1. トップ
  2. 「報道と読者」委員会
  3. 2001年開催分
  4. 第1回会議(犯罪被害者報道の在り方や小泉純一郎首相の人気と報道の役割)

第1回会議(犯罪被害者報道の在り方や小泉純一郎首相の人気と報道の役割)

「時代切り開く啓発者に」 「報道と読者」委が初会議

 全国の新聞や放送局にニュースを配信している共同通信社は二十日、報道活動に一層の信頼性と透明性を持たせるために設置した外部識者三人で構成する第三者機関、「報道と読者」委員会の第一回会議を東京・虎ノ門の本社で開いた。

 評論家の内橋克人氏、元最高検検事で帝京大教授の土本武司氏、学習院大教授の紙谷雅子氏の各委員が、犯罪被害者報道の在り方や小泉純一郎首相の人気と報道の役割などをテーマに議論。「現状の追認報道でなく時代を切り開くジャーナリズムを目指すべきだ」(内橋氏)、「メディアは国民の代弁者、啓発者でなければならない」(土本氏)などの意見が相次いだ。

 冒頭、共同通信社の斎田一路社長が「的確な報道とともに、メディアの自主的な説明責任能力を向上させる努力が必要になっている」とあいさつ。

 メディアに対し内橋氏は「通説に振り回されない目が大切」、土本氏は「第三者機関がメディアと社会を結ぶ懸け橋の役割を果たすべきだ」、紙谷氏は「実名・匿名報道などについて今までの決まり事を見直す機会を」と要望した。

 支持率が85%を超す小泉人気について内橋氏は「(構造改革を掲げる)内閣の本質を見極めなければならない」、土本氏は「支持率が低かった(森内閣の)時よりもむしろ批判、監視、分析が必要」と指摘。紙谷氏は「本当に改革が行われるのか判断材料を提供してほしい」と注文した。

 被害者報道について、内橋氏は「ジャーナリズムは市民を敵に回してはならない」と強調。土本氏は「犯罪被害者の中にも事件の悲惨さを訴えたい人がいるはず。そういう人を探す努力をするべきだ」と述べ、紙谷氏は大阪の校内児童殺傷事件に触れ「被害者全員の顔写真集めに固執する必要はなかったのではないか」と問題提起した。

 また、共同通信社の配信記事や取材方法について読者から寄せられた意見、苦情など九例について共同通信社の対応を委員に報告、説明した。

【詳報1】 もっとほしい判断材料 小泉人気と報道

 ―メディアが小泉人気をあおっているとの批判もある。報道の役割をどう考えるか。

自民党が販売を始めた、小泉首相の人形が付いた携帯電話ストラップと顔写真をプリントしたTシャツ

 紙谷雅子委員 首相の郵政民営化論の実体は何なのか。最近の報道では郵政民営化が具体的に何を指しているのか見えていない。改革の内容に踏み込んだ解説的な判断材料をもっと提供してほしい。

 土本武司委員 80%を超える内閣支持率は異常だ。高支持率の実態を知りたい。だれであれ、権力の座についた瞬間からメディアはその批判者であるべきだ。小泉内閣を監視、批判、分析することが求められている。メディアは国民の代弁者であるだけでなく、啓発者でなければならない。

 内橋克人委員 日本資本主義の二面性についての認識が国民にもジャーナリズムにも乏しい。密室政治や利権構造、政・官・業の癒着などアジア的な「身内資本主義」に立ち向かおうとする小泉改革に国民は喝さいを送っている。これはこれで結構なことだ。しかし、重要なことは日本経済はもう一面で高度に成熟した資本主義社会であり、小泉政権の過剰な市場原理主義、ネオ・リベラリズムが何をもたらすか、構造改革というキャッチフレーズの中身と限界を検証して示すのがジャーナリズムの責務だ。

 ―田中真紀子外相への批判をすると抗議が殺到する状況をどう見るか。

 紙谷委員 不健全な状況だ。外相の発言が当を得ているのか、的外れなのか、一つ一つ検証しなくてはいけない。政治家への批判は、個別的な生活スタイルを焦点にするべきではなく政策中心にするべきだ。

 土本委員 別の意見を封じるやり方は、戦前の大政翼賛会、ナチス・ドイツのやり方で危険だ。メディアはそういう傾向の問題点を不断に指摘すべきだ。

 内橋委員 党首討論での各党の持ち時間は、議席数に応じて比例配分するという民主政治の手法によっている。テレビのワイドショーではこの基本が足げにされ、野党側の発言者が常に画面片隅に押し込められ、わき役でしかない。ワイドショーを通した途端、日本の民主政治が、それを守るべきジャーナリズム自身によって否定される。活字はなぜこれを批判しないのか。系列その他でできないのではないか。日本独特のジャーナリズムのゆがみがある。

【詳報2】 メディア規制に危機感 市民社会の信頼回復を

 全国の新聞社などにニュースを配信している共同通信社が報道活動に一層の信頼性と透明性を持たせるために設置した第三者機関、「報道と読者」委員会の第一回会議が六月二十日、開かれた。

 評論家の内橋克人氏、元最高検検事で帝京大教授の土本武司氏、学習院大教授の紙谷雅子氏の三委員は、メディアへの法的規制の動きに強い危機感を表明。「今、メディアに望むこと」として「市民社会の信頼回復を図るべきだ」などと提言した。この後「小泉純一郎首相の人気と報道の役割」や「犯罪被害者報道の在り方」をテーマに議論した。共同通信社からは斎田一路社長、新居誠編集局長らが出席した。

