1. トップ
  2. 「報道と読者」委員会
  3. 2006年開催分
  4. 第27回会議(北朝鮮核実験、教育問題)

第27回会議(北朝鮮核実験、教育問題)

核保有論議の背景分析を 教育現場への密着必要

 共同通信社は16日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第27回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「北朝鮮核実験」と「教育問題」をテーマに議論した。

 同志社大教授の浜矩子氏は、北朝鮮の核実験実施後に自民党の中川昭一政調会長らから日本の核保有論議を容認する発言が相次いだことについて「発言が出てきた背景の分析が必要だ」と指摘。共同通信社が9月に平壌支局を開設したことに触れ「(北朝鮮の)生身の姿をえぐり出してほしい」と要望した。

 前広島市長の平岡敬氏は「日本では既に核武装をしても安全を高めることにはならないという結論が出ている。核武装論議が間違っていることを指摘すべきだ」と強調した。

 弁護士の梓澤和幸氏も「核武装論議発言について当事者の責任を問わない安倍晋三首相の政治姿勢を追及すべきだ」と語った。

 教育問題では教育基本法改正やいじめ問題などを議論。梓澤氏は「子どもの世界に入らなければ、真実は見えてこない」と述べ、いじめ報道には教育現場への密着が必要との認識を示した。

 浜氏は「教育現場の荒廃があるがゆえに教育基本法改正が必要だという論調が形成されている。世論誘導に注意を喚起すべきだ」と提言。平岡氏は「教育予算や環境整備に力を入れずに法改正した点を問題提起してほしい」と語った。

【詳報1】 子どもの中で現実掘り出せ  核保有論議、分析が必要

 共同通信社の第3者機関「報道と読者」委員会の第27回会議が16日開かれ、3人の委員が「北朝鮮核実験」と「教育問題」をテーマに議論した。

 北朝鮮報道では、同志社大教授の浜矩子氏が、核実験実施後に日本の核保有論議を容認する発言が相次いだことに「発言が出てきた背景の分析が必要だ」と指摘した。

 教育問題のいじめ自殺報道については、弁護士の梓澤和幸氏が「子どもの中に入って現実を掘り出してほしい」と提言。教育基本法改正では、前広島市長の平岡敬氏が「話がいじめや必修科目の未履修に行き、どういう社会を目指すのかの議論がなかった。報道が粘り強く追及してほしい」と強調した。

取材の制約を記事に―浜氏  核武装論に脅威―平岡氏 首相の姿勢追及を―梓澤氏

 ―北朝鮮の核問題の報道について感想は。

 浜委員 北朝鮮の核実験の衝撃から、国内の核保有論議に至るまでの展開に息をのんだ。背後に何があるのかに照準をあてた分析、報道がもう一つあってもよかった。北朝鮮についての報道は隔靴ソウヨウの感があるというか、生の姿が直接的に伝わってこない。ベールの向こう側の姿を見ているようで、本質に迫るのが難しいのかなという印象を受ける。

 共同通信の平壌発の記事の中では、北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)・日朝国交正常化交渉担当大使のインタビューに強い関心を持った。その際にどのくらい取材の自由があったのか、北朝鮮の環境で突っ込んだ質問が許されたのかを、ぜひ伺いたい。

 平岡委員 北朝鮮の核実験から間もなく、日本の政治家から核武装発言が出てきたことが怖い。日本政府は過去に専門家が検討して、核武装によって、日本の安全が高まることはないという結論を出している。状況は変わったものの基本的な枠組みは変わっていない。

 有力政治家が「核武装の議論を」と言うと、「もっともだ」という反応も出かねないが、それは間違っているということをきちんと指摘すべきだ。北朝鮮脅威論に乗せられないように、国民の命と安全を守るにはどうしたらいいか、原点に返って考えるべきだ。

 梓澤委員 韓国の市民がこの問題をどう受け止めているかに注目してほしい。韓国の感覚は日本と全く違う。韓国の多数の市民が北朝鮮を訪れており、軍事的分析ではなく、肌合いの感覚として、「戦争をやれるという実感がしない」と感じている。彼らが核実験をどう感じたのかを取材してもよかった。日本国民の北朝鮮への恐怖感情を客観化するのに役立つ情報になると思う。

