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第30回会議(年金、メディア報道)

年金制度の再構築議論を ミスの構図えぐり出せ

 共同通信社は6月30日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第30回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「年金」と「メディア報道」をテーマに議論した。

 前広島市長の平岡敬氏は、年金問題について「少子化の中でどういう年金制度を再構築したらいいか、報道でも国会でも論議されていない」と批判。さらに「社会保険庁解体で問題解決できるわけではないことを、指摘すべきだ」と述べた。

 弁護士の梓澤和幸氏は、記録不備による被害について「救済が政権の任務。それをやらずに(国会で)強行採決する先にどういう社会があるか、メディアの批判精神が必要だ」と指摘。同志社大教授の浜矩子氏は「社保庁が大規模なミスを起こすからくりをえぐり出してほしかった」とし、年金問題が浮上した経緯を整理した報道も求めた。

 メディア報道では、梓澤氏が戦争をめぐる報道について「情報源として権力や軍があり、反戦という課題との両立が問われている」と強調。平岡氏は、総務省が放送法改正で放送局への権限を強化しようとしていることに「新聞も自分たちへの介入ととらえ、援護射撃すべきだ」と述べた。

 浜氏は、ブログなどのネット情報が増え、新聞の読者離れにつながっているとされることに関連して「情報の評価のしかたを知りたい」と、ネット情報の信ぴょう性を積極的に分析するよう求めた。

【詳報1】 ずさんな年金運営分析を  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第3者機関「報道と読者」委員会の第30回会議が6月30日開かれ、3人の委員が「年金」と「メディア報道」をテーマに論議した。

 年金問題では前広島市長の平岡敬氏が「ずさんな運営がなぜ起きたか分析し、再発を防ぐにはどうしたらいいか指摘を」と求めた。

 メディア報道では弁護士の梓澤和幸氏が「戦争に民衆を巻き込まないためにどんな役割を果たせるかが今日のメディアの最大の問題だ」と指摘。同志社大教授の浜矩子氏は「マニュアルで記事が書かれていないか。ほとばしる言葉で書かれた記事を」と述べた。

 現委員による会議は今回が最後で、次回から新委員による会議になる。

国民への警鐘を―梓澤氏  年金制度論議を―平岡氏 報道も急場しのぎ―浜氏

 ―年金記録問題について報道の検証と提案を。

街頭でチラシを配る長官

年金記録不備問題を受け、都内で謝罪のチラシを配る社会保険庁の村瀬清司長官(左)=6月8日

 浜委員 なぜこうなったのか、社会保険庁は、どういう役所でどんな顔触れでどういう仕組みだからこういうミスが出てくるのか、踏み込んだ情報が欲しかった。安倍内閣の支持率低下は、この問題への対応のまずさが人々をあぜんとさせたから。もう少し踏み込めば、現政権がいかに責任逃れで不誠実かがはっきり出たのではないか。この問題が急速に焦点化した経緯も整理されるとよかった。

 梓澤委員 国鉄民営化、郵政民営化、その流れの中の社保庁解体だ。民営化路線を強行したその先にどういう社会があるのかというメディアの批判精神、評論が必要だ。そして、被害救済については、立証責任の軽減や救済システム、相談員の増加など国が取るべき救済方法をもっと提言してもらいたい。参院選の結果がどうであろうと被害は残る。被害救済を最後まで見届けられるか、メディアが問われる。

 平岡委員 少子化の中で年金制度をどう再構築するかという観点が、報道だけでなく国会での論議にもない。政治の場では現場たたきと責任逃れの話ばかり。年金制度は参院選のあるなしにかかわらず議論をしなければならない。社保庁を解体すれば、信頼できる年金制度が維持できるのか、社保庁解体で解決できるわけではないと指摘すべきだ。論議にもっと時間をかけるべきなのに、与野党とも選挙戦略としてとらえており、それに沿って報道され解説される。ずさんな運営がなぜ起こり、再発を防ぐにはどうすればいいかをメディアとして分析し指摘しなければならない。そして解体後のこともがんがん言っておかないと手遅れになる感じがする。

