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第57回会議(五輪招致、消費税)

五輪と消費税報道を議論 「報道と読者」委員会

報道と読者委員会

意見を述べる(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=19日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は10月19日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第57回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「五輪招致報道」と「消費税報道」をテーマに議論した。

 東京に開催地が決定した2020年五輪招致報道について弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は、東京電力福島第1原発の汚染水漏れを安倍晋三首相が「状況はコントロールされている」と発言したことに「国内で言っていなかったことを海外で言った。言葉の重みを基底にして取材、報道をしていってほしい」と継続的な報道を要望した。
 
京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は「一般のニュース報道とは性格が若干異なる」と五輪報道のイベント性を指摘。介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は「記事を読んで、みんなが手放しで喜んでいるわけではないと感じた」とした上で被災地復興への支障がないのか検証を求めた。
 
 消費税報道をめぐっては、佐藤氏が「今の段階から欧州並みの20%台の消費税率を見据えなければ、日本の福祉体制が維持できない」と議論の必要性を強調した。
 
 神田氏は「税と社会保障の一体改革」に触れ、「本当に社会保障に使われるかをきちんと検証してほしい」と述べた。

 太田氏は「社会保障の改革は待ったなしの状況。そこを考えられる記事を書いてほしい」と話した。

汚染水問題の継続報道を 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第57回会議が10月19日開かれ、3人の委員が「五輪招致報道」と「消費税報道」をテーマに議論した。五輪招致報道で弁護士の神田安積(かんだ・あさか)氏は、安倍晋三首相が状況はコントロールされていると述べた東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題の継続的な報道を要望。介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子(おおた・さえこ)氏は、五輪開催で被災地復興に支障が出ないか検証を求めた。消費税報道に関し、京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己(さとう・たくみ)氏は日本社会の在り方と税制は不可分と指摘、議論の必要性を強調した。


【テーマ1】五輪招致報道

被災地復興に責任--太田氏 安倍発言検証を--神田氏 イベント性高い--佐藤氏

2020年五輪の開催都市が東京に決まり、喜ぶ安倍首相(右から3人目)、猪瀬直樹知事(同4人目)ら=9月、ブエノスアイレス

2020年五輪の開催都市が東京に決まり、喜ぶ安倍首相(右から3人目)、猪瀬直樹知事(同4人目)ら=9月、ブエノスアイレス

 神田委員 8月後半ころからメディアも取り上げるようになって、急に関心が高まったようだ。招致と原発との関係については、日本メディアではなく海外メディアの報道を見てそういう視点があったと気付かされた。
 安倍首相は汚染水問題について、状況はコントロールされていると断言した。健康問題についても現在も将来も起きないと述べた。発言内容自体にも問題があると思うが、国内で言っていなかったことを海外で言った。国内での取材はどうだったのか。首相が発言した言葉の重みを基底にして、取材、報道をしていってほしい。

 長沢克治(ながさわ・かつじ) 科学部長 安倍首相の発言については、事実をもって矛盾点を冷静に伝えてきた。何が一番危なくて、何が一番優先されるべきなのかを判断しながら報道していきたい。

 鈴木博之(すずき・ひろゆき) 政治部長 (状況がコントロールできているとの首相発言について)私たちも含め、誰もそう思っていなかったから国内では聞かなかった。国際オリンピック委員会(IOC)総会は国際会議の場。国際公約という位置付けになるので、今後、どう対策を取るかについてはきちんと質問してゆく。

 佐藤委員 実際のところ東京有利というのは基本的に変わらなかったのではないか。五輪招致ニュースそのものがかなりイベント性が高く、一般のニュース報道とは性格が若干異なると感じている。
 招致活動と皇室の関与については、五輪招致がもともと政治的だし、国際政治の中で皇室が果たしている役割は現実的に存在している。この問題の立て方にはもやもや感が残った。

