での記事が必要」とメディアによる積極的提言を求めた。

政治展望を示せ  「報道と読者」委員会

 共同通信社は1日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第32回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が、新テロ対策特別措置法案の国会審議に絡む政界の動き、スポーツ報道の在り方などをめぐって議論した。

 福田康夫首相と小沢一郎民主党代表の党首会談で話し合われた両党間の大連立構想について、弁護士の林陽子(はやし・ようこ)氏は「仲介者とされる渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長の役割がほとんど触れられていない」と述べ、メディアが相互批判する必要性を指摘。立命館大教授の佐和隆光(さわ・たかみつ)氏は「政治が今後、どうなるかの展望を明快に出してほしい」と要望した。

 ジャーナリストの五十嵐公利(いがらし・きみとし)氏は、前防衛事務次官守屋武昌容疑者の汚職事件に関連し「防衛省を取り巻く利権、疑惑についての全体構図がはっきりしない」として、事件の全体像の解明に期待を示した。

 大相撲の横綱朝青龍問題や、ボクシング世界戦で悪質な反則行為を繰り返した亀田大毅選手ら「亀田ファミリー」に関する一連の報道で、林氏は「これだけ詳細に報道する必要があるのか」と疑問を呈したが、佐和氏は「新聞の中でスポーツ面は一番よく読まれているのではないか。今後もきちんとフォローしてもらいたい」と強調。

 五十嵐氏は「閉鎖的な相撲協会を外の社会へ開放していく方向での記事が必要」とメディアによる積極的提言を求めた。

【詳報1】対テロ新法案と政局

相互批判も大事―林氏  連立の背景分析を―佐和氏  疑惑全体構図を―五十嵐氏

 ―新テロ対策特別措置法案の国会審議をめぐる政治の動きが激しい。海上自衛隊が提供した燃料のイラク戦争転用疑惑、大連立構想、小沢一郎民主党代表の辞任騒動など、一連の共同通信の報道をど見るか。

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林陽子氏

 林委員 大連立構想で、仲介者とされる渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長の役割についてほとんど触れられていない。この問題はジャーナリズムの公正さの核心にかかわり、マスメディアの自殺行為との危機感を持つべきである。メディアが相互に批判し合うことも大事だ。辞意表明の記者会見で自らの組織を批判した小沢氏のリーダーとしての資質をどう考えるかの切り込みも足りない。給油量訂正問題の発端は特定非営利活動法人(NPO法人)の調査だが、どんな団体かなどについて知らせることも役割だ。

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佐和隆光氏

 佐和委員 自民、民主の二大政党制が定着しつつあり、両党の対立軸がおぼろげながら見えてきた中で大連立構想が出てきたのは理解に苦しむ。背景をきちんと分析するとともに、政治の今後の展望を明快に示してほしい。次から次へと政党を作り、そして壊してきた小沢氏という政治家が、どういう主義主張のもとに、どんな理想を描いているかを、もっと深く掘り下げてもらいたかった。

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五十嵐公利氏

 五十嵐委員 防衛省を取り巻く利権、疑惑についての全体構図がはっきりしない。前防衛事務次官の守屋武昌容疑者に話が集中しているが、それだけではないだろう。また大連立構想に関して共同通信の論説資料はけしからんと一方的に断罪しているが、渡辺氏、福田康夫首相、小沢氏それぞれに言い分はあるだろう。けしからんと思っていても、本当にそれが選択肢としてあり得ないのかを違う立場から考えてもよいのではないか。

 梅野修政治部長 対テロ新法案は臨時国会の最大の政策テーマ。中身と問題点を指摘し、国会での与野党論戦の中で互いの主張を注意深く取り上げた。大連立は政局の大きなうねりで出てきた政治的動きだ。双方の動きを追い、福田首相や小沢氏の考え方、どういう大義名分でこの話を進めるのか、今回なぜ結実しなかったのか、辞任問題の背景も含めて説明したつもりだ。今後も検証を続ける。

