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第4回会議(田中真紀子前外相更迭、内閣支持率急落、記者クラブ、集団的過熱取材)

政官癒着追及の努力を 「報道と読者」委員会

 共同通信社は二十三日、外部識者三人による第三者機関「報道と読者」委員会の第四回会議を東京・虎ノ門の本社で開き、田中真紀子前外相の更迭と内閣支持率急落をめぐる報道や、記者クラブ問題などについて議論した。

 元最高検検事で帝京大教授の土本武司氏は、鈴木宗男衆院議員と外務省の関係について触れ「共産党が文書を入手し(国会で)追及したが、政治家と官僚のおかしな関係をメディアが浮かび上がらせる努力をしてもよかったのではないか」と指摘した。

 学習院大教授の紙谷雅子氏は「外相の更迭で、これだけ支持率が変わるのが不思議」とし「テレビは同じ場面を繰り返すので、印象がくっきりと残るのだろう。新聞を読む人より、テレビを見る人が多いのかもしれない」と感想を述べた。

 評論家の内橋克人氏は内閣支持率の低下を「膨らし粉がしぼんだだけ。これで小泉改革が遅れると懸念する声があるが、改革は正しいという大前提は疑わしい」と小泉改革の厳しい検証を求めた。

 日本新聞協会編集委員会が今年一月、新見解をまとめた記者クラブについては「どれだけ中央官庁の裁量的秘密主義の壁を破れるか。存在意義は唯一そこにある」(内橋氏)「記者会見を記事にする際には、だれのコントロールで行われたか分かるように、公的機関主催か記者クラブ主催か分かるようにした方がいい」(紙谷氏)などの意見が出された。

 このほか、配信記事について読者から寄せられた計十一件の意見や苦情や、「配信サービスの抗弁」が焦点となったロス疑惑報道をめぐる最高裁判決について三委員に報告した。

【詳報1】 政官癒着解明を 記者クラブの利点生かせ

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第四回会議が二月二十三日開かれ、評論家の内橋克人氏、元最高検検事で帝京大教授の土本武司氏、学習院大教授の紙谷雅子氏の外部識者三人が「田中真紀子前外相更迭と内閣支持率急落」や「記者クラブ」「集団的過熱取材」に関する日本新聞協会の見解をテーマに議論した。

 三委員は「政官癒着を浮かび上がらせる努力」の必要性を強調。記者クラブについては「背景を取材できるメリット」と「なれ合いが生じるデメリット」の両面を指摘し、メディアに中央官庁の裁量的秘密主義の壁を破るよう求めた。

田中人気と実態にかい離 変わらぬ日本外交

 ―田中真紀子前外相更迭後、小泉内閣の支持率が急落した。

 土本武司委員  現行憲法上、閣僚の任命・罷免権は総理大臣にある。閣議も国会の同意も不要。小泉首相は派閥の連合体としての内閣ではなく、適材適所主義の閣僚人事を目指した。

心境語る田中前外相

2月20日に行われた参考人質疑の後、感想を語る田中真紀子前外相=東京・永田町の衆院第二議員会館

 田中氏更迭の直接のきっかけが会議へのNGO不参加問題だったために『田中さんは正しい判断をしたのに、なぜ辞めさせるのか』という批判がなされているが、小泉首相は、田中氏が外務省問題に風穴をあけたことを評価しつつも、外相就任後の外相として不適切な言動の全体を総合して辞めさせたのではないか。

 内橋克人委員  政治家の評価は難しいが、田中氏が言うように政治改革をやらないと出発しない。「今の外務省をそのままにして外交なんかできるのか」というのが多くの国民の感想だ。不思議なのは、内閣支持率の低下で構造改革のテンポが遅れるとの論調になっていることだ。

 小泉改革の中身には多くの疑問がある。国民の閉塞(へいそく)状態の中でふくらし粉で膨らませた高支持率がしぼんだだけ。利益誘導政治に果たし状を突き付けている点は拍手喝さいだが、改革の手段は市場原理主義。それが本当の改革なのかという議論がメディア内部で行われているのか疑問だ。

 紙谷雅子委員  外相は独自の外交をするのではなく、首相の手足となって大きな方針を実現するのが役割。田中氏は手足として機能しなかった。外交政策上はむしろ大臣不在でよかったのかもしれない。現外相が組織を重視していることもあり、外交の方向は変わらないだろう。

