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第31回会議(参院選と政局、原発の耐震性)

自民惨敗の検証を 「報道と読者」委員会

 共同通信社は10月6日、外部識者による第3者機関「報道と読者」委員会の第31回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「参院選と政局」と「原発の耐震性」をテーマに議論した。

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「報道と読者」委員会で論議する(左から)五十嵐公利、佐和隆光、林陽子の各氏=6日午後、東京・東新橋の共同通信社

 立命館大教授の佐和隆光氏は参院選について「小泉改革がもたらした一番の問題は地域間格差だ。その不満が今回の選挙結果を生んだ」と指摘、自民党が惨敗した理由をさらに掘り下げて検証するよう要望した。

 ジャーナリストの五十嵐公利氏は、安倍晋三前首相の退陣表明、福田康夫首相就任までの動きについて「いろいろなことがあり過ぎ、全体像が見えにくい。歴史的なことも含めて安倍政治、小泉政治を位置付けていくと読む方は分かりやすい」と指摘。弁護士の林陽子氏は「記者座談会などの記事で安倍氏が政権を投げ出すと予測していた。こうした記者の意見交換や調査報道に力を入れてほしい」と述べた。

 新潟県中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発が被災した問題について五十嵐氏は、耐震設計に関する記事を取り上げ「(設計が)なぜ甘くなったかが分からない」と注文。佐和氏は「原発の今後を考えると事故の影響は深刻だ」と指摘し、環境問題と原子力を関連づけた報道の展開を求めた。林氏は原発誘致に伴う交付金給付との関係に触れ「住民の感情は複雑だ。地元の実態をもっと報道してほしい」と述べた。

【詳報1】 政治の歴史的位置付けを 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第31回会議が10月6日開かれ、7月に新たに委嘱された第四期委員三人が「参院選と政局」と「原発の耐震性」をテーマに議論した。

 参院選とその後の福田康夫首相誕生までについて、立命館大教授の佐和隆光氏は「小泉改革がもたらした地域間格差への不満が今回の選挙結果を生んだ」と指摘。ジャーナリストの五十嵐公利氏は小泉政権、安倍政権を歴史的に位置付けた報道が必要と述べた。

 新潟県中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発が被災した問題に関し、弁護士の林陽子氏は住民感情も含め地元の実態をもっと報道してほしいと要望した。

地域格差が敗因―佐和氏 見えない全体像―五十嵐氏  権力者の追及を―林氏

 ―参院選での自民党大敗から安倍晋三首相辞任、福田政権まで一連の報道の感想は。

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五十嵐公利氏

 五十嵐委員 いろいろなことがあり過ぎ、全体像が見えにくいのが一番の印象だ。一連の流れを大きな枠組みの中でどう理解するのか、歴史的なことも含めて安倍政治、小泉政治を位置付けていくと読む方は分かりやすい。

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佐和隆光氏

 佐和委員 格差という言葉が頻繁に記事に登場している。これまで経済学者は格差を個人間の所得格差として議論してきたが、一連の配信記事は、圧倒的に保守が強かった地域で与野党が逆転した一因は、地域間格差にあると分析している。確かに小泉改革がもたらした最大の問題は地域間格差だ。また義務教育の国庫負担の廃止は「軽減」で食い止められたが、その結果、質のいい教育を受ける権利を奪われる子供たちの住む地域が出てくる。こうした不満が今回の選挙結果を生んだ。

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林陽子氏

 林委員 毎日の出来事を追うのに精いっぱいだったが、報道を振り返ると記者座談会などの記事で安倍さんは政権を投げ出すと予測していた。こうした記者の意見交換や調査報道に力を入れてほしい。今は格差を通り越して貧困という言葉が使われるようになり「おにぎりを腹いっぱい食べたい」などと書いた日記を残して男性が孤独死する事態も起きている。一方でグローバリゼーションが進行し、日本人が生き残るには付加価値の高い労働をするしかない。世界競争の中で生活を維持するにはどうしたらいいかという長期的でグローバルな報道に期待する。

 ―選挙など一連の報道の狙いは。

安倍首相と中川幹事長

開票結果を待つ安倍首相と自民党の中川幹事長=7月29日、東京・永田町の自民党本部(安倍晋三、中川秀直)

