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第18回会議(税制・財政報道、被害者の顔写真報道)

なし崩しの負担増検証を  税制・財政や顔写真で議論

 共同通信社は五日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第十八回会議を東京・東新橋の本社で開き「税制・財政報道」と「被害者の顔写真報道」について議論した。

 税制・財政について、日本総合研究所理事長の寺島実郎委員は「家計の負担はなし崩し的に増えている。過去にさかのぼって点検することを含め、継続的に検証してほしい」と述べた。

 前広島市長の平岡敬委員は「国が財布を握っているから公共事業で政治の圧力が働く。政治と財政の関係にメスを入れないといけない」と注文した。

 明治学院大法科大学院教授の渡辺咲子委員は「税制にはサラリーマンの不公平感が強い」と指摘。消費税率引き上げに関しても「社会保障費がかかるという説明だけでは良くない」と述べ、税体系全体の中で国民がどう負担するかという議論が必要と強調した。

 犯罪被害者の顔写真報道について、平岡委員は「起こった事実を報道していくのが新聞の使命。原則として掲載していいと思う。人権や被害者感情に配慮し、ケース・バイ・ケースで判断するべきだ」と述べた。

 渡辺委員は「容疑者も含め顔写真報道は必要なのか。犯罪被害者の遺族には拒否権があってもいい。何らかのルールづくりが必要」、寺島委員は「被害者の家族の意向を優先して配慮することが重要だ」と主張した。

【詳報1】 専門家も動員し財政報道を  被害者写真でも論議

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第十八回会議が五日開かれ、平岡敬前広島市長、寺島実郎日本総合研究所理事長、渡辺咲子明治学院大法科大学院教授の三委員が、税制・財政報道と被害者の顔写真報道について論議した。

 税制・財政報道では、寺島氏が「実質可処分所得が真綿で首を絞められるように圧迫されてきている。継続的に検証した記事が必要だ。記者だけでなく専門家も動員して財政報道に立ち向かってほしい」と述べ、渡辺氏は「不公平税制の是正がどこに行ったのか、分かりやすい報道が求められる」と指摘した。

 被害者の顔写真報道では、平岡委員は「原則として掲載してもいいと思う」とする一方で、渡辺委員は「遺族の了解を得るなどルール作りが必要」との認識を示した。

継続的にきちんと検証を  不公平税制の報道が必要

 ―政府の二〇〇五年度予算編成では、財政再建や定率減税の廃止・縮小が焦点となったが。

 平岡敬委員 報道を見ていると、政府は歳出削減より増税に重点を置いているように見える。財政再建の大きな設計図がないから、国民にはいつまで増税の痛みに耐えればよいかが全然分からない。そこを詰めた記事が欲しい。定率減税の問題も景気への影響が心配されているだけに税制の解説で終わるのではなく、そこをずっと見続けてほしい。地方では平成の大合併がどんどん進んでいるが、合併特例債は大盤振る舞いだ。行政経費を下げようと合併が進んでいるが、当面コストが膨らんでいるのではないか。どのくらい長期債務に影響するのかが注目点だ。

 渡辺咲子委員 家計をどう圧迫するかは書いてくれるが、私たちが負担した税金が将来の国民を含めてどれだけ健全に返ってくるか。そうであれば国民は納得するが、それがない。税制改革は単に景気回復のために行われるのではなく、税制の合理化、すなわち国民に公平な税負担を求める制度を目指すものではなかったのか。基本に返って不公平税制の是正がどこに行ったのか、もう少し報道すると分かりやすかった。

 寺島実郎委員 根源的な問い掛けを継続的に行っていく必要がある。状況のなし崩しで、何が進行しているか分からないうちに、何かが変わっていく。家計の負担も過去五年、十年さかのぼって、一回一回何が生じて何が変わったのか。一九八九年に消費税が導入され、九七年に5%になり、配偶者特別控除がなくなり、年金保険料も引き上げられた。財務省は国際的には税負担が低いと説明するが、かなり違う部分がある。本当の実質可処分所得は真綿で首を絞められるようにどんどん圧迫されている。継続的にきちんと検証した記事がほしい。記者だけでなく、専門家も動員して税制・財政報道に立ち向かわないと。

 ―財政赤字だが、整備新幹線など地元では歓迎ムードがあるが。

 寺島委員 交通全体系をもっと戦略的に見直さねば。各地で権益、活性化のためにバラバラで、ものすごくねじれと無駄が生じている。

 豊田宰内政部長 公共事業は昔は「行け行け」みたいな報道一辺倒だったが、最近は地域の活性化とか、国際競争も踏まえて多面的に検証した記事を加盟社も求めるようになってきたと思う。

 平岡委員 全体のデザインがないままで新幹線の予算が付いたが、それは本当の意味で地方分権が確立されていないからだと思う。政治と財政の力関係で決まってしまう構図に何とかメスを入れないと、この状況は止まらない気がする。費用対効果の点も含めてマスメディアはきちっと突かねばならない。

 寺島委員 日本の報道で公共投資に関して決定的に欠けているのは進化論だ。総額が多いか少ないかの議論ばかり。コストを掛けずに、次世代に意味のある公共投資をするよう進化を厳しく促していくことを問い掛ける企画がない。

