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第53回会議(電力需給、橋下大阪市長報道)

電力と橋下市長報道議論 「報道と読者」委員会

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意見を述べる(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=6月23日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は6月23日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第53回会議を東京・東新橋の本社で開いた。3人の委員が関西電力大飯原発(福井県)再稼働問題を含む「電力需給」、「橋下徹大阪市長報道」をテーマに議論した。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は「大阪維新の会が反原発を言うようになり、政局的な側面が強調されてしまった」としてエネルギー政策などで長期的に考える視点があるべきだと述べた。
 介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は、大飯原発が再稼働しなくても電力融通で西日本は5%強の節電で済むとの共同通信の試算報道に「納得したが、(大飯原発再稼働を前提にした政府見通しとの)差を解説してほしかった」と述べた。

 弁護士の神田安積氏は政府、電力会社の需給見通しに対し「原発事故で情報隠しが疑われる例が出ていることを考えると強く疑問視する方向での検証が必要だ」と述べ、電力会社には一層の情報公開が求められると強調した。

 国政を「決められない政治」と批判する橋下市長の姿勢には、神田氏が「決める中身が問われない時代になり、危惧を覚える。合理的な批判をする視点を忘れず報道してほしい」と注文した。

 佐藤氏も「市長のメディア戦略に乗り過ぎている」と政局中心の報道一般に懸念を示し、太田氏は「市長が何を切り捨てているかも含め、客観的な記事を書いてほしい」と求めた。

電力需給などを議論 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第53回会議が6月23日開かれ、3人の委員が関西電力大飯原発(福井県)再稼働問題を含む「電力需給」「橋下徹大阪市長報道」をテーマに議論した。

 電力需給報道について京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、長期的な視点を求め、介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は、生活に役立つ情報を要望した。橋下氏報道について弁護士の神田安積氏は、問題は政策の中身だと指摘した。

【テーマ1】電力需給

長期的な視点を―佐藤氏 役立つ生活情報を―太田氏  疑問持ち検証を―神田氏

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関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に関する会談を終え、福井県の西川一誠知事(左端)に深々と頭を下げる野田首相=6月、首相官邸(野田佳彦)

 佐藤委員 電力の需給の問題は、大阪維新の会が反原発を言うようになった段階から、政局的な側面が強調され、将来の日本全体での電源構成のような議論とつながりにくくなった。目の前にある大飯原発再稼働問題や関西電力の電力不足の問題も重要だが、多メディア化した時代の新聞の役割には、もう少し長い時間での思考を促すような視点が強くあってしかるべきだ。

 原発推進の非常に大きな力になっていた二酸化炭素の削減や地球環境への負荷などの問題に触れないのは、十分な議論の材料を提供していないと思った。

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太田委員

 太田委員 原発ゼロでも電力融通により5%強の節電で西日本全体の電力が賄えるという試算記事を共同通信が出したが、すごく納得した。本当は足りている、計画停電にはならないだろうと思ったが、6月22日に出た(大飯原発再稼働を前提に節電目標を設定した政府の見通しとの)差を解説してほしかった。

 読者にとってはその場その場の報道も大事だが、中長期的にどうしていくべきかを考えられるような記事を継続的に配信してほしい。

 家庭の節電Q&Aのような記事は生活情報として役立つ。(電力使用の)ピーク以外はエアコンを消さなくてもいいなど、しなくていいことはしなくていい、ともっと分かりやすく伝えてほしい。

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神田委員

 神田委員 政府や電力会社の需給見通しが誤っていると必ずしも断言はできない。しかし、政府が情報を隠し操作していたと疑われる例がいくつも明らかになったことを念頭に置くと、強く疑問視する方向で検証することが必要だ。民間会社とはいえ、地域独占企業である電力会社については情報公開をさせ、徹底検証できるようなシステム改革をメディアに提言してもらいたい。

 永井利治経済部長 情報開示の徹底を求めることに加え、開示されたデータや文書をわれわれがどう評価するのかが重要だ。評価する手法については、専門家との協力なども考えていかなければならない。

 上村淳原子力報道室担当部長 情報を電力会社が持っていて、それを全部出させることに成功していない。それが全ての問題の根源と考えられる。共同通信の「5%節電で賄える」という試算については、現状ではほとんど実現性がないという電力会社の言い分を政府が認めたのだろう。

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佐藤委員

 佐藤委員 「安全神話」が原発批判のキーワードとして記事の中で使われている。百パーセント安全というのは科学的ではなく、コストとリスクのバランスを見ていく必要があり、「安全神話」という言葉は避けるべきだと思う。節電5%など個人や企業のミクロ・レベルの問題と、原油価格や為替相場などマクロ・レベルの問題をバランスよく議論していかないとリスク問題をかえって矮小(わいしょう)化してしまう。

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 神田委員 官僚とか東京電力とか大きな組織の話を記事にする時に匿名的な報道になっていて、誰がどういう立場で判断しているのか大変見えにくい。できる限り詳細に伝えてもらいたい。

 吉田文和編集局長 自前でデータを集める努力をしなければもう読者の需要に応えられないと強く感じたのが原発、電力の問題だ。政府ベース、業界ベースではなく、あらゆる方向にいろんなネットワークを広げて情報を収集し、自分で考えてやっていく必要がある。