 梅野修共同通信政治部長 統一地方選と参院補選、参院選の三つの選挙を持続的にとらえながら、迅速的確な当確判定と多角的でコクのある報道という二本柱で紙面展開した。選挙の後も非常に激動する流れだったが、2年前の郵政選挙の時のような劇場型、二元論で集約させる報道にはならないよう心掛けた。パフォーマンスだけを特化して取り上げることはできるだけ避け、幅広く主張を取り上げるようにした。

 ―安倍首相が政権を投げ出した背景などを伝えることができたか。

五十嵐委員 ものすごく消化不良が残る。選挙直後に続投を決断した理由や背景が何かについても、いまもって分からない。そのほかにも、例えば森喜朗元首相と青木幹雄前自民党参院議員会長、中川秀直元幹事長の三者会談とはいったい何だったのか。

 佐和委員 選挙であれだけ完敗すれば安倍さんだって辞めたかっただろうけれども、自民党の人材不足のせいで、この人ならば誰も文句を言わないという人がおらず、辞められなかったのではないか。

 林委員 政権を投げ出したこと以前に、続投を決断した理由がいまひとつ分からない。非常に古い体質を持つ自民党の中での合意形成のプロセスを理解している人は少ないので、プロの目で解析して読者に提示してほしい。今では首相辞任は健康問題が理由だということで落ち着きつつあり「健康を理由に辞めるのはよくないと思ったので当時は言わなかった」との弁解になっている。しかし、それは知恵者があとから付けた理由で、本当は違うんじゃないかと疑っている人は多いと思う。辞めたからそれでいいやと済ませるのでなく、権力者に対してメディアは徹底的に追及してほしい。

 五十嵐委員 福田内閣誕生に向け事態が進行していた実態から、報道は半日から1日遅れていたのではないか。(安倍首相退陣表明の翌日の朝刊は)一社を除いて麻生さんを軸だとしていた。福田さんが安倍さんの辞任表明会見直後から意欲を持っていたことが分かっていれば、異なった構図が見えたのではないか。 

 ― 参院選の情勢報道、政策課題報道について。

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 林委員 自民党大敗は予想しており、見当が大きく外れることはなかった。自分の問題意識に関して言うと、少子高齢化の大きな原因となっている女性の社会・政治参加の遅れなど、日本社会にある男性優位主義のようなものをえぐる記事が欲しかった。今回は女性議員が多く当選した。新しい議員の中から日本の新たな政治の方向を探るような記事がもっとあればよかった。

 佐和委員 公共事業がなくても地方の人たちが幸せに暮らせる社会を作るにはどうすればいいか、マスコミや学者から提案が出てこないのが問題だ。地方経済を活性化する手段を考えてほしい。わたしが安倍政権で唯一評価しているのは環境問題で「2050年までに温室効果ガス半減」という具体的政策を打ち出したことだ。郵政民営化についても、宅配業者、銀行の被害者意識などを取材すると面白いのではないか。

 五十嵐委員 地方を歩いたり立会演説会を見たりして肌で感じるものを確かめるのが世論調査だろう。現場で、肌で感じたことの記事が読みたい。例えば一人区を回った小沢一郎民主党代表の現場はどうなのかを知りたい。自民党の集票能力が減っているというが、今回の全国の得票と集票能力の関係をどう検証するのか。政策では、年金、農家の所得補償の是非、財源の問題などについて党首討論も行われたが、言いっ放しに終わった議論の先を掘り下げた判断材料を提供してほしかった。

2007年参院選
 年金記録不備、「政治とカネ」問題や相次いだ閣僚の失言などで安倍晋三首相の対応が問われた。7月29日投開票の結果、自民党は改選議席64を37に激減させ、宇野宗佑首相が退陣した1989年参院選(36議席)に次ぐ歴史的惨敗を喫した。民主党は32の改選議席を過去最高の60と大幅に伸ばし、参院で初めて第一党になった。この結果、参院で自民、公明の与党は過半数を割り、与野党が逆転。安倍首相は続投を表明したが、1カ月あまりたった9月12日、政権の行き詰まりと健康問題で退陣を表明した。

【詳報2】 なぜ甘い想定―五十嵐氏 疑念を持って―林氏  影響は深刻―佐和氏

 ―新潟県中越沖地震では原発の安全性がクローズアップされた。

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公開された新潟県の柏崎刈羽原発6号機の使用済み核燃料貯蔵プール(右)のそばで放射性物質などをぬぐい取る作業員=7月25日

