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第12回会議(衆院選報道と裁判員制度)

選挙の争点づくり不十分  報道の自由確保を

 共同通信社は六日午後、外部識者でつくる第三者機関「報道と読者」委員会の第十二回会議を東京・東新橋の本社で開き、衆院選報道と裁判員制度について論議した。

 衆院選報道について、平岡敬前広島市長はイラクへの自衛隊派遣問題などを挙げ「自民、民主両党の根本的な違いが何なのか、国民生活にどう影響するのか迫っていくべきだった」と述べ、報道機関の争点づくりが不十分だったと強調。寺島実郎日本総合研究所理事長は世論調査に関し「サラリーマン層が保守化している。パターン化した分析でなく、工夫できないか」と、従来より踏み込んだ調査、分析が必要との認識を示した。

 渡辺咲子明治学院大教授は「マニフェスト(政権公約)と政権選択という特徴的な言葉だけが躍っていた」「気が付かないうちに自民党か民主党を選べというようになっていた」と述べ、報道が二大政党に偏りすぎていたと指摘した。

 裁判員制度に関して、政府検討会の座長試案に盛り込まれた「偏見報道の禁止」など報道規制に対し、平岡氏は「報道の自由は守らなければならない。拡大解釈されるような文言は削除してほしい」と強調。寺島氏は「国民の視点からすると『どんな人が裁判員か』は知りたい。報道の主体性、自律性が確保される必要がある」と述べた。

 渡辺氏は「裁判員制度は多くのコストが掛かり、国民に負担を強いる。『それでも改革は必要だ』との覚悟が必要だが、そうした観点での報道がない」と指摘した。

【詳報1】 政権公約超える論点提示を  報道の自由は守る必要

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第十二回会議が六日開かれ、平岡敬・前広島市長、寺島実郎・日本総合研究所理事長、渡辺咲子・明治学院大教授の三委員が衆院選報道と裁判員制度について論議した。

 寺島氏は衆院選報道について「政党の能力の範囲で出してくるマニフェスト(政権公約)を超えて、本当の論点は何だと踏み込む必要がある」と述べ、報道機関による争点づくりの必要性を強調。渡辺氏は「マニフェストとか政権選択という特徴的な言葉だけ躍って、自民党か民主党のどっちかを選べと報道に強制された感がある」と述べた。

 平岡氏は裁判員制度に関して「報道の自由は守るべきだ。拡大解釈されて報道規制につながるような文言は削除してほしい」と指摘した。

 また読者対応事例として、十月の前回会議以降に読者から寄せられた配信記事への苦情や意見など五件を三委員に報告した。

抜け落ちたイラク論議  意識変化とらえる調査を

 ―今回の衆院選報道の印象は。

「小泉改革宣言」を発表

次期衆院選のマニフェスト「小泉改革宣言」を発表する小泉首相=14日午後、東京・永田町の自民党本部

政権選択を強制

 渡辺咲子委員 マニフェストとか政権選択という形で特徴的な言葉だけが躍ってしまい、気が付かないうちに自民党か民主党のどっちかを選べというふうに報道によって強制されていった感がある。それが結果的には、非常に投票率を下げる結果にもなったのではないか。

 寺島実郎委員 マイナーな政党とか中間政党の意見なり論点が分かるような報道の仕方はないのか。経済政策、外交・安全保障政策について、政党の能力の範囲で出してくるマニフェストを超えて、本当の論点は何だというところまで踏み込んでやる必要がある。

 平岡敬委員 マニフェスト選挙といわれたが、結局自民党も民主党も、改革ということを掲げたものの、全体像は似通っている面があるという感じがした。

 政党の根本的な違いは何か、国民生活をどう左右するのかということを、実はマスコミの側が迫っていくべきではなかったか。今、日本全体でイラクへの自衛隊派遣が問題になっているが、衆院選後の派遣がかなり自明の問題として想定されていた。ところが、各党ともあいまいなまま憲法問題を素通りしていた。マスメディアが踏み込んで政党の姿勢を叱咤(しった)するというか、国民の関心を喚起するような報道が必要だったと思う。