今、メディアに望むこと

「現状追認報道」脱皮を

 内橋克人委員 今、ジャーナリズムが危機に立っている。ジャーナリズムを担う当事者に危機感の薄いことが一層危機を深めている。報道規制の動きは市民を味方に付ける形で進んでおり、マスコミ不信を強める市民が過剰取材や過剰報道に何らかの規制が必要と感じ始めている。ここに状況の深刻さがある。

 従来なら業界が一致して対抗することが可能だったが、今はメディアが分裂している。活字やテレビなどの相互批判がなされていない。とりわけ被害者の人権への配慮が欠如し、商業主義的競争が加速している。ターゲットが違う。現状追認報道から、時代を切り開く新しいジャーナリズムに脱皮し、市民社会の信頼を回復しなければならない。

自主規制で解決を

 土本武司委員 メディアは人権擁護の重要な防波堤と考えられてきた。しかし法相の諮問機関、人権擁護推進審議会の答申では、逆にメディアによる人権侵害が公的機関による救済の対象とされており、違和感がある。犯罪被害者のプライバシーを守り過剰な取材を防ぐには、メディアの自主規制にベースを置くべきだ。

 報道機関が設置した第三者機関がメディアと市民を結ぶ懸け橋として健全な見解を提供する役割を果たすことが期待されている。テレビではBRO(放送と人権等権利に関する委員会機構)があるが、官製の機関が規制に乗り出して来ないためにも、活字メディアにも横割りの自主規制機関があっていいのではないか。

新聞の優位性生かせ

 紙谷雅子委員 なぜ表現の自由が本当に大切なのかが、あまり読者に伝わっていないのではないか。メディアが果たすべき役割を考える必要がある。後でじっくりと読める記録性という新聞の役割や、解説、分析といった新聞の優位性を意識して新聞や記事を考えることが重要だ。事件報道の匿名性の議論について、ここでもう一度、再考する機会ではないかと思う。

 公人や公益性に関する事柄は、チェック機能という観点から、はっきりと書かなければならないが、名前を出す必要のないものは書かなくていいというスタンスがあるのではないか。今までメディアの中で常識と考えられてきた決まり事を見直す機会になっていけたらいいと思う。

【詳報3】 安心取り戻す視点を 犯罪被害者の報道

 ―犯罪被害者の報道はどうあるべきか。事件の深刻さを伝える意味から被害者の取材は重要と考えている。しかし少年や精神障害者の事件の場合、容疑者は匿名、被害者は実名という不公平感に批判もある。

 内橋克人委員 より良い解決方法を求めていく努力が必要。実名・匿名報道の問題も重要だが、社会に広がる格差構造、崩壊していく既存の価値観、加害者の置かれた社会的な位置など追及しなければならないことはたくさんある。実名・匿名について瞬時に最善の判断をするために、過去の事例をデータベース化し、一線の記者やデスクとは別に判断するチームが社内にあってもいい。

 土本武司委員 集中豪雨型の取材で被害者側は、ほとほと嫌になってしまうのだろう。中には事件について話をしたいという人もいるはず。そういう人を探す努力をするべきだ。

 紙谷雅子委員 大阪の校内児童殺傷事件で亡くなった八人の子供たちの顔写真集めは本当に必要だったのか。一般論として加害者についても、名前が出ると通常の社会生活に戻れず、再び犯罪に走ることを結果的に促してしまう。容疑者が刑罰を受けた後に社会復帰することを考慮するべきだ。事件報道全体を長い視点で見つめ直すことが必要ではないか。

 土本委員 大事件の容疑者の名を伏せると、すべて匿名になってしまう。加害者はむしろ実名原則とするべきだ。

 内橋委員 大阪のような事件が起きると、市民は現代社会の「軸」が崩れ迷走しているという不安に包まれてしまう。社会の安定、安心をどう取り戻すかという視点がジャーナリズムにほしい。集中豪雨的な取材で市民を敵に回してはならない。メディアには自分たちの力で市民を守る、闘うという姿勢を見せてほしい。

共同通信の実名・匿名基準
 共同通信社は、実名・匿名報道の基準について「国民の知る権利にこたえ、記事の真実性を担保するためニュースは実名で報道するのが原則。しかし法律の規定がある場合や、書かれる人の名誉やプライバシーを傷つける恐れのある場合は例外的に匿名」としている。事案によっては、事件の内容、被害者、加害者、家族や遺族の感情、市民感情などを考え合わせ、過去の事例や最近の流れに照らして総合判断している。

【詳報4】 読者対応の仕組み 意見・苦情9例を報告

 共同通信社が配信した記事に対する読者の意見や苦情は、記事を掲載した加盟新聞社などを通じて共同通信社に寄せられ、取材・編集に当たった担当部と、「報道と読者」運営委員会に伝えられる。

 取材から配信に至る経緯を調べ、問題があった場合は訂正記事や謝罪などの対応を取る。運営委員会はこれらの結果をまとめ、「報道と読者」委員会の委員に報告する。

 第一回会議では四―六月の配信記事中、事実関係や記事の表現、取材方法などをめぐり「事実誤認」「不適切」などの意見や苦情が寄せられた九例を委員に報告した。

斎田一路・共同通信社社長あいさつ

 内外の激しい変動に対応して的確な報道をすると同時に、全体状況を把握して流れをつかむ報道が求められている。人権、プライバシー、個人情報保護の意識が強まり、メディア批判が高まっている。メディアの自主的な説明責任能力を向上させる努力が必要だ。「改革」をスローガンに掲げた小泉内閣発足を機に、従来の手法を見直すムードが高まっている。見直すべき対象にメディアも入るとの受け止め方が出ている。一段と的確、厳正に情報を収集、選択し問題点の整理をすることで信頼を確保しなくてはいけない。貴重な意見を生かしていきたい。

ページ先頭へ戻る