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第59回会議(STAP、集団的自衛権)

STAPと集団的自衛権論議 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

「報道と読者」委員会に出席した(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=7月5日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は7月5日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第59回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「STAP細胞」と「集団的自衛権」の報道をテーマに議論した。

 STAP細胞報道について、介護・暮らしジャーナリスト太田差恵子(おおた・さえこ)氏は「リケジョ」や「かっぽう着」といった報道は失礼ではと問題提起、理化学研究所の小保方晴子氏の人となりを報じた経緯をただした。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は「研究者の就職や環境を説明しないと問題の闇の深さは見えない」と述べ、大学の現状も掘り下げる必要があるとした。

 弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は、1月末の発表時の報道について「取材を尽くしたが(論文の)真偽の見極めに限界があったと言うなら、具体的に検証しないと抽象論になる」と指摘、一層の検証を求めた。

 集団的自衛権報道について神田氏は「視点や切り口を変えて問題が提起され、多様な意見が紹介された」と述べ、論点が複雑になるにつれ、解説や企画記事が理解を助けたと評価した。太田氏は「重要なテーマで若い世代に理解を深めてもらうのが大事」とし、小学生向け記事も必要と強調した。

 佐藤氏は日米開戦前の世論調査で強硬論が過半数だったことに触れ、世論調査を盾に論じる報道スタイルに危惧を示した。

STAP報道で問題提起  「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第59回会議が7月5日開かれ、委員3人が「STAP細胞」「集団的自衛権」の報道をテーマに議論した。STAP細胞問題について介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は「リケジョ」「かっぽう着」といった人物報道の経緯をただした。京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、若手研究者を取り巻く現状の掘り下げも必要と提起。集団的自衛権に関し、弁護士の神田安積氏は論点が複雑化する過程で解説や企画記事が理解を助けたと評価した。


【テーマ1】STAP細胞問題

人物報道は慎重に--太田氏 研究環境問うべき--佐藤氏 具体的な検証を--神田氏

「STAP細胞」について発表する、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏=1月、神戸市中央区

「STAP細胞」について発表する、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏=1月、神戸市中央区

 太田委員 論文を掲載した英科学誌ネイチャー、ハーバード大、理化学研究所と出てくると、信じて当たり前では。今回の報道ではやはり限界があっただろう。一方でどんな人がやり遂げたのかということに読む側は大きな興味がある。しかし小保方晴子さんについては早い段階で「リケジョ」「かっぽう着」といった報道が随分あり、失礼だと思った。かっぽう着や研究室に飾ったムーミンというのはいくらでも演出できるだろう。業績報道と同時にあえて報じたのはいかがなものか。


 佐藤委員 最初の段階で発表を疑ってかかるのは難しかっただろう。にもかかわらず、科学報道が発表ジャーナリズムにならないためには、相手の仕掛けが何だったのか総括も必要だ。

 大学人として今回感じたのは世間との温度差の大きさだ。今も細胞の有無の検証が重要と議論され、小保方さんに同情論もあるが、大学ではそんな議論はあり得ない。小保方さんを実験に参加させた理研にある種の非常識さがある。日本分子生物学会の理事長も参加に批判の声明を出した。たとえば報道機関でも、記事を盗用した記者が写真も使い回しをしていたのが判明したのに調査報道に必要だからと取材メンバーに加え、処分を保留するのが常識だろうか。

 神田委員 共同通信の取材経緯を説明した4月1日の配信記事で科学部長が「取材を尽くしたつもりだが、真偽を十分に見極めることに限界があったと認めざるを得ない」とコメントしている。ネイチャーや理研の権威を根拠としたことは別としても、報道前に論文を第三者に読んでもらうなどしており、取材を尽くしていると思う。にもかかわらず「発表時に問題点を見抜けず限界があった」と言うならば、配信前にいかなる裏付け取材をすればよかったのか。また、その時点の取材経緯を踏まえ、どのように報道を工夫すればよかったのか。問題があったという総括をするだけではなく、取材や報道にいかなる工夫の余地があったのかを具体的に検証する必要がある。さらに論文の問題点についてネット上で指摘が先行したが、共同通信として初報のあと独自に裏付け取材を行っていたのかについても説明する必要がある。

STAP細胞問題の経過

 楢原晃(ならはら・あきら)科学部長 新たな理論や発見を分かりやすく伝え、研究成果の持つ意義や課題を提起したいと取り組んでいる。1月末の発表時は、大々的な報道で読者にiPS細胞に続く日本発の新たな発見を得たとの高揚感を与えた。その後、研究不正が認定され、当初報道と落差の大きい状況になった。取材経緯を説明した記事のコメントは結果責任も意識した。

 山本裕之(やまもと・ひろゆき)整理部長(前大阪社会部長) 1月28日の発表会見には東京、神戸、大阪の記者4人、デスク1人が取材した。その後、研究室に移り、かっぽう着を着て写真撮影があった。初報ではかっぽう着の話は人となりを紹介する原稿の一番後ろでさらりと触れるのにとどめ「米国で研究しているとき誰も信じてくれず大変だった」との記事にした。記者やデスクはかっぽう着より研究の苦労話をきちんと書いた方がいいとの思いだった。しかし、各社の紙面はリケジョ、かっぽう着などが見出しになっていた。当時こんなことになるとは思わず大きな研究をした人を身近に感じてもらおうとどんどん記事を書いた。

 佐藤委員 科学報道に当たっては、大学の中での博士号の扱いや、若手研究者の就職、環境がどうなのかという点を同時並行的に説明しないと問題の闇の深さは見えてこないという印象だ。