代議制を問い直せ

 寺島委員 真の政治改革を問うというシリーズをやるべきだ。それは代議制の問い直し。選挙制度をいじくれという程度の話ではなくて、代議者の数を極端に制限する。代議者の数と任期制限を訴え、これが本当の政治改革じゃないかとキャンペーンをやる時期にきている。

 後藤謙次共同通信社政治部長 民主党が提唱したマニフェストという土俵に自民党が乗り、マスコミも乗ってしまった。われわれも流されたということで、忸怩(じくじ)たるものがある。

 ―世論調査の功罪が問われているが。

ブレーキ意識

 寺島委員 共同の世論調査は、民主党について百五十八プラス、マイナス十五で出していたが、結果は百七十七まで行ってしまった。「自民党が単独過半数の勢い」と報道され、国民のブレーキ意識が働いたかなと思う。選挙直前の民主党の状況はとても政権を問うような野党の力はなかったということを考えたら、メディアが現実に実力以上に民主党を盛り上げたことになる。

 井芹浩文共同通信社総合選挙センター長 さまざまな角度から選挙をえぐり出せないかということで組み立てている。基本的な調査は世論調査と出口調査だ。

 平岡委員 (世論調査では)60%以上が政権交代しないと思うと出ていた。ただ、そういう動向が小選挙区では自民党候補に投票しながら、比例代表では民主党に投票するという行動に結び付いている。

 渡辺委員 世論調査は設問によって動く。どれだけ客観性が担保される設問ができるか難しい。政府の世論調査でも政策を実現するための設問を考えるということが少なからずある。

 寺島委員 世論調査の方法論だが、共同通信が新聞社や他の通信社と違うやり方で、ひと味違う差別化ができないものだろうか。ごく普通のサラリーマンが保守化しているが、どういう構造で起こるのか。もう少し階層移動だとかダイナミズムをとらえられるような世論調査や分析ができないのかという気がする。

 ―投票率にも影響した可能性があるが。

ネットは弱者排除

 渡辺委員 インターネットで大規模な選挙の世論調査をやったマスコミがあったが、かなり違う結果だった。やはりネットには参加できる人の階層というものがあるのだろうという分析がされている。ネットによる直接民主主義というのは、そういう意味で弱者を排除するところがある。

 ―テレビ局の報道した出口調査結果が一夜明けたら全然違っていたが。

奇っ怪なドラマ

 平岡委員 一刻一秒争って当確を打つこともなかろう。しかし、それが(マスコミ界にとって)生きがいや喜びになったりし、組織の活性化につながっている。一夜明ければ決まってるんだが...。

 渡辺委員 競馬の予想と同じ興味本位の面白さがある。今回はそれがすごかった。開票の初めのころの報道は、自民党が過半数を取れないんじゃないかという報道がほとんどだった。

 寺島委員 奇っ怪でこっけいなドラマを見てしまった。ショーとしてはどっきりカメラみたいな話で、翌日になってみたらまるでシーンが変わっていた。テレビ側が真剣に選挙報道の役割を考え、例えば少なくとも午後九時以降じゃないと当確を出さないというような申し合わせをすべきだ。

 渡辺委員 最初の選挙の時に比例代表での復活はおかしいという議論が盛んにあったが、今は当たり前のようになっている。選挙制度そのものも、いろんなゆがみを生むもとだったのではないかという反省が全然ない。

【世論・出口調査の考え方】
 共同通信社が国政選挙の際に行う世論調査や出口調査に関する基本的考え方は次の通り。
 世論調査は投票日の約一週間前に電話で行い、全国情勢や各党の推定獲得議席数を出稿している。今回の衆院選では、全国で三十八万二千五百人を対象に実施し、約十四万人が応じた。ただ投票態度を決めていない有権者が少なくない上、世論調査が公表された後に投票行動を変える人が予想されることから「最終情勢」という言葉は使わず、中間的情勢と位置付けている。
 出口調査は今回の衆院選で、投票日当日に三百小選挙区、比例代表十一ブロックを対象に初めて完全実施した。二十八万八千サンプルの規模で行い、二十万五千サンプルで集計。この結果を踏まえ情勢のすう勢を判断、当確判定や投票行動分析の材料にした。

