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第22回会議(小泉政治、個人情報保護法)

国民投票法案に危機感  小泉政治で報道と読者委

 共同通信社は十九日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第二十二回会議を東京・東新橋の本社で開き、自民党の新憲法草案決定など衆院選後の「小泉政治」と、「個人情報保護法」について議論した。

 弁護士の梓澤和幸氏は与党が検討している国民投票法案について「憲法改正案が出されて何十日の間は(メディアなどが是非を論じることができず)沈黙を要求される。憲法について何か言ったら刑事罰というのは実に乱暴な話。こういう話が新聞をにぎわしていいのにほとんど出てこない」と危機感を表明、メディア規制に対する批判を強めるよう求めた。

 同志社大教授の浜矩子氏は「憲法改正という言葉が独り歩きしている。改正論議へのアレルギーを一掃しようという魂胆に乗せられつつある。憲法改正が今年の流行語大賞になりそうで怖い」と述べ、メディア側が改憲の方向性を既定路線としないよう要請した。

 前広島市長の平岡敬氏は自民党の新憲法草案に関して「改憲の要件を緩和している。民主党を引きずり込んで改憲の流れをつくろうとしているのか」と批判した。

 個人情報保護法の報道への影響に関しては、公共機関などに社会的に必要な個人情報を開示させる努力を続ける重要性を指摘する声が相次いだ。梓澤氏は「プライバシーと個人情報の定義をはっきりさせる必要がある」と強調した。

【詳報1】 ゆがんだ日米関係究明を  行政の介入で自由抑圧

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第二十二回会議が十九日開かれ、三人の委員が小泉政治と個人情報保護法をめぐる報道について議論した。小泉政治で前広島市長の平岡敬氏は「日米のゆがんだ関係を明らかにすべきだ」と述べ、同志社大教授の浜矩子氏が「郵政民営化など政権側のペースで記事を流している」と指摘。個人情報保護法で弁護士の梓澤和幸氏は「行政の介入で、ほかの市民的自由が抑圧される」と語った。

小泉改革総点検を―浜氏  先行きの解明必要―梓澤氏 軍事力外の安保も―平岡氏

 ―衆院選後、郵政民営化法成立、靖国神社参拝、自民党新憲法草案決定、在日米軍再編合意などが続いた。小泉純一郎首相の政権運営と、この間の報道をどう見るか。

参拝を終えた首相

靖国神社の参拝を終えた小泉首相=10月17日、東京・九段北

 浜委員 何も考えずに矢継ぎ早に物事を先に進める小泉政治の姿勢が前面に出ている。開き直って「国民の負託を受けた」という言葉を振りかざしている姿を見ると空恐ろしい。共同通信は非常に力を入れて小泉政治をフォローアップしており、高く評価する。ただ、今書いていることを衆院選前に書いてほしかった。選挙結果が違っていたかもしれない。構造改革について「前はこう言っていたのでは」という総点検的なものが欲しい。郵政民営化、増税、年金改革など政権側のペースで記事を流している。

 平岡委員 重要な問題がまるで既成事実のように淡々と報道される状況に、今のメディアは事実上、小泉支配下に入ったと批判する人もいる。権力のお先棒担ぎだけは報道にやってほしくない。戦前「まだいいだろう」と言っているうちに規制されて報道の自由を失った歴史を振り返って、自らを戒める時ではないか。やや腰が引けている感じがある。

 梓澤委員 「自民党圧勝」のリアリティーが迫ってこないが、相当すごいことをやっている。小泉首相は目の前にある不満を解消してくれるという幻想に庶民がとらわれている。「本当はこういうところに連れて行こうとしている」という解明が報道の仕事だ。

 平岡委員 衆院選で国民は劇場型選挙を熱狂して味わった。間接民主主義が機能しなくなったのか、政治との距離に乖離(かいり)があるのかなど民主主義が内包する問題を追究してほしい。結局、小泉改革は米政府の対日要望書に沿うものだったという記事があったが、もう少し突っ込んで日米のゆがんだ関係を明らかにすべきだ。

 ―衆院選後、どういう姿勢で報道したのか。

 吉田文和政治部長 構造改革への支持がある中、どちら側に立つか難しいところがあるかもしれない。指摘された問題意識はわれわれも共有しているが、もどかしさも感じている。