福田首相と小沢代表

党首会談に臨む民主党の小沢代表(左)と福田首相=11月2日、国会

 伊藤修一編集局長 (大連立構想の仲介は)個人的にはメディアの行為として正当か疑問だ。メディアのトップが政治にかかわる行為が歴史的にないわけではないが、今回は(そうした行為が)自社の新聞の論調を決めていくことに問題がある。

 ―党首会談とその後の動きは分かりやすく伝わったか。

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 佐和委員 自由、透明、公正な市場をつくる市場主義改革と、排除される者のいないポジティブな福祉社会をつくる「第三の道」改革を同時に進めることが必要で、民主党にはそれができると期待していた。だが今回の大連立構想をめぐる経緯を新聞報道で見ていると、民主党の政治的スタンスがよく分からなくなった。署名記事でない一般の記事ではそこまでは踏み込めないのだろうが。

 林委員 大連立の大きな動機として、両党首の念頭には何とか対テロ新法案を成立させたいということがあったのだろう。拉致問題や地球温暖化対策などで日本独自の要求を出さずに、単に給油を続ける対テロ新法案を通すため大連立をするというのは理念のない政治になる。「多極化する世界の中での日米関係」というとらえ方からすると、一連の報道は物足りなかった。

 五十嵐委員 党首会談は初めから大連立ありきで、どういう社会を目指していくのかや、これからの針路についての話をしていたのだと思う。日本の安全保障、社会保障などについての路線の違いを何とかしようという大きな議論が核心だったのだろうが、そういう点が報道にはなかった。

 ―防衛商社「山田洋行」の事件は、守屋容疑者と妻が逮捕され、捜査が本格化した。

 五十嵐委員 事件の全体構図が気になっている。守屋容疑者対久間章生元防衛相の対立の構図も指摘されており、政界に捜査が伸びるのか関心を持っている。

 牧野和宏社会部長 防衛装備品の調達をめぐっては、随意契約が多い点などまだ謎が多い。徹底的な解明が期待される。

 林委員 小池百合子元防衛相と守屋容疑者が後任次官人事でもめているときに、一部雑誌はすでに山田洋行の疑惑を報じていたが、新聞は書いていない。疑問だ。

 牧野部長 報道に当たっては実際に起きていることと何が問題かを慎重に見極める必要がある。

大連立構想をめぐる動き
 福田康夫首相は11月2日、民主党の小沢一郎代表と会談し、連立政権樹立に向けた協議を提案した。小沢氏は党に持ち帰ったが、党役員会は「国民の理解を得られない」と拒否する方針を決定。小沢氏は同4日の記者会見で党役員から「不信任」を受けたとして辞任の意向を示したが、党幹部の説得に応じて撤回、同7日の両院議員懇談会で正式に続投を表明した。小沢氏は党首会談で安全保障政策に関する合意内容を文書にまとめたと発言したが、首相は否定するなど会談の全容は明らかになっていない。

【詳報2】スポーツ界の不祥事

改革への提言を―五十嵐氏  詳細な報道必要か―林氏  あるべき姿示せ―佐和氏

 ―朝青龍騒動など大相撲の不祥事をめぐる報道の感想は。

 五十嵐委員 相撲協会はたこつぼ社会で、外の世界に対し閉鎖的で改革が必要と言われる。まして外国人力士がこれだけ増えているのだから、内外の価値観にそぐわないものはなくしていくべきだ。そういう観点から開かれた相撲協会に向けて何を残し何を改めるといった具体的な提言も積極的に行っていくべきではないか。

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モンゴルから再来日し、記者会見で頭を下げる横綱朝青龍と高砂親方(右)=11月30日、東京・両国国技館

 佐和委員 相撲人気は往年に比べて、かなり低下している。そこに弱り目にたたり目のごとく、二つの問題が相次いだ。相撲協会の統治能力の貧弱さを感じた。非常に特殊で閉じられた世界であることが、時津風部屋の(力士死亡)問題も含めて世間の人が納得できる決着をつけられない理由ではないか。