 ―急速に焦点化した経緯は。

 宮城孝治社会保障室長 国会でも二月ごろには五千万件という数字が出ていたがこうなるとまでは見通せなかった。民主党が宙に浮いた五千万件などとアピールした戦略がうまくいった上(実際に)被害者が出てきた。

 浜委員 焦点化した過程は早く書いてもらえると全体構図が見えてくる。急場しのぎ感はよく報道されたと思うが、やや意地悪な言い方をすれば、政府の対応が急場しのぎだったように報道も急場しのぎがあった感じがする。問題の一つ一つにもう少し食らい付くと一段とよかった。社保庁のコンピューターシステムはどうなっていたのか、照合は一年でできるのかなど。さらにどさくさに紛れて社会保障番号が導入の方向になっている問題についてもう少し書いていい。社保庁が解体したときに何が起きるかという展望をもう少しやってほしい。

 平岡委員 社会保障番号は気を付けた方がいい。住基ネットでもいろいろな問題が起きた。国による住民管理の危険性を指摘しなければいけない。米国や欧州など海外の先進国の年金制度も知りたい。特例法案は、救済ではなく弁済、返済だ。政府が「救済だ」と言うと「救ってやる」という感じ。読んでいて引っ掛かる。

 梓澤委員 社保庁"民営化"は独立採算制の導入だ。独立採算が回らないと年金を減らす時代がやってくる。民営化はそれに向けた布石ではないか。将来、国民にとってもっと恐ろしいことがやってくるという警鐘乱打が足りないかもしれない。その辺の取材は。

 宮城室長 日本の社会保障の中で唯一国が全システムを持っている年金制度を、国はどうしても離したくない。社保庁を解体しても、最終的にはこれだけは国の管理を維持していくと思う。しかし給付と負担のバランスが悪くなると、財政崩壊して制度自体が続いていかないというのが今の年金制度の唯一で根本的な問題だ。

年金記録不備問題
 国民年金や厚生年金の加入記録について、誰のものか特定できない記録が約5000万件あることが発覚。さらに約1430万件の未入力記録があることも表面化した。社会保険庁は転職や結婚のたびに付与してきた年金番号を、1997年からひとつの基礎年金番号に統合する作業を進めてきたが、事務作業上の不手際などが原因とされる。政府は保険料の給付の可否を判断する第三者委員会と、原因や責任の所在を解明する検証委員会を設置、対応を進めている。

【詳報2】 戦争止める役割を―梓澤氏  盗用もテーマに―平岡氏 ほとばしる言葉期待―浜氏

 ―メディアを取り上げた一連の記事について読んでいただいた。

 伊藤修一編集局次長 メディア不信、インターネット時代の到来、メディア規制の動き、という三つの問題意識を背景に「メディア2007」などのワッペンを付けて昨年秋にスタートした。

 梓澤委員 今日のメディアの最大の問題は、9・11やイラク戦争を経て、戦争に民衆を巻き込まないためにいかなる役割を果たせるのかということだろう。官僚とか軍とか権力を情報源としていても、反戦と両立できるはずだ。そうしたしたたかな研究と方法がメディアに問われているのではないか。放送法改正も大きな問題なのに、あまりにもペン(新聞)が弱い。

 平岡委員 その通りだ。戦後の新聞は戦争中の報道の反省からスタートしたが、いま過ちを繰り返しているような感じがする。権力との距離の取り方が一番問題だが、よほどしっかりしていないと取り込まれてしまう。(放送への)介入に対しては、新聞が援護射撃をしなければいけない。社説などの盗用問題も取り上げるべきだ。そうしないとメディア不信は解決できない。盗用は効率主義、利益第一主義という経営の中で起こった問題。記者か社員か、というせめぎ合いの中で記者も苦しんでいる。海外メディアの紹介はぜひ続けてほしい。

 浜委員 「メディア2007」の視点は非常にいいが、内容にもどかしさを感じる。まだ事情紹介の域にとどまっており、プロの切り方が欲しい。面白かったのは首相番記者の座談会。(記者の)本音が出ていると同時に、(一方で)本音がいかに出ないものかと...。テレビで首相と番記者のやりとりを見るが、記者がおとなしい。やはり(首相が)やっつけられているところが見たい。