 ―自民党新憲法草案の報道ぶりについては。

 梓澤委員 草案は、公然と戦争をやる国をつくるとのメッセージだ。自衛隊がアメリカの要請に従い、軍隊として世界中、どこにでも行かされるようになる。自衛隊が大手を振って国内治安に踏み出せるようになるという指摘が弱い。また草案にある「自己情報コントロール権」は、操作いかんで市民社会を分断し、言論、結社、報道など市民的自由を危険にさらすことへの注意を喚起したい。

 浜委員 現行憲法は非常に良くできているとあらためて感じた。草案はどこを変えたいと思っているのかが鮮明になっている。憲法改正という言葉が独り歩きして、改正論議へのアレルギーを一掃しようという魂胆に乗せられつつある。憲法改正が今年の流行語大賞になりそうで怖い。憲法改正、靖国参拝、対アジア外交、米軍再編問題など連関している問題をサイトマップ的に示してもらいたい。

 平岡委員 改憲の要件を緩和している。民主党などを引きずり込んで改憲の流れを作ろうとしているのだろうか。

 ―報道でもっと必要な視点は。

 梓澤委員 与党が検討している国民投票法案では、憲法改正案が出されて何十日間はメディア、憲法研究者、外国人などが是非を論じることができず沈黙を要求される。憲法について何か言ったら刑事罰が待つというのは実に乱暴な話だ。もっと警鐘を鳴らしてほしい。憲法草案にある、人権の上に公の秩序があるという価値観も問題だ。

 浜委員 メディア全体が現憲法は時代遅れだというようなことを是認している。改正の時に来ているという雰囲気がメディアを通じて、日本中に浸透しつつあることに強い不満がある。その流れをせき止めるような報道、論調が出てきてしかるべきだ。

 平岡委員 非武装でも日本の平和と国民の安全を守れると思っているが、そういう議論をしていない。東アジアにおいて平和な環境をつくっていく外交努力もしていない。国家安全保障の担保としては軍事力しかないと政府は言っているが、違う道があるよ、という議論をメディアが起こすべきではないか。

 ―靖国参拝、アジア外交、米軍再編については。

 浜委員 改憲で靖国参拝を合憲化すると、政教分離を崩していくという大きなテーマを追究してほしい。今風に乗せられやすいのが若者だ。小泉政治をめぐっても、若者がどうあろうとしているのかなどをクローズアップする姿勢が必要だ。

 梓澤委員 A級戦犯の固有名詞を挙げ、何をしたのか書いてほしい。その人たちをまつっているところに一国の首相が参拝している。このことを中国、韓国の戦争被害者、遺族がどう考えているか、その声を掘り出してほしい。

 平岡委員 問題はあの戦争をどう認識しているかということ。正当性のない戦争を容認しようとしている。靖国参拝が過去を反省していないという証拠とされ、アジアにおける日本の地位を弱めた。アジアの目は、米国だけしか見ていない日本を外しており、中国を中心にアジアが動き始めている。

【詳報2】 保護名目で統制―梓澤氏  取材委縮させるな―浜氏 信頼高めよ―平岡氏

 ―個人情報保護法施行後、本来なら社会が共有する情報まで、保護を前面に出されて隠されている。個人情報とプライバシーが混同され、市民側が非常に過敏になっている状況をどう見るか。

 梓澤委員 コンピューターの発達で情報集約によって人が人を支配する、権力が人をコントロールする、そういう個人の尊厳の危機に対して個人情報が保護されなければならないという出発点が今、全然狂っている。個人情報保護と市民的自由とのバランスを適正に図ることなく、個人情報保護に行政が介入する。それによってほかの市民的自由が抑圧されることについてのバランス感覚が非常に弱まった。個人情報保護という名の情報統制が見落とされている。また、法の思想から言えば、強力な権限を持った官庁が個人情報をどのように集めているかということが大事なのに、そこに目が行っていない。「一般人の目でみて公開を忌避すべき私事」というプライバシーの定義と「個人を識別できる情報」という個人情報の定義が混同されていることに警鐘を鳴らしてほしい。社会に参加する市民に関する情報は公共性があり、伝えられるべきだ。