 楢原科学部長 大学の教育環境も重要な指摘。今後も取材、検証し教訓を積み重ねたい。

 神田委員 今回の報道には、ジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)の問題もあった。4月に入ってもなお、小保方さんの会見記事に際して「リケジョの星の目は潤み」「紺色のワンピースにパールのネックレス」「ファッションブランドの指輪はない」というような記載がある。どのような議論がなされたうえで掲載に至ったのか。

 山本整理部長 会見は夕刊締めきり間際で、表現について部内で議論もあった。世間の関心事でもあり、指輪の有無にも触れた。

STAP細胞問題
 STAP細胞問題 理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏や笹井芳樹(ささい・よしき)副センター長らが1月末、体細胞に刺激を与える方法で新たな万能細胞を作ったとの論文を英科学誌ネイチャーに発表。その後、画像の流用や加工などが指摘された。理研は4月、画像の捏造(ねつぞう)や改ざんの不正があったと公表したが小保方氏は「悪意のない間違いだ」と主張。理研は7月から小保方氏による細胞が実在するかどうかの実験実施を認め懲戒処分を保留した。小保方氏らの申し出により掲載論文は撤回された。

【テーマ2】集団的自衛権報道

理解助けた解説--神田氏 分かりやすさ大事--太田氏 世論調査に危惧も--佐藤氏

1日、臨時閣議を終え、記者会見する安倍首相=首相官邸

臨時閣議を終え、記者会見する安倍首相=7月1日、首相官邸

 神田委員 共同通信の記事をあらためて読んだが、極めて重要な政治問題であるということはきちんと伝わっていたと思う。国の在り方が大きく変わる、国の最高法規である憲法が内閣の解釈で変えられ、国民や国会が置き去りにされているということが伝わっていた。もっとも(政府が安全保障法制の課題として示した)15事例が出てきたあたりから、通常の記事が分かりにくくなっていた印象は否めなかった。他方で解説や企画記事は分かりやすく、この問題を理解するのに随分と助けられた。視点、切り口を変えながらさまざまな問題が提起され、多様な意見が紹介されていた。

 公明党がなぜ容認に至ったのか、その分岐点はいつだったのかについては、もっと読者が知りたいところだったのではないか。かつての自民党には多様性があったが、今の自民党の中にハト派がいなくなったと言われる。本当にそうなのか。自民党議員一人一人の本音に迫る報道があってもよかった。

集団的自衛権の行使8事例

 佐藤委員 私は集団的自衛権の行使を容認するなら解釈変更でなく、憲法改正の議論をすべきだという立場。その上で指摘すれば、識者のコメント記事などで護憲派とされる人たちが、中国の海洋進出や朝鮮半島の問題に国民が抱く不安を直視せず、憲法9条下での安全保障の具体的なイメージを提示せず、ただ単に護憲を連呼しているように思えた。これでは、一般の国民に届かないだろうなという印象を受けた。仲良くしていれば軍隊などいらないという議論は現実的ではないということを、いくつかの反対論の中で感じた。

 太田委員 集団的自衛権が必要なのか、不必要なのかというところで論じられてきたが、みんなの一番大きな関心事は日本が戦争をする国になるのか、しない国になるのか、どちらなのかというところにあったと思う。決め方に対するフラストレーションも大きかった。関心事、フラストレーションと報道がうまくかみ合っていなかったのではないか。この問題は本当に重要なテーマだ。公明党の対応が注目されたが、早い段階で公明党の支持者の方々がどのような意見を持っているかというような記事があってもよかったのではないか。

 鈴木博之(すずき・ひろゆき)政治部長 集団的自衛権の行使容認を閣議決定するまでの過程で、自民、公明両党は与党協議会をフルオープンにはせず、非公式な協議も重ねた。どういうやりとりが展開されたのか分からないということを一番問題視した。読者に判断材料を提供するという観点から、協議の中身をできるだけ明らかにしていこうというスタンスで臨んだ。具体的には協議に参加した議員にインタビューして切り込むという手法も用いた。

 杉田弘毅(すぎた・ひろき)編集委員室長 安全保障、立憲主義の問題や政治の在り方、対米関係などさまざまな要素が絡んでおり、そうした論点についてかみ砕いた書き方をすることで、理解を助けることに力点を置いた。

 出口修(でぐち・おさむ)社会部長 一般読者の目線での分かりやすい記事の出稿に努めた。立憲主義、憲法の最高法規性とは何なのかといった、憲法の「そもそも論」にもこだわった。

 太田委員 分かりやすい報道によって、特にこれからの若い世代に理解を深めてもらうことが大事だ。子どもたちにも読めるような、理解できるような内容というのが必要になってくると思う。小学校の低学年ぐらいから読める記事というのも時折あっていいのではないか。賛成であれ反対であれ、自分の頭で考えられるような記事づくりを心掛けてほしい。

 鈴木政治部長 この問題については、今後も分かりやすく報じていきたい。

 佐藤委員 世論調査を盾に論じる報道スタイルには危惧を抱いている。1940年には対米開戦の是非を問う世論調査が行われたが、知識人層でさえ「強硬に出るべきだ」「戦争を辞さず」が過半数だった。国民全体なら圧倒的だったろう。このように世論が動いたときにどうするのか。安全保障をめぐる世論調査の使い方は、慎重に検討してもらいたい。

集団的自衛権
 集団的自衛権 密接な関係にある同盟国などが武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていなくても自国への攻撃と見なして実力で阻止する権利。国連憲章51条は、自国への侵害を排除する個別的自衛権とともに加盟国の権利として認めた。歴代内閣は憲法9条の下で許容される「必要最小限度の自衛権の範囲を超える」と解釈し、行使を禁じてきた。

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