 佐和委員 電力自由化が進む中、原発の新規立地はますます採算が合わなくなっている。日本の原子力発電の未来は極めて暗い。石油の枯渇が予想される数十年後に原子力に頼らざるを得ないのだとすれば、原発の建設が長年止まり続けると、原子力関係の学科に進む学生も少なくなり10年、20年先には原子力技術者はいなくなる可能性がある。どう技術を維持するかが問題だ。今回の事態で、原子力工学を志望する学生はさらに減ると思う。原子力発電の今後にとって今回の地震の影響は極めて深刻だ。

 五十嵐委員 一連の記事を読んで、まず耐震設計の想定がなぜ甘くなったのかがよく分からなかった。地震学や地質学の新しい視点がなぜ安全対策に反映されないのか。その構造的な理由も分からない。さらに、何十年も原発の必要性や安全性をめぐり同じような議論をしてきたにもかかわらず、なぜ社会的合意の形成が進まないのかという疑問も残った。

 林委員 飛び散った放射性物質をぬぐう作業員の写真があったが、おそらく東京電力の正社員ではない。下請け、孫請けの労働者だと想像する。こういう人にインタビューしてほしかった。住民の半数が原発の再稼働もやむなしとした、とのアンケート記事でも、どのくらいのお金が地元に落ちているのか、具体的な情報が欲しい。巨額のお金にがんじがらめになっている地元の実態について、もっと報道を。また、原発が作れるなら原子爆弾も作れる。権力者はエネルギー問題だけで原発を推進しているわけではない、との疑念を持って臨んでほしい。

 田中太郎科学部長 想定を大きく超える揺れに見舞われ被害が出たということは、全国各地の原発にも波及する大きな問題。柏崎刈羽原発の被害の全容解明だけでもまだ長い時間が必要で、報道は始まったばかり。今後の記事の中でご指摘を生かしたい。

 牧野和宏社会部長 下請け作業員の声は、地震一カ月のまとめ記事でも取り上げた。このほかにもエネルギー政策や核防護、地方経済への影響などのさまざまな問題について、現場を踏まえながら記事にしていきたい。

中越沖地震と原発被害
 7月16日に起きた新潟県中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽原発は想定を大幅に上回る揺れを観測、耐震基準の在り方に課題を残した。揺れにより、停止中の原子炉3基を除く4基が自動停止。屋外の変圧器で火災が発生し、化学消防車の未配備などで鎮火が遅れた。また水漏れや換気装置の誤操作で、極めて微量の放射性物質が海や大気に放出された。その後の点検で大型クレーンの損傷や建物のひび、配管損傷による大量の浸水などが相次いで見つかった。

【詳報3】 メディアに望むこと 3委員の提言

 「報道と読者」委員会の三委員にメディアに望むことを聞いた。

環境報道に注目

 佐和委員 経済学者として私は気候変動問題に関心がある。福田首相も世界の温室効果ガス排出半減という安倍イニシアチブを継承するとのこと。来年の洞爺湖サミットへ向けて、気候変動問題を掘り下げてほしい。もう一つの私の関心事は教育だ。初等中等から高等に至るまで、教育問題の本質に迫る報道を期待したい。

資質問われる

 五十嵐委員 既存メディアの役割は過剰な情報を選択、判断し、意味づけをして読者に提供することだ。しかし最近は緊急のニュースでも学者の評論の方が議論の枠組みがはっきりしていて読者には分かりやすい。ジャーナリスト一人一人の資質がますます問われているのではないか。

読者を味方に

 林委員 メディア規制が広がりつつあることに市民、法律家として危機感を感じている。メディアが置かれた状況は楽観できる情勢になく、それを乗り越えていくには、読者、市民社会を味方に付ける以外に方法はない。

【詳報4】 日朝非公式協議誤報を報告

 日朝非公式協議誤報を報告

 共同通信は第31回会議で、8月26日に日朝の国交正常化担当大使が日朝作業部会の日程などについて非公式協議を行ったとした記事で事実関係に誤りがあり、翌日記事を取り消したケースについて報告した。

 この事例は両国の担当者が中国の瀋陽で接触したとの情報を受け、中国総局の記者が瀋陽と大連のホテルに次々と電話をかけ関係者を捜した。日本の担当大使と姓・名とも同じ読み方の人物を捜し当てて電話取材、そのやりとりを基に記事を執筆したが、翌日になって日本の外務省から記事が誤りであると指摘があった。記者がこの人物と直接会って確認した結果、大使とは関係のない別人と判明した。共同通信は記事取り消しのほか、誤報の経緯を説明する記事も配信した。

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