 浜委員 個人情報保護というのは、行政の目から人々のプライバシーを守ることなのに、そこが完全に逆転している状況は非常に恐ろしい。(元英皇太子妃の)ダイアナさんが死んだ時は、プライバシーをパパラッチ(ゴシップ写真などを狙うカメラマン)から守るという発想から、結果的に情報統制を許すべきだとの政治圧力が高まり、是認するような雰囲気が出てきたことがある。それと同じになることが日本でもあると非常に由々しきこと。保護法が個人情報の漏えいということに全然歯止めになっていないのもおかしい。

 平岡委員 個人情報保護法で適用除外になっているのは報道、著述、学術研究、政治、宗教だけというのは問題ではないか。ボランティア活動、市民活動は適用除外に入らない。市民活動をやっていく場合に、情報を取ることが非常に難しい。介護で地域の孤老の情報を持って支援していこうというグループだってあるわけだが、そういうこともやりにくくなってきた。報道の自由だけを特別扱いしているということについて問題提起しなければいけない。特権にあぐらをかくだけでなく、表現の自由について幅広く考えて、個人情報保護法の欠陥を突いていくべきだ。結局はメディアが信頼を高めるしかない。それによって官の情報統制に市民と一緒に闘っていく素地ができる。

 ―市民に対してどう向き合ったらいいか。

 梓澤委員 過剰反応の中で、学校ではクラス全体の連絡網は出さないようにするとか異常なことが起きている。人と人の間が分断されている。社会に参加する個人をばらばらにする解体的な発想に対して、「問題だ」との提起をメディアにしてほしい。情報が市民同士の間で自由に豊かに行き来する現実がなければ、取材、報道だけ自由にはできない。集中豪雨型取材(メディアスクラム)をめぐっては、メディア企業の幹部の問題を指摘したい。遺族取材の現場で問題が起こっていたら、社長が発言して直させるというのが、幹部の責任だ。自由が保障されて初めて経営が成り立つことをメディア企業幹部は再度自覚すべきだ。社会の批判を受け対話をするという覚悟と勉強をしてほしい。教育も経営幹部が徹底的にやる。メディア幹部がそういう責任を果たしてこそ、公共性が維持できるし、権力への批判力も鍛えられる。

 平岡委員 警察権力の監視という意味で、不当逮捕があっても個人名が分からないと何をやっているか分からない。匿名社会になったら、権力が何をやっているかさっぱり分からない。そこを市民にアピールしていくべきだ。

 ―市民の立場に立った場合、書かれることについて意見は。

 浜委員 プライバシーの名の下にすべて保護しようとすると、ウォーターゲート事件のようなことも全然暴かれずに終わる。パパラッチといわれようと、取材していくメディアの役割を委縮させてはいけない。取材する側とされる側は同じ人間集団で共通の認識を持てる。取材は過少より過剰の方が結果的にはいい。取材される方も過少になることの怖さを認識することが必要だ。

 平岡委員 プライバシーと個人情報保護の区別をきちっとつけないと政治家を追及する場合、絶えず逃げられると思う。公人を監視することが非常に難しくなる。

法施行後の主な過剰反応
 【病院】事故や火災などで搬送された患者の容体について警察の照会に応じず。尼崎JR脱線事故では肉親を捜す家族らの問い合わせに回答を拒否。報道機関への患者名簿の公表を控えた。
 【学校】生徒や卒業生の住所などを出さず、保護者連絡網や同窓会名簿が作れない状況に。
 【自治体】報道機関による地方選立候補者の生年月日の確認に応じず。秋田県は職員の懲戒処分で年齢などを非公開としたが、その後方針転換。
 【官公庁など】厚生労働省が医師と歯科医師の国家試験合格者名非公表を決定。内閣府は幹部の略歴で生年月日や最終学歴などを、国土交通省は出身地を公表せず。
個人情報保護法
 住所や氏名、電話番号など特定の個人を識別できる情報の適正な取り扱いを規定。不正流出などを防ぐため、5千件を超える個人情報を扱う事業者に(1)情報利用目的を本人に明示(2)生命、身体の保護のため必要な場合などを除き、第三者への情報提供は本人の了解を得る―などを義務付けている。違反した場合、監督省庁が中止や是正を勧告、命令する。憲法が保障する表現の自由を妨げないよう、報道目的については義務を免除している。

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