 梓澤委員 実名か匿名かでも、もう少し深く問題を立てる必要がある。市民が解体され砂のようにバラバラになる中で情報が行き交うことへの反発がある。そこから来ているメディア不信もある。「これでいいんですか」とメディア側から問い掛けることがあってもいい。実名報道にどんな公共的な意味があるかをメディアがもっと伝えるべきだ。

 ―委員の提言を現場デスクとしてどう受け止めるか。

 佐々木央編集委員 自分たちのことを書くことは一つの冒険であり、難しい。結果だけを読者に伝えるのではなく、記者も一緒に悩んだ過程を開示していくことが情報の信頼性を高めるし、メディアと読者をつなぐと信じる。首相番座談会では一線の若い記者が悩んでいる姿が出せた。

 浜委員 取り上げてほしいテーマがある。分かりやすい言葉の怖さというか、独自の言葉を失いつつあるメディアの問題だ。ほとばしる言葉を期待したいが、マニュアルで記事が書かれていないか。また「なぜ若い記者がうつになるのか」「読者対応の事例」「ネット情報の評価の仕方」といったテーマも期待したい。

 平岡委員 裁判員制度が始まると、犯罪記事の書き方を考えないといけないのではないか。情に走った報道をコントロールしないと。

 梓澤委員 こいつが犯人だという風な社会的な雰囲気の中で裁判が始まるということをメディアはどう変えていくか、ということが問われていると思う。

 牧野和宏社会部長 「報道の自由」「知る権利」と「公正な裁判」の調和が重要だ。どういう記事の書き方をするか、考えていかなくてはならない。

メディア不信
 不祥事や人権・プライバシー意識の高まりなどを受けて、マスメディアに対する読者の不信の広がりが指摘されている。メディアは権力に切り込んでいるか。タブーは存在しないか。読者の信頼を獲得し、ジャーナリズムを民主主義社会の基盤としてしっかりと位置付けるために、メディアが自らの仕事や課題を検証、記事化する試みが重要になっている。

【詳報3】 任期を終えて  3委員の提言

 第三期の任期を終えるに当たって委員に提言を聞いた。

圧力から記者守れ

 平岡委員 記者が、自分は果たして記者なのか(新聞社などの)社員なのか悩んだとき、記者であろうとする意識を持てるような社風を持ってほしい。不公正に対する怒りが、つらい時や苦しい時に、記者であろうとする意識を支える。記者個人にはいろいろな圧力が掛かるが、その圧力から記者を守ってほしい。人材こそが財産だ。圧力をはね返せるかどうかは、社長以下経営者にかかっている。

テーマに経済問題も

 浜委員 充実した委員会で質の高い議論ができた。批判ではなく感想として、経済問題がテーマになりにくいと感じた。経済活動とは人間の営みだ。グローバル化の光と影というものも経済活動を通じて表れる。どんな形で取り上げられるか工夫があるといい。今回の委員三人は思想信条的に共通部分が多く充実した面もあるが、偏った面もあるかもしれない。全く違う顔触れに変わるとどういう議論が出るだろうかと考える。今後も注目したい。

監視役としての力を

 梓澤委員 「戦争とメディア」について言えば、メディアが市民に対しどのような発言の場を作り、どう紹介するかには相当の工夫が必要だ。巨大メディアはものすごい情報力を持つが、一方で情報の質としての限界をわきまえないと、戦争阻止につながらない。米国を見ているとつくづく感じる。ブッシュ大統領は何をするか分からない、何をもやってしまう危険を持っている。これに対し、先を見て民衆に危険を知らせる監視役としてのメディアの力を発揮してくれるよう期待したい。

【詳報4】 高校野球特待制度で誤り  抗議対応事例を報告

 共同通信は第30回会議で、4月24日に高校野球の甲子園出場校を対象にスポーツ特待制度の有無を調べて配信した記事で、同制度を適用している高校の数や名前を誤り、翌日訂正する続報記事を出した事例を報告した。

 在日本朝鮮人総連合会地方本部の施設について差し押さえ、競売状況を調べて6月19日に配信した記事でも、2つの施設について事実関係を間違えて関係者から抗議があり、翌日紙面訂正した事例を報告した。

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