電力需給
 全国または一定の地域内で利用者が使う電力と、発電設備で供給できる電力とのバランスを指す。需給を安定させる責任は電力会社にあるが、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故を踏まえ、昨年からは政府が夏、冬の需給見通しを決め、利用者に節電を呼び掛けている。政府の予測は電力会社の報告がベースで、長引く原発停止の影響を過大に見積もっているとの指摘もある。

【テーマ2】橋下大阪市長報道

問題は政策の中身―神田氏 多数派を議論に―佐藤氏 判断材料の報道を―太田氏

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記者団の質問に答える大阪市の橋下徹市長=5月、大阪市役所

 神田委員 「決められない政治」の現実があり、決めることは大切だと思うが、問題はやはり決める内容。決めること自体で評価され、中身が問われない時代は非常に怖い。また、主権者である国民が自ら決めるのではなく、決めてもらうことに期待している風潮にも危惧を覚える。

 政治家には決めてはいけないもの、決めることができないものもあると思う。教職員の君が代斉唱の口元チェックや職員の入れ墨調査など、憲法上の権利を侵害しかねないものについては十分に留意して報道する姿勢を大切にしてほしい。

 佐藤委員 大学の中にいると橋下批判をよく耳にするが、キャンパスの外に出るとおそらく8、9割の人が橋下支持。橋下さんを批判する新聞が圧倒的に多いが、新聞記者も自身がマイノリティー(少数派)であることを自覚する必要がある。

 橋下教育改革を批判する意図の記事に、説得力のないものがあった。橋下支持のマジョリティー(多数派)をどう議論の場に引き込むかが問われており、ただ批判すればいいという問題ではない。識者コメントも、そのタイプのものが必要なのではないか。

 太田委員 橋下さんは敵をつくって批判して自分の方を向かせるのが上手。メディアに登場するとつい気持ちが引きつけられる。メディアは人気のある彼を取り上げていくだろうが、新聞にはより客観的な視点に立って、具体的に何をやり、何を切り捨てているのか、読者の判断材料となる報道をお願いしたい。

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 出口修論説委員(前大阪支社社会部長) 橋下さんや「大阪維新の会」の政策には合理的な批判を加えるよう努めているが、説得力に乏しい記事も確かにあった。

 一層、適切な意見・論評となるよう留意するが、それだけでなく、彼がなぜその決断をしたのかなど、可能な限り事実を提示することも重要だと思う。それが、マジョリティーが議論の場に出てきてくれることにつながるのではないか。

 西野秀大阪支社社会部担当部長 橋下さんについてはコメントしてくれる識者が少ないのが現実。多様なコメントが百花斉放で出る方がいいし、合理的、建設的なコメントが取れるように、頑張って新しい取材先リストを作りたい。

 鈴木博之政治部長 橋下さんにしても政府・与党にしても、どういう過程で政策が決定されていったのかをつまびらかにしたい。また、次期総選挙では、橋下さんが今後提示してくる公約はもちろん、各党のものも徹底検証したい。

 橋下さんが考えている政策や考え方がどのように市民生活に影響するのか、生活に引きつけた視点での記事を書くことで、マジョリティーに気付いてもらう材料を提供できればと思う。

 高橋茂地域報道部長 地方には国に対する強い不満が政治家にも住民にもある。橋下さんは、それをくみ取って国にぶつけるというスタンスを取っているため、本質的な批判をしにくい側面がある。

 橋下さんは今後もイメージ戦略でいくと思うが、われわれがやるべきことは、政策をきちんと仕分けして、正しいかどうかを見極める努力をすることだろう。

大阪維新の会
 大阪府、大阪市を解体・再編する「大阪都」構想を実現するとして、2010年4月に当時の橋下徹府知事が府議らと立ち上げた政治団体。11年春の統一地方選で府議会の過半数を獲得、市議会でも比較第1党となった。橋下氏は同年11月の「大阪ダブル選」で大阪市長にくら替え。今年3月には国政進出をにらみ、首相公選制や道州制移行などを掲げた事実上の次期総選挙公約「維新八策」の中間案をまとめ「維新政治塾」を開講。6月には全国44都道府県の888人に塾生を絞った。

報告「編集局の新たな取り組み」

生活報道の強化を報告 「役立つ情報」と委員

 共同通信社は「生活報道部」の新設などの編集強化策を「報道と読者」委員会に報告した。同部は、社会保障、雇用・労働を扱うが、単に政策やデータだけでなく、現場の声を意識的に取り上げていることを説明した。

 生活報道部の報道について太田差恵子委員は「生活者に役立つ情報になる」と歓迎し、イラストなどを使った分かりやすい記事を要請した。お笑いタレントの母親の生活保護受給をめぐる問題をめぐっては「一側面だけを取り上げる一部の報道に腹が立ったが、(共同は)何度も違った角度から示しているので、納得できた」と述べた。

 一方、佐藤卓己委員は生活保護不正受給問題に関連し、自治体が申請窓口に警察官OBを活用する動きが広がっているとの記事には「否定的なまとめ方だったが、一方で必要だという考えも示してほしかった」と問題提起した。

 神田安積委員は「介護、人口減少社会、経済格差など生活に密着したテーマの中で、それぞれ生きている人や日常生活が見えてくるよう具体例を書く工夫がうかがえた」と評価した。


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