 江波和徳(えなみ・かずのり) 運動部長 東京が何をどう準備しながら勝利を勝ち取るためにやってきたかを重点に取材を進めてきた。汚染水漏れについては向かい風になるかもしれないということで、きっちりと押さえて報道した。

 太田委員 東京にならなければいけないという流れの中で、水を差すなという同調圧力的な空気が出来上がっていた。記事を読んで、みんなが手放しで喜んでいるわけではないと感じたし、思っていた以上に冷静に書かれていた。「被災地復興に責任」との記事もあり、五輪開催で被災地復興に支障が出ないか検証してほしい。

 石亀昌郎(いしがめ・まさお) 社会部長 前向きの部分もあるが、おめでたい一色でいいのかというかなり冷めた見方も被災地にはあった。直ちに福島の人たちの声を集めて、批判的な声をまとめた。

 佐藤委員 招致決定の号外がたくさん出されたが、今の時代に号外が必要なのか。

 尾崎徳隆(おざき・のりたか) ニュースセンター長 号外については、歴史に残る日であるということに加え、大部分の新聞社は休刊日で翌日の朝刊がないという特殊事情もあった。

 吉田文和(よしだ・ふみかず) 編集局長 プラス、マイナスをきっちりと報道しようという基本姿勢だった。汚染水漏れ問題について共同は英文サービスを通じて海外に細かく伝えてきた。ある時点でこの問題と招致を絡める報道が始まり、それが日本国内にも跳ね返ってきたようだ。

2020年五輪招致 
 2020年五輪招致 安心、安全を掲げた東京のほか、既存施設多用による開催費軽減を訴えたスペインのマドリード、イスラム圏初の五輪開催を目指したトルコのイスタンブールの3都市が立候補し、招致レースを展開した。国際オリンピック委員会(IOC)委員の投票による9月の開催都市選定では、まずマドリードが落選。2都市間による投票で60票を獲得した東京は、36票のイスタンブールに大差をつけて開催権を獲得した。東京での五輪開催は1964年以来56年ぶり2度目。

【テーマ2】消費税報道

長期的ビジョンを--佐藤氏 理念に返り検証を--神田氏 社会保障に関心--太田氏

記者会見で来年4月から消費税を8%へ引き上げることを表明する安倍首相=10月1日、首相官邸

記者会見で来年4月から消費税を8%へ引き上げることを表明する安倍首相=10月1日、首相官邸

 太田委員 多くの読者が関心を持っているのは、法人税を下げたら本当に給料は上がるのか、消費税を上げたら社会保障は充実するのか、の2点ではないか。どうなるのかを見なければ分からないので、今は回答がないのは仕方がないが、これからもずっと注視していってほしい。
 社会保障の改革は待ったなしの状況に来ている。自助と共助と公助の組み合わせがどのような社会になっていくべきかを全員で考えなければならない時代に入っている。そこを考えられるような記事を書いてほしい。

 神田委員 この増税のキーワードである「税と社会保障の一体改革」に立ち返って考える必要がある。法律ができた当時の理念からずれていっているということが既に問題になっており、本当に社会保障に使われるかをきちんと検証してほしい。歳出削減、給付の抑制も厳しく報道してほしい。出口が広がっていたのでは、入り口をいくら広げてもお金は足りない。
 復興特別法人税の1年前倒し廃止では、大企業中心の減税が本当に日本経済の繁栄につながるのか、特に賃金に跳ね返るのかが今は抽象的に語られている。その効果が出るべき時期が来たときには検証し、報道してほしい。

 谷口誠(たにぐち・まこと) 経済部長 社会保障と税の一体改革という理念が失われていく過程を追った。賃上げの問題は、春闘までの長い期間の最大の取材課題だと思っている。

 吉田文和(よしだ・ふみかず) 編集局長 社会保障と税の問題は、例えば所得再配分をどうするかなどの視点に戻って議論を展開していかなければならないと思う。10年後、20年後どうなるという問題をどういう形で分かりやすく伝えていくかを考えていきたい。