 平岡委員 核問題はどうしても国家間のゲームで論じられがちだが、人間の立場で見てはどうか。北朝鮮が核実験を行ったら、その周辺の住民に被ばくしている人がいるんじゃないかという想像力を働かせること。そういう視点がないと私たちの核廃絶の意識をきちんと示すことができない。民衆の目で、人類の問題としてとらえないと本当の解決にならない。核兵器をなくす方向で、日本と世界の安全に努力するのが、被爆国日本の役割だ。

 浜委員 国内で核保有の議論をするのはいいじゃないかと言っているうちに、自民党から非核三原則の「持ち込ませず」に疑問を呈するような意見が出てきている。安倍晋三首相は「言論の自由だ」と言っているが、「議論はあってもいい」とした中川昭一政調会長の発言が何だったのか。引き続き追及の目を持ってほしい。

 梓澤委員 北朝鮮の宋大使は共同通信のインタビューで「日本は(植民地支配の)過去の清算を行っておらず、他の国がわが国に対し行う制裁への対応に比べると厳しくなる」と話している。宋大使の発言を論評や識者の発言で受け、日本国民の安全にとってどういうことを意味するのかをもっと分析してほしい。

 ―平壌支局の制約を含め、共同通信はどういう考え方をしているのか。

 中屋祐司 外信部長 統制国家では想像以上に厳しい制約がある。その状況下で現場にいて、見えるものをきちんと伝えるよう努力することが必要だと考えている。

 浜委員 取材の舞台裏を記事にしたり、取材の制約の国際比較をしたりすることはできないか。北朝鮮高官のインタビューでは原稿に記者の感想が書かれていてもよかったと思う。

 平岡委員 ほとんどの日本人は忘れているが、朝鮮戦争が終わっていないということをきちんと指摘しておくべきだ。また、国連安全保障理事会の制裁決議を受けて、実際どのような制裁が行われているかフォローしてほしい。

 梓澤委員 過去に問題発言をして閣僚が罷免されたり辞任した例はたくさんある。それと比べて安倍首相は「言論の自由だ」と言って、リーダーシップを発揮していない。政治姿勢の問題として追及していくべきだ。

北朝鮮の核実験
 2005年2月に核保有宣言をした北朝鮮は06年10月3日に外務省声明を発表し「科学研究部門で今後、安全性が徹底的に保証された核実験を行う」と予告。9日には朝鮮中央通信を通じ地下核実験に成功したと発表、核実験が「朝鮮半島と周辺地域の平和と安定を守るのに寄与する」と主張した。国連安全保障理事会は14日、北朝鮮制裁決議を全会一致で採択した。

【詳報2】 専門記者活用せよ―梓澤氏  生徒の声聞いて―浜氏 粘り強く追及を―平岡氏

 ―まず改正教育基本法について。

青木自民党参院議員会長

参院本会議で改正教育基本法が可決、成立し、笑顔で握手する青木幹雄・自民党参院議員会長(手前左)。後方左から2人目は参院教育基本法特別委の中曽根弘文委員長=12月15日午後

 梓澤委員 教育基本法が変わることによって、教育行政と学校現場は実際にどう変わっていくのかという図を描く必要がある。教育と子どもを行政評価の対象にし、君が代の時に何人立ったかなど数値化していくと、今大学ではやっている評価委員会というものをつくると思う。数値化された子どもたちが一体どうなっていくのか、報道機関として描けるのではないか。

 浜委員 なぜ今、教育改革、教育基本法の改定なのかということがよく分からない、という論調はしっかりと出ていた。今まであった教育基本法の特徴や成立の背景に、実証的に焦点を合わせた特集があればありがたかった。特に生徒がこの問題にどういう思いを持っているかを聞けたらよかった。教育基本法を問う一連のシリーズで、小学生も中学生も高校生も大学生もあってよかったんじゃないかと思う。

 平岡委員 教育現場の荒廃は事実なんだろうが、それは教育基本法のせいじゃない。現場に教育予算を充実するとか、教育環境を整えることをせずに、ただ法律をいじってしまう。それが問題ではないかという問題提起をやってもらいたい。

 教育基本法の理念ではなく、いじめだとか未履修だとかへ話が行き、どんな人間をつくりたいのか、どういう社会をわれわれは目指すのか、それについての議論が全然ない。今までの報道はどちらかと言うと一つ済んだら次へ焦点が移るが、そういうことがないように粘り強く追及してほしい。