 田中氏更迭でなぜこんなに内閣支持率が変わるのか。テレビを見ている人の方が新聞を読んでいる人より多いとしか考えられない。いわゆる外交ではなく、省内をきれいにすることを期待した人が圧倒的であったと理解しないと、説明は難しい。

 ―鈴木宗男衆院議員の外務省への圧力が問題化している。

 紙谷委員  鈴木氏が外務省の人事に介入していたことが分かり、国民はますます『なんで田中さんを辞めさせたんだ』という印象を持つ。国民にとって田中氏の魅力が一層高まる結果となった。

 土本委員  鈴木氏の問題は共産党議員が外務省のマル秘文書を入手し追及したところから出た。田中氏は政治家としてはフレッシュで外務省改革の声を上げていたが、一つ一つうみを出しきれたか疑問。外務省を専門に取材している記者が、長期にわたり官僚と癒着している鈴木氏の行為を浮かび上がらせる努力があってもよかったのではないか。官僚と政治家のおかしな関係自体をあぶり出さないといけない。

 内橋委員  フリージャーナリストが書いた週刊誌の記事に多くの人が注目している。今まで新聞、活字メディアに出てこなかった事実が明らかにされている。外務省の記者クラブにいる記者が国際関係や国際会議の取材に追われて、特定の政治家と官庁の癒着という構造的な問題の取材ができなかったというのなら、そういう取材の在り方を変えていかないといけない。

【詳報2】 官庁の秘密主義の壁破れ メディアの相互批判を

 ―日本新聞協会が一月、記者クラブ新見解を発表した。

 紙谷雅子委員 門戸が開かれたといっても、今までと違う手法で新しい課題を書こうとする人たちが排除される可能性がある。記者会見の主催が公的機関か記者クラブか、公的機関から事前に質問者数や質問設定を決められるなど制限があったのかどうか、記事にはっきりと書いてほしい。

 土本武司委員 記者クラブの理念は、官庁から情報をもらうだけでなく、積極的にアプローチして取材する形に変わりつつある。現象だけでなく、背景を知った上でその意味合いを記事にすることが必要だ。記者クラブのメリットとして、日ごろから官庁との接触が多ければ多いほど、そういうとらえ方ができる面がある。デメリットとしては、日常的に接触し、場所も官庁の一室にあると、なれ合いや癒着が出てくる。身内意識から批判性がなくなってくる。光熱費や部屋の賃料は、各社負担の方向にいくべきだ。

 内橋克人委員 記者クラブの実態を知っていたら高い評価はできない。ウオッチドッグでなく御用犬になっていないか。わたしは記者クラブに所属していないことを理由に、中央官庁に取材拒否された経験がある。記者クラブを当事者が自主的に改革していくのはとても難しいと思う。どれだけ官僚の裁量的秘密主義の壁を破れるか。記者クラブの存在理由は唯一そこにある。秘密主義に立ち向かう原点にどれだけ戻れるかが問題だ。

 ―新聞協会が昨年十二月にまとめた集団的過熱取材(メディアスクラム)に関する見解について意見は。

 紙谷委員 競争して取材するのが原則。過熱取材を避けるために代表取材をする場合、グループ以外の人はどういう取材をするのか。また、見解は私人への過熱取材を対象にしているが、公共性の高い人物の周辺に関しても代表取材などの要望が出てくるのではないか。

 土本委員 現実に見解が守れるのだろうか。現場記者は生々しさを求める。現場に乗り込み関係者から生の声を聞くことに意義があると考える。上司が一線の記者に取材しない勇気を要請しなければならない。もっとはっきりとした基準をつくらないと実現は難しい。取材に応じたい人を見つける努力も必要だ。

 内橋委員 市民社会に敵対する行動をマスコミがとると、メディア規制に利用されるという危険性を、現場や責任者、業界団体がよく知っていないといけない。

 紙谷委員 過熱取材が起こるからメディアが規制の対象になる。メディアは自主的な苦情処理機関で規制にストップをかけようとしているが、苦情処理機関はレベルの高さが求められる。新聞社の機関で処理された案件が、中立機関でどのように処理されるのか詰める必要がある。