 佐藤委員 10年後、20年後を考えると、本来は今の段階から欧州並みの20%台の消費税率を見据えた議論をしておかなければ日本の福祉体制が維持できないのは目に見えている。
 欧州連合(EU)諸国が20%を超える付加価値税になった背景は、保守政権が進めたわけでなく、リベラルな政権が福祉を充実させるためにやってきたという意味を具体的に伝えていかないと日本社会の道筋は見えてこない。どういう社会を目指すかということと税制は不可分であることを日々強調しておかなければならない。
 増税が選挙の鬼門であるという神話を乗り越えていかないと前に進めなくなるのではないか。選挙前だと増税はできないと繰り返し言うことが、ある種の神話の刷り込みのような形になっていることを心配する。

 鈴木博之(すずき・ひろゆき) 政治部長 国会議員は実際、消費税増税の選挙への影響を気にしている。今は増税を隠しているかもしれないが、選挙後には増税があり得ると繰り返し指摘しておいた方がいいという立場で報道したつもりだ。

 佐藤委員 軽減税率では、新聞の公共性は自明のことで、今必要なことは、コメやみそが生活必需品であるのと同様に、新聞が「思索のための食糧」であるという論理を打ち出すべきだ。

消費税増税法
 消費税増税法 社会保障の安定財源を確保することを目的に、民主党政権下の2012年8月に成立した法律。現行5%の消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%に引き上げることを明記した。増税の条件として経済状況を好転させることも付則に盛り込んだ。安倍晋三首相はことし10月1日、予定通り8%に引き上げると表明し、10%への引き上げは再度判断する考えを示した。

考えるきっかけに 委員の提言

太田差恵子委員

 太田委員 資料として送られてきた新聞を読んでインターネットの記事との違いをあらためて考えた。社会で何が起きているかはネットで把握しているが、どう理解して、どう考えるかということを情報提供してもらうのが新聞だということを痛感した。考えるきっかけになる記事を今後も配信してほしい。

佐藤卓己委員

 佐藤委員 新聞が誰でも読めるということが日本の民主主義のためには不可欠だと思う。その体制をどのように維持していくかを真面目に考える時代が来ている。宅配サービスを前提とした新聞というシステムそのものが、地域コミュニケーションの核となっており、そこにニュースを提供する共同通信社のような組織に大いに期待したい。

神田安積委員

 神田委員 新聞への軽減税率適用や特定秘密保護法案の問題をめぐり、報道側から知る権利や取材の自由の重要性が強調されている。しかし市民の側から軽減税率を支持する声やメディアの取材の自由を危惧する声が大きくならない。取材の自由を享受するに足りる十分な取材をしているか、読者の知る権利に十分に資する報道がなされているか検証し、提言していきたい。

当たり前でも倫理研修を

 共同通信社は10月19日に東京・東新橋の本社で開いた外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第57回会議で、9月に発覚した写真偽装問題と、新聞協会賞編集部門を受賞した女子柔道代表の暴力・パワーハラスメント問題のスクープについて報告した。
 プロ野球5試合、アマチュア野球2試合で、写真記者が本塁打の写真として同じ選手の別の打席を配信した偽装問題については、読者、新聞社の信頼を裏切る重大な事案と受け止めていると説明。

 委員からは、当たり前でも倫理研修を実施し、重要写真を取り損ねたときに正直に言える道を議論して、このケースを将来に生かしてほしい、との意見が出た。

 吉田文和(よしだ・ふみかず)編集局長は「通信社として記事や写真を提供する以上、一点の曇りもあってはいけないし、揺るがすことはできない」と述べた。

 新聞協会賞受賞については、全日本柔道連盟の不祥事が明るみに出るきっかけとなっただけでなく、指導と体罰の問題について国民全体の目を向けさせたことが評価されたことが報告された。

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