 ―いじめ自殺が相次いだ。

 梓澤委員 いじめで子どもを亡くした長野県教育委員の前島章良(まえじま・のりよし)さんは「私は息子でさえ救えなかった。だから君に掛けられる言葉が浮かばない」と言っている。子どもの問題で識者の話を聞くときに大事なのは、現実に救済にかかわって現場に飛び込んで苦労している人の痛みを持ったコメント。報道機関には有名じゃなくてもいいからそういう人の発掘をやってほしい。

 これは共同の得意分野でもあるだろうが、子どもの専門記者がさらに子どもの中に入ってじっくり現実を掘り出せるように配慮をしてほしい。真実の声は1年2年3年と付き合って「おじさん、実はね」というふうに出てくる。そこまで入らないと見えてこない。

 浜委員 いじめの議論を大人の間でする時、よく出てくるのは「昔もいじめはあったよな」ということだが「ガキ大将に殴られたじゃないか、なんでそういうことで今子どもたちが自殺するのか」という言い方はまったくナンセンス。メディアもそういう時のいじめと今のいじめの違いがどこにあるのか追究する姿勢を前面に出してほしい。

 平岡委員 今の大人社会が弱い者いじめをやっている。弱者を切り捨て、社会保障をどんどん減らして。そういう社会の中で育つ子どもたちはやはりいじめに走り、いじめ方も大人の社会とまったく同じことをしている。われわれの社会は戦後ずっと本当の民主主義が育たなかった。異論を許さず、異質なものは排除する。こういう体質が相変わらず大人の中にある。

 ―自殺報道について。

 平岡委員 いじめが原因の自殺だという短絡的な報道はよくないんじゃないか。いじめはきっかけになるかもしれないが、いろんな原因があると思う。子どもたちにもっと別の希望があると伝えていくことは大事だ。

 浜委員 やはり事実は事実としてきちんと繰り返し報道されてしかるべきだと思う。そこはメディアがおじけづくと、いろんな世の中の姿は見えてこない。

 梓澤委員 以前少年漫画雑誌で、弁護士会が子ども人権110番をやったら、約5千人からわあっと電話があったという。子どもには「本当に困ったらお父さんやお母さんにも言えないことはある。だけど、ここに行けば聞いてくれるかもしれない」という情報を伝えたい。

 ―高校の必修科目未履修問題について。

 浜委員 公立の高校の先生からもらった手紙には追い詰められている雰囲気があった。教師を悪者にするのではなく、教師が数値的な成果主義によってどういう行動形態に追いやられていくかをクローズアップしていただきたい。

 平岡委員 実利主義に走りすぎ、歴史や哲学など人間の教養を軽んじているところがある。損得じゃなくもっと違う哲学を。

 梓澤委員 人間の究極的な知恵というのを軽んじていると、人類の破滅にまで行くというのが今の時代ではないか。世界史をああいうふうに便宜的に扱うことは、相当罪が深いと思う。

教育基本法の改正
 2000年に森喜朗首相(当時)の私的諮問機関「教育改革国民会議」が伝統や文化の尊重、家庭、国家などの視点から教育基本法見直しを提言。中教審も03年3月「法改正が必要」との答申をまとめた。戦前の国家主義的な教育への反省を踏まえて、1947年に制定された教育基本法が人格の完成や個人の尊重を重視しているのに対し、改正法は公共の精神の尊重や国を愛する態度、家庭教育などを新たに盛り込んでいる。

【詳報3】 証言拒絶裁判の終結を報告  東京高裁がすべて容認

 共同通信社は第27回会議で、米国食品会社の日本法人に対する課税処分の報道をめぐり、共同通信記者が米側嘱託証人尋問で取材源にかかわる証言を拒んだことの当否が争われた裁判で、証言拒絶をすべて認めた東京高裁の決定が確定したことを報告した。

 4月の東京地裁は41件の質問のうち31件については拒絶を容認したが、取材過程に関する質問については認めなかった。10月の高裁決定は「個々に見れば取材源は特定されないが、ほかの質問と相まって特定されることも考えられる」と判断した。米企業側は上訴しなかった。

 課税処分の報道で、同様の内容を報じたNHKと読売新聞社について最高裁が証言拒絶をすべて認める決定を出しており、取材源の証言拒絶をめぐる裁判はすべて終結した。

ページ先頭へ戻る