 内橋委員 新聞がどれだけ自己規制をしても他のメディアが問題を起こす。それに対する批判を活字メディアはしてきたのか。メディア間の相互批判がとても大事だ。

記者クラブ見解とは
 日本新聞協会の記者クラブ見解 日本新聞協会は1月、記者クラブの運営指針となる「見解」を全面的に見直し、公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織」と位置付けた。閉鎖的との批判を踏まえ「開かれた存在」を強調。報道活動に長く携わり一定の実績を持つジャーナリストに門戸を開いた。組織としての記者クラブと、スペースとしての記者室は「別個」と明記。記者室設置は「行政上の責務」とし、利用の諸経費は「報道側が応分の負担をする」とした。
集団的過熱取材見解とは
 日本新聞協会の集団的過熱取材(メディアスクラム)に関する見解 大事件、大事故で報道陣が関係者に殺到する集団的過熱取材の解消に向け、日本新聞協会が2001年12月に初めてまとめた見解。最低限の順守事項として①いやがる人を集団で強引に包囲しない②葬儀などの取材は遺族や関係者に十分配慮する③住宅地などでは交通や静穏を阻害しない―を挙げ、被害者に対する「特段の配慮」を求めた。問題が起きた場合の現場での解決策として、取材者数の抑制や時間制限、代表取材などを選択肢として挙げた。また調整機能や一定の裁量権限を持った横断的組織を新聞協会の下に設けるとしている。

【詳報3】 「限定的条件での判断」 「配信」めぐる最高裁判決

 「報道と読者」委員会第四回会議で共同通信社は、ロス疑惑報道をめぐり通信社の配信記事を掲載した新聞社などにも名誉棄損の賠償責任があるとした一月二十九日の最高裁判決について三委員に報告した。

 共同通信社は「配信記事を新聞社が独自に裏付け取材するのは困難で、配信システムは新聞社が配信記事を信用してそのまま掲載することを前提に成り立っている」との理由から「通信社が賠償責任を負い新聞社は免責される」という「配信サービスの抗弁」を主張していた。

 ―判決をどうみるか。

 内橋克人委員 地方紙の存在は重要で、それを支える共同通信の役割もますます重要になるだろう。そのために共同通信と加盟新聞社の関係や、編集権や著作権の問題を含め役割分担の根拠を明確化することが必要だ。

 紙谷雅子委員 人々が受け取る情報は多様であるべきで、判断材料がたくさんあることが重要。その意味で今の通信社の仕組みは不可欠だ。通信社の存在と仕組みを読者に知ってもらう努力が重要だ。

 土本武司委員 判決は、報道が過熱化する中での私人の犯罪行為という限定された条件で、信頼性に関する定評が欠けるという判断だ。条件が違えば別の考えにもなり得るのではないか。私人の犯罪行為である限り捜査当局に確認しないと駄目、というのはあまりにも狭い解釈だ。

配信サービスの抗弁とは
 配信サービスの抗弁 名誉を傷つける内容などがあった通信社の配信記事をそのまま新聞社が掲載した場合、通信社が損害賠償責任を負い新聞社は免責されるとする法理。物理的制約などから地方新聞社などは独自取材が実質不可能なケースが多く、表現の自由や国民の知る権利に応えるために必要との観点から、米国では判例として確立されつつある。日本の下級審では判断は分かれていたが、最高裁は1月29日、ロス疑惑に関する共同通信配信記事をめぐり、私人の犯罪・スキャンダル関連報道について過熱報道がみられる現時点では、配信記事でも新聞社の責任は免れないとする初判断を示した。

【詳報4】 意見・苦情11件を報告

 共同通信社は「報道と読者」委員会第四回会議で、昨年十二月の第三回会議以降に加盟新聞社などを通じて寄せられた配信記事に対する読者からの意見・苦情計十一件を報告した。

 主な意見・苦情は▽セクハラ事件の最高裁判決時の記事で二審判決の内容を誤って引用したことへの訴訟当事者からの抗議▽「狂牛病」は不適切な表現で「BSE」に改めるべきだとの読者の意見▽狂牛病関係記事で国産牛肉を「和牛」と表記され在来種のイメージダウンを招いたとの読者からの指摘―など。

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