 林委員 アンチスポーツ派からの意見としては、公益性と公共性があって初めてメディアとして報道の価値があると思う。大相撲に多くの人が関心を持ち、読者には横綱の振る舞いを知る権利があるのは分かるが、ここまで大きなスペースを取って細かく報じる必要があるのか。朝青龍の病名をそのまま報道していたが、病名はプライバシーではないのかと違和感を感じた。

 ―共同通信の姿勢は。

 小沢剛運動部長 世間的な注目を集めた事象であり、報道する価値があると判断し、取材出稿した。運動面を離れて社会的な出来事になる中、できるだけ冷静に今起きていることを伝えようとした。

 牧野和宏社会部長 病名はプライバシーの一種で一般的には報道は抑制的であるべきだ。ただ、今回は病名公表が一つの社会現象で、病名が本当なのかも含め検証課題となっており、やはり報道すべきだと考える。

 ―ボクシングの亀田問題はショー的要素も強く、抑えた報道を心掛けた。

 佐和委員 ボクシングの人気が低迷し、テレビ局が視聴率を稼ごうとする中で、これまでも大なり小なりボクシング界でまかり通っていた不公正が、今回極端なところまで行ったのだと思う。共同の記事は量的には多かったという印象だ。ボクシングのコミッショナーはどういう人がやっていて、今回の処分が正当だったかどうかを知りたかった。

 林委員 世間が注目するから報道しているのではなく、報道するから世間の注目が集まっている。(ボクシングの)知識や情報がない読者は、セコンドに肉親を付けることがなぜ問題なのかなど、記事を読んでも分からなかった。もう少し説明してほしい。

 五十嵐委員 今回の問題は三分の二くらいはテレビの責任。興行や視聴率獲得のために彼らを利用した。悪役を担っていたが、悪役にしては味がなく、使われた彼らもかわいそうだ。

 ―エンターテインメント化が進む中で、今後のスポーツ報道の在り方は。

 佐和委員 新聞の中でスポーツ面は一番多くの人に読まれている紙面だと思う。今スポーツ界で起きている問題が、日本のプロスポーツの矛盾を一気に露呈させたのではないだろうか。相撲協会やボクシング協会はどうあるべきかをぜひ、提言してほしい。

 五十嵐委員 スポーツ選手が社会との摩擦を起こし、記事に取り上げられることが多い。例えば大相撲でドーピング検査を導入するかなどにも目を光らせてほしい。

 林委員 スポーツは小学生、中学生など選手のすそ野が広い。日本人全体にとってのスポーツの環境、インフラについての報道がもっとあってもいい。そういうことも日本全体のスポーツレベルを上げるために重要だ。

日本相撲協会
 日本相撲協会 国技である相撲の研究や指導・普及などを目的に1925年に設立された財団法人で文部科学省が管轄する。年寄(親方)、力士、行司らで構成され、理事(定員10人)と監事(同3人)の役員は年寄に限られ、任期は2年。理事長は理事によって互選され、現理事長は元横綱北の湖。部屋数は現在53で出羽海、二所ノ関、時津風、高砂、立浪の五つの一門がある。各部屋には力士養成費、部屋維持費などが支給される。横綱審議委員会は協会の諮問機関。

事例報告

配信記事めぐる判決を報告

 共同通信は第32回会議で、心臓手術を受けた少女が死亡した事故をめぐり、共同通信配信の記事を掲載した新聞社3社だけに東京地裁が九月、賠償命令を出した裁判について報告した。

 2001年に東京女子医大病院で起きた事故で、一審無罪となった担当医が名誉を傷つけられたとして共同通信と掲載した3社を訴えていた。

 判決は記事の主要部分について真実でなかったと判断。共同通信について「警視庁の発表などに基づいて記事を書いており、事実関係を誤信したのは相当な理由があった」として賠償責任を否定したが、掲載した新聞社については「通信社から配信を受けたことだけを理由に真実と信じたことが相当とは言えない」とした。

 被告の3社のほか、共同通信については原告側が控訴。共同通信は控訴審でも「責任は配信した共同通信にあり、掲載した新聞社は共同通信の抗弁を援用できる」などと主張していく。

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