 豊田内政部長 三月で合併特例法の期限が切れる。合併で一つのポイントは、合併という荒波が地方に来て初めて地域の姿を住民が考える機会になったことだ。

 寺島委員 財政関連で日本の報道にありがちな「改革派対守旧派」という陳腐なパターン化はやめてほしい。三位一体改革で言えば「税源移譲に賛成ですか」と聞いて、「賛成です」と答えた人は改革派で「いろいろ問題がありますね」と答えると守旧派に入ったりする。本当の地方分権とは何なのかを問い返さないから、薄っぺらなキャッチフレーズ行政みたいな記事になっていくのが気掛かりだ。

 江畑忠彦編集局長 予算についてはだいぶ工夫はしてきた。単年度でやってもあまり意味がないという指摘はわれわれも考えなければならないと思う。

 ―消費税引き上げの報道はどうあるべきか。

 平岡委員 私は消費税をすべて年金など社会保障につぎ込むのは反対だ。財政再建のためには、歳出削減と同時に消費税は上げなければならないが、もっと効率的に財政全般をうまく回すための財源にすべきで、特化するのは良くない。気が付いたらこういう話だったということにならないように、分かりやすく報道すべきだ。

 渡辺委員 全体に小泉政権に対する私の印象ですが、キャッチフレーズがポッとある。底の浅い報道になっていないか。税制全体の仕組みの中で国民から税金を取るときにどういう方式が良いのかというところで消費税が出なければいけないのに、社会保障費が膨張するから消費税を充てるというふうに乗せられていないかなと。少なくとも国民には社会保障費って何、どういう方式でかかっているのかということにほとんど理解がない。そこを理解できるような報道があってもいい。

 寺島委員 世界の消費税がどうなのかという報道が欲しい。地方分権と絡めて日本でも大いに考えてもよい。例えばこの地域は観光で生きているから観光関連の税金は下げようとか、考える幅が広がる消費税論議にもっていってほしい。

 松本浩経済部長 役所が用意している資料に報道は誘導されがちだ。論理のすり替え、既成事実化を見抜いて反論を付け加えていくことがわれわれの基本的な役目だろう。民間の研究者とさらにいろいろな形で連携を取っていきたい。

【詳報2】 顔写真掲載のルール必要  人権や遺族感情に配慮を

 ―奈良の女児誘拐殺人事件で被害女児の顔写真掲載をめぐり新聞各社の判断が分かれた。被害者の顔写真報道について共同通信の考えは。

花束を供える子どもたち

奈良の小1女児誘拐殺人事件で女児の遺体が発見された現場に花束を供える子どもたち=04年11月22日、奈良県平群町

 後藤勝敏写真部長 事件事故報道では被害者の顔写真はニュースのポイントの一つだ。入手が難しい場合もあるが、原則として配信している。その際、被害者の人権や遺族感情に配慮するのは当然だ。

 平岡委員 起こった事実を報道していくのが新聞の使命だ。原則として被害者の顔写真は掲載していいと思う。ただ人権や遺族感情を全く無視できない以上、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ない。その場合、遺族の了解が一つのポイントになるだろう。

 渡辺委員 そもそも容疑者も含めて顔写真の掲載が必要なのか疑問。護送の際の写真が新聞に掲載されるが、無罪推定のある容疑者を警察がさらし者にするようにして取材させるのは問題だ。写真があった方がインパクトがあるというのは分かるが、遺族でもない第三者から入手した写真をそのまま報道するのには疑問がある。どういう写真であれ、掲載するに当たってのルール作りが必要。被害者なら本人や遺族の了解を得てから報道するべきだ。

 江畑編集局長 事実を伝え、事件の悲惨さや残虐さを読者に訴えることによって、事件の再発を防止するというのが報道することの意味だ。被害者や遺族の意思を尊重するべきだとの意見がある一方で、匿名社会が進むことに危機感を持つ人もいる。判断の分かれ目だ。

 平岡委員 抗議がくるかもしれないから無難にやろう、という心理がメディア側に働くのが怖い。苦情が来てもはね返せる理屈を持っていないと無難な選択をしがちになる。そういう精神がジャーナリストにまん延すると困る。

 寺島委員 犯罪報道には「あいつはけしからん」といった世の中の流れをつくってしまう側面があり、慎重であるべきだ。その上で、事実報道の範囲で、顔写真を掲載することは常識的に言って当然だと思う。ただ、被害者や遺族の意思は重要。犯罪の性格によって、被害者感情を優先して配慮するといった原則を確立するべきだ。

 水谷亨社会部長 容疑者の顔写真は事件解明の手掛かりとなる可能性があるので積極的に報道していいと考える。被害者については、単に悲しみを共有するとか、新たな情報を得るということより、本人や遺族の心情を重視している。

 ―スマトラ沖地震で津波の被害者の顔写真はどうだったのか。

 水谷社会部長 外務省は被害者の名前をほとんど公表しなかった。発表は「邦人女性一人」という形で、身元確認の取材が大変だった。

 後藤写真部長 顔写真は、入手できた中で身元確認ができた被害者に限り配信した。

 ―外国ではどうだったのか。

 吉田成之外信部長 外国では多くの国が名前を発表していない。スウェーデンはプライバシーが侵害されるという理由で死者、不明者ともすべて非公開。ドイツも非公開だが、家族が情報公開を求める動きがあった。英国ではメディアが独自取材で身元を割り出しヒューマンストーリーを掲載した。一方、ノルウェーは政府が不明者の氏名を公開したことで情報が集まり、安否確認が進んだといわれている。

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