【詳報2】 負担への理解も求めよ  主体性の確保必要

 ―裁判員制度について。

国民に負担

 渡辺委員 「望ましい制度」としての紹介と、報道規制問題との二点しか報道されていない。裁判所その他の人的、物的負担を含め多大なコストが掛かるが、国民に負担を強いることについて理解を求める報道がなされているのか。マスメディアの責任を果たしていないのではないか。

 平岡委員 総論では「国民の司法参加」「開かれた司法」は良いことだが、実際にやるとなると各論で問題が起こってくると思う。

 渡辺委員 国民が安全で平和な世界を守るため、刑事司法にどれだけの金をかけるのか。裁判員を十人にすれば、裁判所をすべて造り直す必要がある。場合によっては、自分が裁判員として行かなければならない。それでも、この制度が必要だという覚悟がないとできないはずだ。

 寺島委員 その意味では、十人程度を対象に、裁判員になったときのコストを全部考えた上で「あなたは、どう思うか」とじっくり聞けば、趣の違う記事になる。

 ―報道規制が相当程度盛り込まれそうだ。

規制の削除を

 寺島委員 悩ましい。基本的に国民の視点からは「どういう人が裁判員なのか」とか聞きたいし、報道の主体性は確保されなければいけない。

 平岡委員 いろんな分野で報道規制が出てきており、今回の問題は、その一環という気がする。

 古賀泰司共同通信社社会部長 問題は三点ある。第一は、裁判員に当該事件で偏見を与えてはならないとする「偏見報道の禁止」。新聞協会は全面削除を求めている。第二は、裁判員の住所、氏名など個人情報の扱い。これは基本的に報道しない。三つ目は裁判員への接触禁止。基本的には接触しない方向だが、裁判員を終えた人に接触するルートは残したい。裁判がどう変わったのか検証し、国民に知らせる必要がある。

 平岡委員 拡大解釈されて報道規制につながるような文言はできる限り削除してほしい。

 渡辺委員 真摯(しんし)な報道であれば、裁判員制度を育てるためにも、報道の自由を残すことは必要。しかし、対象は社会の耳目を集めた事件に限られ、裁判員への取材、報道が過熱することは目に見えている。

 ―偏見報道問題では、事件報道自体ができなくなるとの意見もある。

報道の自由守って

 渡辺委員 素直に読めば、そうなる。和歌山の毒物カレー事件では逮捕前の容疑者宅の塀に脚立が並び、記者が二十四時間、家の中をのぞき込んでいた。

 平岡委員 全体的な言論状況を考えた場合に報道の自由は守っていかなければならない。

 古賀社会部長 新聞やテレビを見て、なおかつ証拠を見て判断することが「開かれた司法」ではないか。あまり規制すると良い改革にならない。

大詰め迎えた裁判員制度
 市民が刑事裁判の審理に加わる「裁判員制度」は、司法改革の柱として制度づくりが大詰めを迎えているが、職業裁判官と市民の裁判員の人数構成や報道規制などをめぐり論戦が続いている。
裁判員制度は、政府の司法制度改革審議会が「国民の健全な社会常識を裁判に反映させる」として二○○一年六月の意見書で提言。翌○二年三月に閣議決定された。政府は来年の通常国会に関連法案を提出する予定。
 無作為にくじで選ばれた市民の裁判員が裁判官と一緒に刑事裁判の審理を進め、有罪・無罪を判断し、有罪の場合には量刑も決める。任期は一つの裁判に限られる。
司法制度改革推進本部が三月に公表したたたき台は「偏見報道の禁止」や「裁判員への接触禁止」などを規定。日本新聞協会などメディア側は「憲法で保障された『表現の自由』が実質的に制限される」として「偏見報道禁止」の全面削除を要求するとともに「評議中の裁判員への接触は原則自粛する」との方向で自主ルールづくりを進めている。

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